2012/01/15

野生ニホンカモシカの反芻行動



2011年12月上旬・気温9℃
野生ニホンカモシカを追う:後編

映像冒頭でカモシカが立ち止まってこちらに尻を向け、立木に顔を擦り付けています。
縄張り宣言の眼下腺マーキングと思われます。
こちらに向き直り鼻孔を広げて風の匂いを嗅いでいます。
(このとき鼻水が垂れました。)
少し歩くと腰を下ろして地面に座り込みました(座位休息)。
横目で油断無くこちらの様子を窺っています。

座ったまま、先程食べた食事の反芻を始めました。
手前の潅木が邪魔で肝心の口元が初めはよく見えません。
下草を採食していた可能性もあります。

もぐもぐ顎を動かしつつ、ときどき耳を動かしたり首を振ったりして、顔に五月蝿くたかる虫を追い払っています。
近くの林道を下から車が徐行して登って来ました(@動画7:35)。
その間、カモシカは反芻を止め車の音に耳をそばだてました。
ここは林道から死角になっています。
静けさが戻るとカモシカはリラックスして眠そうに反芻を再開。

観察し易い撮影アングルを求めて少しだけ接近しました。
カモシカは座ったまま顔だけこちらに向けています。
やがて警戒が解けると横向きで反芻を続けます。
瞼が重くなり目がトロンとして眠そうです。
うたた寝しているのかもしれません。

約30分間の反芻行動の末に、カモシカがゆっくりと立ち上がりました。
首を曲げて右脇腹を舐めています(掻いている?)。
ゆっくり堂々と藪の奥に歩き去りました。


夢中で長々と動画を撮りましたが至福の時間でした。
野生動物がこれほど警戒を解いてくれたことに驚きです。
(野鳥観察よりずっと楽だと感じました。)
カモシカは好奇心が強い動物と言われています。
付かず離れず静かに追跡する私の姿がカモシカから常に丸見えだったことが逆に安心感を与えていたのかもしれません。

これ以上は深追いせず、観察を終了しました。
荷物を背負ったまま足場の悪い急斜面を追跡し、手持ちカメラで長時間(昼過ぎに発見してから丸一時間)息を殺して撮り続けたので、腕や腰の筋肉がヘトヘトです。
カメラの手ブレ補正もなぜか誤作動を始める始末。
私の集中力も限界でした。
せめて一脚を持参していれば少しは楽だったかも。
特別天然記念物の野生ニホンカモシカと濃密な時間を過ごせた幸運に感謝して、満ち足りた気分で下山しました。
今思うと、カモシカが座っていた場所まで行って糞や角研ぎ、マーキングなどの痕跡を探してみても面白かったかもしれません。


カモシカの反芻行動を実際に見たのは初めて。
『科学のアルバム:ニホンカモシカ』p45によると、
腹がいっぱいになったカモシカは、見晴らしの良い大きな岩や倒木の上に登って、食べたものを反芻します。カモシカは、ウシと同じように胃が四つの部分に別れており、食べたものを反芻するのです。反芻は、食べたものの量と質にもよりますが、二時間から、それ以上かけてします。
(下線部は今回の観察と異なる点。)


三部作シリーズ完。




2012/01/14

無翅型タマバチの一種が壁を徘徊



2011年12月中旬・気温10℃

山中で建物の白壁をアリのような虫が数匹(3匹以上)徘徊していました。
日当たりの良い西面でした。
よく見るとアリではなく無翅型のタマバチの一種でした。
よく冬の雪面でよく見かけるタマバチと同種かもしれません。
採寸しながら撮り始めたらすぐに脚を滑らせてしまいました。
壁から滑落しても、しばらくするとまた登ってくるようです。
やがて、壁面で上から降りて来る個体と下から登って来る個体の二匹が出会いました。
触角で互いに触れた後、上の個体が右前脚で蹴り落としたように見えました。


未採集ですが、もし名前が分かる方がいらっしゃいましたら教えて下さい。
いつか♀の産卵シーンを観察してみたいものです。


【追記】
ハンマーさんのブログで「コナラの冬芽に産卵するナラメリンゴタマバチ」の見事なお写真を拝見すると、なんとなく似ている気がします。


2012/01/13

ニホンカモシカの採食メニュー@晩秋



2011年12月上旬
野生ニホンカモシカを追う:中編「道草を食うカモシカ」

カモシカは雑木林の斜面を少しずつ下りながら若い針葉樹の葉を口にしました。
ハイイヌガヤかな?と思うのですが、写真を撮り損ねました。(※追記2参照)




撮影中は立ち止まり、距離が開くとそっと接近する作戦で追跡しました。
この時期の山は落葉して多少は見通しの良い状態ですから初めての私でも追跡できたものの、葉の生い茂った夏などはすぐ見失ってしまうだろうと想像できます。
私が動くとカモシカは物音を敏感に察知して坂の途中で立ち止まり、こちらの様子を見ています。
やがて斜面をゆっくり歩いて移動して行きます。

手前の潅木が邪魔でうまく撮れてませんが、常緑低木のエゾユズリハの葉も採食しました。(追記3参照)
もしかしたらエゾユズリハの実も食べていたのかもしれませんが、その点は不明です。
(食痕をじっくり見て歩く余裕がありませんでした。)



幼木の細い枝に顔を擦り付けるような行動も示しました。
ニホンカモシカに特有の眼下腺マーキングかもしれません。
残念ながら、やはり手前の潅木が邪魔ではっきり見えませんでした。
あるいは角研ぎ行動だったのかもしれません。


ゆっくりと坂を下りる途中で再び常緑の葉を口にしました。
厳しい冬を迎える前にたくさん食べて脂肪を蓄えないといけません。
顔に集まる虫を払うためか、ときどき耳を動かしています。
斜面で追いすがる私の方がカモシカの下になると、今度は一転して坂を登り始めました。

他にも斜面にへばりつくように生えた羊歯の葉も採食したのを目撃しています(映像なし)。
シシガシラもしくはオサシダと思うのですがどうでしょう?



後編:反芻行動につづく。)

【追記】
ピッキオ編『森のいろいろ事情がありまして』によると、カモシカには上の門歯が無いために毟り取ったような食べ方になるそうです。




※【追記2】
西口親雄『森はナゾがいっぱい』によると、
イヌガヤは、葉が柔らかくて、毒がない。いまでもカモシカの冬の主食になっている。おそらく中生代のイヌガヤ属も、草食恐竜の餌になっていたと思う。イヌガヤの葉は、毒もないし、硬い針もない。恐竜にたいして無防衛のようにみえるが、じつは、イヌガヤの枝葉は、食べられても、食べられても、地ぎわから再生してくる。この再生力が、草食動物にたいする対処法なのである。しかしそのため、イヌガヤは高木(森の支配者)にはなれない。  (p51より引用)


【追記3】
浅川満彦『野生動物の法獣医学: もの言わぬ死体の叫び』という本を読んでいたら、放牧牛が摂食し中毒になる植物の例としてワラビとエゾユズリハが挙げられていました。
(エゾユズリハは)葉や果実に様々なアルカロイドを含み、牛が摂取すると、食欲不振や第一胃の運動停止などを起こし、ひどければ死に至る。(p72より引用)

カモシカもウシ科ですから、エゾユズリハの葉を食べて無事とは思えません。

少量なら食べても大丈夫なのでしょうか? 




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