2013/04/06

雪面に散乱したツルマサキの枝葉をニホンカモシカが拾い食い



2013年3月上旬

谷川を渡ったニホンカモシカCapricornis crispus)が雪原に残した足跡を追跡すると、とある大木(樹種不明)※の陰で潅木の小枝を採食しているところで追いつきました。
撮影のためゆっくり回り込むと、次第に警戒を解いてくれたようです。(映像はここから)
大木から徐々に離れると、近くの雪面に散乱したツルマサキの落葉落枝を丹念に採食し始めました。
口が届かない高さの枝が折れ、楽して食べ放題になった訳ですから、カモシカにしてみればこれほど「美味しい話」はありません。
実は数時間前に、ニホンザルの大群がこの辺りの雪原を遊動するのを目撃しています。
このとき一部の猿が樹上で追いかけっこや喧嘩で盛大に騒ぎ、ツルマサキの枝を折り捨てたと思われます。
これはニホンザルの食べ残しでしょうか?
もしかするとカモシカは口の届く範囲の枝葉を食べ尽くした後の厳冬期はニホンザルの群れについて歩き、その食べ残しを拾い食いする採食戦略をとるのかもしれない(片利共生)、と想像を逞しくしてみました。

屋久島ではヤクザルとヤクシカで似たような関係にあります。
しかし私はこれまで猿がツルマサキを採食する様子を一度も観察していませんし、樹皮を剥いだ食痕もありませんでした。

やろうと思えば積雪期にこんな感じで餌場を準備すれば野生のカモシカを餌付けできるかもしれませんね。




撮影の合間にこちらも時間をかけて数歩ずつ近づきます。
最後はテレコン(望遠レンズ)を使わなくても充分大きく撮れる距離(〜10m)まで近寄ることができました。
カモシカとの間には雪に埋もれた小さな溜池というか溝があるので、すぐには襲われない(いつでも逃げられる)という安心感があるのかもしれません。
それでも食べながら顔をこちらに向けることが多く、油断しません。
長時間の連続観察でこの個体は、私に対して一度も鼻息威嚇を行いませんでした。









臀部や股間を見ても性別不明


カモシカをフィールドでいくら観察しても性別判定ができないことがフラストレーションです。
尻を向けてくれた際に股間をよく見ても外性器は認められません。
尾も辛うじて分かるぐらいの短さです。


【追記】
映像の冒頭30秒で下腹中央に見える突起は、もしかすると♂の陰茎ですかね?
解剖学的な位置関係がよく分からないのですけど、この突起は体の中央に一つしか見えないので♀の乳首では無さそうです。


副蹄が見える。


副蹄について
『動物の足跡学入門:形とつき方から推理する』p40より

走りだけを追求して蹄を持つことにした偶蹄目の動物は中指と薬指を主蹄とし、小指、人差し指を副蹄にした。副蹄は深い泥や深い雪の上では足が潜り込まないためのストックとして、また、崖の岩角では後にズリ下がらないように踏ん張るためのストッパーとして役立っている。



カモシカが立ち去ってから、同定のためツルマサキの枝葉を採集して帰りました。
忙しくて放置している間にかなり萎れてしまいました…。
葉に鋸歯がありません。





冬芽

果実

果実


定点観察のためようやく再訪できたのは18日後のことでした。
河畔林の雪原にカモシカの足跡は全く残っておらず気配も感じませんでした。
ようやく例の大木※の根本の雪面に溜め糞が見つかりました。
古い糞塊が一度雪に埋もれてから雪解けと共に雪面に再び現れたようです。
縄張りを考えると、おそらく映像の個体が排泄した可能性が高いと思います。
餌となる植物を食べ尽くした後、別な場所へ移動したのでしょう。

15cm定規で溜め糞を採寸

周囲にカモシカの足跡なし

シリーズ完。


【追記2】
樹上性の動物が落とす食べものを地上性の動物が利用するという関係を、フランスの画家ミレーの名画になぞらえて「落穂拾い行動」と呼ぶ。 (p120より引用)
シカはニホンザルの鳴き声や枝葉をガサガサと引き寄せる音を手掛かりに集まってくるのだそうです。
一方、私が今回観察したニホンカモシカは、ニホンザルの群れが樹上で採食中に落穂拾いしようと来た訳ではありません。



【追記3】
この動画についてChatGPTに相談を長々と繰り返し、ブレインストーミングした結果をまとめてもらいました。


ツルマサキを巡るニホンザルとニホンカモシカの関係

積雪期の山林で、ニホンザル の群れが通過した直後、雪面の広い範囲に常緑性低木 ツルマサキ の葉付きの細枝が多数散乱しているのが観察された。枝が落ちる瞬間は確認していないが、サルが木登りしたり樹上で追いかけ合うなどの活動を行った際に折れ落ちた可能性が考えられる。

その後まもなく、単独の ニホンカモシカ が現れ、雪面に散らばったツルマサキの枝葉を長時間にわたって丹念に採食していた。カモシカは落ちている葉を一枚ずつ食べるような行動を示していた。

別の観察では、カモシカが冬季にツルマサキの葉を直接採食する様子も確認されている。ただしカモシカは木登りをしないため、通常は口の届く高さにある葉しか利用できない。積雪期には雪面が高くなることで採食可能な高さが一時的に広がるが、春になって雪が解けると再び届かなくなる。

したがって、もしツルマサキの枝がサルの活動によって落とされたのであれば、サルの行動が結果的にカモシカの餌資源を増やしたことになり、これは**促進(facilitation)**の一例として解釈できる可能性がある。

ただし、枝が落ちた原因としては、積雪や冠雪による自然落枝の可能性も完全には否定できない。そのため、この事例はサルによる直接的な採食行動ではなく、樹上活動の副次的結果として生じた可能性のある促進的相互作用として理解するのが妥当である。


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