2012/11/07

ニホンカモシカと山道ですれ違う。



2012年8月上旬

山道の休憩所(東屋)で休んでいると、一頭の野生ニホンカモシカ(Capricornis crispus)が向こうからゆっくり坂を登って来ました。
こちらには気づいていない様子。
立ったまま何度か足踏みして蹄で音を立てています。
採食のため、道から逸れて潅木の茂みに入り姿が見えなくなりました。

ところがすぐに潅木をかき分けて再び山道へ現れました。
休憩所のすぐ横を通り過ぎる途中で立ち止まりました。
私の存在に全く気づいていないのか、単に気にしていないのか分かりません。
ここは禁猟区なので、ヒトを恐れないのかもしれません。
これほど至近距離で野生のカモシカに遭遇したのは初めてでした。

(その後、同じ山系で更に最接近記録を更新します。映像公開予定)
角の長い成獣です。
慣れた人なら角輪を数えることで年齢推定が可能かもしれません。
カモシカがおそろしく近眼であることを再認識しました。

立ち止まって口で右の脇腹を噛むように毛繕いを始めました。
右後脚を上げた姿勢で痒いところを噛んでいるようです。(毛皮を舐めている?)

ゆっくりと立ち去る後ろ姿を撮影していると、私がうっかり枯葉を踏んで物音を立ててしまいました。
これをカモシカが聞きつけてフリーズ!
すぐにまた歩き出したものの、警戒してやや早足になりました。
ただし、フシュフシュ♪と鼻息で威嚇音を発することはありませんでした。
いまいち歩行がスムーズでない気がしたのですけど、夏バテで衰弱していたのでしょうか。※
いかにも毛皮が暑そうです。

こちらを振り返りながらそのまま尾根道を下って行きます。
立ち止まって再び妙な姿勢で毛繕いすると、山道を外れ茂みに姿を消しました。
後を追って急行するも、パキパキと枝が折れる音がするだけで見失いました。


野生のカモシカもヒトが作った山道を歩く方が楽なようです。

※ 追記
中公新書『カモシカ物語』p34によると、
カモシカには人間のように暑い時に汗を出して体温の調節をはかる汗腺がない。自分の体温の調節は呼吸量で行うのである。






2012/11/06

クロアゲハ♀蛹の蠕動と鳴き声



クロアゲハの飼育記録:その10

2012年8月上旬・室温26℃

緑色の帯蛹は絹糸で枝に固定されているので逃げられません。
指で触れると、ギュッ♪と音を発しながら身を捩って暴れます。

一応これでも寄生蜂などに対する防御戦略なのでしょう。


つづく。
4日後にいよいよ成虫♀が羽化します。

お楽しみに!

側面

背面

腹面

ヤマジガバチの労働寄生#12:対決のスロー映像総集編



2012年7月下旬

観察中に巣穴をめぐって2匹のジガバチが喧嘩(ニアミス)したシーンをスローモーション(1/5倍速)でまとめてみました。
明らかな格闘になったのは初めの1回だけでした。
個体識別で明らかになったことの一つとして、喧嘩しても毎回勝つのは巣で作業していた蜂で、先住効果があるようです。

動物行動学の分野では、縄張り争いや捕食の際、先にその場にいた個体が闘争に勝ちやすいという例が多くの動物で報告されています(「先住者効果」といわれる現象です)。『カブトムシとクワガタの最新科学』p43より


前半は巣の持ち主(寄主♀H白)が勝ち、後半は巣を奪った労働寄生♀P水が勝ちました(巣の防衛に成功)。
スロー再生しても動きが速すぎて襲撃者の正体が不明なことも多かったです。
巣の乗っ取り(または奪還)を企む♀なのか、交尾目当ての♂を毎回♀が拒否したのか、見分けられませんでした。
カメラが2台あれば、小競り合いになりそうなときにハイスピード動画で撮りたかったです。



ジガバチの営巣活動を通して全部観る前に今回、労働寄生(托卵)という特殊な例に遭遇してしまいました。
例えば、狩りの瞬間および獲物をジガバチが巣穴に搬入するシーンを未だ観察していません。
登場した寄主♀と寄生♀の2匹を現場で個体標識できたのは我ながらファインプレーで、何が起きているのか明確になりました。
ただ漫然と見ているだけだったらきっと「巣の主が貯食後に錯乱して掘り返した?」などと解釈に頭を抱えていたことでしょう。
蜂をマーキングする手技を習得していたのがようやく役立ちました♪(自画自賛)
道具を揃え何回か練習すれば誰でも(子供でも素人でも)出来ることで、特に難しいことではありません。

シリーズ完。

9月上旬(37日後)に営巣地を再訪してみました。

羽化脱出した跡は無い…と思うのですがどうでしょう。
やっぱり発掘調査してみればよかったかなー?

【追記】
『日本動物大百科10昆虫Ⅲ』p45によれば
アナバチ類には、多数の♀が小地域にかたまって集団で巣をつくる習性がある。
このことが労働寄生を始める契機になったと思われます。


【追記2】
遠藤知二『すれちがいの生態学:キオビベッコウと小道の虫たち』という面白い本を読みました。
クモバチ科のキオビベッコウも同種内で労働寄生(托卵)を頻繁に行うそうです。
昼間に獲物のクモを狩ってきたキオビベッコウ♀は夕方から穴掘り、貯食、産卵、埋め戻し(偽装)をするそうです。
穴掘り中に同種間で獲物の盗み合いがよく起こるらしい。
ジガバチとは異なり興味深いのは、翌朝になるとキオビベッコウ♀の行動パターンががらりと変わる点です。
営巣地で別の♀が産卵した巣穴を探索して労働寄生(托卵)を始めるらしい。
フィールドで蜂に個体識別のマーキングを施して調べています。
とぼけた挿絵の児童書だと侮ることなかれ。
私が知る限り、単独性狩蜂の労働寄生をテーマにした日本で初めての本です。
クモと狩蜂の生態学を書いた三部作の完結編ということで、まとめて一冊の本にして頂けるよう熱望します。(前二作は『まちぼうけの生態学』、『おいかけっこの生態学』)


37日後(9月上旬)

観察当日(7月下旬)。右端の穴が巣坑

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