2012/08/09

アカシジミ羽化不全個体の木登り(10倍速映像)





2012年6月中旬・気温16℃

雑木林でオレンジ色の変な虫がコナラの幹を登っているのを発見。
何だ何だ?とよく見ればシジミチョウで、羽が途中で折れ曲がっていました。
翅表は外側に半分捲れた状態です。
ゼフィルスの一種、アカシジミJaponica lutea
は初見になります。

蛹から羽化したばかりの成虫が落ち着いて翅を伸ばす場所を探しているのかと思い、三脚を立てて微速度撮影してみました。
10倍速の早回し映像をご覧ください。
見つけたときは私の膝下ぐらいの高さに居たアカシジミは、幹をどんどん上に登って行きます。
途中でアリに出会っても襲われることはありませんでした。
ようやく静止したのは地面からの高さ約125cmの位置でした。
ときどき風で翅が煽られても、飛ばされないよう脚で踏ん張ります。
触角をときどき上下するだけで、じっとしています。

ところがいつまで経っても羽先がピンと伸びません。
何らかの理由で羽が伸び切る前に固まってしまった羽化不全の個体のような気がしてきました。

もし♀だとしたらフェロモンを放出して♂が交尾にやって来るのをひたすら待っているのだろうか?


保育社標準原色図鑑『蝶・蛾』p35によると、アカシジミは

卵は食樹の樹皮上に1個ずつ産みつけられるが、母チョウは産卵後、腹部の先で付近のゴミをかき集めて卵の上に塗りつけてこれを隠す。卵の状態で冬を越し、翌春になって食樹の新芽がでるころにかえる。









横から顔を接写してみると、ゼンマイ状の口吻を伸縮させています。
もし本当に羽化直後なら、左右2本の口吻が繋がっていない筈です。




数時間後にまた様子を見に行くと、コナラの幹を見上げてもアカシジミの姿はありませんでした。
しかしふと横を見ると、モミジ低木の葉にちょこんと乗っていました。
風でコナラの幹から吹き飛ばされて落ちたのでしょう。
折れ曲がった翅はそのままで、もはや直る見込みはなさそうです。
蝶の羽化がこんなに長時間かかる筈がありません。

やはりこの日の朝に羽化したばかりの個体ではなく、もっと前に生まれた羽化不全個体がうまく飛べないままこの姿で森を彷徨っていると思われます。
今思うと、飛翔能力を調べてみればよかったですね。
アカシジミには手を触れず、その場に残して帰りました。

今回せっかくアカシジミの羽化が見れた!と思ったのに、ぬか喜びに終わりました。
初めて見た虫が正常個体ではなくて頭を抱えたり、非典型的な珍しい行動をいきなり見せてくれたり(ビギナーズラック♪)、というのは結構よくあることです。




【追記】
『ゼフィルスの森―日本の森とミドリシジミ族』p81によると、アカシジミはコナラの葉裏などに付いた蛹から羽化するらしい。
ゼフィルスの羽化はすべて10秒足らずで、しかも予兆がない。(※ 蛹が割れて脱出するまで。しぐま註)(中略)約30分後、翅はきれいに伸び切り、1時間近くすると処女飛行へ飛び立っていった。


【追記2】
山形県小国町で天然記念物チョウセンアカシジミの生活史や生態を丹念に観察・記録した倉兼治『生きた化石のチョウ―天敵から身をまもりつづけたひみつ (子ども科学図書館)』を読むと、羽化の連続写真に添えられた解説で興味深い事例が記してありました。

蛹から脱出して近くの枝によじ登った成虫が羽を伸ばし始めて2、3分も過ぎた頃にアリに襲われた例です。
前脚を持ち上げてアリに応戦しながら、枝先に逃げると、アリは諦めて立ち去ったそうです。
するとチョウセンアカシジミは再び羽を伸ばし始め、羽化開始から約20分後に美しい羽を伸ばし終えたそうです。(p23-24より)
私が見たアカシジミとチョウセンアカシジミは別種ですけど、参考までに記しておきます。
「もし羽を伸ばすのを途中で止めてしまったり、地面に落ちて怪我でもしたら、チョウはきっと死んでしまうだろう」とハラハラしながら見守ったと筆者は述懐しています。
今回私が見た羽化不全個体もおそらく似たようなお邪魔虫(アリ?)が現れた結果でしょう。




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