2011/04/09

キアシナガバチ創設女王による二巣並行営巣の謎




2010年5月下旬 くもり
ここ数日、雨天が続き気温が低い。


軒下でキアシナガバチ(Polistes rothneyi)創設女王による二巣並行営巣が順調に続いています。
この日の女王(水色で個体標識)はメインの初期巣S9(育房数22室)にずっと居座ってました。


育房内に蜜滴が貯蔵されています。
近くに咲いているタニウツギの花から集めてきたのだろう。
雨天が続いても外出することなく女王が栄養補給できます。


巣盤の天井部が穴だらけでスカスカなのがどうも気になります。
並行営巣が負担となり、巣材をケチって手抜き工事しているのだろうか。
※『蜂は職人・デザイナー』 p61より引用
「アシナガバチやスズメバチの巣を透かしてみると、針で刺したように小さな穴が無数に開いている。それらの穴は巣内でうごめく幼虫や成虫の体から出される炭酸ガスや余分な湿気を巣外へ送り出すとともに、外の新鮮な空気をたえず供給する通気孔の役目を果たしている。しかし、空気の対流を許すほどの隙間ではないから、一度とらえた熱は外へ逃げずに壁の中に蓄えられるのである。」


(本題はここから。)
約30cm離れた隣のサテライト巣S10も育房数11室まで大きくなっていました。


更に隣の二区画にも作りかけの巣柄S11、S12があることに最近気づきました。
巣柄がいつから作られていたか不明です。
巣柄が捩れているのは強度を増すための工夫だろうか?

連続した4区画の同じ位置に営巣を試みた痕跡があるのは不思議です。


仮説1:複数の創設女王と初期巣の乗っ取り
木造家屋の軒下は幅30cmの区画を単位とした単調な繰り返し構造になっています。
連続する区画内の全く同じ位置(板の隙間)に巣柄が作られていることが分かります。
2年前(2008年)の並行営巣でも同じ現象が見られました。
(関連記事→「複数の巣を同時に営むキアシナガバチ創設女王」)
このことは謎を解く上で重要なヒントだと思います。
仮に平行移動するとぴったり重なりそうな相同位置に巣柄がある(同一直線上に等間隔で並んでいる)のはとても偶然とは考え難いです。
今は一匹の女王しか居なくても、初めは複数の女王バチが独立に創巣した後に闘争で乗っ取りや追い出しが行われたのでしょうか。
実際、2年前に二匹のキアシナガバチ創設女王が軒下の初期巣で喧嘩していました。
(関連記事→「キアシナガバチ創設女王の喧嘩」)
しかし、このシナリオで営巣地が相同位置に連続して偶然選ばれる確率は極めて低いと思われます。


仮説2:天敵対策
単独営巣期は女王が留守の間に天敵に襲われ巣が全滅する恐れがあります。
いかに早く長女のワーカーを育て上げるかのスピード勝負です。
天敵対策として保険のために創設女王が(意図的に)サテライト巣を作るようになったとの解釈はどうでしょう。
実際にその後の経過は、巣S9が寄生蛾(マダラトガリホソガの仲間)の攻撃を受けて崩壊したものの、隣のサテライト巣S10はコロニー解散まで活動を全うしました。
しかし私には結果論のように思えます。
天敵対策説ではサテライト巣の位置関係(軒下の連続区画で相同位置)を説明できません。
前年2009年のキアシナガバチ創設女王は軒下に一つの巣だけを作り、後に天敵ヒメスズメバチの激しい攻撃を受け、為す術がありませんでした(新女王となる蛹を多数失った)。
今季は定点観察で詳細なセルマップ(全育房で発育状態を記録)を地道に作る余力がなかったので、二巣並行営巣に伴う損得勘定(女王のコストと次世代の生存率)は定量化できていません。


仮説3:空間記憶のミス(迷子)で生じた産物
女王が巣材を集めて帰ってくる際に軒下で元の巣にうまく戻れるとは限らず、しばらくはS9〜12の区画に毎回ランダムに着陸した結果、同時並行に巣作りが進んだと思われます。
後に、個体標識したワーカーW紫が巣材を集めて帰巣する際に巣S9/S10どちらに着陸するか迷うような素振りを示したのを観察しています。
(関連記事はこちら→「キアシナガバチの巣材集め」)


カリバチの♀が帰巣時に迷子になる行動はこれまでエントツドロバチ(@軒下)、ヒメベッコウ(@コンクリート土台の縦溝)でも観察しています。
(関連記事はこちら→
帰る泥巣が見つからないエントツドロバチ♀」、
巣の位置を忘れ帰巣に苦労するヒメベッコウ」、
クモ運搬で迷子になったヒメベッコウ・後編」)
いずれのケースでも人工的な繰り返し構造に営巣している点が共通しています。


二巣並行営巣は複合的な理由で始まったのかもしれないので、以上の仮説1~3は互いに排他的なものではありません。
今のところ仮説3が私のお気に入りですので、これについて更にしつこく考察を続けます。
(つづく…?)


【追記】
当地が雪国で営巣期が短い(春が遅い)ことも要因となっているかもしれません。
ツンドラ地方で短い夏に繁殖するミユビシギという鳥が同時に二巣で繁殖を行うのは危険を避けるためと考えられている。繁殖に失敗したら、二度と巣を作る時間的余裕がないためである。(『カルガモ親子はなぜ引っ越す』p151より)


最初の巣では♂が抱卵と育雛を、次の巣では♀が抱卵と育雛を行う。(wikipediaより)

2011/04/02

オオカマキリの交尾#2:結合部のクローズアップ



2006年10月中旬

交尾器の結合部を観察するとオオカマキリ♀(Tenodera aridifolia)の生殖口に♂が精包(精子や粘液を含んだ白いカプセル)を注入しています(矢印)。
所要時間は約3時間半。
悪名高き性的共食い行動は今回起こらず、交尾後♂は無事に生還しました。
離脱の瞬間は見逃しました。


この♀は16日後に再び産卵しました。


【追記】
上村佳孝『昆虫の交尾は、味わい深い…。 (岩波科学ライブラリー)』によれば、
カマキリの交尾姿勢はバッタと同じく、「♂が上のように見えて、じつは交尾器は♀が上」というパターンだ。 オオカマキリ♂の交尾器は複数のパーツからなり、左右非対称である。(中略)♂は常に♀の右側から交尾を挑み、この左右非対称な交尾器パーツの分業によって、♀の産卵管を素早くこじ開けて交尾を開始するそうだ。 (p27より引用)

オオカマキリの交尾#1:恋の逃避行



2006年10月中旬

飼育中のオオカマキリ♀(Tenodera aridifolia)が一回目に産卵した翌日、外で捕獲した♂を同じ飼育ケースに入れてやりました(婿入り)。
隙を見て♀の背中に飛び乗った♂は細い腹部をJ字に曲げて交尾を試みます。
迫られた♀は狭い飼育ケース内では体勢が悪いのか、♂を背負ったまま落ち着ける場所を探し回ります。
移動の途中で結合が外れてしまいます(矢印)。
焦って追いすがる♂の必死さ加減が見所です。
ようやく枝の先にぶら下がって静止しました。
背後からしがみ付く♂の全体重も♀が支えます。


(つづく→#2:結合部のクローズアップ

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