2012/10/15

ジガバチの交尾未遂



2012年7月下旬

地面を歩き回るジガバチの一種(ヤマジガバチまたはサトジガバチ)♀を撮影していると、急に別個体が飛来して突撃しました。

蜂が交尾を始める瞬間を野外で撮れたのは初めてです。
冒頭は1/3倍速のスローモーションにしてみました。
勇ましく♂が低空飛行で♀に飛びかかるや、電光石火でマウントに成功。
そのまま交尾を試みるも、相性が悪いのか上手くいきません。
奮闘中にお邪魔虫が闖入。
徘徊するクロアリに追い立てられて、何度か交尾場所を地上で転々と変えました。

正面からのアングルになるとようやく♂の頭楯が白いことを確認できました。
これは性別判定に使える特徴です※。
上にマウントした♂は♀の首根っこを噛んでいるように見えます。
生憎カメラの電池切れで、ペアが別れる瞬間を見届けられませんでした。
同定のため捕獲しようと思ったら、殺気を感じたのか逃げられました。
ヤマジガバチ(Ammophila infesta)とサトジガバチ(Ammophila sabulosa nipponica)は胸背や胸側面の点刻の状態で区別されるらしく、写真鑑定は困難とのこと。

後日、同じフィールドで捕獲した♀♂はヤマジガバチと写真鑑定して頂きました。

※『ファーブルが観た夢』p58によると、

(ジガバチ♂の)見た目は♀とそっくりである。顔に白い斑点があり、身体が小ぶり。

♂は必死で右から左から何度も試みるものの、腹部が滑ってどうしても交尾器を結合できませんでした。

見ている側ももどかしくなります。
これを「交尾未遂」と表現するのが正しいのか、それとも♀による「交尾拒否」なのか私には分かりません。

  • 交尾が成功するには学習が必要? 今回は交尾経験の浅いペア同士だった?
  • 体長差があり過ぎて(♀>♂)交尾器が届かない? 
  • 実は別種?(生殖隔離
    撮影地が山か里かと問われれば間違いなく山地なのですが、だからといってヤマジガバチとは限らないそうです。交尾できないのはサトジガバチとヤマジガバチのペアだから?
  • ♀はときどき腹部を上に持ち上げています。これが協力的な体位なのか交尾拒否行動なのか不明。♂の交尾器が届かないようにしている?
  • ♀は羽化後に一度しか交尾しないで、次回からは交尾拒否する?※
近くの樹上で後日観察した別のペアでは、♀はこれほど大人しくしておらず、交尾拒否された♂はあっという間に逃げました。(記事はこちら→。
ということは、今回のケースの♀は交尾に協力する意志はあったのかな?


あるいはもしかすると交尾失敗と思ったのは私の早とちりで、ジガバチの交尾はこんなものなのかもしれません。
一瞬でも交尾器が接触すれば移精できたりして…?
それとも、腹部の側面を互いに長時間擦り合わせるのは前戯なのかな?

2010年に観察したジガバチ(ミカドジガバチ?)の交尾の映像を見直すと、安定した結合状態は長続きしませんでした。
交尾器が連結すると、♀の長い腹部はS字状に湾曲していました。(腹端は高く上げていた。)


※【追記】
新刊の『狩蜂生態図鑑』p24によると、
サトジガバチの産卵に必要な交尾は1回だけで、一度交尾の済んだ♀にとって飛びかかってくる♂は邪魔なようで、中脚を上に伸ばして♂を防いでいる。
この点を踏まえて映像を見直すと、♀は交尾拒否していないことが分かりました。



♀の上にマウントした♂の顔は白い



↑スローモーションのリプレイはこちらの編集の方が良かったかも。


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