2012年5月中旬
林道を歩いていると、交尾中のハエが連結したまま飛んで目の前を横切りました。
追いかけると幸い近くの木の枝に着陸してくれました。
オドリバエの仲間のようです。
求愛給餌や婚姻贈呈で有名なオドリバエの配偶行動を初めて観察できて感動しました♪(♂が♀に求愛するシーンを見てないので、
オドリバエは捕食性だが、求愛給餌の習性があるオドリバエの♀は自ら獲物を捕らない。(『ハエ学:多様な生活と謎を探る』第2章「結婚の贈り物をするハエ」p27より)
求愛給餌とは
動物が求愛またはつがい維持期間中において相手に食物を与える行動.(中略)オドリバエ科のEmpis, Hilara属や,ガガンボモドキの一種では配偶行動において雄は雌に適当な餌を与え,雌がその餌を摂食中に交尾を行う.雌はある程度以上の餌を与えられた場合しか交尾を許さず,また餌の大きさと交尾時間の長さとは比例する.この場合の餌は雌の卵形成に直接の影響を及ぼし,ナプシャルギフト(nuptial gift婚姻贈呈)と呼ばれることもある.
(『岩波生物学辞典』より)※
♂に抱えられた♀は獲物をくるくると脚で回し、夢中で吸汁しています。♀は獲物の体のあちこちに口器を繰り返し突き刺しているようです。
獲物も双翅目のようで、二枚の前翅と平均棍が見えました。オドリバエとほぼ同じ体長で食べ応えがありそうです(立派な婚姻贈呈)。
♀を背後から中脚と後脚で抱え込んだ♂は枝にぶら下がって交尾しています。
♂は前脚と中脚で枝に掴まり、♀および獲物の全体重を支えています。
♀は♂に完全に身を任せ、手元の獲物に集中しています。
せっかくなので交尾器の結合部を接写したいところです。
しかし、そよ風が止まず激しく揺れるので残念ながら断念。
後半、一瞬見えた結合部はヒクヒクしていました。
♀および獲物の全体重を♂が支える。 |
♀が獲物に口吻を突き刺して吸汁 |
獲物の翅脈 |
♂の複眼は大きく頭頂部で左右が接する |
餌を食べ終わったら♀はすぐに♂から離れるかどうか観察したかったのですが、初めての今回は同定を優先して逃げられないうちにカップルを採集しました。
交尾中のオドリバエを一網打尽に採集する際に交尾器の連結が外れ、私には干からびた標本の性別が分からなくなってしまいました。
オドリバエsp_a:側面+右翅 |
オドリバエsp_a:胸背 |
オドリバエsp_b:側面+左翅 |
オドリバエsp_b:胸背 |
オドリバエsp_b:側面 |
オドリバエsp_b:腹端側面(交尾器?) |
オドリバエsp_b:右翅 |
オドリバエsp_b:背面 |
いつもお世話になっている「一寸のハエにも五分の大和魂」掲示板にて写真鑑定してもらったところ、三枝豊平さんより以下の回答を頂きました。
これはRhamphomyia (Vockerothempis) arakawae Matsumura, 1915の交尾中のものです.本亜属の配偶行動は私はこれまで観察したことがなかったので興味深く見せてもらいました.本亜属の♀の腹端部はPolyblepharisにみられるような細長くなっていないので,交尾器の結合状態は興味があるのですが,残念ながら画像では♀の翅で隠れてみえません.
並べてみるとアラカワオドリバエの♂は自分とほぼ大きさの獲物を狩って♀への贈り物としたようです。
吸汁された獲物は干からびて、脚が一本破損しています。
求愛餌はケバエ科のBibio属の1種とご教示頂きました。
獲物の死骸 |
獲物・側面 |
獲物の右翅の翅脈 |
獲物の顔 |
三枝豊平さんより以下のコメントを頂きました。
なお,引用されている岩波の生物学辞典の記事は,一部に誤解を招く部分があります.
引用文ではnuptial giftを婚姻贈呈としていますが,これは求愛餌でしょう.行動そのものは求愛給餌行動,求愛餌を送ることが婚姻贈呈でしょう.また,「雌はある程度以上の餌を与えられた場合しか交尾を許さず,」もこのような場合があるかもしれませんが,求愛餌の大小で交尾が決まるとも思えません.♂は極端に小さいような求愛餌を通常は携えません.
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