2023/02/10

オオバクロモジとタニウツギの葉をハキリバチ♀が大量にくり抜いた跡【フィールドサイン】

 



2022年9月上旬・午後13:40頃・くもり 

里山の斜面を登る細い山道が近年使われなくなって廃道になっています。 
野生動物の獣道になっているので、私だけが調査のためにときどき薮漕ぎしながら通っています。 
辺りは鬱蒼と茂った藪(若い二次林)なので日当たりが悪く、林床に生えたばかりのクロモジの幼木(実生。地上からの高さ約35cm)は早くも黄葉が始まっていました。 
その葉が集中的に丸くくり抜かれていました。 
これほどきれいな曲線でくり抜くのは幼虫(イモムシ類)の食痕ではなく、ハキリバチ科の仲間♀が巣材として葉片を集めた痕跡です。 
ハキリバチの種類によって営巣場所は違いますが、地面に巣穴を掘ったり樹洞や枝の虫食い穴を再利用したりします。 
ハキリバチ♀はその穴に葉片を詰め込んで育房を仕切る巣材とするのです。 
クロモジ幼木の上から下まで多くの葉が卵型に切り抜かれていました。 
切り口が変色してないので、比較的新しい葉切り痕のようです。 
ということは、切り抜かれた後で黄葉したのではなく、ハキリバチ♀は黄葉してから切り抜いたことになります。 
つまり、緑の葉も黄葉した葉もお構いなしにくり抜いたと推理できます。 
訪花する花弁の色をしっかり見分けられるハナバチが色盲のはずがありません。 
ハキリバチの幼虫は花粉と花蜜を混ぜた団子を食べるので、巣材の鮮度はあまり気にしないようです。 
ハキリバチの幼虫がもし植物の葉を食べるのであれば、栄養価が低下した黄葉を母蜂は与えるはずがありません。 
オトシブミの揺籃とハキリバチの巣材は目的が異なります。

廃道を更に進むと、もっと大きく育ったクロモジの灌木にもハキリバチの切り取り跡を大量に発見しました。 
クロモジの中でもオオバクロモジのようです。 
緑の葉の切り口が茶色く変色しているのは、切り抜かれてから日数が経った古い痕跡です。

オオバクロモジの隣に自生するタニウツギの葉にも切り取り跡が少し見つかりましたが、オオバクロモジの葉の方が巣材として圧倒的に好みなようです。 
その理由を自分なりに考えてみました。
クロモジの葉を千切ると爽やかな芳香します。 
良い匂いのする枝は、和菓子を食べる楊枝として加工されます。
枝や葉には芳香精油を含み、防虫・防腐効果もあると言われてます。 
ハキリバチ♀もその薬効を知っていてオオバクロモジの葉を選好したのだとしたら、興味深い発見です。 
クロモジの葉に包まれたハキリバチ育房の花粉団子はカビが生えにくかったりするのでしょうか?
女子力の高いアロマ好きのハキリバチ♀がいるのかな? 
あるいは単に葉の厚みや触感によって好みがあるのかもしれません。 
タニウツギのごわごわした葉よりもクロモジの薄い葉の方が、巣材として丸めたり加工したりしやすいのでしょう。 

その場でしばらく待機しても、巣材集めのハキリバチ♀は通って来ず、残念でした。 
複数個体(あるいは複数種?)のハキリバチ♀が巣材を集めた跡かもしれません。
葉切り痕@オオバクロモジ幼木・黄葉
葉切り痕@オオバクロモジ灌木
葉切り痕@オオバクロモジ+タニウツギ
葉切り痕@オオバクロモジ+タニウツギ・全景

実は現場から少し低い地点で、トリアシショウマらしき葉にもハキリバチ♀のしわざを見つけました。(写真のみで動画なし)
ハキリバチの種類によって巣材の植物種がどのぐらい違うのか、調べたら面白そうです。
例えばバラハキリバチ♀はバラの葉を、クズハキリバチ♀はクズの葉を好んで集めますが、本当に好き嫌い(選り好み)が激しいのでしょうか?

葉切り痕@トリアシショウマ


2023/02/09

夜道で起動したトレイルカメラに気づいて逃げるツキノワグマ【暗視映像】

 



2022年9月上旬・午後19:25・気温22℃ 

監視カメラを設置した里山のスギ林道に、ツキノワグマUrsus thibetanus)がある晩に右からノシノシと歩いて登場しました。 
今回も全身の毛皮に大量のひっつき虫が付着しています。 
山野の藪や獣道を通り抜ける際に動物散布型の草の種子が次々に付着して、遠くに運ぶことで種子散布に貢献しているのです。 
例えばニホンザルは群れの仲間同士で毛繕いに費やす時間が多いので、これほど多数のひっつき虫が付着している個体を見たことがありません。

通りかかったツキノワグマがカメラを見上げたと思ったら、急にスピードを上げて左へ走り去りました。 
意外と臆病な熊もいるようです。(性格の個体差?) 
起動したトレイルカメラが発するかすかなノイズを聞きつけたのか、それとも2個の赤外線LEDがうっすらと赤く光って(クマの可視光域?)怪物の目のように見えたのでしょうか? 
林道上にあるタヌキとアナグマの溜め糞場sには興味を示す暇もなく、駆け抜けました。 

ミズナラの樹液酒場にてスジクワガタ♂とモンキアシナガヤセバエそれぞれの占有行動

 



2022年9月上旬・午後14:30頃・くもり 

里山の急斜面に立つミズナラ古木の苔むした樹皮から滲み出る樹液酒場で2匹のスジクワガタ♂(Dorcus striatipennis striatipennis)が吸汁していました。 
初め私は、大型の♀に小型の♂が交尾しようとしているのかと思いました。 
あるいは、小型の♂が大型の♀の傍らで配偶者ガードしているようにも見えます。 
ところが、動画撮影後に採集してみると、2匹とも♂でした。 
つまり、大型の♂が樹液酒場でベストな位置を占拠して、劣位の小型♂が樹液のあまり出ないポイントに甘んじていた(順番待ち?)のだと判明しました。 
2匹のスジクワガタ♂が平和に並んでいるように見えましたが、樹液をめぐる争いの決着が既についた後だったようです。

他には見慣れない細長い体型のハエ2匹もミズナラの樹液酒場に来ていました。 
スジクワガタ♂の横で遠慮がちに樹液を舐めています。 
白い口吻を伸縮させる動きが蛆虫の蠕動のように見えました。 
長い脚の腿節の途中にオレンジ色の部分が目立ちます。 
樹液に集まる昆虫ハンドブック』で調べると、翅に黒紋が無いので、ホシアシナガヤセバエではなくモンキアシナガヤセバエNerius femoratus)と判明。
あまり研究対象にされることのない昆虫であり、くわしい資料がほとんどない。(p66より引用)
とのこと。 
2匹の体格が異なるのは性差とは限らず、幼虫時代の栄養状態が成虫のサイズを左右するのだそうです。 
しばらくするとモンキアシナガヤセバエ2匹が樹液酒場から少し横に離れた位置で互いに向き合い、背伸びして何やら面白そうな誇示行動(ディスプレイ)を始めました。 
せっかく興味深い行動なのに、このとき疲労困憊していた私は気づかずに撮影を打ち切ってしまいました。 
やがて1匹は離れて行ったので、ライバル♂を樹液酒場から追い払ったようです。
つまり、♀♂間の求愛誇示ではなく、樹液をめぐる♂同士の闘争誇示だったようです。 
英語版wikipediaでNeriidae(アシナガヤセバエ科)の項目を読むと、♂同士の闘争誇示など興味深い行動が解説されていました。 
次に機会があれば、じっくり観察してみたいものです。

他には微小のハエ(種名不詳)も多数群がっていました。 
ショウジョウバエにしては色が黒っぽいです。 

スジクワガタ♂を接写するために私が樹液酒場に近づくと、警戒したモンキアシナガヤセバエは樹液酒場から少し逃げて避難しました。

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