2018年5月上旬
ナミテントウの飼育記録#1
タニウツギの開花運動を微速度撮影するつもりで、膨らんだ蕾の付いた小枝を夜に採取してきました。
家に持ち帰って花瓶(ペットボトル)に生けるとき、一枚の葉の裏面に黄色い卵塊があることに気づきました。
数えると31個の黄色い卵が産み付けてありました。
これはテントウムシの卵だろうと予想しました。
そこで予定を変更して、テントウムシを飼育観察してみることにしました。
卵塊を側面から接写してみると↑、孵化しない未受精卵が1個写っていました。(最前列の右から3個目)
表面の橙色が不均一で、見るからに異常な卵でした。
翌日、卵塊が黒っぽく変色していました。
卵殻を通して中の黒い幼虫が透けて見えるようになったのです。
この時点でも、卵塊に未受精卵が1個混じっているのが分かります。
卵の色の変化が孵化の前兆らしいので、微速度撮影で記録することに。
60倍速の早回し映像をご覧下さい。(午後17:06〜23:34)
孵化寸前には白い卵殻を通して幼虫の黒い体節が縞模様のように透けて見えるようになります。
卵から出てきた一齢幼虫の頭部と胸部は初め黄色(橙色)でした。
上半身が外に出ると、黄色の長い脚が固まる(黒化する)までしばらく休息します。
黒っぽい幼虫が続々と孵化してきました。
映像では幼虫の集団が少しずつ下方へ移動しているように見えますが、実はタニウツギの葉が少しずつ萎れて垂れ下がっているせいです。
定規を写し込んで卵塊や幼虫を採寸するのを忘れてしまいました。
全身が黒化すると幼虫は卵殻から完全に抜け出て徘徊を開始。
しかし互いに離れようとしないで群れを形成しています。
卵嚢から出てきたばかりのクモ幼体が
テントウムシ一齢幼虫の体表にあるトゲトゲは共食いされないための武装なのかな?と妄想してみました。
腹端に吸盤のようなものが見えます。
体を基質に固定するための粘液(糞?)を腹端から分泌しているようです。
卵塊から無事に孵化した一齢幼虫は30匹でした。
計31個の卵塊だったので、96.8%(30/31)という高い孵化率でした。
1個の未受精卵は幼虫によって共食いされたようです。(食卵)
初めての食事として白い卵殻も少しは食べるのかもしれませんが、私は確認していません。
一齢幼虫が群れを解消して分散した後も卵殻は完食されず残っていました。
中公新書:鈴木紀之『すごい進化 - 「一見すると不合理」の謎を解く 』を読むと、テントウムシ幼虫の食卵行動について私の知らなかったことが書いてありました。
アブラムシを食べる肉食性のテントウムシの仲間は、黄色の卵を数十個まとめて卵塊として産みつけます。しばらくすると一斉に幼虫が孵化しますが、一部の卵は孵化が遅れるか、あるいは孵化すらしません。すると先に孵化した幼虫は、こうしたなかなか孵化しない卵を生涯最初のエサとして食べ始めます。同種の卵、しかも同じ母親から生まれた兄弟姉妹を食べているわけですから、この行動は「共食い」と呼ばれています。 (p48-49より引用)
孵化して間もない幼虫はまだ運動能力が低いために、アブラムシをうまくハンティングできません。特に、体も大きくすばやく歩き回る種類のアブラムシは、テントウムシの幼虫にとっては手強いエサです。そこで、孵化した直後に共食いをすることで、幼虫は苦労することなく成長し、アブラムシを効率よく捕まえられるようにしているのです。 (p49より引用)
多くの昆虫と同様に、テントウムシの母親は産卵後に子(卵)の元を離れ、その後もいっさい面倒を見ません。しかし、母親は不測の事態に備えてわが子に「お弁当」を持たせてあげていると見なせるでしょう。テントウムシの孵化しない卵は、母親からの幼虫に対する追加的な投資なのです。 先に孵化した幼虫の栄養となるような、子の生存に役立つ卵は「栄養卵」と呼ばれています。 (p50より引用)
栄養卵はテントウムシの他に、カメムシやアリなどの昆虫、カエルやサンショウウオといった一部の脊椎動物にもみられます。それほど多くの種で採用されているわけではありませんが、広い分類群にまたがっているという意味で普遍的な戦略です。 (p50より引用)
詳しいメカニズムは分かっていませんが、ナミテントウはアブラムシの量に応じて栄養卵の供給を調整しているようです。だからこそ、孵化しない卵が単なる発生上のバグではなく、「母親の積極的な戦略」として捉えることができるのです。 (p58より引用)
この本の記述通りならば、今回の孵化率が高かったので、卵塊の周囲の餌環境が良好だと母親♀が産卵前に評価したことになります。
しかし、タニウツギの枝葉にテントウムシの餌となるアブラムシのコロニーは見当たりませんでした。(私の探し方が不十分だった?)
日当たりの悪い場所にあった株で、生育が悪い灌木でした。
タニウツギは落葉樹ですから、越冬したナミテントウの母親♀が春になって開いた葉裏に産卵したのです。
テントウムシの卵塊が孵化のタイミングを揃える秘密は何でしょう?
互いに密かに「今から孵化するぞ」とコミュニケーションしているのかな?
卵塊としてまとめて産めば気温など周囲の微気象も同じになるので、孵化までにかかる時間もほぼ同じになる、ということで単純に説明できるのかもしれません。
出遅れると共食いされてしまうので、卵塊が同期して孵化するように進化したのでしょう。
以下は、撮影中の気温を記録したデータです。
午後17:02 室温21.9℃、湿度43%
午後17:40 室温21.5℃、湿度43%
午後18:55 室温21.1℃、湿度43%
午後19:52 室温21.0℃、湿度43%
午後21:27 室温20.9℃、湿度44%
午後23:14 室温20.6℃、湿度43%
飼育を続けると、これはナナホシテントウではなくナミテントウ(Harmonia axyridis)の一齢幼虫と後に判明します。
↑【おまけの動画】
早回し速度を少し落とした40倍速映像をブログ限定で公開します。
つづく→#2:ナミテントウ一齢幼虫の孵化
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