2020/08/08

採餌経験の浅いヤマトツヤハナバチ♀はルピナス蝶形花の攻略に苦労する【NG集】



2020年5月中旬・午後14:50頃


▼前回の記事
青いルピナスの蝶形花で採餌するヤマトツヤハナバチ♀

ヤマトツヤハナバチ♀(Ceratina japonica)がノボリフジ(別名ルピナス)の群落で採餌する様子を生まれて初めて観察しました。
前回の動画では採餌の成功シーンばかりをまとめ、それを元にさも分かったかのような書き方をしました。
しかし実は、出会ったばかりの個体は採餌方法が下手糞で、何をしているのか私にはよく分からず初めは混乱しました。
今回は、そんなNG集をまとめてみました。
ヤマトツヤハナバチ♀がルピナス(マメ科)の複雑な蝶形花を攻略して中の花粉や花蜜を得るには、どうやら経験と学習が必要なようです。
つまり、羽化したばかりの成虫の生得的な本能行動ではいきなり対応できないみたいです。
ルピナスの花は、まるで敷居が高い会員制の高級店のように「一見さんお断り」にしています。
蝶形花の構造を熟知した一部の優秀なハナバチだけを送粉者として採用し、報酬として花蜜と花粉を提供しているのです。
これも長年に渡る共進化の結果です。


シーン1:午後14:53(@0:00〜0:53)


ルピナス蝶形花の左右の翼弁がぴったり閉じていて、ヤマトツヤハナバチ♀はその隙間をこじ開けられずに悪戦苦闘しています。
中にルパンのお宝(餌)が隠されているということを、蜂はおそらく匂いで認識しているのでしょう。
悔し紛れに翼弁の合わせ目を大顎で軽く噛んだりしています。
花弁を食い破って穿孔盗蜜行動を始めるか?と私は期待したものの、蜂は諦めて飛び去りました。
後脚の花粉籠 スコパ(花粉採集毛)にオレンジ色の花粉を少し運んでいるということは、ルピナスの花に対して全くの初心者ではないようです。
それでも未だ経験と学習が足りないのでしょう。
風が吹いて花穂が絶え間なく揺れるので、マクロレンズによる接写は大変でした。


シーン2:午後14:43(@0:54〜)


このときは未だ後脚の花粉籠 スコパ(花粉採集毛)が空荷でした。
(雄蜂♂である可能性は、頭楯の黄紋を見れば否定できます。)※追記参照
ルピナスの花に着陸した蜂がなぜか蝶形花の後部に回り込んでしまい、萼に生えている白っぽい剛毛にうっかり左後脚の跗節が引っかかってしまいました。
もしこの剛毛が、穿孔盗蜜を試みる蜂を排除(足止め)するためにルピナス(ルパン)が仕掛けた罠だとしたら非常に面白いのですが、おそらく私の考え過ぎ(ただの偶然)でしょう。

(あるいは、茎を下から登ってくるアリを足止めする仕組みなのかも知れません。)
しばらく暴れていたヤマトツヤハナバチ♀は、ようやく足を振りほどくと採餌もせずに飛び去りました。
望遠マクロで撮影。




※【追記】
ツヤハナバチを野外で全く見たことがない頃に、坂上昭一・前田泰生『独居から不平等へ:ツヤハナバチとその仲間の生活』という専門書を読んでも、マニアック過ぎて内容が全く頭に入りませんでした。
久しぶりに読み返すと、いろいろと勉強になりました。
(ヤマトツヤハナバチの)脚の明色(黄色)なのが♂(p93より引用)
『日本産ハナバチ図鑑』で標本の写真を見直すと確かにその通りで、キオビツヤハナバチ♂の脚も黄色でした。(p349-350)
♀の脚は黒色です。
これで頭楯の黄紋が見えないアングルでも性別が簡単に見分けられるようになりました。


【追記2】
ヤマトツヤハナバチ♀に対して後脚の「花粉籠」という用語は不適切でしたので、スコパ(花粉採集毛)と訂正します
坂上昭一・前田泰生『独居から不平等へ:ツヤハナバチとその仲間の生活』の第1章「ハナバチの生い立ち」を読み返すと、精巧なスケッチとともに比較形態解剖学的に専門用語の違いを解説していて、とても勉強になりました。
 花粉集めの道具。葯から放出され体毛に付着した花粉は、脚で掃き寄せられ、体の一定部位―――後脚か腹部下面―――に密生する花粉採集毛(スコーパ)に集められて運搬される。ツヤハナバチでは後脚にスコーパをもつ。一方ミツバチ科では、後脛節の表面が無毛、両縁線が長毛となった花粉バスケットが形成され、大量の花粉を積みこむのに適している。もう1つの型がハキリバチ科(中略)で、後脚の毛はまばらだが、腹部下面は他のハナバチと異なり、密生したスコーパをもつ。(p3〜4より引用)

スコパという用語はハキリバチ科♀の腹部下面に発達した毛を指す、という私の認識は間違いで、ツヤハナバチ♀でも使われるのだそうです。
また、引用部は少し誤解を生む書き方になっていますが、ツヤハナバチ類もミツバチ科に属するハナバチです。

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