2013年7月中旬
山道に沿って生えたカワミドリの群落で花に止まって交接中のクモのカップルを発見。
カニグモ科のガザミグモ(Pistius undulatus)でした。
体長および体色に著しい性的二型を呈します(♀茶>♂黒)。
映像では細かいカット割りで動きのあるシーンを抜粋しましたが、実際は静止している時間が長かったです。
(※ 昔カニグモ科ワカバグモの交接を観察していました。)
♀にしがみついた♂の触肢がときどきピクピク動いています。
♂は急に激しく動くときがあります。
静止した♂が触肢で♀の腹部を一定のリズムで叩いています。
これがガザミグモの求愛行動(前戯?)なのでしょうか?
♀がレンズに警戒して歩脚を大きく広げて構えました。
カメラを嫌がる♀が葉や茎の陰に回り込んで頻りに隠れようとするのですが、こちらもアングルを変えてしつこく撮影を続けます。
♂の移精器官である触肢を外雌器に差し込んでいるのかどうか、肝心なポイントがいまいち確信をもてませんでした。
飼育下ならともかく、野外での観察は逆光になったり風揺れがあったりしておそろしく難しいですね。
もし私が邪魔をしなければ、ガザミグモのカップルはもっと落ち着いて交接できたことでしょう。
♀の体の上で♂が激しく動き回り、静止すると尻ぴく(腹部を上下に動かす)。
♂が歩脚で♀の脇腹を抱えサワサワしています。
♀が頭胸部を下げて腹部を持ち上げたのは交接に協力する姿勢になったのかな?
もし♂が交接に成功しているのなら、しばらくすると左右逆側の触肢を使って逆側の外雌器に挿入し直すはずです。
途中で♂が激しく動いて体位変換したようにも見えますが、定かではありません。
♀の腹部腹面にある外雌器がはっきり見えるような体勢になってくれたときには、♂は触肢を差し込んでいませんでした。
♀から離れようとしない♂の行動は、ライバルの♂から♀を守る交接後ガードと考えるべきでしょうか?
『クモ生理生態事典 2011』でガザミグモの項を参照すると、
1937年6月1日,成体雄が亜成体雌の腹背につかまっている. ほぼ1日半後に脱皮した雌の腹下に回り交接した。
という古い記録を見つけました。
ガザミグモは脱皮の際、他の種類のクモのように糸を紡いで作った脱皮室に篭ることはしないのだろうか?
全景@カワミドリ群落 |
撮影後、交接中の雌雄ペアを一緒に採集しました。
持ち帰るまでの間に性的共食いすることもありませんでした。
飼育して♀が卵嚢を作るところまで見届けられたら良かったのですけど、あまりにも多忙でそこまで余力がありませんでした。
エタノール液浸標本を接写してみると、♀の外雌器の形状から性的に成熟した成体と判明。
交接プラグらしき付属物は見当たりませんでした。
ワタリカニグモというガザミグモにそっくりなクモがいるらしいのですが、両種の外雌器の違いは明確でこれはガザミグモ♀成体で大丈夫と、「クモ蟲画像掲示板」にてきどばんさんよりお墨付きをもらいました。
♀背面 |
♀側面 |
♀顔 |
♀腹面 |
外雌器の下に目立つ1対の穴は気門 |
♀頭胸部 |
♀眼域 |
♂背面 |
♂頭胸部 |
♂腹部 |
♂腹面 |
♂顔 |
♂触肢 |
【追記】
『クモのはなしII:糸と織りなす不思議な世界への旅』p27-32「カニグモの縛られた花嫁」によると、カニグモ科の中には交接の際に♂が♀を糸で縛り付ける種類がいるのだとか。
日本産のクモでもアズマカニグモなどでこの驚くべき縄縛行動が観察されており、カニグモ属、ハナグモ属、ヒメハナグモ属、アシナガカニグモ属のカニグモ類で確認されているらしい。
その一方、アズチグモ属やワカバグモ属では、この行動は行われないそうです。
カニグモ科のガザミグモ属について記述はありませんでしたが、今回の映像を見直すと♀は糸で縛り付けられていませんでした。
いつかカニグモの縄縛行動を自分の目で観察してみたいものです。
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