2011/04/23

エントツドロバチの泥巣を発掘

昨年の夏(7月上旬)にエントツドロバチOrancistrocerus drewseni )が泥巣を閉鎖する行動を観察しました。
(関連記事→「エントツドロバチの泥巣閉鎖1/3」)
その後、夏から秋にかけて定点観察しても脱出孔は開きませんでした。
蜂の子が育つ様子を観察するつもりでしたが、冬を越すまで泥巣の発掘を待つことにしました。


2011年4月中旬
マイナスドライバーで泥巣の周囲から少しずつ突き崩してみました。
雨や雪の当たらない奥まった場所(庇の下)にあるので、冬を越した泥巣は固く乾燥しています。




独房群を泥で厚塗りすることで閉鎖しています。
不慣れなので、独房が幾つあるのか私にはよく分かりませんでした。
途中(組写真2)で現れた思わせぶりな窪みも謎です。
最後は大きな土塊として取り出すことが出来ました。
中で育った蜂が一匹、姿を現しました。


このハチaを独房から慎重に摘出します。
羽化する直前のハチかと思ったのですが、触れても全く動きません。
よく見ると右の触角が折れています。

既に翅は伸びているものの、腹部の黄紋が色褪せています。
私の発掘作業で傷つき死んでしまったのだとすると寝覚めが悪いですけど、どうも何らかの理由で羽化脱出できずミイラ化した死骸のような気がします。

体表が泥まみれ(自分の蛹便?)であることから、自力で繭を食い破ってから死んだと思われます。
夏に育ってすぐ羽化するはずだった個体なのか、越冬に失敗して死んでしまったのか不明です。
(もっと早く発掘すればよかった…。)
カリバチは通常、前蛹で越冬します。


泥巣を更に細かく砕いてみると、中からもう一匹ハチの死骸bが見つかりました。




こちらは朽ち果てて損傷が激しく、発掘前から頭部が胴体から取れてしまっています。
翅の伸展が未だ完了しておらず、大顎も歪んでおり奇形なのかもしれません。
初めに見つけた死骸aよりも体長が小さく、この死骸bは明らかに発達異常の個体と思われます。
エントツドロバチは♀だけで単為生殖を行うらしいので、発達異常となる割合が高いのだろうか。
※よく考えると、ハチの性決定は半倍数性なので未受精卵からは♂が生まれてくるのが普通。エントツドロバチの染色体や性決定は一体どうなってるの?


【追記】
古いアリの本を読んでいたら、関連しそうな記述を見つけました。 (『蟻の結婚』p105より)
「働きアリの処女生殖によって生んだ卵からかえった成虫が♀、すなわちX染色体が2個あること(倍数体とよばれる)は、最近になって、ややそのしくみがわかった。(中略)ミツバチを研究していたところ、半数体(倍数体の1/2)であるべき♂バチの胚が、細胞分裂の途中で倍数体に変わるのだという。似たような過程が終わりに起きてもよく、また膜翅目全体(ある種のタマバチなど)に起きるもののようだ。」



『恋するオスが進化する』p175によると、
ハチの♀はもともと単為生殖で♂を、交尾した場合は♀を生む生殖システムをもっているが、バルボキアという共生細菌に感染すると交尾をしなくても♀を生むようになってしまう。ハチではリケッチアという細菌に感染しても同様の現象が起きる。

エントツドロバチが♀だけで単為生殖するようになった(野外で雄蜂が見つからない)原因がもしボルバキアの寄生および雄殺しによるものだとすれば、抗生物質を投与して細胞内のボルバキアを駆除すれば雄蜂が産まれてくるようになるはずです。(参考:陰山大輔『消えるオス:昆虫の性をあやつる微生物の戦略 (DOJIN選書)』)

ある昆虫にボルバキアが感染しているかどうか調べるためのもっとも簡単な方法は、その昆虫からDNAを抽出し、ボルバキア特有の遺伝子断片をPCRという手法で増幅させ、それが成功するかどうかによって判定することであり、この方法がもっとも一般的に使われる。(p106~107より引用)
ところが『消えるオス:昆虫の性をあやつる微生物の戦略』を更に読み進めると、自然界はそれほど単純ではなく驚くべきことが分かりました。

宿主の性や生殖を操作する微生物は、じつはボルバキアだけではないことがわかってきている。ボルバキアと同じαプロテオバクテリアに属するリケッチアは、テントウムシやタマムシなどで、オス殺しを起こすことが報告されており、寄生蜂の一種には単為生殖化を引き起こすことがわかっている。(p109より引用)
ここでは引用し切れないぐらいたくさんの種類の微生物が本では挙げられていました。
エントツドロバチに♂がいないのは何故か?という素朴な疑問を解明するのは容易ではないかもしれません。




【追記2】
『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』という凄い書籍の第7章 三浦一芸「ハチの性と生殖を操作する:細胞内共生微生物」に読むと、エントツドロバチ(ドロバチ科)が産雌性単為生殖する謎は更に深まりました。
共生微生物による産雌性単為生殖が知られているハチは、MEGISD(しぐま註:母性効果によるゲノムインプリンティング性決定説;maternal effect genomic imprinting sex determination)による性決定が推察されている「微小膜翅類」にほぼ限られている。膜翅目の大半は、細胞内共生微生物による深刻な影響を受けていない。(p158より引用)
一部の寄生バチは、ボルバキアなどの共生微生物に感染されると産雌性単為生殖をおこない、♀だらけの集団になることが知られている。(p155より引用)


どうも期待外れで混沌とした結果になりましたが、正常例を観察してみるまで解釈は保留とします。


この泥巣は数世代の古巣と複合している可能性もありそうです。
共食いや寄生の可能性は?


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