タヌキの糞の中に大量に含まれる未消化の種子を野ネズミが食べに来ているのではないかと考えています。
果実を食べ歩き、溜め糞場に通って排便するタヌキは植物の種子散布に貢献しています。
一方、野ネズミが溜め糞場で未消化の種子を食べているのなら、種子捕食者になります。
もし野ネズミが溜め糞場で見つけた種子の一部をどこか別な場所に運んで貯食し、春までに食べなければ、種子を更に遠くへ散布して植物の分布を広げたことになります。
タヌキの溜め糞場をめぐる様々な生き物のつながりは、調べれば調べるほどに奥が深いことが分かってきました。
シーン1:12/14・午後19:42
雪が降る夜には野ネズミを見かけませんでしたが、林床の雪が溶けると野ネズミは活動を再開したようです。 (未だ根雪ではありません。)
落葉に覆われた林床を忙しなく徘徊するものの、なぜかタヌキの溜め糞には近寄りません。
最近はここにタヌキが排便しに来ないので、果物の種子が供給されないのでしょう。
シーン2:12/15・午前2:40
日付が変わった深夜に、野ネズミが再び現れました。
久しぶりに溜め糞の上をチョロチョロと歩き回ってチェックしたものの、餌は何も見つからなかったようです。
シーン3:12/15・午前2:54
約15分後に野ネズミが再登場。
同一個体が戻って来たのか別個体なのか、不明です。
画面右端の溜め糞に長居しているので、何か餌を採食したようです。
カメラのバッテリーが消耗していて、残念ながら尻切れトンボの記録になってしまいました。
シーン4:12/15・午前3:45
更に約50分後、野ネズミがまたやって来ました。
林床に転がっている落枝の上を橋のように渡り、画面下へと姿を消しました。
すぐにまた戻って来たものの、結局タヌキの溜め糞には近寄らず立ち去りました。
シーン5:12/15・午前5:37
画面の左、立木の奥をチョロチョロと徘徊する野ネズミがちらっと写りました。
シーン6:12/16・午前1:37
翌日は真夜中に現れました。
河畔林に霧が少し立ち込めています。
今回、野ネズミは溜め糞の上に長居しました。
タヌキの糞に含まれる未消化の種子をほじくり出して食べているのではないかと思います。
シーン7:12/16・午後22:01
21.5時間後(同じ日の晩)に野ネズミが再登場。
溜め糞場に長く留まって糞を掘り起こし、餌を探しているようです。
未消化のまま排泄された種子を採食している気がするのですけど、なにせ小さい被写体なので、映像をフルスクリーンで見直しても確信がもてません。
野ネズミの種類ですが、ヒメネズミかアカネズミのどちらなのか、映像で見分けられる方がいらっしゃいましたら教えてください。
トレイルカメラを設置する位置をもっと低くして溜め糞場に近づければ野ネズミをしっかり同定できますし、採食行動を間近で記録できそうです。
しかしそうすると今度はタヌキがカメラをあからさまに警戒して溜め糞場に近寄らなくなりそうなので、悩ましいところです。
カメラの位置を高くして広範囲を監視する方が野生動物の写る確率が上がる、というトレードオフの関係もあります。
※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。
【追記】
伊沢正名『ウンコロジー入門』という本を読んでいたら、野ネズミは人糞を直接食べるという話が出てきました。 筆者は毎日のように野糞をして、それが地中で分解される様子を克明に経時観察(発掘調査)しています。
地中ではトレイルカメラが使えないので野ネズミが人糞に来たという証拠写真(映像)はありませんが、状況証拠から見事な推理をなさっています。
虫たちの他にも、ごうかいにウンコを掘り返して食べるイノシシなどの大型獣や、地中にもぐりんこんでこっそりウンコを食べるネズミなどの小型獣もいます。中には地中のウンコをすっかり食べてできた空洞を住み処にして、クリの実を持ちこんで食べていたノグソ跡もありました。(p72〜75より引用)
獣に食べられたノグソの数も(冬場は:しぐま註)夏場より何倍も多く、獣たちの冬場の貴重な食糧にもなっていました。 (p97より引用)
したがって、野ネズミが溜め糞場の地下にトンネルを掘ってタヌキの糞を直接食べていても不思議ではありません。
私は考えもしなかったことで、とても新鮮でした。
野ネズミに関する本でもそんな話は他所で読んだことがありません。
ただし、タヌキは糞に土をかけて埋めたりしない点が伊沢氏の人糞実験と決定的に異なります。
食性もヒトとタヌキは同じ雑食性とは言え、糞の性質はやはり違う可能性もあります。