2011年9月上旬・室温26℃
一匹で飼育してきたエンマコオロギ♂(Teleogryllus emma)にようやくお嫁さん♀を連れてきてやりました。
長い産卵管を持つ♀は丸々と太って♂よりも体長が大きいです。
ペアで同居させると早速、求愛・交尾行動が始まりました。
コオロギの交尾はとても変わっています。
♀が♂にマウントし、交尾器の挿入を伴いません。
動画の解説として、中公新書『昆虫の生活史と進化:コオロギはなぜ秋に鳴くか』 p99 から引用します。
コオロギの発音は、生殖の営みに重要な役割をはたしている。夜ごとに♂は鳴き続けて、♀を呼ぶ。(中略)♀の接近を認めると、それまでの高らかな歌(よび鳴き)の調子から、柔らかく、長く続く誘いの音色(さそい鳴き)に切り替える。糸のような長い触角を微妙に動かして、♀と♂とは互いの体に触れ合う。誘いの歌は、♀が交尾の姿勢をとるまで、忍耐づよく続けられる。♂は寄り添うように、♀に接近してゆく。♀が♂の背中に乗ると、♂は腹部の末端にある小さな鍵のような把握器を、♀の産卵管の付け根の辺りに引っ掛けて白い球状の物体を腹部の末端から出す。その球には細い柄が付いていて、小刻みに震える微妙な腹端の運動によって、その柄の部分を産卵管の付け根に差し込むと、交尾が完了する。♀はしばらくの間、尾端に<ちょうちん>のように球をぶら下げているが、そのうちに体をねじ曲げて、それを食ってしまう。この球の中には精子が収まっている。精子は柄を通って♀の貯精嚢に入り込む。貯精嚢の入口は、輸卵管に繋がっていて、卵が産まれる時に、受精するのである。
以下は蛇足ながら私の観察メモ。
♀の近くで♂は後ろ向きに定位し、求愛歌を奏でます。
私の耳には普段の「呼び鳴き」よりも求愛歌「誘い鳴き」の方が単調に聞こえました。
後退りして♀に近づきます。
突然♀が♂に向き直り、マウントすると♂は鳴き止みました。
上記解説で「白い球状の物体」は「精包」と呼ばれます。
♀の下になった♂はしばらく静止してから身震いを始め、腹端から白い精包が排出しました。
♂のリズミカルな貧乏揺すりが収まるのを合図に、♀がマウントを解除し二匹は離れます。
♀の腹端近くの左側に白い精包が付着しています。
あれほど五月蝿く鳴いていた♂は交尾後しばらくは全く鳴かなくなりました。(賢者モード?)
2回目の交尾を果たした後、♀が地面に置かれた(付いた)白い精包を食べるシーンを目撃したものの、残念ながら撮り損ねました。
教科書通りでしたが、コオロギの交尾行動の一部始終を初めて自分の目で観察できて感動しました。
次回はマクロレンズで接写してみます。
コオロギの求愛歌は独特なので、慣れれば野外で姿が見えなくても鳴き声だけで行動を想像できそうです。
ちなみに、飼育容器内の食器に生米が入っているのが動画に映っています。
米びつで虫の湧いた古米を試しに与えてみたら、♀がボリボリと食べてくれました。
今回は♂の恋歌が成就したケースでしたが、♀に振られるケースもぜひご覧下さい。
関連記事と映像はこちら→「エンマコオロギ♂の求愛歌♪と♀の交尾拒否」
【追記】
宮竹貴久『恋するオスが進化する (メディアファクトリー新書)』p110によると、精子競争に関連して
コオロギでは成虫の♂を他の♂と一緒に飼うと、単独で飼育した♂よりも多くの精子を射精する。
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