2009年7月下旬
前回のエピソード16と同じ日に撮影。
キアシナガバチ(Polistes rothneyi)のコロニー全体がようやく落ち着きを取り戻しました。
と思いきや、再びQ(水色)が神経質に各娘に優位行動を繰り返します。
巣材を集めに出たW2(黄色)は帰巣すると左端で一心不乱に育房を作っています。
W1(桃色)はひたすら育房の点検を続けています(幼虫との栄養交換かもしれない)。
この日は成虫間の関係が何か緊張状態にあることが見て取れました。
現女王Q(水色)はワーカーが羽化する前に創設女王Q(銀色)からこの巣を乗っ取りました。
少なくともW1(桃色)、W2(黄色)は創設女王Q(銀色)の娘なのでQ(水色)とは血縁関係が無いと考えられます。
ワーカーに血縁認識能力があるとすれば継母のために働くのは割に合わないので、反乱を企てようとしているのかもしれません。
継母Q(水色)を追い出して自ら産卵するようになれば適応度が上がるからです。
ワーカー間では羽化順に上位となるらしいので、後から羽化するQ(水色)の娘W(無印)は問題にならないのでしょう。
個体識別することで複雑な社会関係が見えてきます。
つづく→シリーズ#18
2009年7月下旬
軒下に営巣したキアシナガバチ(Polistes rothneyi)のコロニーの定点観察。
女王(Q水色)はほぼ常に巣の下面に居ます。
W1(桃色)、W2(黄色)、W3(無印)、W4(無印)の他にもう一匹W5が新たに羽化したようです(W3-5は未標識)。
成虫間で優位行動(攻撃)がしばしば見られました。
アシナガバチの女王は他の♀に産卵されないよう常に力で支配しなければなりません(ミツバチの女王のように洗練された化学的支配〔女王物質〕を行なわない)。
アシナガバチのワーカー間では一般に羽化した順で上位になるらしい。
ワーカー♀も産卵可能で、未受精卵からは♂が生まれます。
女王も油断すると娘に反乱を起こされる可能性があるのです。
この日の映像記録ではW1、W2は全く働いていません。
巣内の権力闘争に明け暮れているのだろうか。
外役に出るのは未標識のワーカー(W3-5)のいずれか。
コロニー全体が穏やかで落ち着いているかと思うと、何かのきっかけで急にコロニー全体が活気付き、カオス状態に陥ることも。
後半、Q(水色)が巣上で執拗にW2(黄色)を激しく追い回しました。
居たたまれなくなったW2(黄色)は巣から飛び立ったりすぐ戻ったりを3回も繰り返しました。
アシナガバチのコロニーは人間が美化して思い描くような分業制の平和な社会とは程遠いことがよく分かりました。
【追記】
『働かないアリに意義がある』p21より引用
アシナガバチの女王は働きバチが巣の上で休んでいると、まるで「さっさと仕事しろ!」と言わんばかりに激しく攻撃し、エサを取りに行かせます。しかし働きバチもさるもので、巣を出ていった後、少し離れた葉っぱの裏で何もせずぼんやりと過ごしていたりします。喫茶店でさぼっている営業マンみたいですね。
つづく→シリーズ#17
2009年7月下旬
6日ぶりのキアシナガバチ(Polistes rothneyi)巣の定点観察。
これまでにマーキングした女王(水色)、ワーカーW1(桃色)、W2(黄色)を巣で確認した他、W3、W4が羽化していました。
女王(水色)は常に巣盤の下面に居座り、産卵権を譲りません。
劣位のWは天井部で休んでいます。
女王(水色)は巣上を神経質に歩き回り、ワーカーに軽く突っかかって行きます(優位行動)。
W1(桃色)が外役に出ました。
外側の育房に一つある変な色の繭が気になります。
通常の繭は白だが、黄味がかっています(ストロボを焚いて写真に撮ると違いが明瞭に)。
キボシアシナガバチの繭の鮮やかなレモン色とも異なります。
突然変異のキアシナガバチ個体だったら面白いのですが、寄生蛾やヒメバチなどの被寄生蛹だろうか。
つづく→シリーズ#16