2023/08/21

雪国のホンドタヌキが黒い粘着ビニールテープを誤食【トレイルカメラ:暗視映像】タヌキとゴミ問題

 

2023年1月中旬

雪深い里山のスギ林道にある溜め糞場sに通ってくるホンドタヌキNyctereutes viverrinus)をトレイルカメラで監視していると、身近なゴミ問題について考えさせられる事件が起こりました。 


シーン1:1/13・午前0:35・気温2℃ 
深夜に雪道を歩いて来たタヌキが手前の死角に消えてから再び現れ、左に立ち去りました。
凍結した雪面が荒れているのは、スギ樹上からの落雪によって爆撃を受けたようなクレーターが並んでいるからです。 
しばらくすると、左から「フサ尾」のタヌキが戻って来ました。 

黒くて細長い物を口に咥え、引きずっています。 
越冬中のヘビを見つけて捕食したのか?と初め私は驚きました。 
しかし、タヌキが雪を少し掘っただけで見つかるような浅い場所でヘビが冬眠するはずがありません。 
タヌキは林道で立ち止まると、雪面に謎の獲物?を置きました。 
左の前脚で押さえ付けながらヘビ?をクチャクチャと噛み、食い千切って食べ始めました。 
ヘビは変温動物ですから、こんな低温下では逃げることも反撃することもできません。 

次にトレイルカメラが起動したときには、タヌキはなぜか食べかけの黒蛇?を雪上に残したまま、辺りをウロウロしていました。 
最後は雪道を右に立ち去りました。 


シーン2:1/13・午後23:42・気温3℃・(@1:33〜) 
23時間5分後の深夜にタヌキが再登場。 
低温でカメラの起動が遅れ、画面の右端を右に歩き去るタヌキの尻尾がちらっと写っただけでした。(赤い矢印➔に注目) 

前夜に運んできた黒ヘビの死骸?が雪面に残されたままなのに、タヌキはもはや全く興味を示しませんでした。 

さて、この謎の黒くて細長い物体は何だったのでしょう? 
この後、大雪が積もって埋もれてしまいます。 


2023年3月下旬 

春に現場入りすると、スギ林道の残雪の上に黒くて細長い謎の物体が再び現れていました。 
タヌキが放置する様子が動画に写っていた、まさにその地点です。 
ヘビの死骸ではなく、黒い粘着性ビニールテープの切れ端でした。 
このゴミには見覚えがあり、捨てた犯人は私でした。
もちろん私はゴミを意図的にポイ捨てしたりしません。 

15cm定規を並べた写真


言い訳になりますが、自戒を込めて経緯を説明します。 
トレイルカメラを立木に固定する際に、悪戯・盗難防止のためにワイヤーロックを掛けます。
雨水で濡れただけならステンレス製の鍵穴が錆びることはありません。
しかし、鍵穴が凍ってしまうと鍵が差し込めなくなり大変です。
昨年まさにこの現場で起きた苦い経験なのですが、ワイヤーロックの鍵穴に雪が詰まって凍結し、春まで解錠できなくなってしまいました。
現場で鍵穴にお湯をかければ溶けるかもしれませんが、その日の晩にまた凍ってしまうでしょう。

その対策として、今年はまず鍵穴を下に向けて雨や雪が入りにくいようにしました。 
天から降ってくる雨雪だけでなく、樹上から滴り落ちる雪解け水も鍵穴を濡らす原因となります。 
次に粘着性のビニールテープをグルグル巻いて鍵穴を塞ぎます。 


それでも不安な雪山では、更にアルミホイルやビニール袋で鍵全体を覆って完全防水にします。 
これで鍵穴が凍結する恐れはなくなりましたが、毎回解錠する前に厳重なカバー(包装)を剥がすのが少し面倒です。
剥がしたゴミが風に飛ばされないうちに、しっかり拾って持ち帰らないといけません。 
素手ならウェストポーチのポケットのチャックを開けて拾ったゴミを入れる作業をノールックでも簡単にできます。(何回も繰り返し、手慣れた作業です) 
厳冬期は手袋をはめて作業するので、どうしても手先の感覚が鈍くなります。 
ノールックでゴミをポケットに入れたつもりなのに、手元が狂って粘着テープのゴミを知らず知らず落としてしまったようです。 
あるいはウェストポーチのチャックを閉め忘れてゴミを落としてしまったのかもしれません。 

記録を遡ると、私が現場で黒ビニールテープをうっかり捨ててしまった翌日の夜に空腹のタヌキが拾い食いしたことになります。 
ビニールテープに私の体臭がわずかに残っていたのか、匂いで餌と誤認したようです。 

もちろんタヌキがビニールテープ(の切れ端)を食べても消化されませんし、栄養価はありません。 
糞と一緒に正常に排泄されればよいのですが、消化されない大量のプラスチックごみが消化管に詰まってしまったり、ゴミに含まれる有害な化学物質を摂取したりする悪影響が懸念されています。 

タヌキの溜め糞場で糞分析をしたり、解剖で死体の胃内容物調査をしたりすると、ヒトが捨てたゴミをタヌキがよく誤食していることが分かるそうです。
本を読んで知っていましたが、実際に私も後日、河畔林の溜め糞場wnで大量の輪ゴムやビニール片を含んだタヌキの糞を見つけています。(別の記事で写真を公開予定) 
ヒトの生活域に近いところで暮らす個体は餌の多くをヒトの残飯に依存しているために、ゴミを誤食するリスクが高まります。

この事件で反省した私は、ゴミ袋を常に持ち歩くようになりました。
野外で自分が捨てたゴミに限らず、フィールドで見つけたゴミをなるべく拾って帰るようになりました。
実は日本の田舎は、河原も野山も農地もゴミだらけです。
誰かに褒められたくてゴミ拾いを始めた訳ではなくて、野生動物のゴミ誤食問題が深刻だと痛感したからです。
ゴミ問題のせいで野生動物が健康を害して数を減らし、観察できなくなると私も困ります。
フィールドで生き物の写真や動画を撮ると、汚らしいゴミが写り込んでいることが多くて、作品が台無しですし、気が滅入ります。
ゴミ拾いも完璧主義だと疲れて長続きしませんから、やれる範囲で細々と続けていくつもりです。
たとえば金属製の空き缶よりも、プラスチックやビニール製のゴミを優先して拾っています。
プラスチック類は何年放置されても自然に分解されずに残るのが問題です。
誰かが丹念に拾い集めて適切に分別処理しなければ、いつまで経ってもフィールドからプラスチックごみは無くなりません。
大量消費されるプラスチック類を生分解性のものに早く切り替えて欲しいものです。
それから、日本は過剰包装や過剰サービスによるプラスチックごみが深刻です。
最近ストローをプラスチックから紙に切り替えた飲食店の是非が話題になりますが、そもそもボトルやコップ、グラスに口を付けて直接飲めば済むので私はストローを必要としません。
過剰包装を槍玉に上げましたけど、そもそも今回のタヌキ誤食事件は、私がワイヤーロックの鍵穴を(必要に迫られて)過剰包装したことが原因なので、皮肉なものです。




2023/08/20

雪山のスギ林道でトレイルカメラを固定したスギの幹に眼下腺マーキングするようになったニホンカモシカ【暗視映像】

 



2023年1月中旬〜下旬〜2月上旬 

厳冬期に雪深い里山のスギ林道に通うニホンカモシカCapricornis crispus)の記録をまとめました。 

シーン1:1/19・午前3:21・気温-4℃・(@0:00〜) 
未明に左から現れたカモシカが林道を横切り、カメラの方へ近づいてきます。 
画面手前の死角で立ち止まると、何かを擦り付ける物音が聞こえます。(@0:17〜) 
※ 冒頭だけ動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。 

どうやら、カメラを固定したスギの幹にニホンカモシカが顔を擦り付けて眼下腺マーキングしてるようです。 
(カモシカが死角に消えた間は5倍速の早回し。) 
しばらくすると、画面の下端から再登場したカモシカが林道を右へゆっくり立ち去りました。 
ちなみに、タヌキが持ってきた黒いビニールテープが林道の凍った雪面に残されたままです。

この辺りを縄張りとする複数個体のカモシカがこれまで代わる代わるマーキングしていた道端のスギ落枝が雪の下に完全に埋もれてしまったので、林道を挟んでちょうど反対側に立つスギの幹に眼下腺マーキングする対象物を変更したのです。 
ヒトの登山者が雪山で埋もれた道標を掘り出すように、お気に入りのマーキング用スギ落枝をカモシカが雪の下から掘り出したら面白いのですが、そこまで執着せずに臨機応変に対応しました。
1頭が新たな場所に眼下腺マーキングするようになれば、次に来た個体も匂いで気づき、それに対抗して自分もそこに眼下腺マーキングするようになるのでしょう。 




シーン2:1/21・午後12:39・気温-3℃・(@0:44〜) 
2日後の明るい昼過ぎにカモシカが再登場。 
大雪が積もった後で、林道上に放置された黒いビニールテープは完全に埋もれて見えなくなりました。 
左下手前の死角でスギの幹に眼下腺からの分泌物を擦り付けてマーキングしてる物音♪がかすかに聞こえます。(@0:48〜) 

足跡を見るとカモシカは右から登場したはずなのに、カメラの起動が遅れています。 
気温が氷点下のせいで電池の電圧が低下している上に、カモシカ毛皮の断熱性が高くてセンサーが体温を検知できなかったのでしょうか? 


シーン3:2/2・午前3:37・気温-3℃・(@0:56〜) 
12日後の未明にまたカモシカが現れました。 
雪が降りしきる中、奥の斜面を登ってきたカモシカが林道を渡って手前へ来ました。 
新雪に残るカモシカの足跡は、それほど深くありません。 

積雪量が増すと、トレイルカメラの位置が林道の雪面に対して相対的に低くなります。 
カモシカはトレイルカメラの匂いを嗅ぐと、いつものようにスギの幹にゴリゴリ♪と眼下腺マーキング。 
カメラに近過ぎですけど、なかなか迫力のある映像が撮れました。 
カメラでゴリゴリと角研ぎされたら大変ですが、壊されずに済んでよかったです。


シーン4:2/5・午前6:43・気温-4℃・(@1:34〜) 
 3日後、日の出直後の明るい早朝にカモシカが前回と同じルートで登場。 
(日の出時刻は午前6:37:46。) 
今回もトレイルカメラに興味を示しました。 
顔のアップで見ると、カモシカの睫毛が長いことが分かります。 
カメラに鼻息を吹きかけた際に、口内の下顎の白い歯が一瞬見えました。 
今回はスギの幹に顔を擦り付ける物音がしなかったので、匂いを嗅いだだけで眼下腺マーキングしなかった様子。 

林道を左に立ち去ったのではなく、どうやら法面を登って行ったようです。 
雪道にカモシカの蹄跡が残りました。

後日、逆方向から杉の木を狙うようにトレイルカメラの設置場所を変更し、カモシカの眼下腺マーキング行動をしっかり撮影できるようになりました。(映像公開予定)



跳んで逃げるオオカマキリの幼虫

 

2022年7月下旬・午後12:45頃・晴れ 

低山の細い山道を登っていると、ススキの葉の上にオオカマキリTenodera sinensis)の幼虫が乗っていました。 
左右の鎌を揃えて前に構え、獲物を待ち伏せしているようです。 
武器となる鎌をときどき口で舐め、手入れを怠りません。

横を向いたオオカマキリ幼虫の目線の先を追うと、左隣のススキの葉にいつの間にかトンボが止まっていました。 
アキアカネSympetrum frequens)の未熟♀のようです。 
急に飛び立つと、すぐにまた同じススキの葉に舞い戻りました。 
1/5倍速のスローモーションでリプレイしてみると、アキアカネ♀は急に上空を見上げてから飛び立っていました。 
上空を飛来した昆虫を狩ろうと緊急発進したようです。 
しかし、着陸したアキアカネ♀は口に獲物を咥えておらず、狩りは失敗だったようです。 
オオカマキリの幼虫はトンボが離着陸する動きに無反応でした。 
獲物としては大き過ぎますし、遠くて鎌が届く射程距離ではありません。 

私がカメラをマクロモードに切り替えてレンズを近づけると、オオカマキリ幼虫は慌ててススキの葉を伝って逃げ、隣の葉へピョンと跳び移りました。 
ススキの葉身をどんどん登り、逃げる場所がなくなりました。 
指でそっと腹端に触れると、驚いたオオカマキリ幼虫は躊躇なく地面に跳び下りました。 
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。 
カマキリの成虫ならジャンプしながら羽ばたいて、遠くまで飛び去ることが可能です。 
不完全変態のカマキリ幼虫は成虫に体型がそっくりでも翅が未だありません(無翅)。 
カマキリの幼虫は体重が軽いので、高所から落ちても平気です(体にダメージが無い)。 
地上で見失ってしまい、カマキリ幼虫の逃避行動は成功です。 

関連記事(13年前の撮影)▶ オオカマキリ幼虫

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