2022年9月上旬・午後13:40頃・くもり
里山の斜面を登る細い山道が近年使われなくなって廃道になっています。
野生動物の獣道になっているので、私だけが調査のためにときどき薮漕ぎしながら通っています。
辺りは鬱蒼と茂った藪(若い二次林)なので日当たりが悪く、林床に生えたばかりのクロモジの幼木(実生。地上からの高さ約35cm)は早くも黄葉が始まっていました。
その葉が集中的に丸くくり抜かれていました。
これほどきれいな曲線でくり抜くのは幼虫(イモムシ類)の食痕ではなく、ハキリバチ科の仲間♀が巣材として葉片を集めた痕跡です。
ハキリバチの種類によって営巣場所は違いますが、地面に巣穴を掘ったり樹洞や枝の虫食い穴を再利用したりします。
ハキリバチ♀はその穴に葉片を詰め込んで育房を仕切る巣材とするのです。
クロモジ幼木の上から下まで多くの葉が卵型に切り抜かれていました。
切り口が変色してないので、比較的新しい葉切り痕のようです。
ということは、切り抜かれた後で黄葉したのではなく、ハキリバチ♀は黄葉してから切り抜いたことになります。
つまり、緑の葉も黄葉した葉もお構いなしにくり抜いたと推理できます。
訪花する花弁の色をしっかり見分けられるハナバチが色盲のはずがありません。
ハキリバチの幼虫は花粉と花蜜を混ぜた団子を食べるので、巣材の鮮度はあまり気にしないようです。
ハキリバチの幼虫がもし植物の葉を食べるのであれば、栄養価が低下した黄葉を母蜂は与えるはずがありません。
オトシブミの揺籃とハキリバチの巣材は目的が異なります。
廃道を更に進むと、もっと大きく育ったクロモジの灌木にもハキリバチの切り取り跡を大量に発見しました。
クロモジの中でもオオバクロモジのようです。
緑の葉の切り口が茶色く変色しているのは、切り抜かれてから日数が経った古い痕跡です。
オオバクロモジの隣に自生するタニウツギの葉にも切り取り跡が少し見つかりましたが、オオバクロモジの葉の方が巣材として圧倒的に好みなようです。
その理由を自分なりに考えてみました。
クロモジの葉を千切ると爽やかな芳香します。
良い匂いのする枝は、和菓子を食べる楊枝として加工されます。
枝や葉には芳香精油を含み、防虫・防腐効果もあると言われてます。
ハキリバチ♀もその薬効を知っていてオオバクロモジの葉を選好したのだとしたら、興味深い発見です。
クロモジの葉に包まれたハキリバチ育房の花粉団子はカビが生えにくかったりするのでしょうか?
女子力の高いアロマ好きのハキリバチ♀がいるのかな?
あるいは単に葉の厚みや触感によって好みがあるのかもしれません。
タニウツギのごわごわした葉よりもクロモジの薄い葉の方が、巣材として丸めたり加工したりしやすいのでしょう。
その場でしばらく待機しても、巣材集めのハキリバチ♀は通って来ず、残念でした。
複数個体(あるいは複数種?)のハキリバチ♀が巣材を集めた跡かもしれません。
葉切り痕@オオバクロモジ幼木・黄葉 |
葉切り痕@オオバクロモジ灌木 |
葉切り痕@オオバクロモジ+タニウツギ |
葉切り痕@オオバクロモジ+タニウツギ・全景 |
実は現場から少し低い地点で、トリアシショウマらしき葉にもハキリバチ♀のしわざを見つけました。(写真のみで動画なし)
ハキリバチの種類によって巣材の植物種がどのぐらい違うのか、調べたら面白そうです。
例えばバラハキリバチ♀はバラの葉を、クズハキリバチ♀はクズの葉を好んで集めますが、本当に好き嫌い(選り好み)が激しいのでしょうか?
葉切り痕@トリアシショウマ |