2011/11/21

クワコ♀(蛾)の羽化と性フェロモン放出



クワコの飼育記録#4
2011年10月下旬・室温22℃


二頭のクワコBombyx mandarina)終齢幼虫から飼育を始め、繭を紡いでから53日後にようやく一頭の成虫(先に営繭した個体a)が室内で羽化しました。

羽化の過程を撮影したかったのに見逃してしまい残念。
それまで繭の中で蛹がひとりでにガサガサ動く音がときどき聞こえていたものの、羽化の前兆などは気づきませんでした。
実験室の自然日長条件で(クワゴの:しぐま註)羽化時刻を調べると、♂と♀でまったく異なる。♂は午前8時〜10時を中心に羽化し、♀は午後2時〜5時を中心に羽化した。筆者は、今までこのように♂と♀で羽化時刻の異なる昆虫を知らない。ちなみにカイコは雌雄同時に羽化する。 (桑原保正『性フェロモン:オスを誘惑する物質の秘密』p57より引用)
繭の上側の絹糸をコクナーゼという酵素で溶かしてから穴を押し広げて脱出したようです。

『繭ハンドブック』p29によると、クワコの羽化前の繭上部には予め出口は開いていないらしい。




午前中に気づいたときは既に翅が伸び切っており(前翅長〜20mm)、繭の下にぶら下がって静止していました。
直下に垂れた赤い液体は、翅伸展後に排泄した蛹便でしょう。
櫛状触角の形状に性差があるらしいのですが、私にはよく分かりません。
♂の触角は♀より櫛歯が長いらしい。)
幼虫期はあれほど大食漢だったのに、クワコ成虫の口器は退化しています。



やがて繭に掴まって静止したまま、腹端から何やら黄色い内臓器官を出し入れし始めました。
ヘアーペンシルの形状ではありませんが、フェロモン放出のコーリングを連想しました。
クワコはカイコの原種(交雑可能)※ですから、よく調べられているカイコの配偶行動を参照してみることに。
科学のアルバム『カイコ:まゆからまゆまで』を紐解くとp14に解説が載っていました。
「♂の蛾を激しく引き寄せた、特別の匂いは、♀の腹の中にある、誘引腺という黄色い袋から出されます。♀は羽化するとすぐに、この誘引腺を腹の先から出して、特別の匂いを辺りにまき散らします。♂はこの匂いを辿って♀を見つけるのです。」

これでようやく私にも♀だと分かりました。
クワコの雌性フェロモン(カイコと同じボンビコール:bombykol)を嗅いでも私の鼻には無臭でした。
空中に拡散する微量なフェロモンを検知するために♂の触角は♀よりも発達しているのです。
しかし『ファーブル昆虫記』の有名なエピソード「オオクジャクヤママユの夜」のように、室内に囚われた♀の元に窓の外から♂のクワコが殺到するということはありませんでした。
そのまま♀を飼い続けると後日、産卵シーンも観察できました。
(つづく→シリーズ#5




※【追記】
鈴木知之『さなぎ(見ながら学習・調べてなっとく)』によると、
カイコは中国のクワコを品種改良したものらしく、日本のクワコとは染色体の数やDNA配列が異なるようです。  (p83より引用)




【追記2】
桑原保正『性フェロモン:オスを誘惑する物質の秘密』によると、

 (カイコの)未交尾の♀(処女♀)を♂と交尾できないように隔離しておくと、♀は腹部末端を斜め上後方に突き出し、先端の産卵管壁に一対ある黄色球状の側胞腺(フェロモンを分泌・発散する部分。フェロモン腺)を突出させる。この時、側胞腺は数秒毎の周期的な膨張と収縮をくり返す。この行動はコーリング行動(求愛行動)とよばれ、フェロモンの分泌発散行動である。(p23〜24より引用)
 クワゴの♀はカイコと同じように、昼間に腹部末端にある側胞腺を膨らませてコーリング(求愛行動)し、性フェロモンを分泌する。 (p47より引用)
クワゴは野外の自然状態では、おそらく前日の午後羽化した成熟♀に、翌日午前に羽化した♂が求婚するのではないか (p57より引用)
コーリング中の♀を嗅いでも微量のためフェロモンの香りはまったくない。化学合成したフェロモンは、高濃度の時だけ人間に、弱い油臭さとして感じられる。当然であるが人間には何の作用もない。 (p239より引用) 









2011/11/20

ナシケンモン終齢幼虫(蛾)の徘徊@鉄パイプ



2011年10月下旬・気温12℃



林縁で鉄パイプの上を毛虫が一匹這い回っていました。
ナシケンモンViminia rumicisというヤガ科の幼虫(黒色型)です。
現場で採寸すると、体長31mm。
図鑑『イモムシハンドブック』によると終齢幼虫の体長は30-35mmらしいので、おそらく終齢なのでしょう。

真っ黒な頭楯を左右に振って辺りを探りUターンを試みます。
長い白髪の生えた頭をときどき高々と持ち上げて様子を窺います。
夕刻で冷えてきたのか、動きが鈍くなりました。
我々のような温血動物が鉄パイプに触れると体温が奪われ殊更に冷たく感じますが、毛虫のような変温動物にとっては気温と同じ体感のはずです。


10月上旬に撮った褐色型のナシケンモン幼虫@ヤナギ葉 












2011/11/19

ススキの種子を食すコバネササキリ♀

2011年10月中旬



動画とは別個体


綿毛を付けたススキの穂にキリギリスの仲間(産卵管の長い♀)が何匹も止まっていました。
種子を食べているような気がしたのですが、秋風で穂が激しく揺れそのままではとても口元を接写できません。
こういう悪条件の際の常套手段として、いつものように茎ごと切り落として地面にそっと置いてみました。
しかし長い触角で異変を感じたのか、♀は跳んで逃げてしまいました。


気を取り直し、別個体で再挑戦。
次善の策として今度は左手でススキの穂を押さえながら接写してみました。
(映像はここから。)



確かに口器がもぐもぐ動いています。
側面から観察すると、ススキの種子に口を付けている決定的証拠映像が得られました。
産卵に備えて栄養豊富な種子を食べているのでしょう。
やがて綿毛の中をゆっくり移動し始めました。

直翅目を見分けるのも苦手なので、キタササキリ♀褐色型にしては翅が短い?と思いつつ、動画撮影後に同一個体を採集して持ち帰りました。
落ち着いてよくよく調べてみると、どうやらコバネササキリ♀(Conocephalus japonicus)らしい。


触角が恐ろしく長い。死後は変色が進み、長い産卵管も縦2本に割れてしまう。







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