2017年4月中旬・午後14:44~15:51
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電柱の天辺に小枝を組み合わせて巣を作るハシボソガラス♀♂(野鳥)
電信柱の最上部に営巣を始めたハシボソガラス(Corvus corone)の♀♂番(つがい)による造巣を微速度撮影で1時間以上記録してみました。
カメラを嫌って営巣を止めてしまうのが一番心配でした。
巣に出入りする親鳥を警戒させないように、私はなるべく巣の方向を見ないように心がけました。
素知らぬ顔でわざと巣の逆を向いて座り、ときどき手鏡で背後のカメラの液晶モニタをチェックしました。
すると後半はカラスの番がわざわざ私が眺めている方角の電柱に止まり直し、偵察に来たのが可笑しかったです。
私が長々と一体何を見ているのか、気になってたまらなくなったのでしょう。
少し離れた電柱や電線に2羽が並んで止まり、こちらを見張っているときもありました。
10倍速の早回し速度を御覧ください。
親鳥の♀♂番が協力して、巣材の小枝を一本ずつ搬入しました。
映像の中で巣材を搬入したのは、@0:12(単独)、@1:22(♀♂)、@3:03(♀♂)、@4:01(単独)、@4:33(♀♂)、@5:27(単独)の計9回です。
手ぶら(空荷)で帰巣することはありませんでした。
もし私が撮影していなければ、もっと伸び伸びと(頻繁に)造巣活動を行ったかもしれません。
カラスを性別を外見で見分けられないのが残念です。
単独で帰巣するのではなく、番が相次いで帰巣することが多い印象を受けました。
夫婦で同じ場所から巣材を集めてくるのですかね?
これは個人的な仮説ですけど、細かい造巣作業は♀の担当なのだとすれば、♀が不在時は♂が♀の帰りを待っているのかもしれません。
一緒に帰巣すれば♂は♀に巣材を渡してすぐ出かけられるので、無駄なタイムロスが無くなるでしょう。
巣から飛び立つまで結構長い時間、巣の横の電線に止まっていることがありました。
疲れて休んでいるのか、それとも私を油断なく監視しているのかな?
一から作り始めて何日目の巣なのでしょう?(この巣を見つけたのは2日前)
一番初めの作り始めに電柱の天辺に乗せた小枝が風で飛ばされたりしないように、どうやって固定したのか、知りたいところです。
このような丸見え状態でも平気で営巣するのは、ハシボソガラスの特徴なのだそうです。
電柱は約10メートルの高さの支柱にアーム(横棒)がついている構造で、まったく隠蔽物のない環境である。したがって、隠蔽にこだわるハシブトガラスの電柱利用は難しいが、隠蔽にこだわらない性質をもっていることで、ハシボソガラスは営巣箇所として、電柱を利用することができるのだろう。(後藤三千代『カラスと人の巣づくり協定』p24-25より引用)
営巣地の電柱の真下に庭木を伐採した枝が積み上げられています。
微速度撮影の後半になると近所の人が現れ、その枝をその場で更に細かくカットし始めました。
その間も、カラスは平気で電柱の天辺にせっせと巣材を運搬し造巣を続けました。
ヒトを個体識別し、カラスに対する敵意の有無をきちんと見分けているとしか考えられません。
見ていた私は、このヒトが親切心でカラスのために巣材を提供しているのか?とさえ思うようになりました。
しかし、インタビューする機会を逃してしまいました。
実は初めカラスは電柱下の豊富な巣材源から小枝を集めていたのですが、私が見ていると警戒して他所から巣材を調達するようになりました。
もし適切な巣材を大量に用意して積み上げておけば、カラスはその近くに営巣してくれるかもしれません。
ここで悲しいお知らせです。
その後も張り切って定点観察に通ったものの、まず親鳥が警戒して私が見ている間は巣に近寄らなくなりました。
私が諦めて帰ろうとすると、親鳥がしばらく後を追いかけてきて、ちゃんと帰ったかどうか確かめようとさえするのです。
今季はあちこちでカラスの営巣観察を集中的に行ったのですが、それで分かったことは、このときの撮影地点があまりにも巣に近過ぎました。
むしろ初日にブラインドも張らず長時間撮れたのが奇跡的でした。
その次は電柱から巣が撤去されてしまい、残念ながらここには二度と再建されませんでした。
電気トラブルを恐れた近隣住民が通報したのか、電力会社が対処したのでしょう。
私が見たところ、この親鳥は電柱の最上部に営巣していて電線とはほとんど干渉しそうにない上に、巣材に針金ハンガーなどは使用していません。
したがって(素人考えでは)、漏電事故は起こりにくいと思うのですが、仕方がありません。
雛が孵ると親鳥は周囲のヒトに対して攻撃的になるので、その意味でもこの巣をそのままにしておくのは危険だったかもしれません。
営巣による停電は、巣の材料として使われる木の枝やハンガーなどの金属類が電線に触れ、漏電するなどして起こる。(同書p9より引用)
【書評】
後藤三千代『カラスと人の巣づくり協定』という新刊本を書店で見つけて衝動買いし、一気に読みました。
我が山形県の北部の鶴岡地区で電柱に営巣するカラスの問題と対策について研究してきた山形大学農学部の先生による著書です。
内容も本格的で充実しており、非常に参考になりました。(こういう本を待っていました。)
私のフィールドは同じ山形県でも南部なので、地域性の違いを伺い知れて興味深く思いました。
カラスについて書かれた本は数あれど、営巣活動(巣作り)に焦点を当て、全く新しいユニークな視点からカラスの生態について教えてくれます。
驚いたのは、本書に書かれた研究アプローチはフィールドでカラスの行動や生態を全く観察していないことです。(割愛しただけかもしれません)
バードウォッチャーの私としてはその点で不満はあるのですが、他の本を読んで補足すればよいのでしょう。(餅は餅屋)
それでも電柱から撤去された多数の巣を鑑識のように緻密に分析するだけでここまで深くストーリーを組み立てられるのか!と驚嘆しました。(巣の遺留物からDNAバーコーディングも駆使しています。)
巣材に使われた小枝の植物種を一本ずつ同定しています。
電柱の営巣対策でも決して情緒に流れされず冷徹に科学的なデータを積み上げて合理的な対策を提案しています。
実際に成果をしっかり上げつつあるので、非常に説得力があります。
カラスが悪者でないことがわかれば、人間の戦う相手は、カラスではなくなる。カラスの営巣生態を無視した、撤去という対策のあり方に問題があったのである。(p121あとがきより引用)
以下は個人的な疑問点。(一度通読しただけなので、私の読み落としや誤解があるかもしれません)
- DNAバーコーディングで巣を作ったカラスの種類(ハシボソガラスまたはハシブトガラス)を見分けるだけでなく、DNAフィンガープリンティングで親鳥や巣で育った雛の正確な個体識別は可能か?
- カラスはひとつの縄張りで一つしか巣を作らないという前提で議論を進めているが、大丈夫か? 繁殖に使われない偽巣を作ることがある、という記述を別な本で読んだことがあり、私もそれらしき偽巣の存在を観察しています。(同じ縄張り内でニ巣並行営巣の決定的な証拠映像を撮るのが私の次の目標です。)
- 撤去したカラスの巣の基盤部から珍虫アカマダラハナムグリの土繭や蛹、幼虫を得たという結果は興味深いのですが、必ずしもカラスの巣でアカマダラハナムグリ♀が産卵・繁殖したとは限らないのでは? 基盤部の巣材となる土壌をカラスが水田から採取してきた際に既にアカマダラハナムグリの卵や幼虫が混入していた可能性は?