2025/01/08

ホンドタヌキの越冬用営巣地で野ネズミを狩ろうとする雪国のホンドギツネ【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2024年1月下旬

シーン1:1/22・午後14:17・くもり・気温21℃(@0:00〜) 
明るい日中にたまたま撮れた現場の状況です。 
根雪の積もった休耕地でホンドタヌキ♀♂(Nyctereutes viverrinus)が越冬する営巣地を自動撮影カメラで見張っています。 
巣穴の入口は少なくとも3つあり、そこからタヌキの足跡が雪面に残されています。 
今季は異常な暖冬で積雪量が少なく、雪が溶けて地面が一部露出しています。 

ホンドギツネVulpes vulpes japonica)の登場シーンを以下にまとめました。 


シーン1:1/24・午後18:12・降雪・気温-3℃(@0:03〜) 
2日後の雪が激しく降る晩に、キツネが新雪の雪原を右から左へ横切りました。 
画面の左端で立ち止まると、タヌキの営巣地を振り返りました。 
巣穴から漂う臭いや物音に気づいたのかな? 
雪が激しく降る日のタヌキは、日没後も巣穴Lから遠出しないですぐに帰巣したことが、雪面に残る足跡から読み取れます。 
キツネはタヌキの巣穴Lへ忍び寄り、雪面の足跡の匂いをじっくり嗅いでいます。 
巣口Lに顔を突っ込んで覗き込んだものの、中に無理やり押し入ることはありませんでした。 


シーン2:1/28・午前4:31・気温-1℃(@1:03〜) 
4日後の未明に、キツネが左からやって来ました。 
新雪の雪面には、約7時間前に通ったタヌキの足跡が、雪に埋もれかけています。 
キツネはタヌキの足跡に気づくと立ち止まり、匂いを嗅ぎました。 
うっかり「足跡を見つける」と書きそうになりましましたが、暗闇でキツネがどのぐらい見えているのか疑問です。
キツネは目のタペータムが発達していますから、雪明りだけでも夜目が効くのかもしれません。

キツネは雪原をショートカットしてタヌキの巣口Mに近づいたものの、横を素通りしました。 
巣口Mを通り過ぎたことに気づいたのか、雪面の匂いを嗅ぎながら、ゆっくり引き返してきました。 

最後にキツネは何か獲物の気配を雪の下に感じ取ったらしく、後足の筋力で高く飛び上がり、揃えた前足で獲物に襲いかかろうとしました。 
しかし、その結末(狩りの成否)を見届けることなく、無情にも1分間の録画が打ち切られてしまいました。
うーむ、残念無念…。 
監視カメラの録画時間を1分間から2分間に延長すべきかもしれません。 
まるでアクションの一番良い瞬間で静止画にして余韻を残したまま劇的に終わらせる「フリーズフレーム」(またはフリーズショット)という映画の手法のようです。 
1/3倍速のスローモーションでリプレイしてみると(@2:07〜)、意外にもキツネは後足を先に着地していました。 
着地の振動に驚いた野ネズミが雪の下から外に飛び出してくるのを期待して、次に前足と口で獲物を狩ろうとする作戦なのかもしれません。 



※ 動画の一部は編集時に自動色調補正を施しています。 


【考察】 
ホンドギツネはおそらく、ホンドタヌキの越冬用巣穴に居候する野ネズミの気配を雪の下に察知して、狩ろうとしたのでしょう。 
この休耕地にも野ネズミが出没することが既に分かっています。 

これまで私は山中または森の中にトレイルカメラを設置することが多く、写った野ネズミ(ノネズミ)アカネズミApodemus speciosus)またはヒメネズミApodemus argenteus)だろうとみなしてきました。 
しかし、この撮影地点は田畑に隣接する原っぱ(休耕地)なので、ハタネズミMicrotus montebelli)の可能性もありそうです。 
キツネの狩りの成功確率はわずか2~3割らしいので、成功シーンを撮影するには辛抱強く観察を続けるしかありません。

あるいは、巣内に籠もったタヌキの動きを察知したキツネが、獲物と誤認して反応してしまったのだとしたら、それはそれで面白い話です。 
「タヌキの奴らを驚かしてやろう」というキツネの悪戯心だったりして…。




つづく→

雪山のスギ林でニホンイノシシが掘り返した採食痕を見つけた!【フィールドサイン】

 

2024年1月下旬・午後13:10頃〜14:30頃・晴れ 

スノーシュー(西洋かんじき)を履いて雪山を探索していた私が下山中に、前方のスギ植林地の林縁から1頭のニホンイノシシSus scrofa leucomystax)が慌てて逃げ去りました。 
あっという間の出来事で、残念ながらその姿を証拠動画に残すことはできませんでした。 
GoProなどのアクションカメラを体に装着してドライブレコーダーのように山中で常時撮影していれば、一人称目線の証拠動画が撮れたはずなので、私も1台欲しくなります。



遅ればせながら動画を回し、イノシシが居た地点を現場検証してみましょう。 
雪で埋もれた林道の横に育ったスギの根元の雪や土が盛大に掘り返されていました。 
どうやら私が来るまでイノシシは採食行動をしていたようです。 
冬でも地中のミミズや虫を捕食したり、植物の根っこを食べたりして飢えを凌いでいるのでしょう。 
林床ならどこでも良いのではなく、スギの根元を重点的に掘り返していました。
雪かき穴掘りの重労働に対して摂取カロリーの収支が見合わない(コスパが悪い、エネルギー収支が赤字)気がするのですけど、秋に溜め込んだ脂肪で春まで乗り切れるかという問題になります。
あるいはもしかすると、寝るためのねぐらを作ろうと常緑樹の下で雪を掘っていたのかもしれません。 
イノシシの足跡を辿って周囲を調べて回ると、計3本のスギの根元が次々に掘り返されて土が露出していました。
これまでにも私は山中で同様のフィールドサイン(掘り返し跡)を見かけていましたが、今回はイノシシの仕業であるという確証があります。 
現場から逃げたイノシシは1頭しか見ていませんが、親子が行動を共にしていた可能性もあります。 



次は、逃げたニホンイノシシが雪面に残した足跡を辿ってみましょう。(アニマルトラッキング) 
穴掘りをした直後なので、雪面に残った蹄跡の一部が土で汚れています。 
しばらくは、歩きやすい林道を辿って麓へと向かっていました。 
林道の中央だけ雪が溶けて地面の落ち葉が露出していました。
イノシシがそこを歩くと足跡が残りません。
やがてイノシシの蹄跡は林道を外れて、雪の積もった急斜面を下っていました。 
さらにしつこく足跡を追跡しようか迷ったのですが、逃げたイノシシを下手に追い回すと二度と戻って来なくなってしまうだろうと判断して、追跡を打ち切りました。 



同一個体のイノシシが戻ってきてくれることを期待して、遭遇地点にトレイルカメラを設置することにしました。 
山中の別の地点(ニホンカモシカのねぐら)に設置してあるトレイルカメラを撤去して、急遽こちらに移しました。 
3箇所ある採食痕のうち、最大の穴を監視することにしました。 
イノシシの雪山での採食行動やねぐら入りの行動が撮れたら嬉しいです。 




山形県で一時期イノシシは絶滅していたのですが、再び戻ってきたようです。
多雪地帯でイノシシは冬を越せないだろうと言われていたのですけど、積雪がそれほど多くなければ、雪山でも自力で掘り返して採餌できることを確信しました。
今季は異常な暖冬で、積雪量が少ないです。
山形県では冬の豪雪がイノシシやシカの進出を阻んできたのに、このまま地球温暖化が進行すれば、イノシシの分布域はさらに北上し、当地でも越冬するイノシシの個体数が増えるはずです。
そうなれば、他の地域(暖地)と同様に農作物の食害が深刻になる、と予想できます。
このまま手をこまねいて温暖化を食い止めなければ、将来は獣害対策という形でも莫大なコストを払う羽目になりそうです。(しっぺ返し)



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2025/01/07

冬眠の合間に覚醒したニホンアナグマは巣外で歩行も覚束ない【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2024年1月下旬 

シーン0:1/22・午後13:46・くもり・気温20℃(@0:00〜) 
明るい日中にたまたま撮れた現場の状況です。 
雪が積もった平地の二次林でニホンアナグマMeles anakuma)が越冬する2つの巣穴を同時に1台の自動撮影カメラで監視しています。 
今季は異常な暖冬で積雪が少なく、まるで早春のように林床の地面があちこちで露出しています。 


シーン1:1/23・午後18:41・気温-1℃(@0:04〜)日の入り時刻は午後16:54。 
真っ暗な晩に、巣穴Rから外に出てきたばかりと思われるアナグマが広場の地面に居ました。
鼻面を上げて風の匂いを嗅いでから、辺りをゆっくり歩き始めました。 
この個体は左右の目の大きさに差がなく、ここで出産・育児した母親♀(右目<左目)ではなさそうです。 
林床の濡れた(凍った)落ち葉の匂いを嗅ぎながら、ゆっくり進みます。 
冷たい残雪の部分をわざわざ歩くことはありませんでした。 
巣口Lへ近づいたものの、中に入ったかどうか、見届ける前に録画が打ち切られました。 


シーン2:1/23・午後18:46(@1:04〜) 
4分後、巣外をうろつくアナグマが、いつの間にか巣口Rまで戻ってきていました。 
巣口Rを塞ぐように生えた細いマルバゴマキの灌木が邪魔で歩きにくそうです。 
その細い木をまるで綱渡りのように伝って渡ろうとしたら、滑って転んでしまいました。 
立ち上がるのも難儀しています。 
生まれたばかりの幼獣ならともかく、成獣のアナグマがこれほど歩行が覚束ない状態なのは夏には見られませんでした。 
冬眠で体力が消耗しているようです。 
空腹と寒さで凍えているのかな? 
擬人化すると、まるで泥酔状態か足が痺れている状態のように見えます。 

地面の匂いを嗅ぎながら、ゆっくり右へ向かっています。 


シーン3:1/23・午後18:56(@2:04〜) 
8分後、アナグマは巣口Rに戻ってきていました。 
巣口Rから伸びるマルバゴマキの細い落葉灌木の幹の匂いを嗅ぎ、前脚を掛けました。 
まだ寝ぼけているのか、2本の灌木の狭い隙間に、なぜか体をねじ込もうとしています。 
進路を遮る障害物を迂回するのも億劫なのでしょうか? 
灌木の根元の匂いを嗅いでいます。 


シーン4:1/23・午後19:03(@3:04〜) 
6分後に監視カメラが再び起動したときにも、アナグマは巣口Rでぼんやり佇んでいました。 
辺りをキョロキョロ見回しているだけです。 
動きがあまりにも緩慢なので、5倍速の早回し映像でお届けします。 


シーン5:1/23・午後19:05(@3:16〜)
巣口Rでじっとしているアナグマの上半身がヒクヒクと震えているのは、体温を上げるための不随意運動(シバリング)なのでしょうか? 
冬眠から覚醒したアナグマの体温がシバリングで急上昇しているのか、サーモグラフィカメラで撮影できたら面白そうです。 
別の可能性として、咳をしてるのかと思ったのですが、音量を上げても聞き取れませんでした。 
雪がちらつき始めました。 


シーン6:1/23・午後19:10(@3:28〜) 
アナグマがようやく少し移動したと思ったら、すぐに体勢を崩して巣口Rの窪みに滑落しそうになりました。 
なんとか不格好に体の向きを変えました。 


シーン7:1/23・午後19:15(@4:12〜) 
4分後、アナグマはいつの間にか、セットの右端まで移動していました。 
真っ直ぐ巣穴Rに向かい、ようやく巣内に潜り込みました。 
緩慢だった動きが少しスムーズになったようです。 
体温が充分に上がり、運動機能が少し回復したのでしょうか? 
ところが、巣口Rを塞ぐ細い灌木(一種の防犯装置?)が邪魔で、乗り越えて入巣Rするのにもたついています。 
気温の高い夏にはスムーズに入巣Rできていたはずなのに、これほど苦労するとは、何か運動障害や神経障害を疑いそうになります。

※ 動画の一部は編集時に自動色調補正を施しています。 


【考察】 
私の手違いで、動画を公開する順番を逆にしてしまいました。 
この後しばらくしてから(1時間半後)、アナグマは再び巣外に出てきて巣材集めをしたのです。 

私は野生のニホンアナグマの観察を始めて未だ1年目なので、今回見られた行動が普通なのかどうか判断できません。 
異常な暖冬がアナグマの冬眠・覚醒リズムに悪影響を与えている可能性もありそうです。 
 冬のニホンアナグマは、トーパーという低体温(心拍数も下げる)の冬眠状態から定期的に目覚めるのだそうです。 
ときどき巣外に出て新鮮な空気を吸ったり体を動かして血流を回復させたりしないと、組織が壊死したりエコノミークラス症候群のようになったりするのかもしれません。 
まるで足がジンジン痺れたヒトを見ているようだと思ったのは、あながち間違いではなさそうです。 
しかし、これほど動きが緩慢で歩行も覚束ないのでは、巣外で天敵(腹を空かせたキツネやイヌなどの捕食者)に襲われたら、素早く逃げたり自分の身を守るために戦ったりできないのではないか?と心配になります。 


私がバイブルとしている本、金子弥生『里山に暮らすアナグマたち:フィールドワーカーと野生動物』には、「アナグマたちの冬」と題した章があります。 
筆者が関東のアナグマで調べた結果によると、
・(飼育下でも)5ヶ月間微動だにせずに眠り続けたわけではなく、10日から2週間眠り続けてはときどき目を覚ます、という状態だった。 
・母親と当歳の子どもたちは、生まれ育った巣穴ではじめての冬を一緒に過ごして、穴ごもり後の冬を一緒に過ごして、穴ごもり後の春になってから離れていく 
・穴ごもりによる越冬は、アナグマ属のすべて行うわけではない。(中略)今の所、ロシア極東の個体群と日本の個体群が穴ごもりをするとされているが、日本国内どこでも穴ごもりをするのか、世界のほかの地域ではどうなのか、今後研究が必要である。 (p72〜73より引用)
抜粋したポイントの2つ目については、私が観察しているアナグマでは当てはまらない気がしています。 
個体識別がろくにできていないのですが、少なくとも母親の姿を越冬用巣穴で見ていません。 


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