2015/10/04

垂直円網に横糸を張るオニグモ幼体(蜘蛛)【6倍速映像】



2015年7月上旬・深夜23:28〜23:57

山麓のキャンプ場で夜中にログハウスの入り口の枠を利用して造網しているクモが居ました(戸口の幅は80cm)。
ちょうど垂直円網に粘着性の横糸を張っているところでした。
微速度撮影しようと慌てて三脚を立てている間にうっかり網を引っ掛けてしまい、円網の下部を壊してしまいました。
当然クモは驚いて逃げ、上の枠糸に避難しました。
しばらくすると、破れた箇所はそのまま構わずに続きの造網を再開してくれました。
約30分間(午後23:28〜23:57)長撮りした映像を6倍速に早回しした映像でご覧下さい。
室内の蛍光灯による照明が逆光になっていますが、そのおかげで糸が見えやすくなりました。
腹面をこちらに向けているクモは、反時計回りで円網の外側から中央に向かって螺旋状の横糸を張り進めます。

造網中に偶然、小さな羽虫が作りかけの円網上部にかかりました。(@0:50)
クモは造網作業を中断して直ちに駆けつけましたが、結局この獲物は捕食しなかったようです。
元の場所から横糸張りを再開するかと思いきや、獲物の近くからそれまでと逆回り(時計回り)に横糸を張り始めました。(@1:06)
中断したせいで造網のペースが乱れたようです。
しばらくすると自分の過ちに気づいたのか、途中で折り返して反時計回りに戻りました。

その後、通行人の振動に警戒したクモは造網作業を中断して網の上部に逃げました。(@2:23)
ほとぼりが冷めると戻って来て、元の位置から横糸張りを再開。

横糸を張り終えると、放射状の縦糸が集中した中央のこしきで糸を噛み破り丸い穴を開けました。
垂直円網の完成後は甑で下向きに占座。
甑の高さは地上から200cm、円網の直径45cmでした。

完成したばかりの網の右下にかかった獲物を捕らえると甑に戻り捕食しました。
獲物はおそらく蚊だと思います。
(映像はここまで。)

その後もしばらく観察していると、飛来した小蛾が網にかかりそうになったときにクモはなぜか網を揺すって獲物を弾き飛ばしました。
動画に撮れず残念。
獲物として蛾は嫌いなのでしょうか?
蚊などが目当てなのかな?
網の破損を防ぐための行動かもしれません。
ここはログハウスの照明に誘引されて夜行性の昆虫が多数飛び回るため、クモにとって絶好の営巣地になっています。


背面
背面
腹面

コガネグモ科でオニグモの一種だと思うものの、同定のため撮影後に採集しました。
この夜はストロボのディフューザーを持参しなかったため、現場での写真撮影は白飛びしてしまったのです。


以下はエタノール液浸標本の写真。

オニグモ♀成体にしては小さ目です。
腹面を見ると♀だと思うのですが、外雌器の上に垂体がありません。
また、外雌器の左側の開口部を塞ぐように何か複雑な形状の黒い物が付着しています。(刺さっている?)
これは交接の際に♂が残した交接プラグなのでしょうか?

交接の最中に♂の触肢の先がちぎれて貞操帯として残ったのではないかと想像しました。


交接プラグ?

『クモの生物学』p215を紐解いて交接プラグについて調べてみました。
クモ類のなかには♀の再交接を防止するために、♂が♀の生殖器内に交接プラグをつけるものがいる。クモ類の交接プラグには2種類あって、1つは♂の触肢の腺から分泌される液状の物質で、移精終了後、♀の外雌器をこの液状物質でふさぐ。この物質は分泌後に固まり、♀が死ぬまで付着している。(中略)交接プラグのもう1つのタイプは、♂の触肢の構造の一部がはずれて、♀の外雌器の交接管の中に残るもので、コガネグモ科やヒメグモ科などでみられる。


いつもお世話になっている「クモ蟲画像掲示板」にて問い合わせたところ、きどばんさんより以下のコメントを頂きました。
外見や生息状況からはオニグモしか思いつきません。外雌器が形成されているようには見えないのでまだ幼体なのではないかと・・・いまいち自信が持てませんが。黒い物体が何なのかは全くわかりません。
という訳で、オニグモAraneus ventricosus)幼体と訂正しておきます。
「この謎の物体はきっと交接プラグだ!」→「ならば♀成体か」→「交接プラグが刺さっているところが外雌器なのだろう」→「こんな外雌器をもつオニグモの仲間っているの?」…という具合に、興奮の余り思い込みに引っ張られて勝手にややこしく考えてしまいました。
幼体ということは、♀かどうかも分からない(ひょっとすると♂かもしれない)のですよね。

すぐ横の軒下に別個体のオニグモ♀成体が巨大な網を店開きしていて、同種でも網を張る場所によって発育具合に相当の差が出ることを目の当たりにしました。

気になる謎の黒い物体は形が複雑なのでてっきり♂触肢かと思ったのですけど、あるいは腫瘍とか体外寄生生物かもしれませんね。

すると後日、yspiderさんより貴重な情報提供を頂きました。
かつてAtypusで、イオウイロハシリにおける症例報告がありましたが、私は飼育下においてアオグロハシリで確認しています。「脱皮中に書肺気門から赤黒くよく粘る液体が流出し、そのまま黒化、硬化。この症状が出たクモは数時間から数日で死亡する」というものです。私は、脱皮時に体勢が不適切だったために圧がかかり、書肺および体液が漏れてしまった(脱腸ならぬ脱書肺)のではないかと予想しているのですが、詳しいことは何もわかりません。



↑【おまけの動画】
早回し処理をしないオリジナルの動画でリアルタイムの横糸張りをご覧下さい。
30分弱と長いため、ブログ限定で公開します。


@5:15 飛来したコガネムシの一種が作りかけの円網の上部にかかる。
@6:43 警戒していたが造網を再開。大物過ぎて手に負えないと判断した? 捕帯でラッピングしなかったのは造網中に絹糸を消耗したくなかった?(使う糸腺しせんが違うはず)
異物として網から外して捨てず放置したのは、網の完成後に捕食するつもりだった?
@10:51 擬死していたコガネムシが突然激しく羽ばたいて自力で網から脱出した。クモは無関心に造網作業を続行。
@12:15 小さな羽虫が飛来し、作りかけの円網の右上部分にかかった。クモは無視して造網を続ける。
@14:18〜14:50 通行人の振動に驚いて、網の左上の扉枠に一時避難。
@20:44 小さな羽虫が飛来して網に近づくと、クモは網を激しく揺すって追い払った。
@24:30 小さな羽虫が飛来して網に近づくと、クモは網を激しく揺すって追い払った。
@28:40 網の完成後に捕食に向かったのは、新しくかかった獲物(小さな羽虫)だった。

ヒメジョオンの花蜜を吸うキタテハ



2015年7月下旬

道端に咲いたヒメジョオンの群落でキタテハPolygonia c-aureum)が訪花していました。
翅を開閉しながら吸蜜に余念がありません。



2015/10/03

スズメ(野鳥)の塒入り:雀のお宿はイワガラミの中



2015年7月下旬

スズメPasser montanus)がこの時期に毎晩利用するねぐらを見つけました。
家屋の北側が壁面緑化として蔓植物のイワガラミで覆われています。
この時期はイワガラミの白い装飾花が未だ咲いています。



日が暮れると近隣のスズメが次々に集まって来てイワガラミの茂みに飛び込むと、寝静まるまでしばらく賑やかに鳴いています。
確かにここなら天敵もなかなか登って来れず、夜も安全でしょう。
考え得る天敵はヘビぐらいでしょうか。
背後が建物の壁で守られている安心感もありそうです。

昼間に子育て(育雛)している巣は、また別の場所(家々の軒先や雨樋など)にあります。

夕方から壁の下に三脚を立てて無人カメラでスズメの集団就塒を動画に記録してみました。
カメラをブラインドに隠さないと野鳥は警戒して近づかないかな?と案じたものの、塒は高所のためか丸見えのカメラでも支障なかったようです。

さて、90分間(午後18:00〜19:30)も長撮りした映像をどのように料理するか迷いました。
映像素材を細かく編集して、イワガラミの茂みにスズメが飛び込む様子だけを見せるのも手です。
しかし私としては、何時に何羽のスズメが塒入りしたのかという全体的なパターンに興味があるので、ほぼノーカットの長編でお届けすることにしました。
不要な前後半だけをカットした約1時間(午後18:22〜19:24)の記録映像です。
皆様は適当に飛ばしたり早送りしたりしてご覧下さい。
一種のスローテレビ番組としても楽しめるかもしれません。

近所のスズメは塒入りする前に、壁の手前に聳え立つメタセコイアの梢に就塒前集合しているようです。
まだ明るい18:23頃から塒入りを開始しました。
初めの数羽が先陣を切ってイワガラミの茂みに飛び込みました。
茂みの手前で一瞬ホバリング(停空飛翔)する個体もいます。
一度塒入りした後で少し飛び回り、場所を変える個体もいます。
塒内で陣取り合戦が行われているのでしょうか?
メタセコイアに戻る個体もたまにいます。
スズメの激しい出入りに伴い、イワガラミの葉が落ちることもあります。
茂みの奥の蔓に止まっているスズメが時々ちらっと見えました。

塒入りしたスズメが増えるとともに、雀のお宿では鳴き声がチーチーパッパ♪と騒々しくなります。
スズメの鳴き声に負けじと蝉しぐれが聞こえます。
セミの種類はアブラゼミ♂と、途中からヒグラシ♂も参加したようです。

映像ではスズメの出入りが激しくて数えていませんが、計何羽の群れなのでしょうね?

監視動画に頼るよりも、現場でヒトが肉眼でカウントする方が良いでしょう。
近隣のスズメがほとんど集まって来ている印象です。

日没時刻(18:52)がほぼ塒入りのピークでした。
あまりにもきれいな相関に驚きました。
今後はデジタル照度計が欲しいところです。

暗くなってもしばらくスズメは鳴いていました。
ようやく寝静まりました。

次の課題として、夜に寝ているスズメの様子を赤外線の暗視動画でこっそり撮りたいのですが、塒は高所にあるため下からでは赤外線投光機も届きません。
特に興味があるのは、塒入りした集団が幼鳥なのか、成鳥も混じっているのかどうか見分けたいのです。
写真に撮るにしても強力なストロボが必要になりそうです。



wikipediaにて「スズメ」の項目を参照すると、

夏から秋にかけて、街路樹などに数十から数百羽が集まってねぐらを形成する。その年生まれの若鳥が多いとされるが[19]、若い個体だけでなく成鳥もまざっている。集まることで、体温の維持、翌日の餌場の探しやすさ、睡眠時の安全性の向上などの効果があると考えられている[20]。一方で、群れのねぐらに入らず個々の場所に定住する個体は成鳥が多いとされる[19]。

『スズメ百態面白帳』p135-139によると、

雀のお宿は繁華街。
環境の変化がなければ、集団就塒場は、だいたい毎年同じ時季には同じ場所に形成される。


『ネオン街に眠る鳥たち:夜鳥生態学入門』p53 「集団塒と単独塒」より
 スズメのお宿を調べてみると、夏から秋に街なかの繁華街などに大群が集結して形成される集団塒とは別に、人家周辺で静かに単独ないし数羽単位で夜を過ごす塒もあることがわかる。 
 前者は、その年に生まれた若鳥が大半を占め、各地を移動しながら初冬を前に消滅してしまう群生相である。後者は、その土地に縄張りを持っている成鳥であり、冬を越し、春には繁殖を行う定着相である。


季節としては夏から秋がほとんどであり、冬季まで継続して塒を利用しているのはまれであった。北方の都市ほど冬季の集団塒は少なく、塒に集まる数が少ない傾向も見られた。(同書p57より)




平野伸明『スズメのくらし (たくさんのふしぎ傑作集)』によると、
夕方、都会の街路樹に四方八方からスズメが集まってきて、ものすごい数になることがあります。スズメのねぐらです。一羽一羽よく見ると、ほおや体の羽毛の色が淡く、今年生まれた若鳥が多いようです。スズメのつがいは、子育てしない冬の間も、いっしょにくらします。親鳥のねぐらは巣です。♂と♀が一緒に使う場合もありますし、どちらかが使い、もう1羽は近くにあるねぐらに行くこともあります。(中略)スズメにとって巣は、ヒナを育てるだけではなく、夜、眠る場所にもなっています。他の鳥にとって、巣はヒナを育てるときだけのもので、スズメのように、一年中使う例はあまりありません。スズメが巣の場所をめぐってはげしく争うことがあるのも、巣が自分たちの住み家でもあるからなのでしょう。 (p36〜37より引用)

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