2020/09/03

送電塔に作られたハシブトガラスの巣を真下から見上げると親鳥は…(野鳥)



2020年6月上旬・午後17:20頃

住宅街の裏路地のすぐ横に高圧線の鉄塔(送電塔)が聳え立っています。
ほぼ真下から見上げると、鉄骨の上部にハシブトガラスCorvus macrorhynchos)の巣を見つけました。

私は毎年、高圧線に沿って巡回し、カラスの営巣状況を調べています。
この送電塔#18でカラスの巣を見つけたのは初めてです。
真下が住宅地ですし、細い路地を住民が行き来するので、親鳥は落ち着いて育雛できないはずです。
こんな人気がない場所に営巣するとは、親鳥によほど切羽詰まった事情があったでしょうか?
しかもヒトに対する警戒心がハシボソガラスよりも非常に強いハシブトガラスがこんな人家に近い場所に営巣するとは、とても意外です。
人馴れした新世代のハシブトガラスが出現しつつあるのでしょうか?


ヒトとカラスの平和な共存を目指すために、近年は送電塔の上にカラスが巣を作っても漏電事故が起こらないように安全な場所を選んでカラス専用の巣箱を予め設置する例が増えてきました。
前年は別の送電塔で巣箱に営巣したハシブトガラスを定点観察しました。

▼関連記事のまとめ
送電塔#KN7の巣箱に営巣したハシブトガラスの観察記録:2019年

しかし今回見つけた送電塔#18に巣箱は無く、鉄塔の上部の鉄骨の角に多数の小枝を組み合わせた巣が作られていました。

動画の冒頭では、巣内で雛鳥が甘えた声で鳴く声が聞こえました。
おそらく親鳥が雛に給餌中で、雛は餌乞いしているのでしょう。

しばらくすると、巣から1羽の親鳥が飛び出して横の鉄骨に止まり、羽繕いを始めました。
巣の真下から見上げている私に対して親鳥が何もアクションを起こさないのが不思議でした。
繁殖期のハシブトガラスはヒトに対して警戒心が非常に強いので、巣に近づいたり巣のある方向を見ただけで怒り狂います。
下手すると攻撃してきたり、真下の私を狙って糞を落としたりするはずです。
意外にも真下はカラスの死角になっていて、私の存在に気づくのが遅れたのでしょうか?

遂に私の無礼に対してしびれを切らした親鳥が下の鉄骨にフワリと飛び下り、翼を半開きにした威嚇姿勢でカーカー♪鳴き始めました。
次は私を見下ろし、翼を半開きにした姿勢でガーガー♪嗄れ声でも鳴きました。
嘴を足元の鉄骨に擦り付けているのは、怒りを少しでも紛らわす転移行動なのでしょう。
頭部の羽毛が興奮(怒り)で少し逆立っているようです。

しかしこの親鳥の威嚇はあまり迫力がありません。
繁殖期なのに、これほど怖くないハシブトガラスは初めてです。
私の頭上に脱糞する攻撃もしてきませんでした。
鳴いたときに開いた嘴の中が黒いので、間違いなく親鳥(成鳥)です。
親鳥の攻撃性に個性(個体差)があることを改めて実感しました。

あまり長時間巣を見上げると育雛中の親鳥のストレスになりますから、すぐに撮影を打ち切って送電塔から離れました。
親鳥は立ち去る私を追いかけてくることもありませんでした。
やはりこの親鳥は明らかに人馴れしていて寛容です。
ハシブトガラスが凶暴だという悪評は、近年までヒトが勝手に巣を撤去するから「倍返し」されていただけではないかという気がしてきました。


つづく→送電塔の巣で雛に給餌してから見張りにつくハシブトガラス親鳥(野鳥)


親鳥@鉄骨+雛@巣:送電塔#18
全景
親鳥@威嚇

2020/09/02

雄蜂♂が出入りする巣の入り口でニホンミツバチ♀の群れが匂い扇風【HD動画&ハイスピード動画】



2020年6月上旬・午後15:54〜16:01・晴れ

農村部に立っているコンクリート電柱内部の空洞で自然営巣したニホンミツバチApis cerana japonica)の経年コロニーをときどき定点観察しています。

▼関連記事のまとめ
電柱内部に営巣したニホンミツバチの定点観察:2012〜2013年

巣口となったネジ穴の直径は18mm、地上からの高さ130cm、北向きに開口。

※「コンクリート電柱の断面」でGoogle画像検索すると、コンクリート電柱の中身は(おそらく軽量化とコストカットのために)空洞になっていることが分かります。

久しぶりに営巣地を通りかかったので様子を見ると、巣口の周囲に多数のワーカー♀が集まり、各自がその場で激しく羽ばたいていました。
以前も夏に同様の行動を見たことがあるので、巣を冷却するための扇風行動なのかと初めは思いました。


▼関連記事(6年前の撮影:2014年7月中旬)
巣を空冷するニホンミツバチ♀の扇風行動
※ この短い動画(30秒間)で♂は巣口に出入りしていません。


▼関連記事(7年前の撮影:2013年7月中旬・気温31℃)
ニホンミツバチ♀の巣を冷やす扇風行動【ハイスピード動画】
※ この動画で♂は巣口に出入りしていません。

気温を測りたいところですが、この日は生憎、温度計を持参していません。
しかし電柱に西日が当たっている面だけでなく、日陰になっている所でもニホンミツバチ♀は扇風していました。
直射日光で温められたコンクリート自体の放射熱でミツバチの扇風行動が発動するのかもしれませんが、どうやら巣冷却以外の目的もありそうです。


なぜ私がそう思うかというと、ニホンミツバチ♀が巣に冷気を送り込むための扇風行動なら、巣口から外側に頭を向けて並ぶはずです。

ニホンミツバチの生態についてバイブルになっている佐々木正己『ニホンミツバチ:北限のApis cerana』によると、

(ニホンミツバチは)セイヨウミツバチと扇風の向きが逆で、新鮮な冷気を外から中へ入れるように、頭を巣門の外に向けて気流を巣内に導くように翅を羽ばたく。1秒間に150回前後と飛翔時より少しビート数が少ない。(p34より引用)


しかし今回の扇風役は向きがバラバラでした。
特に、巣口からだいぶ離れたところで扇風している個体は、巣内に冷気を送り込む役目を全く果たしていないでしょう。
もしかすると、扇風経験の浅い若い個体なのかな?

動画をよく見ると、ワーカー♀の他に、複眼が大きく発達して体色が全体的に黒っぽい雄蜂♂もときどき登場します。
少数の♂が巣口から飛び去ったり(出巣)、帰巣したりしています。
電柱の表面をウロウロと歩き回っている♂もいました。

▼関連記事(7年前の撮影:2013年6月中旬)
ニホンミツバチの匂い扇風?
この動画を改めて見直すと、少数の♂が巣口に出入りしていました。


ニホンミツバチ♀の扇風行動を240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@2:08〜)
巣に出入りする飛翔シーン(帰巣および出巣)やこまごまとしたドラマが繰り広げられているので、どう編集すべきか迷った挙げ句、撮影した素材をノーカットでお届けします。

例えばちょっと面白かったのは、帰巣した♂がホバリングしながら扇風役のワーカー♀に背後から抱きついても、気にせず巣口の横で扇風を続行したことです。(@14:40)
雄蜂♂が不妊のワーカー♀にもマウントを試みて交尾の練習をしているのでしょうか?

それとも、まさにこれがナサノフ腺フェロモンの♂に対する誘引効果を示しているのかもしれません。
外役ワーカー♀が帰巣する際にも着陸に失敗して巣口付近の他個体にしがみついてしまうことがあるので、私の考え過ぎですかね?

扇風役も含めて動画に登場するワーカー♀全個体は、後脚の花粉籠が空荷でした。
採餌に出かけた外役ワーカー♀が帰巣時にも花粉籠が空荷なのは謎です。
時間帯が遅いと、もう花粉を集めて来ないのでしょうか?(夕方になると野外の植物の花粉は枯渇してしまうのか?)

巣口の近辺を正面からズームインしてハイスピード動画に撮ると、扇風行動中の♀個体はほぼ全て、巣口を中心に頭を外側(放射状)に向けていました。
これだけ見ると、暑くなった巣を冷やすための扇風行動と思ってしまいます。
ただし例外があり、巣口を向いて扇風する個体を見つけてしまいました。(@6:48)

分蜂(巣別れ)群が新しい巣の候補地の位置を仲間に教えるための匂い扇風だった可能性も考えられますが、それだと巣に出入りする雄蜂♂の存在を私の頭では説明できません。

佐々木正己『ニホンミツバチ:北限のApis cerana』によると、

・(分蜂の)季節は4月から6月。その年最初の分蜂では出ていくのは必ず旧女王であり、母巣は娘の女王が継ぐ。そして群勢に余力があるときは、その後引き続いて何回かの処女王分蜂が繰り返される。(p137より引用)
・ニホンミツバチでは分蜂前にこのようにかなりの蜂が巣門に出てくる動きを見せる場合が少なくない。(p137より)
分蜂群が新たなすみかに入るときには、先着蜂がちゃんと外側に尻を向けて集合フェロモンを放出しながら扇風し、後続の仲間を誘導する。この場合は扇風の向きはセイヨウミツバチの場合と同じである。(p107より)

最後に引用したポイントは重要で、扇風役の向きから今回の行動が分蜂とは無関係と分かりました。

ときどき雄蜂♂が飛来し、帰巣しています。
ミツバチの結婚飛行について勉強不足の私は、一度巣を離れた♂はてっきり二度と帰巣しないのかと思い込んでいたので、門番♀が♂の再入巣を拒絶せずにあっさり受け入れる様子を見て驚きました。
結婚飛行で女王蜂と運良く交尾できた♂が空中で交尾しながら即死するのは有名な話です。
交尾できずにあぶれた♂が元の巣にすごすごと戻ってくるのでしょうか?

バイブル『ニホンミツバチ:北限のApis cerana』で結婚飛行について復習してみました。

・交尾飛行に出かける時刻は体内時計によって遺伝的に決められていて、ほぼ13:30から16:30の3時間に限られている。(p50より引用)

・ニホンミツバチのそれ(雄蜂♂の結婚飛行時間帯:しぐま註)は、(中略)日本での調査によると13:15〜16:30で、女王蜂の飛行時間帯もこれに同期して13:15〜17:00となっている。雄蜂、女王蜂ともに体内時計によりデートの時刻を決め、それにより交尾のチャンスを高めていることがわかる。(p139より)

実際に交尾してくる飛行の前に何回かの飛行が見られる場合が多い。しかしいずれもほぼ14:30〜16:30の間に出ていて、セイヨウミツバチより遅い。(p139より)

・巣門に出てきた♂と、すでに交尾飛行から帰巣した♂たち。マキの自然巣にて、残念ながら空高くで行われる交尾の瞬間を見ることはできない。(p51より)

今回の撮影時刻はまさにニホンミツバチが結婚飛行する時間帯でした。
巣に出入りする雄蜂♂は、気象条件などが結婚飛行に適しているかどうか見極めているのでしょう。(結婚飛行の下見?)

例えば動画(@10:15)に巣口から外にでてきた雄蜂♂は外に飛び出すことなく、すぐに巣内へ引き返してしまいました。
これでようやく私も状況が飲み込めてきました。
今回、私は女王蜂を一度も見かけませんでした。
もう少し粘って撮影していれば、結婚飛行の開始を見届けられたのかもしれません。

結婚飛行から戻ってくる雄蜂♂や女王蜂に対して巣口の位置を教えるために、匂い扇風に励んでいたのだろうと考えるようになりました。

再び『ニホンミツバチ:北限のApis cerana』によると、

ナサノフ腺フェロモンを放出し、扇風して仲間を巣門に誘導する(p35より引用)
この記述は結婚飛行と関係ないかもしれませんが、謎の「ナサノフ腺」という用語が気になりました。
『岩波生物学辞典 第4版』で調べると、

[英Nassanoff's gland]
ミツバチのワーカー(働き蜂)の腹部第六節背面に開口する分泌器官.多数の分泌細胞からなり,分泌物は袋状の凹所に貯えられる.この分泌物は働き蜂に強い誘引性があり,ミツバチの道しるべフェロモンとして作用する.分泌物にはゲラニオール,ネロリ酸,ゲラニウム酸(geranic acid),シトラールが含まれ,これらが混合して道しるべフェロモンとして働いていると考えられている.

下線部が本当だとすると、雄蜂♂や女王蜂に対しては誘引効果が無い(知られていない)のですかね?
英語版wikipediaでナサノフ・フェロモンを調べると、巣門で腹部を高々と持ち上げながら扇風してフェロモンを放出しているセイヨウミツバチ♀の写真が掲載されています。(分蜂群の先発隊が空の巣箱に仲間を誘導中)
気になるのは扇風時の姿勢で、私が撮った映像ではこんなに腹端を高く持ち上げていません。
セイヨウミツバチとニホンミツバチという種による違いでしょうか?

当然ながら、巣の傍に立つ私の鼻には特に何も匂いを感じませんでした。
もし扇風時の姿勢から匂い扇風が否定されるとなると、結局はやはり巣冷却のための扇風行動だということに落ち着きます。
(ナサノフ腺フェロモン以外に未知のフェロモンがあってもおかしくないと大胆な仮定をすれば、ロマンがありますね。)


今回の扇風行動に関する私の解釈(仮説)が正しいかどうか確かめるためには、通りすがりに短時間観察しているだけでは不十分であることが明らかになりました。
どうしても、この時期に集中して巣口を終日観察する必要がありそうです。(温度計と三脚を必ず持参すること。)
特に、結婚飛行(交尾飛行)のために女王蜂が巣から飛び立ち、やがて戻ってくる様子をいつか自分の目で見てみたいものです。
巣口に監視カメラを設置できれば理想的です。




【追記】
採餌する外役ワーカーが無事に帰巣できるように匂い扇風をしている、という可能性も考えられなくはありません。
しかし蜂は初めて巣を離れる際に定位飛行して視覚的に巣口の周囲を記憶することができます。
それを頼りに外役ワーカーは自力で帰巣するはずなので、匂い扇風は何か他に特別な目的があるはずだと思います。

ニホンミツバチ♀群れ@巣口:コンクリート電柱+匂い扇風(巣口でのすれ違い)
♀@帰巣
巣口の下縁で雄蜂♂が出巣

コンクリートや土を舐めるクモガタヒョウモン♂



2020年6月上旬・午後13:00頃・晴れ

里山の峠道で側溝の乾いた底にクモガタヒョウモン♂(Nephargynnis anadyomene)が降り立ち、伸ばした口吻で土塊を舐めていました。
半開きの翅を開閉しながらミネラル摂取しています。
たまにコンクリートの表面も舐めています。

翅表に♂の性標を認めました。
翅裏をしっかり撮れなかったものの、おそらくクモガタヒョウモン♂と思われます。

▼関連記事(同日同地域で撮影)
ヒメジョオンの花蜜を吸うクモガタヒョウモン♂の群れ


図鑑でクモガタヒョウモンの習性を調べると、

・路上で吸水することもある。人の気配に敏感で、すぐに飛び立ち、なかなか近寄れない。(ヤマケイポケットガイド9『チョウ・ガ』p137より引用)

・路上や崖の湿った場所で吸水も行う。(フィールドガイド『日本のチョウ』p193より引用)

この日は路上の獣糞で吸汁している蝶も見かけたのですが、私が気づかずに近づくと飛んで逃げてしまい、しばらく待っても戻って来ませんでした。


土舐め
コンクリート舐め

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