2023/01/07

ニホンイノシシによる泥汚れ?(1)カラマツの幹

 

2022年8月下旬・午後14:40頃・くもり

里山の雑木林を抜ける林道にヌタ場らしき水溜りがあります。 
林道脇の斜面を少し登ると、林床に生えたシシガシラというシダ植物の葉が不自然に汚れていました。 
泥水がかかり、それが白く乾いているのです。 
その横にそびえ立つカラマツ大木の幹の根元も泥で白く汚れていました。 
まるで誰かが白いペンキを塗ったようです。
林道のヌタ場で泥浴びした直後のニホンイノシシSus scrofa leucomystax)が法面の獣道を少し登り、カラマツの幹に体を擦り付けて縄張り宣言のマーキングをしたのではないかと想像しました。 
林床で転がり回って下草にも泥でマーキングしたようです。 
あるいは歩いたり立ち止まったりしただけで、イノシシの体から泥水が下草のシシガシラに滴り落ちていたのかもしれません。

 イノシシは湿地で転げ回り、全身を泥まみれにする習性がある。これを“ヌタを打つ”といい、それをする場所が“ヌタ場”である。泥浴びした後イノシシは近くのマツの木の根元に行って、幹を牙で削り(牙かけ)、体をこすって松やにをつけ、体毛を磨く。(p13より引用)


カラマツの樹皮からは赤い樹脂が滲み出しています。 
まさかツキノワグマが爪を研いだ跡なのでしょうか? 
しかし、クマがわざわざ松の木に登る用事は無いはずです。 
根元の地面には赤い樹脂の塊が滴り落ちていました。 
熊谷さとし、安田守『哺乳類のフィールドサイン観察ガイド』という本でイノシシのフィールドサインについて調べると、カラマツの幹に残る傷跡は「牙かけ痕」のようです。
牙を研いだ痕とされているが、サインポストの意味もあるのだろう。木がマツ類の場合、毛を硬くするため、松脂を体に塗るためだともいわれている。(p83より引用)

 

(ぬた場の)近くの樹木や岩などに、泥を落とすために体をこすった跡も見つかる。その際に、泥と一緒に体毛が付着している場合があり、もし毛先が二股や三股になったものであれば、イノシシの仕業と考えられる。(p82より引用)
これを参考にして、次回は枝毛になった抜け毛を探してみます。
「(イノシシが)体をこすりつけた跡はシカと比べて低い位置になる場合が多い」(p82より)とのことですが、当地では基本的にニホンジカは生息していないことになっています。
多雪地帯では笹などの食草が深い雪に埋もれてしまい、シカは越冬できないからです。

イノシシのフィールドサインを見つけたので、ヌタ場(水溜り)と近くの泥カラマツをトレイルカメラで監視することにしました。 
果たして予想通りの証拠映像が撮れるでしょうか?
ちなみに、水溜りの泥に残された蹄の跡も見つけています。 

斜面に育ったカラマツの根元が大きく湾曲しているのは、幼木の時期に深い積雪の重みがかかったせいです。 
幹がオーバーハングしているので谷側の根元には雨がかからず、地面が常に乾いています。 
そのため、アリジゴクの集団営巣地となっていました。
動画撮影日にはイノシシに踏み荒らされてアリジゴクの巣穴が分かりにくくなっていますが、後に復活しました。





【追記】
この樹種をてっきりアカマツだと早合点したのですが、恥ずかしながらカラマツの高木だったと後に判明しました。
アカマツなら常緑の針葉が枝に見えるはずなのに、落葉樹でした。
現場の地形のせいで、少し離れたところから全体の樹形を見渡せなかったのも間違えた原因の一つです。
訂正しておきます。

林将之『樹皮ハンドブック』でカラマツの項目を読むと、
(樹皮が)はがれた部分は赤みを帯びることが多く、しばしば全体が赤っぽくてアカマツに似た個体も見る。 (p24より引用)

とのことで、専門家でもちょっと紛らわしいのだそうです。 

キンミズヒキの実に群がって吸汁・交尾するトゲカメムシ♀♂

 

2022年8月下旬・午後12:50頃・くもり 

里山の廃道になった林道沿いに咲いたキンミズヒキの群落にトゲカメムシCarbula humerigera)が集まっていました。。 
花穂に訪花するのではなく、未熟な実が並ぶ実穂に群がり、実に口吻を刺して吸汁しているようです。 

茎(実穂)の最上部で交尾中の♀♂ペアがいました。 
なんとなく上にいる個体が♀で下が♂ではないかと思うのですが、どうでしょうか? 
(私はトゲカメムシの性別の見分け方を知りません。)
交尾中の♂が定期的に両後脚で♀の横腹に触れているのは、♀を宥める行動なのかな? 

茎の下の方に居る個体は、ニアミスしても互いに無関心で、配偶行動や交尾を始めませんでした。 
おそらく同性なのでしょう。  
横向きになった個体の口元を見ると、口吻を伸ばしてキンミズヒキの実を探っていました。 

同じ株の分岐した別の実穂には5匹目のトゲカメムシが単独で見つかり、やはり実から吸汁していました。
ちなみに、数m離れた地点のヨシ群落でも枯葉にしがみついたトゲカメムシ♀♂が交尾していました。 
必ずしもキンミズヒキにしか集まらない、という訳でもないようです。

2023/01/06

夜のスギ林道を次々に疾走する4頭のニホンカモシカ【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2022年8月下旬・午後22:55頃・気温15℃ 

里山のスギ林道にある溜め糞場sをトレイルカメラで見張っていると、起動したカメラの近くで何やらガサガサ♪物音がしています。 
音量を上げてみると、重低音の唸り声も聞こえるのでイノシシが鳴いているのかと思いました。 
ところが、その直後にドドドド…と地響きを立てながらニホンカモシカCapricornis crispus)2頭が前後して林道を全力で右から左へ駆け抜けました。 
約25秒後、更に別のカモシカ2頭が同じ方向へ走り去りました。 
計4頭のカモシカが縦一列で間隔を置いて駆け抜けたことになります。 
一体何事でしょうか? 
実は、直後にもう一度センサーカメラが起動したのですけど、謎の物音がするだけで何も写っていませんでした。 
カモシカの謎の行動を解明するには、別アングルの映像が欲しいところですが、残念ながら何も写っていませんでした。 

トレイルカメラによる60秒間の動画撮影で一度に4頭ものカモシカが写っていたのは初めてで、驚きました。 
ニホンカモシカは草食獣にしては珍しく、基本的に群れを作らず単独で生活します。 
母子という最小単位の家族群しか作らないとされています。 
真夏は繁殖期でもありませんから、今回の動画に写った4頭は、おそらく2組の母子だと推察されます。 
2組のカモシカ母子が暗闇の獣道で鉢合わせしてパニックになったのでしょうか? 
イノシシやツキノワグマなど他の動物とニアミスして驚いたのかな? 

1/3倍速のスローモーションでリプレイすると(@0:45〜)、謎の獣はイノシシではなくカモシカのようです。 
カモシカの黒いたてがみが見えます。 
ただし親子かどうか、体格差もよく分かりませんでした。 
録画のフレームレート25fpsに対してカモシカの走りが速過ぎて、残像のように変形していました。 

カメラの画角内に写っている林道区間の距離がもし分かれば、そこをx秒で駆け抜けるカモシカの走行速度が映像から求めることが可能です。
ちなみに、対面に写っているスギの幹の胸高直径は約60.5cmでした。

カモシカの本気の走り(全力疾走)を見る機会はなかなか無いので、貴重な記録です。 
これは無人カメラの映像ですが、もし夜道で実際に走って来るカモシカと出くわしたら、かなりの恐怖体験になりそうです。 


※ 動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。 



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