2009年6月下旬
キアシナガバチ(Polistes rothneyi)の創設女王が初期巣の近くにある茂みに止まったので何をしているのかと思ったら、アワフキムシ幼虫が作った泡を舐めているようでした。
甘露みたいなものでしょうか。
実はアワフキムシの泡の主成分は尿(排泄物)なのですけど、我が愛しの女王様にそっちの趣味もあったとは・・・。
≪追記≫
「アワフキムシ幼虫は植物の道管(糖分を含まない)から吸汁するため、排泄液の泡はアブラムシのような甘露にはならない」と蜂類情報交換BBSにて教えて頂きました。
泡には界面活性剤の他、繊維状のタンパク質も含まれることから、アシナガバチが巣材として集めた可能性も考えられるそうです。
あるいは水分補給なのかもしれません。
『日本動物大百科8昆虫Ⅰ』p136によれば、
(アワフキムシ類の)幼虫がつくる泡の素材は排泄液(尿)由来のアンモニアと腹部第7節、第8節にあるバテリ(Batelli)腺から分泌されるロウ脂質由来の脂肪酸とのアンモニア塩の鹸化物で、腹部を伸縮させて空気を送り込み排泄液中の水分とともに泡立て、繊維状タンパク質を混ぜて強度を高めている。
つづく→シリーズ#12
▼関連記事(7年後に撮影)
2009年6月下旬
前年とは異なり、今季のキアシナガバチ(Polistes rothneyi)創設女王は軒下に一つしか巣を作っていません。
珍しくもう一匹のアシナガバチが軒下に飛来しました。
在巣の女王(無印)が即座に迎撃。
空中戦の様子は激しい動きと逆光でうまく撮れず。
すぐ帰巣した女王は無印のままなので、無事に追い払ったのだろう。
巣を乗っ取られた創設女王(銀色に標識)が奪還しに来て返り討ちに合ったのだろうか。
この問題に決着をつけるにはDNA鑑定で女王と初ワーカーの血縁関係を調べる他無いでしょう。
一時捕獲した蜂から足先を切って生体試料(biopsy)とすれば良さそうですけど…。
つづく→シリーズ#11
2009年6月下旬
この日は強風が吹き荒れ、軒下の巣が揺れていました(残念ながら映像無し)。
巣に乗っていたキアシナガバチ(Polistes rothneyi)創設女王も異変に気づき、耐震構造に不安を感じたようです。
直ちに巣柄の補強を始めました。
根元の付着点を中心に頻りに舐めて唾液を塗り付けています。
続いて腹部下面を巣柄に繰り返し擦り付け、アリ避け物質を念入りに塗布しています。
一週間ぶりに観察したのだが、創設女王に施した個体識別のマーキング(銀色)がまたもや無くなっていてショック。
考えられる可能性は二つ。
- 単純に塗料が剥げ落ちた。プロのアシナガバチ研究者がフィールドで使っているのと同じ銘柄の油性ペンに切り替えたばかりなので考え難いのだが・・・。
- 創設女王(銀色)とは別の個体(無印)による巣の乗っ取り。この日、軒下に飛来した別のアシナガバチ(標識不明)を在巣の女王(無印)が迎撃し追い払うシーンを目撃しています(次のエピソード10参照)。最も発達の進んだ中央部の育房で繭の上に産みつけられていた卵が見当たらない点も気がかり。乗っ取り後に食卵されたのだろうか。乗っ取りが起こると、卵や若齢幼虫は全て食べられてしまうが、蛹や老熟幼虫は残され血縁関係の無い新女王の奴隷として仕えることになります(労働寄生)。
定点観察の空白期間が悔やまれます。
早急に女王を再標識しなければなりません。
予想外の事態でこの日はマーキングの準備をしていませんでした。
つづく→シリーズ#10