2014年7月中旬
タバコを栽培している畑でクロマルハナバチ(Bombus ignitus)のワーカー♀が訪花していました。
漏斗状の花筒の外に止まると、根元を食い破って穿孔盗蜜しています。
雄しべに全く触れず、花の受粉に寄与しないため、後脚の花粉籠は空荷です。
さてタバコは南米原産の栽培植物ですが、日本でタバコを正当訪花する送粉者は誰なのでしょうか?
舌の長いトラマルハナバチでも奥の蜜腺に届かないような気がします。
非常に長い口吻を持つスズメガ科が夜に訪花するのかな?と予想してみました。
現地ではハチドリや、タバコの害虫として悪名高いタバコスズメガが送粉者の役割を担っていそうです(害虫ではなく持ちつ持たれつの共進化なのかも?)が、日本には生息していません。
【追記】
タバコがニコチンという有毒物質(神経毒)を根で合成して葉や花、花蜜に貯めこむのは草食動物(昆虫)による食害を防いだり盗蜜者を排除するためと考えられているそうです。
だとすれば、今回クロマルハナバチ♀が平気で盗蜜していたのは定説に反するかもしれません。
クロマルハナバチは進化でニコチン耐性を獲得しつつあるのでしょうか?
それとも、このタバコは花弁のニコチン含有量が少ない品種なのかな?
【参考サイト】
「Unpredictability of nectar nicotine promotes outcrossing by hummingbirds in Nicotiana attenuata」というとても興味深い論文を日本語で解説してあるブログ(花蜜に含まれる毒の効果)を見つけました。
【追記2】
今村寿明『化学で勝負する生物たち―アレロパシーの世界〈1〉』によると、
ニコチン(葉の1〜9%)は(タバコスズメガの)他の昆虫にはたいてい、毒作用がある。0.001〜4g/kgで中毒、死。 (p33より引用)
2014年7月上旬
▼前回の記事
寄生されたマイマイガ(蛾)前蛹cが繭から脱出【微速度撮影】
前日に紡いだ繭からなぜか脱出したマイマイガ(Lymantria dispar japonica)前蛹cはプラスチック容器内を徘徊し始めました。
幼虫時代とは異なり体を波打たせる動きがぎこちなく、正常に前進できません。
脚の握力が失われているのか、垂直壁面を登れなくなっていました(紙箱でもプラスチック容器でも)。
そのため脱走する恐れは無さそうです。
飼育部屋で蚊取り線香はもちろん焚いていませんので、殺虫剤による神経症状ではありません。
前蛹として変態が進み、運動能力が奪われつつあるのでしょうか?(筋肉細胞や運動神経の細胞死など)
紙箱の隅でようやく落ち着きました。
しかし再び繭を紡ぎ始めることはありませんでした。
ひょっとすると空腹なのかな?
もし食草を与えたら食べたでしょうか?
無秩序な徘徊を続けても繭の中に自力で戻る気配はありません。
実はこの個体cは寄生バエ(ヤドリバエの仲間?)に体内寄生されていることが後に判明します。
マイマイガの内分泌系(脱皮変態ホルモン)が撹乱されていて、もはや脱皮できないようです。
筋肉や運動神経を食い荒らされてもがき苦しんでいる断末魔の状態なのかもしれません。
放送大学特別講義『ヤドリバエの世界』によれば、ヤドリバエの幼虫は寄主体内の細胞性免疫応答をかわすために神経節や絹糸腺に潜り込む例が知られているらしい。
今回観察した一連の異常行動がヤドリバエによる寄主操作だったら面白いですね。
水平に置いた容器を真上から見下ろすように撮りました。
採寸のため一円玉を並べて置いています。
▼つづく
マイマイガ(蛾)前蛹cから脱出するヤドリバエの終齢幼虫【微速度撮影】
2014年7月上旬
郊外の住宅地で民家の屋根のTVアンテナおよび庭木(針葉樹)の梢に2羽のモズ(Lanius bucephalus)が止まって鳴き交わしていました。
映像で嘴の動きと鳴き声が一致しているので(リップシンクロ)、この個体の鳴き声に間違いありません。
テリトリーを接する♂同士が縄張り争いをしているのでしょうか?
番(つがい)のペアなのかな?
曇り空を背景に逆光なので百舌鳥のシルエットしか分からず、少しでも改善するために自動色調補正を施してあります。
特に、右の木のてっぺんにいる個体の性別が分かりにくく、もどかしいです。
(こちらもたぶん♂だと思います。)
実はこの直前、同じ町内の電線に止まっていたモズ♂の姿を見ています。
▼関連記事
電線から飛ぶモズ♂(野鳥)
個体識別できていませんが、片方はそれと同一個体かもしれません。
長い尾羽を上下しながらキチキチキチ♪と鋭い鳴き声を応酬するだけで、直接的な闘争行動には至りません。
知らず知らず巣に近づいてしまった私に対する警戒声なのかな?
(住宅地で通行人に対していちいち警戒していたら大変そうです。)
巣立ったばかりの幼鳥が縄張りに残っている可能性は?
「モズの高鳴き」と表現される行動が秋にあるそうなのですが、季節が違いますかね?
言い換えれば、今回観察した映像に「モズの高鳴き」とタイトルを付けるのは季節外れでしょうか?
秋から冬にかけてモズの行動を自分の目で観察できていないので、未だ色々と勉強不足です。
最後はTVアンテナに止まっていた個体が左の方に飛び去りました。
逃げたということは、他人の縄張りに来た侵入者だったのかもしれません。
主に鳴いていたのは左の個体@アンテナだったので、意外でした。
梢に残った個体は勝ち誇ったようにしばらく鳴き続けています。
『雪国動物記:第12章:モズのテリトリー』p134-135によると、
モズのテリトリーの境界には必ず緩衝地帯がある。お互いにその緩衝地帯をおかすことがほとんどない。ひとたびテリトリーが確立すれば、その後はほとんど境界あらそいをおこさず、お互いに自分の領地に安んじてせいかつできるのはそういう緩衝地帯のおかげであろう。
縄張り争いするモズ♂の競り鳴きを声紋解析してみる
やや遠いかもしれませんが、いつものようにオリジナルのMTS動画ファイルから音声をWAVファイルにデコードし、適当に一部を切り取ってからスペクトログラムを描いてみました。
【追記】
山岸哲 編『鳥類生態学入門―観察と研究のしかた』によると、
モズの争い行動は、定住独身♂や放浪独身♂といった独身♂とつがい♂との間に最も多く、両隣つがいとの争いはごくまれにしか起こらない。(中略)モズのつがい♂は、ある空間を防衛するというより、独身♂から産卵前の♀を防衛しており、これを配偶者防衛行動と呼ぶ。 (p54-55より引用)