2023年7月上旬・午後14:35頃・晴れ
里山で私が静かに下山していると、下から登ってきたニホンカモシカ♂(Capricornis crispus)とややカーブの死角で鉢合わせしました。
カモシカの方が先に気づき、慌てて身を翻して逃げました。
(映像はここから。)
少し離れたところで立ち止まって振り返り、警戒しながら私を見ています。
下り坂でカモシカの方が私よりも下に位置していたので、劣勢な位置のカモシカは自ずと逃げ腰になっています。
キョロキョロと辺りを見回し、耳をそばだてています。
いつもなら私はその場に突っ立ったまま(なるべく動かずに)撮影を続けるのですけど、前回の反省から、試しに動画を撮りながら山道にゆっくり腰を下ろしてみました。
重いザックを背負ったまま、両足を前に伸ばして地面に座ったのです。
そのまま背中のザックにもたれかかるように坂道に座って、姿勢を低くしました。
すると私の身長(体高)がカモシカよりも低くなり、私に対する恐怖や警戒心が解けたようです。
私がすぐには立ち上がれない無防備な体勢であることを理解したのでしょう。
ゆっくり近づいてきてくれました。
カモシカの顔にズームインすると、どうやら顔馴染みの個体♂のようです。
ペロペロと舌舐めずりをしました。
濡れた鼻をヒクヒクと動かして風の匂いを嗅ぐと、鼻水(涎?)が滴り落ちます。
私の汗の匂いでカモシカ側も「またお前か!」と認識してくれているようです。
最近もこの山系で出会った顔見知りの同一個体のようです。
関連記事(0、2ヶ月前の撮影)▶
夏も毛皮を着込んだカモシカは暑いのか、忙しなく腹式呼吸しています。
胴体の皮膚をピクピク動かすのは、吸血性昆虫を追い払うためです。
カモシカの周囲をブヨ?が飛び回っています。
こちらに向かって山道をゆっくり登り始め、私にどんどん近づいて来ます。
接近するカモシカが立ち止まり、私をじっと見下ろしています。
慎重に数歩ずつ近づいてきます。
山道で急に座り込んだ私の体調を心配してくれているのでしょうか?
遭遇時にこんな奇妙な行動をするヒトをかつて見たことがなかったはずですから、好奇心が掻き立てられたのかもしれません。
カモシカ猟をするマタギの話でも、カモシカの近くで踊ってみせると興味津々で逆に近寄ってくるのだそうです。 (※ 追記参照)
カモシカが横向きになった際に、下腹部に珍しく陰茎が見えました。
次に後ろ向きになると、股間に睾丸がぶら下がっていました。
やはり性別は♂で間違いありません。
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後ろ向きになったのに、振り返ってこちらを見ています。
短い尻尾を素早く振って、吸血性昆虫を追い払っています。
カモシカも逃げるべきか葛藤したものの、好奇心が勝ったようです。
再び方向転換して、更に私の方へ近づいてきました。
もう少しでカモシカの体に触れそうです。
私が汗ばんだ手を差し出しても、さすがに舐めてはくれないかな?
肝心なときにカメラがトラブルを起こし、再起動でもたついている間にカモシカ♂は私から逃げ、山道を少し下ってしまいました。
そのまま山道でカモシカ♂とすれ違えるかと期待したのですが、カメラが再起動するノイズに驚いたカモシカ♂が坂道の下へ飛び退いてしまったのです。
山道で立ち止まって振り返り、私の様子を伺っています。
下り坂を歩き去るカモシカ♂の後ろ姿でも、睾丸と陰茎がしっかり見えました!
フィールドで野生カモシカの性別を見分けるのは至難の業なのですが、どんな地形条件でどんな体の向きだと♂の外性器が見えるのか、少しずつ分かってきました。
遂にニホンカモシカ♂は山道を左に逸れ、法面の雑木林に入って行きました。
ガサガサと薮漕ぎする音が聞こえます。
今回の出会いで、カモシカ♂が鼻息を荒らげたり蹄で硬い地面を踏み鳴らしたりして私を威嚇する行動は一度もやりませんでした。
私も身の危険を感じることはありませんでした。
関連記事(5年前の撮影)▶ 鼻息を荒げ蹄を踏み鳴らして威嚇するニホンカモシカ
ちょっとした実験のつもりでしたが、私の身長を低く見せるだけで顔馴染みのカモシカがいつもとは違う行動を見せてくれたので、大満足です。
ブラインドを使わず餌付けをしないで野生のカモシカにどこまで近づけるか、という個人的なチャレンジの記録を更新しました。
もう少しでカモシカの体に触れそうでした。
私が腕を伸ばしたら、カモシカは私の塩っぱい汗を舐めてくれたでしょうか?
もちろん、「カモシカに出会ったらその場に座れ」と皆さんに推奨している訳ではありません。
真似する人は、くれぐれも自己責任でお願いします。
私は入山する時にはいつも護身用の「熊よけスプレー」を携帯しており、今回も万一ニホンカモシカ♂に襲われたら躊躇なく噴射する気満々でした。
※【追記】
鳥海隼夫『カモシカの民族誌』によると、
カモシカは好奇心が強い反面、頭はあまりよくないといいます。カモシカは大抵同じ場所に現れるので、猟師は頭に布をかぶったり、布を振り回して手足を動かしたり、踊りながらカモシカに近づきます。カモシカはそれを猟師だとは気づかず、逃げるどころか踊りに見とれている間に、猟師の接近を許して命を落とすはめになるのでした。(中略)林業を営んでいる古畑菊雄さんという知人が、植林地の下草刈り作業の合間に作業員たちと休憩していた時、こんな体験をしたといいます。「近くの木の切り株の上で、カモシカが休んでいた。カモシカは踊りを見るのが好きだと年寄りから聞いたことがあったので、面白半分に(佐渡おけさ)を唄い、踊りながらカモシカに近づいてみた。するとカモシカは、驚いて立ち上がりはしたが、逃げる様子もなく踊りを見物しているようだった」(趣旨)。古畑さんとカモシカとの距離は、4〜5メートルほどだったそうです。 (p39より引用)
私も次に機会があれば、カモシカの前で踊ってみせる作戦を試してみようと思います。
(踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々♪)
しかし単独行の場合、それを見たカモシカの反応を自撮りで動画撮影するのは難しそうです。