2020年9月下旬・午前10:55頃・晴れ
里山の細い登山道でヒメスズメバチ♂(Vespa ducalis)が日光浴していました。
ほっそりした体型で触角が長いので雄蜂♂と分かります。
そこへ突然、セスジハリバエ(Tachina nupta)が飛来し、ヒメスズメバチ♂を背後から襲撃しました。
1/5倍速のスローモーションによるリプレイをご覧ください。(@0:49〜)
ハエの羽音を聞いたヒメスズメバチ♂は翅をやや開いて警戒姿勢になりました。
寄生性のセスジハリバエの性別を私は外見で見分けられません。
(1)もし♀だとすると、セスジハリバエ♀がヒメスズメバチ♂に体当りした瞬間に、ヒメスズメバチ♂の体表に素早く産卵したのでしょうか?
しかし、セスジハリバエの寄主は確か鱗翅目(蝶や蛾)の幼虫のはずです。
ヤドリバエ科の寄生バエがスズメバチに寄生するという話を私は見聞きしたことがありません。
(2)別の解釈を苦し紛れに考えてみると、全身のカラフルな斑紋・配色が少し似ているので、セスジハリバエ♂が大型のヒメスズメバチ♂に誤認求愛したのでしょうか?
(3)セスジハリバエ同士で縄張り争いがあり、見かけが少し似ていたヒメスズメバチはそのとばっちりを受けたのかもしれません。
(4)単なる偶然の衝突?
しかし、ハエはぶつかる前に標的を見定めるように一瞬ホバリングしていました。
(5)小鳥が天敵の猛禽類をモビング(擬攻撃)するように、ハエも気に入らないスズメバチをモビングして追い払うのでしょうか?
背後から 不意打ちを食らったヒメスズメバチ♂は慌てて逃げ出しました。
飛ばずに下草の陰に潜り込むと、身繕いを開始。
前脚を舐めて濡らし、長い触角を拭っています。
私が少し近づくと、再び日向に這い出てくれました。
体表に寄生バエの白い卵(またはウジ虫)は見当たりません。
やがてヒメスズメバチ♂は元気に飛び去りました。
もし捕虫網で捕獲して飼育すれば、やがてセスジハリバエの卵が孵化して寄主の体を食い尽くしたかな?
ハエの羽化まで確認すれば、センセーショナルなスクープ(大発見)になったかもしれません。
実はスズメバチとセスジハリバエの組み合わせは過去にも観察しています。
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ノダケの花蜜を吸うコガタスズメバチ♀とセスジハリバエこのとき、訪花中のコガタスズメバチのワーカー♀は目障りなハエを押し出したり払い除けたりしていました。
ところが小競り合いの度に、敏捷で図太いハエはすぐにノダケの花に舞い戻りました。
なんとも思わせぶりな行動なので、ひょっとすると本当にセスジハリバエの寄主はスズメバチなのかもしれない、という妄想が膨らみます。
少なくともセスジハリバエはスズメバチをあまり恐れずに強気な態度で接する様が印象的でした。
【追記】
文献検索で以下の重要な情報がヒットしました。
セスジハリバエ♀は寄主の体表に直接産卵しないらしい。
今回私が見たのは別種のヤドリバエなのかな?
舘 卓司, セスジハリバエ幼虫の奇妙な寄生行動(双翅目:ヤドリバエ科), 日本昆虫学会, 2015.09,
セスジハリバエ Tachina nupta Rondaniは旧北区に広く分布し,日本のヤドリバエの中でも普通種の一つである.福岡市では,成虫は少なくとも春と秋に二回見ることができる多化性である.本種は待機型幼虫を産卵(仔)する間接型寄生であり,ヨトウガ類(ハスモンヨトウなど)に単寄生することが知られている.