2022年8月下旬・午後14:40〜15:08・晴れ
平地を流れる用水路の上で緑色のクモが垂直円網を張り始めました。
クモの正体は初見のワキグロサツマノミダマシ♀(Neoscona melloteei)と後に判明します。
本種が未だ明るい時刻に造網を始めたのは異例です。
よほど空腹だったのかな?
現場は田畑を囲む防風林(スギ林)と農道との間です(林縁)。
垂直円網の縦糸を放射状に張っている途中から撮影開始。
三脚を持参していなかったので、手持ちカメラで愚直に長撮りします。
どうせ三脚のセッティングに手間取っているうちに造網がどんどん進行してしまいますから、手持ちカメラで撮影するのが一番です。
クモは終始、腹面をこちらに向けています。
強い日射しを浴びて白飛び気味になったこともあり、腹背の美しい緑色がよく見えません。
動画の冒頭で、放射状の縦糸は既に18本張られていました。
縦糸を伝って下から登ってきたクモが甑に戻ると、中心から外側に向かって左回り(クモの腹面から見て半時計回り)の螺旋状に糸を張りました。
これは未だ足場糸ではなく、甑の補強でした。
再び縦糸を追加しながら下降し、放射状の縦糸は計19本になりました。
クモの動きが早過ぎて、下に伸ばした縦糸の端をどこに固定したのか追い切れません。
枠糸の上部はスギの枝葉に固定してあるようです。
網の中心に戻ったワキグロサツマノミダマシ♀は、また甑を補強してから縦糸を追加し、最終的に縦糸は計20本になりました。
いよいよ次は足場糸を張り始めます。
中心から外側の枠糸に向かって左回り(半時計回り)の螺旋状に非粘着性の足場糸を粗く張って行きます。
網の外側になると足場糸の間隔が広くなり歩脚を伸ばしても届かないので、周囲の糸を伝って少し遠回りしながら張り進める必要があります。
円網の下部(外周)に到達すると反転し、今度は逆の右回り(時計回り)で糸を張り始めました。
粘着性のある横糸に切り替えたようです。
不要になった足場糸を歩脚で切りながら、横糸を等間隔に密に張っていきます。
足場糸を切った跡には縦糸との交点が白く残ります。
ここまでは教科書通りの見事な造網行動だったのですが、横糸張りの途中で方向転換し、左回りに(半時計回りに)横糸を張ることがありました。
円網の下部で隣同士の横糸が交差したり重なったりしています。
その施工ミス(雑になった部分)を修正するためにクモは方向転換したのかな?
網全体の張力を均等化して形を整えるために横糸を補強したのかもしれません。
再び右回りに(時計回りに)戻り、横糸張りを続けます。
円網の中心部に近づくと、縦糸が放射状に残っていた甑 の中央部を丸く食い破りました。
甑でワキグロサツマノミダマシ♀は下向きに占座し、垂直円網の完成です。
甑付近に粘着性の横糸は張られておらず、スカスカのままでした。
高速で飛来した獲物が甑 付近にぶつかって壊してしまうと、円網の構造上、網全体が台無しになってしまいます。
そのために、獲物が円網の中心部を素通りできるように予め開けてあるのでしょう。
垂直円網全体の糸の張力のバランスを確かめたり、糸に伝わる振動を最適に感知できるように調節しているのでしょう。
造網終了後に撮影アングルを変更し、横から狙うと「脇黒」がよく分かります。
そよ風に揺れる円網の横糸が美しく、惚れ惚れします。
『クモ生理生態事典 2019』サイトでワキグロサツマノミダマシの造網習性について調べると、
造網するクモの野外撮影で苦労するのはピント合わせです。
・昼間は葉裏にひそみ,夕方から垂直円網を張る〔東海84〕.
・夕方5時頃から活動を始め,草間に垂直円網を張り,中心で獲物がかかるのを待つ. 網を張る時間は20~30分でオニグモ類の中では最も早い. ほとんどの個体は網を早朝に取り壊して葉蔭に戻るが,張ったままの個体もときにみられる.
・こしき糸と足場糸は不連続の場合と連続の場合があった〔新海明K111〕.
今回は網中央の甑 にピントを合わせたら素早くMF固定焦点に切り替えました。
これまでの経験上、AF自動焦点では必ず途中でクモを見失ってしまうからです。
撮影中は私自身が前後に動いてピントを微調節したつもりだったのに爪が甘く、動画を見直すと残念ながらややピンぼけですね…。
夏の強い直射日光が照りつける中で、カメラ背面の小さな液晶画面を見ながら撮影しても、白飛び気味の被写体が合焦しているかどうか、はっきり見えなかったのです。
ファインダーを覗きながら撮影したくても、メーカー(Panasonic)のコスト削減による改悪でファインダー内の画角が小さくなり使いにくくなってしまいました。
そういうときは、昔のカメラマンのように頭から黒い布を被ればバックモニターの視認性が上がるのかもしれません。