2023/01/14

夏の山道に残されたニホンカモシカの糞粒

 

2022年8月下旬・午後15:25頃・くもり 

里山で下山中、ニホンカモシカCapricornis crispus)が砂利道の真ん中に排泄した大量の黒い糞粒を見つけました。 
多雪地帯の当地ではニホンジカが生息していないことになっているので、鹿の糞という可能性は除外します。 
採寸代わりに携帯していたクマよけスプレー(高さ20cm)を並べて置いてみます。 
黒い糞粒の形状が独特です。

少し離れたもう1箇所にも糞粒がばら撒いたように残されていました。 
こちらには茶色の糞粒が混じっているのが珍しく思いました。 
表面が乾いているようにも見えますし、少し鮮度が古い(排便後に日数が経過している)のでしょうか? 
それとも採食メニューの違いを反映しているのかな? 
カモシカの飼育記録をまとめた平田貞雄『ニホンカモシカ・ミミの一生』によると、
・山地で見る野生のカモシカのふんは、季節によって、言い換えると食べ物によって、形とか固さおよび色が違います。 
・カモシカのふんの色ですが、晩秋から翌春まではやや褐色を帯びた緑色です。そしてその他の時期のものは黒緑色です。 
・四季を通じて、一日の排ふん回数は3〜4回です。 (p69〜72より引用)


現場の林道は車の轍ができているぐらいですから、昼間に登山客や林業車両の往来がそこそこ多いです。
したがって、カモシカが糞場として定期的に通ってくるとは思えません。 
カモシカの糞場は、もっと人目につかない場所を選ぶはずです。 
 カモシカは生活域内で、だいたいきまった場所で排便します。その場所を「ふん場」と呼びますが、山地で生活している場合には、斜面の棚状の地形のところをふん場とします。そういう地形のところはそんなにたくさん無いから同じ場所でふんをすることになり、そこにはふんが小高く積もります。 そして、ふん場にはかなりこだわるようです。(中略) 山の麓の方とか、平地の森林内で生活しているカモシカの場合は、棚状の地形に似たところ、たとえば小高い土手のわきなどをふん場とします。(同書p78-79より引用) 
おそらく夜間に縄張りを巡回する途中で便意をもよおしたカモシカが立ち止まってポロポロと排便したのでしょう。 
同一個体が2箇所で連続して脱糞したのか、それとも母子が並んで脱糞したのかな? 
糞粒のサンプルからDNA鑑定すれば突き止められるはずです。 

獣糞に集まる昆虫に興味を持って調べているのですが、今回はハエも糞虫も来てませんでした。

後日、同じ地点を通りかかる度にチェックしても、カモシカの新鮮な糞塊は二度と見つかりませんでした。
つまり、カモシカはここで繰り返し排泄していないことになります。
山中でニホンカモシカが通う溜め糞場を見つけたら、トレイルカメラを設置してみたいところです。

関連記事(1、2、9年前の撮影)▶ 



ワキグロサツマノミダマシ♀(蜘蛛)が垂直円網を張る一部始終

 

2022年8月下旬・午後14:40〜15:08・晴れ 

平地を流れる用水路の上で緑色のクモが垂直円網を張り始めました。 
クモの正体は初見のワキグロサツマノミダマシ♀(Neoscona melloteei)と後に判明します。 
本種が未だ明るい時刻に造網を始めたのは異例です。 
よほど空腹だったのかな? 
現場は田畑を囲む防風林(スギ林)と農道との間です(林縁)。 
垂直円網の縦糸を放射状に張っている途中から撮影開始。 
三脚を持参していなかったので、手持ちカメラで愚直に長撮りします。 
どうせ三脚のセッティングに手間取っているうちに造網がどんどん進行してしまいますから、手持ちカメラで撮影するのが一番です。 
クモは終始、腹面をこちらに向けています。 
強い日射しを浴びて白飛び気味になったこともあり、腹背の美しい緑色がよく見えません。 

動画の冒頭で、放射状の縦糸は既に18本張られていました。 
縦糸を伝って下から登ってきたクモが甑に戻ると、中心から外側に向かって左回り(クモの腹面から見て半時計回り)の螺旋状に糸を張りました。 
これは未だ足場糸ではなく、甑の補強でした。 
再び縦糸を追加しながら下降し、放射状の縦糸は計19本になりました。 
クモの動きが早過ぎて、下に伸ばした縦糸の端をどこに固定したのか追い切れません。 
枠糸の上部はスギの枝葉に固定してあるようです。 
網の中心に戻ったワキグロサツマノミダマシ♀は、また甑を補強してから縦糸を追加し、最終的に縦糸は計20本になりました。 

いよいよ次は足場糸を張り始めます。 
中心から外側の枠糸に向かって左回り(半時計回り)の螺旋状に非粘着性の足場糸を粗く張って行きます。 
網の外側になると足場糸の間隔が広くなり歩脚を伸ばしても届かないので、周囲の糸を伝って少し遠回りしながら張り進める必要があります。 

円網の下部(外周)に到達すると反転し、今度は逆の右回り(時計回り)で糸を張り始めました。 粘着性のある横糸に切り替えたようです。 
不要になった足場糸を歩脚で切りながら、横糸を等間隔に密に張っていきます。 
足場糸を切った跡には縦糸との交点が白く残ります。 

ここまでは教科書通りの見事な造網行動だったのですが、横糸張りの途中で方向転換し、左回りに(半時計回りに)横糸を張ることがありました。 
円網の下部で隣同士の横糸が交差したり重なったりしています。 
その施工ミス(雑になった部分)を修正するためにクモは方向転換したのかな? 
網全体の張力を均等化して形を整えるために横糸を補強したのかもしれません。 
再び右回りに(時計回りに)戻り、横糸張りを続けます。 

円網の中心部に近づくと、縦糸が放射状に残っていたこしきの中央部を丸く食い破りました。 
甑でワキグロサツマノミダマシ♀は下向きに占座し、垂直円網の完成です。 
甑付近に粘着性の横糸は張られておらず、スカスカのままでした。 
高速で飛来した獲物がこしき付近にぶつかって壊してしまうと、円網の構造上、網全体が台無しになってしまいます。 
そのために、獲物が円網の中心部を素通りできるように予め開けてあるのでしょう。 

こしきに占座したクモは何度も歩脚で周囲の糸を引き締めています。 
垂直円網全体の糸の張力のバランスを確かめたり、糸に伝わる振動を最適に感知できるように調節しているのでしょう。 

造網終了後に撮影アングルを変更し、横から狙うと「脇黒」がよく分かります。 
そよ風に揺れる円網の横糸が美しく、惚れ惚れします。 

クモ生理生態事典 2019』サイトでワキグロサツマノミダマシの造網習性について調べると、
・昼間は葉裏にひそみ,夕方から垂直円網を張る〔東海84〕. 
・夕方5時頃から活動を始め,草間に垂直円網を張り,中心で獲物がかかるのを待つ. 網を張る時間は20~30分でオニグモ類の中では最も早い. ほとんどの個体は網を早朝に取り壊して葉蔭に戻るが,張ったままの個体もときにみられる. 
・こしき糸と足場糸は不連続の場合と連続の場合があった〔新海明K111〕.

造網するクモの野外撮影で苦労するのはピント合わせです。 
今回は網中央のこしきにピントを合わせたら素早くMF固定焦点に切り替えました。 
これまでの経験上、AF自動焦点では必ず途中でクモを見失ってしまうからです。 
撮影中は私自身が前後に動いてピントを微調節したつもりだったのに爪が甘く、動画を見直すと残念ながらややピンぼけですね…。 
夏の強い直射日光が照りつける中で、カメラ背面の小さな液晶画面を見ながら撮影しても、白飛び気味の被写体が合焦しているかどうか、はっきり見えなかったのです。 
ファインダーを覗きながら撮影したくても、メーカー(Panasonic)のコスト削減による改悪でファインダー内の画角が小さくなり使いにくくなってしまいました。
そういうときは、昔のカメラマンのように頭から黒い布を被ればバックモニターの視認性が上がるのかもしれません。

2023/01/13

夜の山森で樹上の虫を狩り捕食するヒメネズミ【トレイルカメラ:暗視映像】

 

2022年8月下旬・午前1:15:頃 


里山で林道脇の法面からシナノキの細い幹が水溜りの上に張り出しています。 
その枝の根元付近で野ネズミがぐるぐると素早く回っています。 
どうやら樹上性の虫を追い回しているようです。 
枝の下面にも器用にしがみついて回り込み、首尾よく狩りに成功したようです。 
残念ながら手前に生えた小枝が邪魔で、肝心の捕食シーンがよく見えません。 
獲物は夜行性の虫だと思われますが、必ずしも昆虫とは限らず、ムカデやゲジゲジの仲間など多足類の可能性も考えられます。 
もしも昆虫ならば、天敵(捕食者)に襲われた非常時には、樹上から素早く飛び降りたり擬死落下したりして緊急避難する気がします。
野ネズミは専ら木の実を食べているようなイメージがありますけど、夜の森で虫を捕食する生のシーンが撮れて感動しました。 

食後に野ネズミは、湾曲して上に伸びるシナノキを素早くよじ登って姿を消しました。 
これほど木登りが得意な野ネズミは、アカネズミではなくヒメネズミApodemus argenteus)と考えられます。 
登った先に何があるのか気になって後日に現場検証してみると、シナノキに隣接するリョウブやスギの枝に跳び移ったのかもしれません。

林道上の水溜り(ヌタ場?)でイノシシが泥浴びをするのではないかと予想して、林道脇の法面から見下ろすようにトレイルカメラを設置しています。
毎年冬に積もる深雪のせいで強く湾曲したシナノキが画角内に入ったのはたまたまで、撮影の邪魔だなーと内心では思っていました。
期待したイノシシがなかなか現れてくれない代わりに、思いがけない野生動物の行動を次々と記録してくれるのが、トレイルカメラの醍醐味です。





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