2022/11/14

野ネズミに川の洪水を予知する第六感があるか?【トレイルカメラ:暗視映像】

 

2022年8月上旬 

獣道になっている川沿いのコンクリート護岸をトレイルカメラで監視していると、集中豪雨による川の増水前後に常連の野ネズミ(ノネズミ)が登場しました。 

シーン1:8/3・午前3:47 
コンクリートブロックが敷き詰められた護岸を野ネズミが右へ(下流方向へ)移動しています。 
短い登場なので、1/3倍速のスローモーションでリプレイ。 

その日の晩から停滞する線状降水帯によって激しい大雨が降り続き、川の水位が急上昇しました。 
増水した川の水がコンクリート護岸を越えてあわや河川敷に氾濫する前に、水位が下がり始めました。 

大災害を予知したネズミが大群で一斉に逃げ出すという有名な都市伝説があります。 
しかしこの映像を見る限り、野ネズミは決してパニック状態ではなく、単独個体がいつものようにゆっくりと餌を探し歩いていました。 
大雨や川の洪水を予測して逃げ出したようには見えません。 


シーン2:8/6・午前2:01 
川の増水がすっかり引いた3日後、野ネズミが再び監視カメラに写りました。 
護岸スロープを元気に駆け上がり、河畔林に向かいました。 
水害があっても難を逃れて無事だったようで一安心。 


野ネズミなど野生動物に川の洪水を予知する第六感があるのでしょうか? 
オカルト嫌いの私は個人的に懐疑派ですが、この1例だけでは実証したことにはなりません。
今回の増水は堤防が決壊するほどではありませんでしたし、野ネズミが生息する河川敷や河畔林まで氾濫することもありませんでした。
それを予知した野ネズミが、「慌てて避難するまでもない」と判断したかもしれないからです。
川沿いや河畔林のあちこちに多数のトレイルカメラを設置して増水の前後で野ネズミの動向を調べないといけません。 
日本全国津々浦々でトレイルカメラを使った調査がもっと盛んになれば、自ずとデータが蓄積されてくるはずです。 
結局のところ「大山鳴動して鼠一匹」という結果になるかもしれません。

地球温暖化の進行で近年は甚大な水害が頻発するようになりました。 
洪水が発生する度に川沿いの生き物たちへの影響を丹念に調べれば、「撹乱の生態学」になりそうです。 
私は未だ全然勉強不足ですけど、野生動物や水鳥は生息流域の環境が自然災害で大きく撹乱されても意外と逞しく生きている印象を受けつつあります。 
流域に暮らすヒトを守るために最近の川は治水工事でガチガチに護岸したり、河畔林の伐採が進行しており、むしろ人為的な撹乱の方が野生動物へ悪影響を与えている気がします。 

山中の池でトレイルカメラが捉えたオニヤンマ♀の産卵

 

2022年7月下旬・午後14:35頃・晴れ
前回の記事:▶ 山中の池でトレイルカメラが捉えたオニヤンマ♂の縄張り巡回飛翔

山中の泉をトレイルカメラ(無人センサーカメラ)で監視していると、オニヤンマAnotogaster sieboldii)が飛来しました。 
池の上空を低く飛んでから、池の奥の端でホバリングしながら腹端を水面にチョンチョンと2回ひたしました。 
てっきりいつもの♂による縄張り占有飛翔かと思いきや、今回は♀の単独打泥産卵でした。
その後は奥に見える林道を左へ飛び去りました。 

オニヤンマ♀が産卵した地点は、湧き水が溜まった池から流れ出る水路になっています(沢の源流)。 
その浅い水底に卵を産み付けたようです。
▼関連記事(11、13年前の撮影) 
オニヤンマ♀の挿泥飛翔産卵 
オニヤンマ♀の連続打水産卵
せっかくオニヤンマ♀が珍しく水場に飛来したのに、いつもは縄張りをパトロールしている♂が肝心なときに不在でした。 
オニヤンマ♂が♀に飛びかかって交尾を始める決定的瞬間が撮れるチャンスだったのに、残念です。 
オニヤンマ♀♂は交尾後に尾繋がりにならない(連結飛翔しない)ので、♀は単独で産卵しないといけません。 
そのとき♂に見つかると再び交尾を迫られて、貴重な産卵時間を無駄にしてしまいます。 
しつこい♂のハラスメントを回避するために、オニヤンマ♀は♂が居ない隙を狙って素早く産卵するようになったのでしょう。



2022/11/13

沢の源流で水を飲み排尿する夏毛のホンドテン♂(キテン)

 

2022年8月上旬・午後14:10頃・晴れ 

山中の湧き水が溜まっている泉で私がオタマジャクシの定点観察をしたり、池畔に設置したトレイルカメラの電池を交換したりと、独り静かに長時間作業していると、意外な珍客が現れました。 
野生のホンドテンMartes melampus melampus)です。 
いわゆるキテン(黄貂)と呼ばれる夏毛の個体でした。 

スルスルと崖を降りて、池から流れ出る小川の右岸まで来ると、首を伸ばして水面に口を付け、冷たい流水を飲み始めました。 
途中で私を見上げても、逃げたり恐れたりする素振りが全く無くて、無邪気な様子でした。

次にホンドテンは草むらをかき分けて水路に入ると、下流を向いてチョロチョロと小便を排泄しました。 
テンが水洗トイレで用を足すとは知らず、衝撃を受けました。 
飲み水となる水場を汚染しないように、ちゃんと池から流れ出る水路に小便しています。
他の多くの哺乳類のように、尿で匂い付けマーキングしないのは不思議です。 
テンは肉食獣ですから(厳密には雑食性)、獲物となる小動物に尿の匂いで自分の存在を知られたくないのかもしれません。 
テンは尿ではなく糞で縄張りのマーキングを行うのでしょう。
▼関連記事(2ヶ月前の撮影) 
ホンドテンの糞を舐めて吸汁するイチモンジチョウとニクバエ
野生動物のフィールドサインに関する書籍を読むと、テンの糞のことはサインポストとして有名でも尿については何も書いていません。

排尿を済ませたホンドテンは、林道へと歩き去りました。 
ミゾソバなどの下草がテンの目線より高く生い茂っている林道を、長い胴体でピョコピョコ飛び跳ねるように走ります。 
名残惜しい私は、テンが立ち止まってくれないかと(テンの気を引こうと)撮影しながら舌を鳴らしてみたのですが、全く無視されました。 
後ろ姿で尾を上げたときに股間に白毛で覆われた睾丸が見えたので、どうやら♂のようです。 
林道を横断すると、スギ植林地の斜面を下って谷へ降りて行きました。 

動画の最後に、水場の全景を記録しておきます。 
湧き水(地下水)の溜まった池から流れ出る小川が蛇行しながら林道を横断し、杉林の斜面を下る沢の源流となっています。 

トレイルカメラを池畔に設置し直す直前だったので、ホンドテンの出没シーンを別アングルの映像で撮れてないのが残念です。 
それでも、この夏一番嬉しい野生動物との出会いでした。 

ヒトを全く恐れないということは、生まれてから一度もヒトを見たことがないウブな個体なのかな? 
平凡社『日本動物大百科1:哺乳類I』の記述を読むと、今回私はとんでもなく幸運だったようです。
 テンはきわめて神経質な動物で、観察者の衣服のこすれる音にも敏感に反応する。日中に人前に姿を見せることはあまりないため、完全な夜行性と思われがちである。野生のツシマテンに電波発信機を装着させたテレメトリー調査により1日の活動を追跡すると、森の中では日中でもかなり活動していることがわかった。(p138より引用)
この日の私の出で立ちは、本格的な迷彩服ではないものの、目立たない服装が奏功したようです。 
 テンは夏の間は動物食が強く、小鳥やネズミ、リスやムササビなどを襲っている。いわば毎日「命のやりとり」をしているわけだから、警戒心も強くてなかなか姿を見ることもできない。 (熊谷さとし『動物の足跡学入門 ‐形とつき方から推理する‐』p164より引用)
もしかすると、それまで水場で私が作業する様子をテンが崖の上からじっと見ていて、人畜無害だと判断してくれたのかもしれません。 
あるいは暑い夏に喉の渇きを我慢し切れずに水場にやって来たのでしょうか? 

この水場を監視するトレイルカメラに以前記録されていた謎の獣の正体は、アナグマではなくホンドテンだったのかもしれません。
関連記事(1月前の撮影)▶ 夜霧が立ち込める山中の池に現れた謎の野生動物!【トレイルカメラ:暗視映像】



【追記】

今回の個体が小川で排尿したのは、私が見ていたせいで草むらに隠れて用を足しただけかもしれません。 

一般的な排泄行動なのかどうか、もっと観察例を増やさないといけませんね。


つづく→深夜の水場で排便する夏毛のホンドテン【トレイルカメラ:暗視映像】

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