2020年9月中旬・午後15:40頃・くもり
河川敷の遊歩道と堤防の間に生えたメドハギの群落を通り過ぎようとした私は何か違和感を覚えました。
茎の膨らみは虫こぶ(虫えい)かと思いきや、引き返してよく見るとドロバチ科の作った泥巣が茎に作られていました。
3つの徳利が並んでいます。
母蜂が封じた徳利状の出入り口から成虫が羽化する訳ではないのですね。
(トックリバチの成虫ではなく寄生者が羽化した脱出孔かもしれません。)
『ファーブル写真昆虫記2:つぼをつくるかりうど』という本のp17には、
つぼのかべに穴をあけて、顔をのぞかせたキアシトックリバチの成虫。つぼからでた成虫は、すぐにとびたつと題した見事な生態写真が掲載されていました。
鳥が泥巣を嘴でつついて破壊して蜂の子や貯食物を捕食したという可能性もありますかね?
メドハギには小さな白い花が咲いています。
営巣基となったメドハギの高さは約95cmで、泥巣は地上約75cmの高さに作られていました。
定規で採寸すると、見慣れたスズバチの泥巣に比べてとても小さな造形物(壺)でした。
手で茎を持ってクルクルと回し、360°アングルで泥巣を披露します。
さて、トックリバチにも何種類かいますが、今回の作り主を推理できるでしょうか?
日本には、トックリバチのなかまが5種類います。(『ファーブル写真昆虫記2:つぼをつくるかりうど』p42より引用)今回の古い泥巣には襟が残っていることから、まずムモントックリバチを除外できます。
(ムモントックリバチは)日本の他のEumenes属のハチと異なり、トックリを閉鎖する際に襟※の部分を壊してその土を使うため、完成した巣では襟を見ることはできない。※襟…トックリの入り口の反り返った部分を「襟」という。(『狩蜂生態図鑑』p86より引用)次に、複数の独房が1箇所にかためて造られていたことから、キアシトックリバチも除外されます。
(キアシトックリバチは)ヒメジョオン等の草本の茎に球形のトックリ形の巣をただ一つ付ける。巣は1mほどの高さのところにあり、比較的目立つ。(同書p88より引用)少し古い資料ですが、古典的名著の岩田久二雄『日本蜂類生態図鑑』を紐解いてみると、
(トックリバチ属Eumenesのうちで)8種の修正が明らかにされている。その半数は独房を1つずつ別々に造る種であって、ミカドトックリバチ・キアシトックリバチ・ムモントックリバチ・サムライトックリバチがこれにぞくする。それ以外のスズバチ・キボシトックリバチや南西諸島にいるクロスジスズバチやハラナガスズバチはいずれも多くの独房を1箇所にかためて造る種類である。(p35より引用)状況証拠と消去法から、キボシトックリバチ♀(Eumenes fraterculus)が夏に作った泥巣だろうと推測できました。
夏は草の中ほどか木の上に、秋には草の根近くや石の上に数個の壺を固めて巣を作る。トックリバチ類のように壺型の巣は開けた場所に造られ、材質は撥水性を持っている。(『狩蜂生態図鑑』p85より引用)
メドハギの茎ごとナイフで切り取り、トックリバチの古い泥巣を記念に採集して持ち帰りました。
帰り道で100円ショップに立ち寄り、小さなガラス瓶を買って中に保管しました。
古巣を壊して独房内の抜け殻(羽化殻)や貯食物の食べ残しなどを調べれば、寄生の有無を確かめられるかもしれません。
しかし貴重な泥巣を壊すのが惜しい私は、そのまま保存しています。トックリバチ類の営巣行動を私は未だ観察できていません。
蜂好きの端くれとしては徳利作りぐらいは当然見ておかないといけないのに…密かにコンプレックスとなっています。
探し方が悪いのか、私の通うフィールドにはトックリバチの個体数がとても少ない印象です。
キボシトックリバチという種類の蜂も見たことが一度もありません。(実は見ているのに別種だと誤同定してるのかも?)
生息地がきわめて局所的なのかもしれません。
古巣を見つけられるようになっただけでも、ささやかな前進です。