2020/04/25

ヤマグワの樹皮を産卵加工するキボシカミキリ♀



2019年10月下旬・午後16:10〜16:40(日の入り時刻は午後16:41)


▼前回の記事
寄主ヤマグワに飛来したキボシカミキリ♂の探雌行動

寄主植物であるヤマグワの木に集まってきたキボシカミキリPsacothea hilaris hilaris)の♀は何をしているのでしょう?
口元を接写すると、固い桑の樹皮を大顎で一心不乱に齧っています。
齧った樹皮を餌として食べて(飲み込んで)いるのか、という点を知りたいのですけど、接写してもよく分かりませんでした。
接写のための補助照明として白色LED(外付けストロボに付属)を点灯しても特に行動への影響はなさそうでした。

平凡社『世界大百科事典』でキボシカミキリを調べると、

成虫は5月ごろから出現し,イチジク,クワ類の葉を食し,また,これらの木の樹皮をかじって傷をつけ,その中に産卵管をさし入れて1個ずつ卵を産みつける。

このようにカミキリムシ♀が樹皮を齧る行動を正式な専門用語で「産卵加工」と言うらしいのですが、私を含め何も知らない素人には「産卵した後に卵を加工するのか?」という誤解を生む気がします。
例えば「産卵前加工」とか「産卵基質加工」と呼ぶのが適切ではないかと思うのですが、長年業界で使われてきた用語を変更するのは難しいのでしょう。

深谷緑『キボシカミキリの配偶行動と生態情報利用、体サイズ』によると、

キボシカミキリ♀は、樹皮に顎で穴を開け(産卵加工)、この穴に1卵ずつ丁寧に卵を産んでいく。 (『カミキリムシの生態』第5章p175より引用)

そもそもカミキリムシ♀がどうして産卵加工をするかと言うと、

寄主植物にはカミキリムシ幼虫を体内に住まわせるメリットは何もないから、カミキリムシ側の一方的な侵略に対して寄主植物側は有害な樹液を滲出させるなど何らかのディフェンスを行う。このディフェンスから卵を保護する手段の一つが産卵加工だ。 (同書・第3章p101より引用)

この解説は新鮮でした。
樹液(忌避物質)を局部的に枯渇させたり堰き止めたりする目的なのだとしたら、一部のイモムシなどが摂食行動の前にやるトレンチ行動と似てますね。

キボシカミキリ♀が産卵加工の重労働に励んでいる間、♂がぴったり付き添っています。
複数ペアを撮影したのですが、体格は♀>♂で、触角の長さは♀<♂でした。
多くの場合、♂は♀の背後から覆いかぶさるようにマウントしているものの、交尾器は結合していません。
♀の背で前後逆あるいは斜めにマウントしている♂もいました。(定位の問題)
♂の触角は直線状で長いのに対して、♀の触角は緩やかに弧を描くように曲がっていました。


カミキリムシでは、♂が父性を確保するために、交尾後も長時間♀から離れず、産卵中もマウントを続ける、いわゆるpair-bondingを行う。(同書・第7章p259より引用)

長時間かかる産卵加工の一部始終を微速度撮影したかったのですが、日が暮れて暗くなってしまいました。
残念ながら赤外線カメラ(暗視カメラ)など夜間の撮影の準備をしてこなかったので、肝心の産卵シーンも今後の宿題です。


つづく→




川面で羽繕いするオオバン(野鳥)



2019年11月下旬・午後16:25頃


▼前回の記事
オオバン(野鳥):警戒心の個体差

岸から川に入ったオオバンFulica atra)が水面で羽繕いを始めました。

化粧が済むと、川面に浮いているオナガガモ♀♂(Anas acuta)の群れの間を縫うようにオオバン単独で進んで行きます。
水中で掻く弁足の動きが見えました。
体のかなり後方に足がついていることが分かります。
その弁足を水中で懸命に掻きながら首を前後に振って前進します。
途中で再び羽繕いしました。

つづく→川面で近くのオオバンを攻撃するオナガガモ♂(冬の野鳥)




2020/04/24

キタキチョウの側面日光浴



2019年10月下旬・午後13:40頃・晴れ

川沿いのコンクリート堤防でキタキチョウEurema mandarina)が翅を閉じたまま休息していました。
てっきりコンクリートを舐めてミネラル摂取しているのかと思って私は撮り始めたのですが、キタキチョウは口吻を伸ばしていませんでした。
影を見ると、翅裏の右面を太陽にほぼ直角に向けていることが分かります。

実は3年前にも同じ姿勢で日光浴するキタキチョウを撮っていたのに、すっかり忘れていました。
キタキチョウは他の多くの蝶のように翅を開いて日光浴をしないのです。


▼関連記事
翅を閉じたまま日光浴するキタキチョウ


変温動物である昆虫の体温調節法についてバーンド・ハインリッチがまとめた名著『熱血昆虫記』を読み返すと、蝶の日光浴姿勢が4つに分類されていました。(第5章p71〜76)
挿絵が分かりやすいので見比べると、今回のキタキチョウは側面日光浴するタイプでした。

モンキチョウ(Colias eurytheme)は側面日光浴を行なう。閉じられた翅は片側に傾けられ、広い側面を太陽にあてるのだ。 (p75より引用)
※ 厳密には日本産のモンキチョウ(Colias erate)とは別種なので、「モンキチョウの仲間」と訳すべきでしょう。


私は未だ実際に観察できていないのですけど、他には例えばコツバメやミヤマカラスシジミが側面日光浴するそうです。

早春に出るコツバメは)体温を上げるため羽を太陽光に直角になるよう傾けてとまる。 (中嶋正人『写蝶のたのしみ』口絵(4)より引用)



かなり古い本ですが、保育社『原色日本昆虫生態図鑑IIIチョウ編』を紐解いて、成虫の日光浴についての解説を読むと、

寒冷地や高山の蝶、晩秋から早春にかけての低温時に出現する蝶、あるいは、夏の蝶でも朝と夕方は日光浴といわれる行動をとることになる。これは、気温の上昇だけを待っていたのでは活動時間が短くなるため、太陽の輻射熱を吸収して体温をあげるためにとる行動である。事実、昆虫の体温は輻射温度(盛夏時であれば気温より10℃以上高い)にほぼ近いことが確かめられている。(中略)体温調節の方法は、おもに日光に対する静止方向の変化と翅の開度変化による日光を受ける面積に調節である。(中略)ミヤマカラスシジミやコツバメは翅を閉じたまま体を傾けて日光を受けるおもしろい習性をもっている。(p94より引用)


キタキチョウは晩秋までしぶとく活動していますから、側面日光浴で体温を上げる必要があるのでしょう。

赤外線レーザーを使った非接触式の温度計を手に入れたので、機会があれば日光浴中の蝶の体温を測ってみるのも面白そうです。

本当はサーモグラフィカメラで動画に撮りたいのですけど、高嶺の花です。



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