2016/05/22

電柱に塒入りするハクセキレイ♂の群れ(野鳥)



ハクセキレイ♂(野鳥)集団塒の電柱:定点観察#1


2016年4月下旬・午後18:31〜19:04
▼前回の記事
屋根で鳴く♪ハクセキレイ♂(野鳥)

鳥は夜どこで寝るのか?という夜のバードウォッチングもなかなか面白いものです。


日が暮れると、東西に走る車道に沿って立つ特定の電柱や電線にハクセキレイ♂(Motacilla alba lugens)が辺りから続々と集結して群がっていました。
賑やかに鳴き交わしているこの行動は就塒前集合だろうとピンと来ました。
というのも、ハクセキレイが夏の塒としているケヤキ並木がこの通りにあったからです。

▼関連記事(撮影:2013年6月上旬)
街路樹に塒入りするハクセキレイの群れ(野鳥)
しかし4月下旬では未だケヤキの木は芽吹いておらず、野鳥が隠れられる茂みが全く無くて丸坊主の状態です。
かなり強く剪定されて枝も少なくなっています。
留鳥(一年中留まって暮らす)のハクセキレイは、ケヤキが落葉している期間はどこに塒入りしているのか、考えてみれば不思議でした。(気にしたことがありませんでした。)

全景(下は裸のケヤキ並木)18:33 pm

集まったハクセキレイの中には、電線や電柱でときどきホバリングしたり空中戦したりする元気な個体も居ます。
塒入りする場所取りの争いがあるのかもしれません。

未だ明るさの残る時刻では、電線で羽繕いしている個体も見受けられます。
計15羽ぐらいの群れを見ると、集まってきているハクセキレイの性比が極端に偏っており、♂ばかりで♀が居ない点がとても不思議です。
ハクセキレイの繁殖期について調べると、

繁殖期は5〜7月で、広いなわばりをもち、ふつう一夫一妻で繁殖する。(『日本動物大百科4鳥類II』p77より)


こんな早い時期から♀は巣で抱卵しているのかな?
それとも♀だけの集団塒が別な場所にあるのでしょうか?

『鳥はどこで眠るのか』を読むと答えが書いてありました。

アイルランドから日本までの広い地域では、ハクセキレイが集団ねぐらを形成している。早い時期には、このねぐらは♂の成鳥が多くを占め、彼らの連れ合いはまだ巣についているが、やがて♀と幼鳥も合流する。(p55より)

しばらく観察していてふと気づくと、大通りを挟んで反対側(北側)の電柱Nにも同数ぐらい集まっていました(〜15羽?)。
塒となる南北2本の電柱N,Sは電線で結ばれています。

電柱Sに設置された柱上変圧器の横に数羽のハクセキレイが陣取りました。
もしかするとトランスの発熱で、寒い冬は特に暖かいのかもしれません。
ここは雪国ですから、厳冬期も塒として利用しているのならサーモグラフィカメラで撮影したら面白そうです。
インターネットで検索すると、スズメの群れがトランスに塒入りしている例があるらしく、暖かいからかもという推察がなされていました。

かなり暗くなっても、外灯のおかげでしばらくは通常のカメラでも撮影可能です。
さすがに画質も粗くなってきたので、電柱Sに少し近づいて撮影してみました。
光量不足のため、遠い被写体をズームしようとするときつくなります。
ハクセキレイの鳴き声がなくなり、辺りを飛び回る個体も減りました。
どうやら就塒完了したようです。

静まり返った電柱の真下から見上げると、いつの間にか空は真っ暗になっていました。
それにしても、こんな交通量の多い(騒々しい)街中に野鳥の集団塒があるとは意外です。
電柱や電線に設置された白い碍子がハクセキレイにとって保護色になっているかもしれません。
塒となった電柱Sの真下の路上は鳥の糞でひどく汚れていました。
電柱Sがメインの塒のようで、電柱Nには少数しか残っていませんでした。
塒となった2本の電柱を結ぶ電線にハクセキレイは居なくなりました。

落葉した丸裸のケヤキ並木には就塒しませんでした。

最後は赤外線の暗視カメラでも撮ってみました。
高所のため赤外線投光機の光も充分に届かず、寝静まったハクセキレイのシルエットが辛うじて映るだけでした。

ちなみに、この日の日の入り時刻は午後18:21。
日没と同時に満月(月齢14.7)が東の空に登りました。
満を持して照度計を持参したのですが、動画撮影と計測を同時にこなすのは難しかったです。
午後18:41の測定で気温16.0℃、湿度62%、照度3ルクス。
5分後の18:46の測定で照度は計測限界の1ルクスになり、それ以降は0ルクスでした。
肉眼では問題なく見えるので、いつもヒトの暗視性能には我ながら感心します。

ハクセキレイの集団塒について書かれた名著(バイブル)『ネオン街に眠る鳥たち:夜鳥生態学入門』で勉強したポイントを抜粋します。

私が見つけた集団塒は、この本に紹介されていたほど大規模ではありませんでした。
したがって、単純な比較はできないかもしれません。
・互いに嘴が触れない程度の個体間距離を保ちながら、整然と並んでいる。

・この工場へ塒入りするハクセキレイの生息範囲は(中略)、半径十キロぐらいの広範囲となりそうだ。(p42-43)

・適当な場所のない個体は、眠りにつくどころではない。飛び立っては場所を変え、すでに止まっている個体の前でホバリングして割り込もうとすることもある。(p44)

・街路樹を利用する場合、その樹種は常緑樹のことが多いが、なかには(中略)落葉したイチョウの枝に丸見えの状態で夜を過ごすこともある。ハクセキレイが塒に利用している街路樹は、駅前や繁華街といった人通りの多い場所が大部分であった。(p46)

・ハクセキレイの集団塒を見ると、以前は橋桁など人目にふれない人工物を利用することが多かったが、最近の傾向としては、繁華街の街路樹やビルの壁面(看板や広告塔など)を利用する場合が増えてきた。(p47)

・スズメやカラス、ハクセキレイのように繁殖期以外には巨大な集団塒を形成する鳥でも、繁殖に参加する個体は、繁殖地周辺にとどまって番や単独で塒をとる場合もあることが知られている。(中略)同じ種の鳥が、ときと場合によって単独で寝たり、集団塒に参加したりするということは、一義的に集団塒だけが有利であるとか、種の生存にとって単独塒が決定的に不利であるわけではないことを物語っている。(p203より)

・密集した集団塒では、塒の中の低い位置の止まり場は、上部に止まっている個体の糞を浴びやすいことになる。集団塒の内部は質的に均一ではなく、個体間の優劣によって、塒の中での止まる場所が異なってくるであろう。(中略)糞による羽毛の汚染が防水性を低下させ、体温の保持を困難にした。(中略)塒の下方の個体が糞で汚れ、羽毛の防水性ひいては保温力の低下が起こる。(同書p200より)



つづく→#2:電柱の集団塒で寝静まる深夜のハクセキレイ【野鳥:暗視映像】




【追記】
日本野鳥の会『セキレイのなかまたち(みる野鳥記)』p39(ハクセキレイはどこで眠るの?)によると、

最近では、都心の大きな道路沿いのイチョウなどの街路樹にねぐらを作る例が、たびたび報告されるようになりました。
このようなねぐらのそばも、車が大きな音をたててたえず走っています。
あたりがうす暗くなると、セキレイたちがパラパラと集まってきます。
その数は多いときで100羽を超えます。
鳥たちは、すぐねぐらの木には入らないで、しばらく近くのビルの屋上にとまってざわざわしています。
ところがあるとき、いっせいにねぐらの木に入るのです。
セキレイどうし、合図するのかもしれませんが、わたしたちにはわかりません。
ねぐらにした街路樹のイチョウは、もう葉を落として枝だけになっています。
そこにたくさんの鳥がとまっているので、近くの高層ビルからの明かりでは、また木に葉が茂ったように見えました。


ただし雪国にある私のフィールドでは、落葉した街路樹に塒入りしたハクセキレイを未だ一例も観察していません。 
秋から冬にかけての集団塒がどこにあるのかも私は突き止められていません。
また、この本の挿絵では、キセキレイとハクセキレイの混群が落葉したイチョウで寝ているイラストが見開きで描かれていました。
混群について本文に記載が無いのですが、混群のイラストを描いたのは画家の勇み足では?(昼間の生息地もやや違いますし)


18:33 pm
18:36 pm
18:41 pm
18:43 pm

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