2010年6月上旬
地上で暴れている虫がいるので何事かと近づいてみると、カミキリムシの♂が交尾を激しく拒む♀に必死にしがみついていました。
交尾器は未だ結合していません。
体格に勝る♀は背後から執拗に迫る小柄な♂を脚で振り落とそうとしています。
何だか身につまされるようで笑ってしまいました。
私がこれまで見てきた虫の世界では♀に振られた♂は紳士的に諦めるのが常でした。
これほど激しい交尾拒否としつこい♂を見るのは初めてのような気がします。
これが彼らの求愛の儀式なのだろうか?
(嫌よ嫌よも好きのうち? じゃじゃ馬馴らし?)
カミキリムシの掲示板(K-Chat)で問い合わせたところ名前はスギノアカネトラカミキリ(Anaglyptus subfasciatus)とご教示頂きました。
杉などの害虫として知られているらしい。
確かにここは神社の境内なので、立派な杉の木が近くに生えていました。
撮影後にこのペアを採集して持ち帰ると、飼育下ではおとなしく熱い交尾を繰り返しました。
(つづく)
【追記】
宮竹貴久『恋するオスが進化する (メディアファクトリー新書)』p41によると、
カミキリムシの♂は、♀が近くにいることを揮発性のフェロモンで感知する。臭いをたどって♀の近くまでやってくると、今度は嗅覚よりも感知能力の低い視覚で、♀に似た色と形をした物体を探すのである。そして♀らしきものを見つけると、最後には触角で相手の体に触れる。体に付着しているコンタクトフェロモンを確認して、相手が自分の遺伝子を残してくれる♀であることを確認し、セックスのため♀の背中の必死にマウントを試みる。
【追記2】
深谷緑『キボシカミキリの配偶行動と生態情報利用、体サイズ』という文献を読んでいたら、興味深いことが書いてありました。
様々なカミキリムシにおいて♂のlicking(口髭で舐める行動)は♀を「なだめる」効果があるとされている。♀が♂の口髭による背面への接触を認識し、拒否的行動を止めるということである。このlicking行動は、♂が接触化学感覚子の密集した口髭で触って♀の体表のコンタクトフェロモン成分を能動的に受容する行動(active sensing)でもあると考えられる。 (岩淵喜久男 編『カミキリムシの生態』p162より引用)
今回の映像では2匹が激しく動き回るので♂のlicking行動をしっかり観察できませんが、♀がおとなしくなった時には確かに♂の口髭が♀の背中に触れていました。
それでもなぜ♀が交尾拒否行動を続けるのか、スギノアカネトラカミキリでは未解明の要因がありそうです。
昆虫の♀は体が小さい♂を好まないことが多い。カミキリムシにおいても同様である。キボシカミキリの♀は、♂をマウント時に蹴飛ばす、逃走するなど交尾拒否行動を示すことがある。 (同書p171より引用)