2014/11/28

巣に侵入するナミクシヒゲハネカクシ?を殺すモンスズメバチ♀門衛



2014年8月中旬
▼前回の記事
モンスズメバチ♀夜の営巣活動(扇風行動・造巣)

モンスズメバチの巣の定点観察7

モンスズメバチVespa crabro flavofasciata)が営巣したクヌギの樹洞を朝(7:00 AM)から見に行くと、真っ黒なハネカクシの一種が幹を上から歩いて来ました。
躊躇いもなくそのまま樹洞に侵入しようとしています。
一度は樹洞から離れたものの、遂に正面突破を試みました。
ハネカクシの仲間について全く疎いのですけど、スズメバチの巣に寄生する種類がいるのかな?
腹端を持ち上げサソリのような攻撃態勢?になったものの、巣口を守っていたモンスズメバチ門衛にあっさり噛み殺されました。
寄生者の侵入を瀬戸際で防いだ門衛はやれやれ!とばかりに身繕い。
モンスズメバチが外被状の被膜で樹洞の入り口を狭くしているのは、巣の保温だけでなく、巣の防衛にも役立っているようです。

ネット検索で調べてみると、重要なヒントが得られました。
モンスズメバチ巣より得られたナミクシヒゲハネカクシの記録」と題した記録が報告されているようです。(要旨なし)

さやばね. ニューシリーズ = Sayabane. N.S. 1, 16-17, 2011-03-30

ナミクシヒゲハネカクシVelleius dilatatus)の学名で検索し直すと、英語版wikipediaに詳しい解説が載っていて助かりました。
短いので全訳してみます。

ナミクシヒゲハネカクシは欧州産モンスズメバチ(Vespa crabro crabro)と同居する。成虫の?体長は26mm以下。スズメバチの食べ滓や死体などの有機物を食べて暮らし、片利共生の一例。食料だけ充分にあってもスズメバチが居ないとナミクシヒゲハネカクシは生存できない。優れた嗅覚でスズメバチの巣を探索する。モンスズメバチの巣には平均10匹のナミクシヒゲハネカクシが居る。

図鑑『くらべてわかる甲虫1062種』で
ナミクシヒゲハネカクシを調べると、
触角が櫛状のクシヒゲハネカクシ属では最大、モンスズメバチなどの巣に潜入して食べカスや死がいを食べる。(p35より引用)

 


 形態的に映像の個体がナミクシヒゲハネカクシで合っているのかどうか、甲虫に疎い私には判断できません。
しかし生態的な特徴があまりにも合致するので、乱暴ですけど一応ナミクシヒゲハネカクシ?としておきます。
もし違っていたらご指摘願います。
たとえばオオスズメバチの巣下土壌を詳細に調査した結果、なんと7種ものハネカクシ科が見つかったそうです。
その代表的な種としてナミクシヒゲハネカクシが挙げられていました。
巣盤の中に食い入り内部の幼虫や蛹にダメージを与えることもある、とのこと。
(『スズメバチの科学』p139より)


偶然にも非常に興味深い瞬間が撮れてラッキーでした。
ハネカクシは樹洞内への侵入に成功しさえすれば、あとはなんとか暗闇の巣内で寄主モンスズメバチから逃げ隠れしつつ生き延びられるのでしょう。
まさに「虎穴に入らずんば虎子を得ず」。
ナミクシヒゲハネカクシはモンスズメバチのコロニーに紛れ込むために体表を化学擬態していないのかな?
今回は侵入に失敗しましたけど、ハネカクシが土壇場で示したサソリのような姿勢はもしかすると寄主を撹乱するフェロモンを分泌しようとしていたのかもしれない…と勝手に妄想してみました。

本に書いてあった通り、モンスズメバチの巣がムツボシベッコウハナアブやナミクシヒゲハネカクシといった寄生者の攻撃に晒されている現場を続けざまに観察できました。


『スズメバチの科学』p64-65によると、

秋になって成熟した巣を採集すると、特にオオスズメバチやモンスズメバチのように外被が釣り鐘型になっている種の巣下には、ベッコウハナアブの幼虫やナミクシヒゲハネカクシの幼虫が多数生息し、排泄物などを食べて、掃除屋として君臨している。

つづく→シリーズ#8:夜の巣に忍び寄る寄生蛾?

【追記】
「蜂が好き」サイトの青蜂@管理人さんより以下のコメントを頂きました。
このハネカクシは、スズメバチと共生(居候?)するんですね。
動画では、スズメバチに襲われかけていますが、殺される場面は撮られていないんですね。
ということは、まんまと侵入に成功しているかも?
そこで対決の瞬間だけを切り取って、1/4倍速のスローモーションでリプレイしてみました。
冷静になって見直してみると、門衛の懐に潜り込み侵入に成功してるかなぁ…?
確かに「物言い」が付くほど微妙な判定で、門衛がハネカクシを噛み殺したように見えたのは私の思い込みかもしれません。
侵入の瞬間、ハネカクシの腹端に何か白い水滴のようなもの(排泄物?)が気になります。







獣糞の付いた杉の実を転がすオオセンチコガネ



2014年8月中旬

雨上がりに山中の池の畔を歩いていると、岸辺のスギ倒木でオオセンチコガネPhelotrupes auratus auratus)を発見。
糞転がしの行動かと思い興奮したのですが、映像を見直すと糞球と思った正体はスギの球果でした。
実にこびりついた獣糞を食べようとしているようです。
ところが雨で濡れたスギ倒木(腐りかけ)は滑りやすく、オオセンチコガネは転がり落ちてしまいました。
これで糞を見失ったのか落ち葉の下(隠れ家)に潜り込んでしまいました。ふて寝?
前脚腿節にオレンジ色の毛束が見えます(フェロモンを放出するらしい)。

▼関連記事
センチコガネの前脚に謎の付着物

撮影後、糞に鼻を近づけて匂ってみても殆ど臭くありませんでした。
テンなどの小動物が池を眺めながらサインポストとして脱糞したのかな?



2014/11/27

モンスズメバチ♀夜の営巣活動(扇風行動・造巣)



2014年8月中旬

▼前回の記事
モンスズメバチ♀の巣を冷やす扇風行動【HD動画&ハイスピード動画】
モンスズメバチの巣の定点観察6

モンスズメバチVespa crabro flavofasciata)は夜も活動するという話を確かめるために、クヌギの樹洞に営巣したコロニーを一晩中観察してみることにしました。
とかく人間から目の敵にされスズメバチの受難が続く昨今、せっかく見つけた巣がいつ駆除されるか分かりません。
このチャンスを逃さぬよう、巣を見つけたその日に気合を入れて徹夜しました。
ちなみに日の入り時刻は18:36、月の出時刻は20:02、月齢17.2。
モンスズメバチ巣の観察だけだと眠くなるので、ついでに雑木林の樹液酒場も巡回しました。
クリアな映像を撮るには強い照明を当てたいところですが、蜂を刺激しないように白色LEDの懐中電灯に赤色のビニール袋を被せて光を少し和らげました。
それでも今回の映像がどこまで自然な行動なのか、どうしても照明の影響が気になります。
(明らかに蜂は懐中電灯の照明を警戒しているように感じました。)
以前、夜も明るい外灯のせいで巣に帰れなくなったと思われる迷子のモンスズメバチを見たことがあります。

▼関連記事
迷子になった夜のモンスズメバチ♀
これを機会に赤外線で暗視可能なビデオカメラを次回まで購入する決心が付きました。

観察してみると、確かに暗くなっても巣に出入りするワーカーが居ました。
モンスズメバチは月明かりでも平気で飛べるようです。
ほぼ常に数匹の♀が巣口付近の幹をパトロール(徘徊)しています。

真夜中に巣口で昼間と同様の扇風行動を始めたときは驚きました。
このとき巣の外の気温は20℃。
外気温が下がる深夜も扇風行動するのは何故でしょうか?
昼間からずっと曇り空で湿度が高いものの、決して寝苦しい熱帯夜ではありませんでした。
樹洞内の巣は断熱効果が高く、夜も温度が上がりがちなのかもしれません。
巣内の温度を蜂の子(幼虫や蛹)の成長に適した温度に保つために、涼しい外気を取り込んで冷却する必要があるのでしょうか。
樹洞内の温度を測定したいところですが、スズメバチ専用の防護服を着用しないと危なくて近寄れません。
もう一つ大胆な仮説を思いつきました。
扇風行動が始まるとブブブブ♪という重低音が長時間響くのですぐ分かります。
樹洞内で反響しているのでしょう。
モンスズメバチの習性を知らない人が真っ暗な森の中でこの重低音を聞いたらきっと不気味に思うでしょう。

暗い森を飛んで帰巣する外役ワーカーに対して巣の位置を知らせるために門衛が羽音を立てている可能性はどうでしょうか。
録音した扇風行動の羽音をスピーカーから流し(プレイバック実験)、外役ワーカーの帰巣能力を撹乱できるか調べたら面白そうです。
まさかコロニー毎に異なる周波数を発していたりして…と徹夜で高揚した脳の妄想は止まりません。
扇風行動の羽音を声紋解析してみる?

夜に扇風役の蜂が見えないときも樹洞内で羽音が聞こえることがあります。
もしかすると、巣内で抱卵のために発熱しているのかもしれません。
創設女王の抱卵行動では確か、羽ばたくことなく飛翔筋を高速に収縮させて発熱することが知られています。
ファイバースコープ・カメラがあれば樹洞内の様子を観察できるのになー、と無い物ねだりしてみる。

夜中に巣材?を咥えたワーカー♀が樹洞の外に出て来ました。(@2:25)
外被を増築する(被膜の閉鎖)のかと思いきや、なぜか幹を歩いてどこかへ行ってしまいました。
やはり照明の悪影響でしょうか。
ところで巣材はどこから集めてくるのでしょう?
遠くへ出かけなくても、樹洞のあるクヌギの幹で樹皮から巣材を調達しているのですかね?

夜になるとクヌギの幹で樹洞の横を小型のクロアリが活発に登り下りしていました。
幹に沿って縦に細長い蟻道のような構造物も見えて気になるのですが、近寄れないのでアリの種類などは調べていません。
モンスズメバチは巣口からアリの侵入を防ぐ対策を何かしているのかどうか、非常に興味があります。

例えば同じスズメバチ科でもアシナガバチ類は巣柄に黒光りするアリ避け物質を塗ることが知られています。
※ 後で読む参考文献。(無料で全文PDFが読めます)

Martin, S. J. "Colony defence against ants in Vespa." Insectes Sociaux 39.1 (1992): 99-111.

同じ夜に、少し離れた樹液酒場を訪れるモンスズメバチの姿も観察しました。
(どの巣から来たのか不明ですけど。)

▼関連記事
夜にミズナラの樹液を吸うモンスズメバチ♀
他種のスズメバチ類は夜になると樹液酒場で全く見かけなくなりました。
モンスズメバチの複眼や単眼には何か秘密があるのでしょうか?
ネット検索で調べてみると、興味深い文献を見つけました。(ここで全文が読めます。)

Kelber, Almut, et al. "Hornets can fly at night without obvious adaptations of eyes and ocelli." PloS one 6.7 (2011): e21892.
モンスズメバチの複眼や単眼には解剖学的に何も秘密は無かった、という意外な結論のようです。

天気予報が外れ、深夜3:30には小雨が降ってきたので慌てて避難。
少し仮眠してから早朝に様子を見に行くと、樹洞の下に寄生アブが止まっていました。
すぐにモンスズメバチ♀に追い払われ、撮り損ねました。

▼関連記事
寄主モンスズメバチ♀の巣の近くに産卵するムツボシベッコウハナアブ♀

涼しい早朝から扇風行動が見られました。
このときの外気温は22℃。
もうコロニーの活動は昼間と変わりません。
夜の間に樹洞を覆う外被状の被膜が増築され、巣口が更に狭くなっていました。(※追記参照)
モンスズメバチも徹夜で突貫工事を行ったようです。
本種ワーカーの寿命は他種よりも短いのではないか(過労死?)と心配になります。
モンスズメバチのワーカー♀は昼夜を問わず不眠不休で死ぬまで働くのか、それとも交代で休息しながら一日中働くのか、興味があります。
つまり、夜勤と昼勤に分業しているのでしょうか?
個体識別のマーキングを施せば分かる筈です。

つづく→シリーズ#7:寄生者ハネカクシの侵入を阻止



※【追記】
『都市のスズメバチ』p25によると、モンスズメバチは
巣への出入り口付近に立派な目張りをする習性があり、同じような場所に営巣するキイロスズメバチやヒメスズメバチなどと区別できる。

夜の飛翔(出巣)
夜の飛翔(帰巣)
外被状被膜の増築
巣内の様子
全景

深夜の扇風行動(写真では羽ばたきが止まって見える)
翌朝:巣口を塞ぐ被膜が下に伸びた

ランダムに記事を読む