2012/03/26

雪山を逃走するニホンカモシカと食痕(冬の採食メニュー)



2012年3月上旬
雪山で遭遇したニホンカモシカ【後編】

前編からのつづき)
長い睨み合いの末、ニホンカモシカCapricornis crispus)は苛立つように鼻息を荒げると身を翻して逃走しました。
行き先を見定めるように立ち木の下で一瞬立ち止まりました。
走って斜面を横切ると深雪に埋もれた谷(沢)を渡り対岸の斜面へ向かいました。
林の陰になり姿が見えなくなっても大きな鼻息が二度聞こえました。
逃げたカモシカは雪の斜面をラッセルしながらトラバース移動しています。
途中で立ち止まってこちらを振り返ると、鼻息を荒げて威嚇してきます。
最後は右奥の森に消えました。

逃げられたことに少し落胆しつつ、先程までカモシカが採食していた地点に向かってみます。
木の根元だけ雪が溶けて崖の地肌が一部露出しており、そこに常緑樹の低木の茂みが生えていました。
枝葉を採集して調べてみると、ユキツバキおよびチャボガヤと判明。
ユキツバキの花が咲く時期には未だ早いようです。
明確な食痕は分からなかったものの、カモシカはこれら常緑の葉を食べに来ていたと思われます。
チャボガヤは葉がとても堅く先端が鋭く尖っていて触ると本当に痛いので(文字通り「針葉樹」)、さすがにカモシカもこれは食べない気がします。
ちなみに、秋に観察した採食行動はこちら。移動しながら常緑樹の葉(ハイイヌガヤ?、エゾユズリハ)および羊歯の葉(シシガシラもしくはオサシダ)を口にしていました。


ピッキオ編『森のいろいろ事情がありまして』p102によると、カモシカには上の門歯が無いために毟り取ったような食べ方になるそうです。




下山を続けると同様の群落が斜面に点在しており、殺風景な雪景色の中で緑が目にも鮮やかでした。

カモシカが私と遭遇する前にうろうろしていた足跡を少し辿ってみます。
この日の雪質はいわゆる腐れ雪(シャーベット状に溶けかけた湿雪)のため、残念ながら足跡が不明瞭でした。
それでも所々で蹄の跡がくっきり雪面に残っています。

野生のニホンカモシカと冬に出会えたのはとても嬉しかったのですが、採食行動の証拠映像をしっかり撮れる前に逃げられてしまったのが心残りです。
贅沢を言えば、カモシカに気づかれないようこっそり斜面を下りてから見上げるアングルで採食シーンの口元を撮れたら理想的でした。
しかしパウダースノーとは程遠い雪質で、一歩踏み出す度にザクザク音を立てるので、忍び足で移動するのは到底不可能でした。
ニアミスの状況で私はどのように動くべきだったのでしょう?
睨み合いの視線を外し、カモシカの縄張りから退散する素振りで斜面を下ったらそのまま食事を続けてくれたかな?


【参考映像】

冬山で命を落とす カモシカ」(155秒)
リンク先はNHK for schoolで、カモシカが冬の雪山で過ごす様子や命を落とすカモシカを紹介します。


2012/03/25

雪山で採食する野生ニホンカモシカ



2012年3月上旬
雪山で遭遇したニホンカモシカ【前編】

冬も峠を越したようで、晴れると里山に積もった雪も緩んできました。
スノーシューを履いて沢沿いの急斜面を下ると、腐れ雪(シャーベット状の湿雪)で足元のグリップが効かず難儀しました。
同じ斜面の左手に一頭の野生ニホンカモシカCapricornis crispusを発見。
積雪期に出会ったのは初めてです。

雪の斜面で頭を下げ、何かを食べているようです。
手前にある杉木立の陰になり肝心の口元が見えず、もどかしいです。
こちらが風下だったのか食事に夢中だったのか、私には未だ気づいていないようです。
カモシカは少しずつ斜面を登りながら採食を続けるので、何を食べているのか知りたくても益々死角に入ってしまいます。
側面から見ると黒光りする角が立派です。

観察し易いアングルを求めて、撮りながら徐々に斜面をずり落ちるように移動しました。
カモシカは雪面の匂いを嗅ぎ、舌でペロペロ舐めています。
鼻面で軽く雪を掘りました。
(ちなみに、秋に観察した採食行動とメニューはこちら。)

遂にカモシカが気づいてこちらを凝視しました(@5:55)。
顔の毛に油気が無く、老いた個体のような印象を受けました。
厳しい冬越しで消耗しているのでしょうか。
(毛が雪で濡れているだけかもしれません。)
鼻腔を大きく広げて頻りに風の匂いを嗅いでいます。
反芻するように口を少し動かしました。
鼻息を荒げて威嚇すること数回(@7:17~)。
こちらに向き直って数歩近づき、鼻息威嚇を続けます。
対抗してこちらも鼻息を立てたらどうなるだろう?という誘惑を抑え、静かに撮影を続けます。
私が動きを止めていると安心したのか、カモシカは再び斜面を数歩登り採食再開。
頭隠して尻隠さずの状態ですが、何度も幹の陰に隠れて視線を合わさないようにするのは不安の現れなのだろうか。

(採食メニューは後編で判明します。 → つづく)



【参考映像】

ニホンカモシカの冬越し」(157秒)
リンク先はNHK for schoolで、石川県に生息するニホンカモシカの冬の食べ物や行動を紹介します。






2012/03/24

繭を紡ぐタケカレハ(蛾)終齢幼虫(150倍速映像)

タケカレハ幼虫の飼育記録



タケカレハEuthrix albomaculata directa)幼虫の飼育は2006年に続いて二回目です。
前回は5月下旬に木の枝に繭を紡ぎました
今回は繭を紡ぐ過程の一部始終を微速度撮影(5秒間隔のインターバル撮影)で記録することができました。

大量の糞と水分を排泄した翌朝、終齢幼虫aは食餌も摂らずに容器内を活発に徘徊し始めました。
いよいよこれは繭を作るぞ!と確信しました。
足場として入れていた割り箸は気に入らなかったらしく、やがて頭部を8の字に動かしながら容器の壁面に口から絹糸を吐き始めました。
ところがツルツルしたプラスチックにはうまく付着せず、貴重な絹糸が無駄になるばかりです。
急遽幼虫を外に出し、ペットボトルに水差しにしたクマザサの葉に移してやりました。
ようやく落ち着いて葉表に繭を紡ぎ始めました。
(映像はここから。)




2012年3月上旬・室温20℃→17℃

5秒間隔で7時間14分間に撮影した計4,748枚の連続写真から150倍速の動画にしました。
完成した繭をノギスで採寸すると、長径53mmでした。

以前観察したヤママユガ科やクワコの繭作りとは違い、葉柄に丈夫な命綱(繭柄;けんぺい)を作ったりしませんでした。
常緑の笹は落葉する心配が無いと知っているからだろうか?

タケカレハの繭は表面にあるゴマ粒のような黒い斑点が特徴の一つです。
この黒点が作られる過程に興味を持って映像や写真を見直してみたのですが、結局よく分かりません。
予想ではてっきり、幼虫が繭内で激しく動き回るうちに黒い毛束が抜けて自然に繭の繊維に絡まるのかと思っていました。
しかしどうも違う気がします。
糞ではありません。
映像ではあるとき突然に複数の黒点が現れるのです。
口から何かを分泌し、絹糸と化学反応して黒点が出来るのだろうか。
『繭ハンドブック』p38によると、タケカレハの
繭層の表面には黒い点がある。これは、幼虫時代の毒針毛をそのまま束にして埋め込んだものである。



この個体aは11月下旬に雪山で採集してきて以来、室内飼育で計4回脱皮しました。
2月中旬の最終脱皮から18日後に繭を紡ぎました。
こうした発育スケジュールは6年前の個体♀と比べて大幅に早いです。
個体差かもしれませんが、主に室温の違いによるものと思います。

できれば繭から成虫が羽化してくる様子も観察してみたいものです。
タケカレハの成虫出現期は5~6月および9~10月の二化らしい。

【追記】
4週間後に無事に成虫♀が羽化しました→つづく


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