2012/11/21

オオシロフクモバチ♀の営巣(中編)獲物搬入、巣坑閉鎖と寄生ハエ



2012年8月中旬

前編の記事はこちら


クモバチ科の蜂はふつう獲物を狩った後で巣穴を準備します(造巣先行型)。

このオオシロフクモバチ♀(旧名オオシロフベッコウ;Episyron arrogansは巣穴を掘る前に狩ったクモをどこか近くに隠していたようです。
毒針で麻痺させられた獲物は緑色の造網性クモで、後にサツマノミダマシ♀成体(コガネグモ科)と判明。
蜂が獲物を咥えて後ろ向きにイネ科の草葉を登って行きます。
そのまま巣へと滑空するのかと思いきや、違いました。
草葉の二股部分に獲物を挟み込んで、落ちないように保管しています。
掘坑作業中に獲物をアリに奪われないための知恵と思われます。
辺りにアリが多いため、念のため保管場所を変更したのでしょう。
以前、オオモンクロクモバチ♀でも同様の習性を観察しました。

参考記事→「オオモンクロベッコウのアリ対策
帰巣した蜂は、穴掘りを再開。
またすぐにすごい速さで飛び回り、自分で隠した獲物を必死で探し回っています。

(もしかすると、寄生ハエの追跡を振り払おうと逃げ回っているのかもしれません。)
蜂が獲物を取りに戻りました。
クモの歩脚の根元を大顎で咥えて保管場所の草葉から地面に下ろすと、後ろ向きに引きずりながら巣の方へ運び始めました。
と思いきや、再び別の草の茎を登り、すぐ飛び降りました。
天敵のアリ対策で神経質になっているのか、こまめに保管場所を変えるようです。







帰巣していた蜂が巣穴の点検を終えると、地面に置かれた獲物を取りに戻りました。
後ろ向きに引きずって、ようやく獲物を巣に搬入します。
いつの間にか寄生ハエ♀(ヤドリニクバエの仲間)が数匹現れ、巣穴横に置いた一円玉の上で待ち伏せしています。@1:50
蜂が独房に貯食している間に素早く幼虫を産仔(さんし)しました。
寄生ハエは産卵ではなく、体内で孵化した幼虫を産出するのです。
独房内で方向転換した蜂が巣口に顔を出すと、寄生ハエは素早く逃げました。
蜂がいったん外に出て方向転換すると、今度は後ろ向きに入巣しました。
中の様子は見えませんが、獲物のクモの体表に産卵していると思われます。
この隙に寄生ハエ♀が再び現れ、巣口でまんまと幼虫産出。
アリもやって来ましたが、これはオオシロフクモバチ♀が追い払いました。





産卵の次は巣坑の閉鎖です。
斜坑に後ろ向きに入った蜂が(巣口を向いて)土砂を中に掻き入れ始めました。
腹端を上下に高速振動させて巣坑を突き固める独特の整地行動が見られます。

作業の合間に顔や触角を拭い、身繕い。





【寄生ハエについて】
今回、寄生ハエは採集できず、写真に撮っただけです。
数日前に同じ営巣地でジガバチにしつこくつきまとっていた
シロオビギンガクヤドリニクバエ♀と同種と思われます
関連記事はこちら

だとすると、シロオビギンガクヤドリニクバエ幼虫(蛆虫)が食べて育つ餌は鱗翅目の幼虫(ジガバチの貯食物)でもクモ(クモバチの貯食物)でも選り好みしないということになります。
産仔された蛆虫は斜坑内で生き埋めにされても自力で這って獲物まで辿り着くのでしょうか?


前回はジガバチ♀が力仕事の際に発する鳴き声に誘引されて寄生ハエが集まったのではないかという可能性を考えました。
一方、オオシロフクモバチは穴掘り作業中にジージー♪鳴いたりしません。
にも関わらず、寄生ハエが絶妙のタイミングで集まって来ました。
ジガバチの営巣地に張り込みしていたら偶然クモバチが営巣を始めたのでしょうか?
聴覚以外の手がかりで寄主の巣穴に誘引されるのでしょうか?
それとも視覚で直接寄主の蜂を見つけ、営巣地まで追跡するのでしょうか?

巣穴の横の小石で待機




平凡社『日本動物大百科10昆虫Ⅲ』p34に「ベッコウバチ対ヤドリニクバエ」と題したコラムが掲載されています。

  • オオシロフクモバチの巣穴によく来るハエは、巣穴探索タイプで、関西ではヤドリニクバエ亜科のタイワンヤドリニクバエとミナミヤドリニクバエが知られている。
  • ハエの幼虫たちは、獲物のクモはもちろん、クモに産み付けられているベッコウバチの卵も食べてしまう。
  • ハエの存在を感知すると、ベッコウバチはアンテナをぴんと伸ばし、長いときは10分も凍ったように静止する。
  • 穴掘りの早い段階でハエに気づいた場合はあっさり巣を放棄して別の場所で再営巣を試みる。(狩りをしてから営巣するベッコウバチの気楽さ)
  • 穴掘りがかなり進行してからハエに気づいた場合はなぜか巣場所の変更などの寄生回避行動がみられない傾向がある。



後編につづく。

【参考動画】
クモを狩るハチ オオシロフベッコウ(154秒)」


今回見逃した狩りのシーンをNHKが公式に提供する資料映像でご覧下さい。
オオシロフベッコウ(オオシロフクモバチの旧名)♀がジョロウグモおよびナガコガネグモを狙っています。



【参考文献】
無料PDF
遠藤彰. "オオシロフベッコウバチとタイワンヤドリニクバエの寄主-寄生関係." 日本生態学会誌 30.2 (1980): 117-132.



オオシロフクモバチ♀の営巣(前編)巣坑掘り



2012年8月中旬

ジガバチの営巣地で見張っていると、オオシロフクモバチ♀(旧名オオシロフベッコウ。Episyron arrogans
)がやって来て裸地を徘徊し始めました。
狩りを除く営巣活動の一部始終を観察できたので連載します。
前回の観察が予習になりました。


蜂が地面に巣穴を掘り始めました。
巣口から脚で乾いた土砂を後方に勢い良く掻き出します。
斜坑はすぐに深くなり、蜂の姿が見えなくなりました。
小石は咥えて後ろ向きに運び出すと歩いて近くに捨てました。
外で触角を拭って一息つくと、作業再開。




小石を咥え後ろ向きに運んで捨てる



穴掘りの合間に巣坑近くの草に乗って休んでいます。@4:42



帰巣すると、中から大きめの小石を掘り出して外に捨てました。
アリが近づくと警戒するものの、ジガバチ♀ほど喧嘩腰ではありません。
斜坑の外に捨てたサラサラの土砂でスロープ(盛り土)ができました。
ようやく独房が完成したようで、どこかへ飛び去りました。
戻って来た蜂が巣坑を点検してからまた外出しました。
巣穴の横に1円玉を置いて採寸。


巣口と1円玉

営巣地の全景
中編につづく。

【追記】
『日本動物大百科10昆虫Ⅲ』p28によると、
大型種のオオシロフベッコウは、ハシリグモなどを狩り、あしの一部を大顎でつかんで後ろ向きに地面を引きずりながら、野ネズミの巣穴などの空間に引き入れる。次に、十数cmの地下のところで自ら浅い巣を掘ってクモを埋め、その腹に卵を1個産みつける。このように、ベッコウバチの多くの種の巣作りは1獲物1育房性である。

2012/11/20

オオフタオビドロバチがエントツドロバチの泥巣に不法侵入



2012年8月上旬

エントツドロバチOrancistrocerus drewseni
が休憩所の軒下に作った初期巣を定点観察していると、オオフタオビドロバチ♀Anterhynchium flavomarginatum)が飛来し、煙突状の入り口から躊躇なく侵入しました。
中に泥巣の主が居たのか、すぐに追い出されました。
(ツルツルに磨かれた煙突内で単に脚を滑らせて落下しただけかも?)
オオフタオビドロバチも借坑性なので、営巣地を物色している♀はとにかく「穴があったら入りたい」ようです。
ドロバチの異種間で泥巣の乗っ取りが観察されれば面白かったのですが、未遂に終わりました。





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