2021/03/20

山麓でフキの葉を食べ歩くニホンカモシカ【短編】

 

2020年11月中旬・午前11:24〜11:43・晴れ 

野生ニホンカモシカCapricornis crispus)が山から里に降りて来て、段々畑(田んぼ?)になった休耕地で採食していました。 
この個体を長時間追い回して夢中で撮影したのですが、その中でフキの葉を食べているシーンを抜粋しました。(※追記参照) 

北国のカモシカは体毛が白っぽく、背景が秋の枯れ草だと目立ちません。 
角や外耳は無傷で、個体識別できそうな特徴がありませんでした。 
地面に生えた草本植物を食べているようです。
背後の土手にフキの群落が見えていますし、カモシカが顔を上げた際に緑の大きな丸い葉を口にしていたので、採食メニューはおそらくフキの葉だろうと判明しました。 
どうやらフキの葉ばかりを選んで次々と採食しているようです。 
日に照らされた休耕地から陽炎が立ち上っています。 

後半、ニホンカモシカは私を警戒して斜面を登り返します。
山へ帰りながらもあちこちでフキの葉の採食を続けていました。 

撮影中にこの個体は私に対して一度も鼻息威嚇をしませんでした。 
里はヒトの縄張りだと知っていて、遠慮がちなのかな? 
普段から人馴れした個体なのかもしれません。
斜面でカモシカは常に私よりも上に位置しているので、心理的に優位を感じてあまり私が怖くないのでしょう。

最初は手持ちカメラで撮っていたのですが、長期戦になると疲労が激しくなるので、後半は三脚を使いました。 
しかし、カモシカが移動するたびに三脚の水平を取り直したり画角を調節し直したりするのがとても面倒臭いのです。 
むしろ一脚のように使った方が楽でした。 
私は手ブレ云々よりも野生動物の決定的瞬間を撮り逃がす方が悔しいので、三脚を使うかどうかは一長一短ですね。 
もっと三脚にお金を掛けてグレードアップすれば自由雲台が使いやすくなるのかもしれません。 





※【追記】
ほぼノーカットの長編動画を改めて記事にしました。



【追記2】
平田貞雄『ニホンカモシカ・ミミの一生』は生後間もないカモシカを引き取って6年間飼育した貴重な記録です。
生後約60〜100日目の期間に筆者はカモシカの食べる植物の好みを徹底的に調べています。(p45〜50)
0:全く食べない
1:くわえて止める
2:食べ始めて中止する
3:食べる
4:好んで食べる
のように植物嗜好度指数を定めて植物1種につき8回以上ランダムに実験を繰り返して平均を取った結果、♀ミミのフキの葉の嗜好度は1.17でした。
フキは7月下旬にテストし、「初め食べたが後で食べなくなった」と記されています。
2歳以後の嗜好度についてはテストしていません。

私が観察した個体は幼獣ではなく明らかに成獣です。
大人になるとフキのほろ苦さが好きになるのでしょうか?
筆者(平田貞雄氏)も1頭でしか調べていないので、個体差や地域差があっても不思議ではありません。
季節によってフキの葉の味(忌避物質の含有量)が変化するのかもしれません。

今回、私は採食現場で食痕を調べませんでしたが、同書の写真36に「フキの葉の食べ跡」と題した写真が掲載されていました。
 採食する場合、(下顎だけにある:しぐま註)前歯を使う場合も奥歯を使う場合も、物をはさんで振り切るという方法で食べるので、フキのような広い葉を食べた時には食べ跡は乱れた形となる (p60より引用)


 

カラムシの実を食すフクラスズメ(蛾)の終齢幼虫【10倍速映像】

 

フクラスズメ(蛾)の飼育記録#6

▼前回の記事 
カラムシの実を食べるフクラスズメ(蛾)終齢幼虫
2020年10月下旬・夜 

飼っているフクラスズメArcte coerula)の終齢幼虫の体長を測ると約5cmでした。 
カラムシの実を食べまくる様子を10倍速映像でご覧ください。 
緑色の実だけでなく茶色に枯れた実でも構わずに齧っています。 
最後はカラムシの葉の縁を少し蚕食しました。 
この時期はカラムシの葉よりも実の方が栄養価が高いと思われます。


↓【おまけの動画】  
早回し映像ではなくリアルタイムのオリジナル動画をブログ限定で公開します。 




実は、カラムシ以外にも新鮮な食草としてアカソの実も与えてみました。 
アカソの葉を食べるシーンは撮影済みなので、予め葉を全て取り除いておいて実だけを与えたのです。 
ところが、フクラスズメ幼虫はアカソの実を少し味見しただけで、ひたすら探索行動を繰り返すばかりでした。(映像なし) 
どうやら気に入らなかったようです。 
実が萎れかけの状態のアカソしか探せなかった私の責任でしょう。 
夏の間はそこら中に自生していたアカソの群落が、晩秋になるとことごとく草刈りされてしまっていて、探すのに苦労しました。 
あるいは、アカソの葉に一旦食いつかせてから実を与えるべきだったかもしれません。 


2021/03/19

クロマルハナバチ♀はネジバナの花で採餌するか?

 

2020年7月中旬・午後15:50頃・晴れ 

芝生が広がる河川敷にネジバナがまばらに咲いていました。 
訪花昆虫(送粉者)を調べようとネジバナを見て歩いていたら、クロマルハナバチBombus ignitus)のワーカー♀がほんの一瞬だけ訪花していました。 
1/5倍速のスローモーションでリプレイすると、後脚の花粉籠は空荷のようです。 
ネジバナの花の螺旋は右巻きと左巻きの両方があるらしいのですが、今回の株は(下から上へ)左巻きの螺旋花序(正式用語?)でした。 

以前、「所さんの目がテン!」というTV番組を見ていたら、植物学の本を何冊も書いておられる著名な植物生態学者の多田多恵子氏が登場し、ネジバナの送粉生態学を分かりやすく紹介していました。 
興味深く拝見していると、ニホンミツバチやコハナバチなど体長約1cmの小さなハチがやってくるのだそうです。 
ということは、今回私が一瞬観察したクロマルハナバチ♀は、ネジバナの花に興味を示して訪れたものの、体格が大き過ぎてミスマッチとなり、上手く吸蜜・集粉できなかったのでしょう。 
(『日本産マルハナバチ図鑑』p99によると、クロマルハナバチのワーカーの体長は12.4〜18.8mm)

ネジバナの螺旋状の花序でハナバチ♀が回転集粉するのかどうか、自分でも観察・撮影してみたいものです。 
その後もネジバナが咲いている夏の間に何度もしつこく通ってみたのですが、残念ながら送粉者(訪花昆虫)とは出会えませんでした。 
来季の宿題です。 
この河川敷でネジバナは生息密度が低い(まばらにしか咲いていない)ので、観察効率が悪いです。 
ネジバナが一面に咲き乱れる大群落を探すのが先決かもしれません。 
もしかすると、誰かに盗掘されてしまうのかな?
もう一つの問題として、ネオニコチノイド系農薬のせいかどうかはともかく、最近フィールドで見かけるハナバチ類が激減している気がして心配です。

以下はこの時期に撮影したネジバナの花の写真です。
ネジバナ:右巻きと左巻きの花序が並んで咲いている例1

ネジバナ:右巻きと左巻きの花序が並んで咲いている例2





民家の庭の植木鉢で栽培されたネジバナ

【追記】
石井博『花と昆虫のしたたかで素敵な関係 受粉にまつわる生態学 』という本を読んでいたら、ネジバナの送粉生態学について非常に興味深い研究結果を知りました。
花序の捻じれ具合が異なるネジバナ群落の中で:しぐま註)捻じれ具合の弱い花序ほど多くの送粉者(ハナバチ)が訪れる一方で、そのような花序ほど、ハナバチ各個体による花序内での連続訪花数が増加していることがわかりました。ハナバチの仲間には、花序を下から上に向かって訪花していく傾向があります。捻じれが強い花序を訪れたハナバチは、いくつかの花をスキップして上の花に到達し、そのまま他の花序へ飛び立ってしまうようです。そして、捻じれが強い花序は、花がばらばらの方向を向いているために、送粉者から、やや目立ちにくくなっているようです。つまり、捻れが弱いほうが多くの送粉者を集めることができますが、捻れが強いほうが隣花受粉は減らせるようなのです。 (p212〜213より引用)

今回の動画でクロマルハナバチ♀が訪花しかけたネジバナの花序は、捻れ具合が強かったのですかね?

今後の観察が楽しみになってきました。



関連記事(3年後の撮影)▶ ネジバナの花で採餌するクマバチ♀は捻れの向きの違いに対応できるか?【FHD動画&ハイスピード動画】

 


ランダムに記事を読む