2016年5月上旬・午前6:05〜6:17
▼前回の記事
キジ♂(野鳥)の求愛行動【前編:鳴き声で♀にアピール】
先ほどキジ♂(Phasianus versicolor)が入っていった枯れ葦原の茂みの奥で何か動きがあります。
どうやらもう一羽いるようです。
早朝から♂が囀りと母衣打ちを頑張って繰り返していた甲斐があって、♀が♂の縄張りにやって来たのです。
茂みに隠れてほとんど見えず、もどかしく思っていると、ようやく広場に姿を現してくれました。
手前の柳灌木が邪魔。
まさに本に書いてあった通りの求愛誇示を披露してくれました。
♂は♀の進路を塞ぐように前方に回り込むと体の側面を見せ、広げた尾羽根で扇ぎます。
求愛された♀は迷惑そうに逃げ回ります。
動物行動学の教科書に必ず載っている有名な話として、クジャク(キジ科)は求愛の際に扇状に広げた飾り羽根の目玉模様が多い♂ほど♀にもてることが実証されています。
孔雀の求愛のように、キジ♀も♂が見せる尾羽根の模様の美しさをしっかり品定めしているのかもしれません。
オオヨシキリの鳴き声がうるさくてかき消されそうなのですが、途中でキュー、キュー♪と小声で鳴いたのは求愛されているキジ♀の声でしょうか?(@1:18辺り)
♀は広場を離れ、柳の木の下へ逃げて行きます。
残念ながら交尾したかどうか見届けられませんでした。
地味な♀は完璧な保護色になっていて、茂みに隠れて動かなければ絶対に見つかりません。
しばらくすると、諦めた♂が単独で採食を始めました。
♂が広場の地面を啄んでいると、ヨシの茂みから♀が出てきてペアで頭を突き合わせて、仲良く採食しています。
親鳥が雛鳥によくやるように、♂が♀に餌の場所を教示したように見えました。
これは一種の求愛給餌なのでしょうか?
(キジの)♂は地面を頻繁につついて、食べ物のあるところを♀に教えたり、昆虫の幼虫などをくわえて頭を持ち上げ、じっとしていたりする。こうしたときに♀は一直線に走ってそれをすばやくとる。(『日本動物大百科4鳥類II』p16より)
念願の求愛シーンが撮れて、この日一番興奮しました。
まさに早起きは三文の得ですね♪
実は3年前にこんな記事を書いています。
▼関連記事今回の観察でようやくミッシング・リンクがつながりました。
田んぼで♀の尻を追いかけるキジ♂(野鳥)
残る撮影テーマは交尾です。
帰宅してからすぐに本を紐解いて、キジの求愛行動について復習します。
『日本動物大百科4鳥類II』p16より
キジの求愛ディスプレイ
尾羽を広げて♀に向かってはすにかまえ、翼を半開きにして、♀に近寄る。
頭はかならず下を向き、くちばしを♀に向けることはない。ほとんどの場合、♀は♂を無視して少し逃げる。すると♂は再び♀の前方にまわりこんでディスプレイをくりかえす。このため、♂が♀のまわりを円を描いてまわっているように見える。
♂は、♀について歩くことで交尾のチャンスをねらう。♂は突然♀に突進して、♀の背にのって交尾行動をするのである。しかし、♂の突進に気がつけば♀はちょっとわきに跳んで避けることが多いので、交尾はめったに成功しない。♂はときどき♀に対して求愛行動と思われる行動もする。それは♂同士の闘いで見せる行動と似ていて、♀の直前で尾羽を半開きにしてはすにかまえ、自分の美しい羽を♀に魅せつけるのである。これに対して、♀はたいていちょっと跳び退くか、走って避ける。するとまた♂はその♀の前にいき、同じ行動をくりかえす。この行動は1羽の♀に対して1度に数十回もくりかえされることがある。筆者はこの行動を数百回も野外で観察したが、その直後に交尾を見たことはなく、その意味については今後の研究が待たれる。
『カラー自然シリーズ45:キジのくらし』によると、
メスキジがやってきました
♂の声にさそわれて、2羽の♀が、なわばり内にはいってきました。♂は、大喜びででむかえ、ディスプレイをはじめます。(P6より)
尾羽をひらいて♀にせまる♂。
♂キジは、自分のなわばりにはいってきた♀に、美しい羽を見せびらかすようにして近づきます。肩をいからせて、翼を半分開き、腰の毛をふくらませ、尾羽を扇のように開きます。顔もまっかになります。この行動をディスプレイ(求愛誇示)といいます。
♀は、2〜6羽のグループで、♂のまわりに群れていますが、なわばりの境をこえることもあります。すると、となりの♂がでむかえ、♀のグループは、そちらでくらします。こうして♀たちは、いったりきたりするのです。
「どうだ、かっこいいだろう。」
オスキジがかたをいからせ、尾羽をひらいてせまっていくと、メスキジはひょいとにげます。
♂はあわてておいかけ、おなじしぐさをくりかえします。
チィーュチィーュ。しきりに♀の声もします。
朝はやくや夕がた、キジは交尾をします。
オスキジのディスプレイ
♂がディスプレイすると、♀はうるさそうに、ひょういと身をかわします。♂はあわてて追いかけ、また、♀の前のほうからディスプレイします。ディスプレイは5〜10分つづき、♀はしつこい♂をさけて、木の上に逃げることもあります。
ディスプレイのときは、ほとんど交尾しません。なぜ、ディスプレイするのか、よくわかっていませんが、♀の発情をうながすためかもしれません。(p8より)
小林朋道『先生、キジがヤギに縄張り宣言しています! :鳥取環境大学の森の人間動物行動学』p178-179によれば、
キジ科のいろいろな鳥の求愛行動のなかで、祖先種の特徴を残しているのが、ニワトリの求愛行動、次にキジ、そしてそれらの行動型を基礎にして最も最近現れたのが、クジャクの求愛行動だと考えられているのである。(中略)地面の餌の場所を嘴でつついて求愛するニワトリに対し、キジの求愛になると、実際に地面をつつくことはなくなるが、それでも頭を低くして嘴を地面のところまで運ぶ動作は残っている。そして、キジでは、ニワトリにはなかったあるものが♀へのアピールに加えられる。それは尻のまわりの長くてめだつ羽である。この尾羽(正確には上尾筒)が、♂が頭を下げるという動作の必然的な結果として、上方へ上げられることになり、♀によく見えるようになるのである。下線部に関しては私の観察結果と異なります。
一例だけの反例では偉そうなことは言えませんが。
つづく→後編:採食と囀り♪
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