2020/06/13

野菊からセイタカアワダチソウの花に続けて訪花するツマグロヒョウモン♀



2019年10月上旬・午前11:05頃

農道脇に咲いた野菊(種名不詳)の群落でツマグロヒョウモン♀(Argyreus hyperbius)が訪花していました。
右前翅の翅頂が破損した個体です。
半開きの翅を開閉しながら吸蜜しています。

後半は少し飛んで野菊の隣に咲いたセイタカアワダチソウの群落に移動すると、吸蜜し始めました。

それぞれの組み合わせは過去の記事で紹介済みですし、別に珍しいことではありません。

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今回は、同一個体の♀が訪花行動の途中で蜜源植物の種類をスイッチした点が興味深く思いました。
この2種の植物は同じキク科でも別属ですから(シオン属とアキノキリンソウ属)、花の付き方に応じた採餌法も変わってきます。

『蝶の自然史―行動と生態の進化学』という本の第11章に収録された、香取郁夫『チョウの訪花と学習――チョウはどこまで賢いか』を興味深く拝読したばかりです。
ヒメジョオンに訪花するモンシロチョウというごくありふれた普通種同士の組み合わせでも、しっかり実験して詳細に観察すれば生態学の見事な研究になるというお手本ですね。


チョウ目のチョウは、ハチほどの学習能力はなく、どんな花にでもでたらめに訪れるという「ランダム訪花」をしているのだろうと考えられてきた。(中略)野外でチョウ目が示す訪花パターンが、しばしば同一種類の花を連続的に訪れるという「一貫訪花」である(p151より引用)


 効率的な吸蜜活動は、ランダム訪花よりも同一種類の花を連続的に訪れる一貫訪花によってしばしば達成されることが知られている。しかし一貫訪花は少なくとも直前に訪れた花の色や形態を記憶しておく必要がある少し高度な訪花パターンである。(p152より引用)


一貫訪花はなぜ効率がよいのか
野外に咲く花の形や色パターンは種によってさまざまで、花が違えば蜜のありかも異なるため、必要な採餌技術が花によって異なってくる。しかし、チョウを含め訪花一貫性を示す昆虫は、異なる採餌技術をふたつ以上同時に使いこなせるほど記憶力に優れていないようである。(p158より引用)


チョウは自分で消費する蜜しか採餌しないので、ミツバチとは違い、自分の消費量以上の蜜を集める必要はない。おそらく、蝶における訪花学習性は、訪花活動にあてる時間を最小限に抑える必要があると考えられる。つまり、チョウが1日のうちで活動できる時間は限られており、その時間内に花を訪れたり、♂ならば♀を探索したり、♀ならば産卵行動に時間を費やしたりしなければならない。(p159より引用)

今回私が観察したツマグロヒョウモン♀は一貫訪花を止めて、途中で吸蜜する花の種類を変更しました。
これはどう考えたら良いのでしょう?
まさかモンシロチョウとツマグロヒョウモンでは訪花習性が異なるのかな?
もちろん、たった一例の観察だけで「ツマグロヒョウモン♀は定説と異なりランダム訪花する」と主張することは出来ません。

一番ありえそうな理由は、野菊の群落は萎れかけで花蜜が少ないと判断して見切りをつけ、別の蜜源植物にスイッチしたのでしょう。
あるいは、元々この♀個体はセイタカアワダチソウの花で吸蜜する方が得意だとすれば、ちょっと野菊に浮気して試食したもののやっぱり吸蜜しにくい!(口吻で管状花を探っても訪花ミスが多い)と判断して、吸蜜し慣れたセイタカアワダチソウに戻ったのかもしれません。
♂の一番の目的は交尾相手の♀を見つけることですから、野菊よりもセイタカアワダチソウの花で待ち伏せする方が良いと判断したのかもしれません。
野菊で吸蜜中にたまたま飛来したキタテハに追い払われた結果(アクシデント@1:23)という可能性もありそうです。
先人による研究論文で理路整然としたストーリーを読むと「なるほど!」と納得するのですが、フィールドで観察していると例外や疑問点が次々に出てきてしまい、そこが悩ましくも面白いところです。

これまで蝶の吸蜜シーンを動画で記録した際は、同一個体が別種の植物に連続して訪花した場合は編集で植物種ごとに分割してブログやYouTubeで紹介していました。
個人的な訪花リストやマルチメディア図鑑を作りたいという目的があったので、後で検索しやすいようにするためと、種の同定や行動の解釈に誤りがあったときに修正しやすいようにするためです。
今後は鱗翅目のランダム訪花や一貫訪花の習性にも注目していきたいと思います。




川岸で配偶者♀を一途にガードするオナガガモ♂(冬の野鳥)



2020年1月上旬・午後15:20頃・くもり

オナガガモ♀♂(Anas acuta)の大群が川面だけでなく、一部は岸に上陸して休んでいます。
陸上で配偶者ガード(配偶者防衛)している♀♂カップルを見つけました。
オナガガモはとても分かりやすい性的二型なので、野外で配偶行動の観察がしやすくて助かります。

渥美猛『オナガガモの奇妙なつがい形成』によると、

鮮やかな羽毛に換羽した♂は、♀に気に入られようと、ポンプ、げっぷ、水はね鳴き、そり縮みといったさまざまな求愛行動をします。つがいになった♂と♀は、一定の距離を保って、寄り添うように行動します。(中略)つがい♂は、つがい♀に求愛したり、接近する他の♂に対して攻撃します。この行動を配偶者防衛行動と呼びます。 (上越鳥の会 編『雪国上越の鳥を見つめて』p126より引用)

♂は♀を獲得すると採餌に専念できるのです。(中略)攻撃する頻度が一番多いのはつがい♂です。攻撃される相手はつがい♀に近づく独身♂やつがいにうっかり近づく独身♀でした。つがい♀はつがい♂に守られているため攻撃される頻度はごくわずかでした。(同書p127より引用)

これは主に水面上で繰り広げられる配偶者防衛行動について記述したものですが、今回の観察で、陸上でも続けられることが分かりました。

陸上で寝ている地味な♀aの横に♂が歩いて来ると、並んで止まりました。
♀は薄目を開けて♂の様子をこっそり見ています。
♂は首を上下に伸縮し始めました。
♂に特有の白い首筋を♀にアピールする求愛誇示行動なのでしょう。
このとき小声で鳴いているかどうか気になったのですが、周囲の大群の鳴き声にかき消されてよく聞き取れませんでした。
♂は求愛の合間に羽繕いもしています。

驚いたことに、♂が求愛しながら♀に胸で軽く体当りしました。(@0:27)
「プロポーズしてるのに無視すんなよ!」という「構ってちゃん」なのかな?と、どうしても擬人化しそうになります。
驚いた♀は歩き出しました。
もしかすると、♂はパートナーの♀を群れから離れたどこか静かな場所に誘導し、交尾したいのかもしれません。
その後の様子を見ていると、♂aはライバル♂から♀aを少しでも遠ざけたいのだ、と分かってきました。
しかし♀aはすぐに立ち止まると、片足立ちで寝始めました。

その間♂は、近寄ってきたライバル♂を目掛けて突進すると、追い払いました。
すぐに♀の傍らに戻って来ると、♂は求愛を繰り返します。
ライバル♂が近づきそうになると、♀との間に割り込むように地面に座りました。

座位休息しながらも♂は眠らずに、首を上下に伸び縮みさせて横の♀に白い首筋を見せつけています。(求愛誇示)
♂がときどき尾羽根を左右に激しく振る行動も何か意味がありそうです。

寝ている♀の横で♂が再び立ち上がりました。
ライバル♂が目の前を横切ろうとするだけで、♂は突進して撃退します。
♀の傍に戻って来ると、♂は必ず首を伸ばして求愛を披露します。
尾羽根を左右に振りながら♂は♀の横に座り込み、羽繕いを始めました。

♂は座りながらも油断なく配偶者防衛を続けます。
♂がまたすぐに立ち上がると、♀に求愛を再開。
ライバル♂が目の前を横切ろうとすると、♂は突進して尻を激しくつつき、追い払いました。

注目している♀♂ペアの背後でも、別の♀♂ペアが同様の求愛誇示および配偶者ガードを繰り広げています。

配偶者防衛に奮闘する♂aをよそに♀aはのんびりと片足立ちで寝ていました。
ようやく♀が目覚めると、歩いて川の方へ移動し始めました。
慌てて♂は求愛しながら、ぴったりと♀の横を付いて歩きます。
護岸の水際までやって来ると、♀a♂aが並びました。
このとき、♂aが右隣の♀b(無関係の♀b)をつついて追い払ったので驚きました。(@4:20)
オナガガモの♂から♀への攻撃を見たのは初めてかもしれません。
繁殖期のオナガガモ♂はとても一途で、配偶者以外の♀には興味が無いのでしょうか?
それとも発情していない♀には用が無いので追い払ったのかな?
そして♂aは左隣りのパートナー♀aに求愛誇示を続けます。

一旦逃げた♀bが戻って来て同じ場所に割り込むと、そのまま川に入りました。
最後はオナガガモの群れ全体が何か(通行人?)に驚き、岸から川へ一斉に飛ぶと、大騒ぎしながら逃げて行きました。
せっかく長時間、配偶者ガードを続けたのに、♂がこの混乱でパートナー♀とはぐれたのではないか?と心配になります。
同種の大群の中からどうやってパートナーを互いに個体識別しているのでしょうか?

オナガガモの♂は♀が浮気しないように一瞬も気が休まらず、見ていて気の毒になるほどでした。
この時期の♂はほとんど不眠不休、飲まず食わずで配偶者防衛に専念するのですかね?(男はつらいよ)
しかし上記の本を読むと、私の印象とは異なり、研究結果は意外なものでした。

つがいを形成した♀は、配偶者防衛行動により、♂に守ってもらえるため餌をとることに専念でき、繁殖のための栄養源を確保できるというのが従来の説です。(中略)
 つがい形成は♂にメリットはあるのでしょうか。オナガガモの場合、♂はつがいになったほうが採餌に専念できます。つがいになることは、♂にとって♀を獲得できるという最大のメリットのほかに餌をたくさん食べられるというメリットがあります。越冬期にたくさん餌を食べ、栄養を蓄えた♂は渡りや繁殖において栄養不足の♂よりも有利と考えられます。(同書p127〜128より引用)
本の記述はつがいが完全に形成されて落ち着いた後の話で、私が見ていたのはその前の段階だったような気もします。

つづく→オナガガモ(冬の野鳥)のラブコメ:♂aを追い払う♀に求愛する♂b




【追記】
松原始『鳥類学者の目のツケドコロ』によると、♀は♀で次々と迫ってくる♂の相手をいなしたりかわしたりする必要があり大変なようです。
(カモ類の)♂がやっているのは、「まずは自分が♀をナンパする」「ナンパに成功したら他の♂がつきまとわないよう、ひたすら♀をガードする」という行動なのです。 もし、このようなガードがなかったら、♀はつきまとってくる♂を追い払うのに多大な時間とエネルギーを費やすことになります。こういった無法な♂どもが寄ってくることのストレスや行動の不自由も馬鹿になりません。論文でも文字通りに「ハラスメント」と表現されることがあります。その結果、♀の栄養条件や健康状態が悪化する例もあることが知られています。 (電子書籍版より引用)

カモの繁殖には大きな特徴があります。せいぜい産卵のあたりまで♂は♀を厳重にガードするが、その後は何もしない、ということです。(同書より引用) 






2020/06/12

ウコギの枝先で縄張りを張るシオカラトンボ♂



2019年9月上旬・午後15:45

路地裏のウコギ(おそらくヒメウコギ)生垣から突き出した小枝の先端にシオカラトンボOrthetrum albistylum speciosum)の成熟♂が止まっていました。
側面からズームインしてみると、複眼の深い水色がきれいですね。
風が吹いて小枝が揺れていても、シオカラトンボ♂は頭部をグリグリと動かして辺りを油断なく見張っています。

急に枝先から飛び立ったのですが、すぐにまた同じ止まり木に戻って来ました。
飛び立つ瞬間をまずは1/5倍速のスローモーションでご覧下さい。
その後に等倍速でリプレイ。
前と同じ向きで着地したトンボの口元を見ても、獲物を捕らえてはいませんでした。
縄張りをパトロールするために飛んだのか、獲物を狩ろうとして飛び立ったのでしょう。

実はすぐ近くに池があって、そこの岸で別個体の♂が縄張りを張っていました。

▼関連記事
池の枯草に離着陸を繰り返すシオカラトンボ成熟♂【HD動画&ハイスピード動画】

池の近くなら交尾相手の♀が飛来するのを待ち伏せする意味もあるのだろうと予想されます。
しかし、わざわざ池から離れた生垣で縄張りを張っている♂は、♂同士の喧嘩(縄張り争い)に負けた劣位の個体なのでしょうか?
池に飛来する♀をライバル♂よりもいち早く見つけて交尾に持ち込むことは可能なのかな?




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