2010/12/29
クロオオアリ女王の結婚飛行
2010年6月上旬
道端で羽をもつ女王アリが何匹も徘徊していました。
結婚飛行のため巣から出てきたところなのでしょうか。
草の葉に登ってから飛び立つもののお腹が重そうで、どうやらあまり長距離は飛べないようです。
♂アリの姿は見ませんでしたけど、後から追ってくるのだそうです。
交尾する様子もいつか観察してみたいものです。
二匹ほど採集して調べてみると、どうやらクロオオアリ(Camponotus japonicus)のようです。
≪参考図書≫
『カラーサイエンス4:クロオオアリ』 集英社
『科学のアルバム:アリの世界』 あかね書房
『アリの生態ふしぎの見聞録:60年の研究が解き明かすアリの素顔』技術評論社 p6, 210
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飛翔
スギノアカネトラカミキリの交尾
2010年6月上旬
野外で見つけたときはあれほど激しく交尾を拒んでいたのに、採集したスギノアカネトラカミキリ(Anaglyptus subfasciatus)の♀♂ペアは飼育下では何事も無かったかのように交尾していました。
断続的に何度も交尾を繰り返します。
交尾器の結合部を接写してみました。
♂生殖器の伸縮が見られます。
仲良き事は美しき哉。
♂がときどき前後逆にマウントするのもご愛嬌。
交尾を観察できて気が済んだので、撮影後は外に逃してやりました。
【追記】
『日本動物大百科10昆虫Ⅲ』p146によると、
カミキリムシの配偶行動全体を見ると、♂が分泌する性フェロモンによる♀の飛翔接近と、♀が分泌する性フェロモンによる♂の♀への近接距離からの歩行接近と交尾、という2つのプロセスからなっていることがわかる。後者には視覚刺激と接触刺激も関与している。
【追記2】
岩淵喜久男『カミキリムシの行動とフェロモン』によると、
最近、ブドウトラカミキリの雄性フェロモン成分の類縁化合物が、スギノアカネトラカミキリ(など)で、雌誘引性の雄性フェロモンとして相ついで見つけられた。 (『虫たちがいて、ぼくがいた:昆虫と甲殻類の行動』第1-2章p29より引用)
【追記3】
何気なくスギノアカネトラカミキリの学名「Anaglyptus subfasciatus」で文献検索(Google Scholar)してみると、本種の♂が分泌する揮発性の性フェロモンが同定されていることを知りました。
スギ林業に対する大害虫なので、防除の必要に迫られて、世界中の農学部などで化学生態学の研究が進んでいるようです。
Leal, Walter S., et al. "Structure, stereochemistry, and thermal isomerization of the male sex pheromone of the longhorn beetle Anaglyptus subfasciatus." Proceedings of the National Academy of Sciences 92.4 (1995): 1038-1042.全文PDFが無料で公開されているのでありがたく入手。
苦手な有機化学の部分はすっ飛ばして行動学に関する部分を斜め読みしただけでも、色々と勉強になりました。
It has been shown that A. subfasciatus females are attracted to males in a wind tunnel and that a male-specific cuticular structure in the pronotum seems to be involved in pheromone secretion (3). We have confirmed that reproductive behavior in A. subfasciatus utilizes male-released sex pheromones, which are now fully characterized as 3-(R)-hydroxy-2-hexanone and 3-(R)-hydroxy-2-octanone.
【しぐま超訳】
スギノアカネトラカミキリ♀は風洞実験で♂に誘引されることが既に証明されていて、前胸背板にある♂特有のクチクラ構造がフェロモン分泌に関わることが示唆されてきた。我々はスギノアカネトラカミキリ♂が分泌する性フェロモンが配偶行動に関わることを確かめ、その実体が「3-(R)-ヒドロキシ-2-ヘキサノンおよび3-(R)-ヒドロキシ-2-オクタノン」と完全に同定した。
♀の性選択(交尾相手の選り好み)についても、興味深い議論がなされていました。
The ratio of semiochemicals in a pheromonal bouquet often plays an important role in chemical communication. By collecting airborne volatiles from A. subfasciatus males of different ages, we observed that the older the insects, the smaller the ratio of C6 to C8 ketols. Females are, therefore, presented with information concerning the age of a potential mate. Whether this information is taken into account as a basis for sexual selection is an intriguing question.
【しぐま超訳】
スギノアカネトラカミキリ♂は加齢(羽化後の性成熟)と共に、性フェロモンの揮発性混合物の中でC8ケトールに対するC6ケトールの比率が減る。したがって♀は求愛してきた♂の日齢を検知して性選択(交尾相手の選り好み)の判断基準としている可能性がある。私の観察例では、ここが重要なポイントかもしれません。
♀が♂に対して激しく交尾拒否していたのに、採集して容器にしばらく閉じ込めるとケロッとして交尾を受け入れた謎を解くヒントがこの辺りにありそうです。
それから余談ですが、スギノアカネトラカミキリ成虫が後食のために訪れる花の芳香が誘引性カイロモンとして働くことが知られているそうです。(合成性フェロモン剤と合わせて誘引トラップ開発への期待)
スギノアカネトラカミキリの交尾拒否
2010年6月上旬
地上で暴れている虫がいるので何事かと近づいてみると、カミキリムシの♂が交尾を激しく拒む♀に必死にしがみついていました。
交尾器は未だ結合していません。
体格に勝る♀は背後から執拗に迫る小柄な♂を脚で振り落とそうとしています。
何だか身につまされるようで笑ってしまいました。
私がこれまで見てきた虫の世界では♀に振られた♂は紳士的に諦めるのが常でした。
これほど激しい交尾拒否としつこい♂を見るのは初めてのような気がします。
これが彼らの求愛の儀式なのだろうか?
(嫌よ嫌よも好きのうち? じゃじゃ馬馴らし?)
カミキリムシの掲示板(K-Chat)で問い合わせたところ名前はスギノアカネトラカミキリ(Anaglyptus subfasciatus)とご教示頂きました。
杉などの害虫として知られているらしい。
確かにここは神社の境内なので、立派な杉の木が近くに生えていました。
撮影後にこのペアを採集して持ち帰ると、飼育下ではおとなしく熱い交尾を繰り返しました。
(つづく)
【追記】
宮竹貴久『恋するオスが進化する (メディアファクトリー新書)』p41によると、
カミキリムシの♂は、♀が近くにいることを揮発性のフェロモンで感知する。臭いをたどって♀の近くまでやってくると、今度は嗅覚よりも感知能力の低い視覚で、♀に似た色と形をした物体を探すのである。そして♀らしきものを見つけると、最後には触角で相手の体に触れる。体に付着しているコンタクトフェロモンを確認して、相手が自分の遺伝子を残してくれる♀であることを確認し、セックスのため♀の背中の必死にマウントを試みる。
【追記2】
深谷緑『キボシカミキリの配偶行動と生態情報利用、体サイズ』という文献を読んでいたら、興味深いことが書いてありました。
様々なカミキリムシにおいて♂のlicking(口髭で舐める行動)は♀を「なだめる」効果があるとされている。♀が♂の口髭による背面への接触を認識し、拒否的行動を止めるということである。このlicking行動は、♂が接触化学感覚子の密集した口髭で触って♀の体表のコンタクトフェロモン成分を能動的に受容する行動(active sensing)でもあると考えられる。 (岩淵喜久男 編『カミキリムシの生態』p162より引用)
今回の映像では2匹が激しく動き回るので♂のlicking行動をしっかり観察できませんが、♀がおとなしくなった時には確かに♂の口髭が♀の背中に触れていました。
それでもなぜ♀が交尾拒否行動を続けるのか、スギノアカネトラカミキリでは未解明の要因がありそうです。
昆虫の♀は体が小さい♂を好まないことが多い。カミキリムシにおいても同様である。キボシカミキリの♀は、♂をマウント時に蹴飛ばす、逃走するなど交尾拒否行動を示すことがある。 (同書p171より引用)
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