2012/01/26

雪に生き埋めされた首無しアカタテハの謎【怪奇ミステリー】



2011年12月下旬・気温1℃@雪面

スノーシューで山歩き中、遅い昼食を取ろうと大雪で埋もれかけた東屋に入りました。
壁は無いものの屋根はしっかりしているので、ベンチの置かれた中央部までは雪が吹き込みません。
ふと見渡すと、軒下に浅く積もった雪に蝶が埋もれていました。
翅を摘んでそっと取り出してみると、生きたアカタテハVanessa indica)でした。
力無く羽ばたいて逃げようとしますが、低い気温のせいで飛べません。
アカタテハは成虫で越冬します。
雪の中で遭難したのでしょうか?
それまで埋もれていた雪が黄色い液体で汚れているのは蝶の排泄物かな?
ところが蝶をよく見ると、頭部が無いことに気づいてギョッとしました。



一頭目の無頭アカタテハa

しばらくして反対側の軒下で別の行き倒れを発見。
これまた首無しアカタテハで、脳を欠いても翅や脚を動かすことができます。
雪の穴が自らの体液?(排泄物)で黄色く汚れているのも同じ。
穴に半ば埋もれているのは、陽が射したときに黒っぽい翅の輻射熱で周囲の雪が徐々に溶けたと思われます。

二頭目の無頭アカタテハb

このような生きた首無し蝶を野外で見るのは初めてです。
一頭だけならまだしも、続けざまに二頭見つけたことがなんとも不気味です。(連続猟奇事件!)
自分なりにこのミステリーを推理してみました。

まず初めは事故で頭部を失った可能性です。

(1)野鳥などの捕食者につつかれて頭部を失いながらも命からがら東屋まで逃げてきた?(天敵説
しかし、雪面に蝶が暴れた形跡や捕食者の足跡は見当たりませんでした。
2頭とも翅に損傷は無く胴体は食べられていないのが不思議です。
もしかするとアカタテハは強烈に不味いのでしょうか?
(頭部を味見しただけで諦めた?)
ある種の蝶が幼虫時代に蓄積した毒(アルカロイド)で身を守るという話を思い出しました。
しかし、アカタテハ幼虫の食草はイラクサ、カラムシ、ヤブマオなどのイラクサ科植物であり、有毒という話は聞いたことがありません。

(2)雪の中で眠ってしまった蝶の頭部だけが雪に凍りつき、私が摘み上げた際に首が千切れてしまった?(凍結ギロチン説
しかし乾雪でさらさらしており、アカタテハをそっと救出した際も特に手応えを感じませんでした。
念のために、取れた頭部が残っていないか雪の中を注意深く探ってみるべきでしたね。
ちなみに以前、越冬中のテングチョウを雪面から拾い上げた際は頭部が取れたりしませんでした。
関連記事→「雪上のテングチョウ
次は生まれつきの奇形である可能性です。

(3)発達異常の個体?(突然変異説
幼虫や蛹の時期から育ててアカタテハを羽化させた経験はありませんが、もしかすると無頭の奇形は頻度の高い(結構よくある)変異体なのかもしれません。
あるいは蛹の時期に内部寄生者が成虫原基の頭部だけを齧った…とかは考えにくいか。
この点は飼育経験者に話を聞いてみたいものです。

(4)福島原発事故に由来する放射能が蓄積した影響で奇形を生じた?(放射能による奇形説
他の可能性もありますから、センセーショナルな憶測に性急に飛びつくのは禁物です。
しかし隣県に住む者として、潜在的な恐怖心がどうしても頭をよぎります。



しかし無頭が先天的な異常(奇形)だとすると、以下の疑問が生じます。
無頭の個体が蛹から羽化できるのか?
口吻が無いのに栄養も取らずにどうやってこれまで生き延びられたのか?
複眼も単眼も無いので天敵の接近を察知して逃げることも出来ません。



悪天候の雪山で道に迷った登山者一行が山小屋に避難してみると、中には先客が居た。
と思いきや首無しの死体が二体も転がっていて周囲の雪面に足跡などは残されていない。
死体が埋まった雪に残された謎の液体はダイイングメッセージか?
吹雪で閉じ込められた山小屋の中で死体を囲む登山者メンバーの間に疑心暗鬼が広がり、夜が明けると次の犠牲者が…。
―――なんていう設定はいかにもミステリでありがちな導入部ですね。
どなたか謎解きのアイデアがある方は是非コメントして下さい。

有り合わせの紙で即席の三角紙を折り、無頭のアカタテハ2頭を採集しました。
家に持ち帰ると、ときどき翅を弱々しく動かしながらその後3日間も室内で生き長らえました。
(口吻が無いので当然飲まず食わず。)
室温ではなく冷蔵庫に保管すれば更に長生きしたかもしれません。


えー、アカタテハの冬山猟奇事件とかけまして、ブラックコーヒーと解きます。
その心は、無糖/無頭です。
しぐまっちです♪(ドヤ顔)
お後がよろしいようで。


【追記】
≪参考文献≫
Hiyama, Atsuki, et al. "The biological impacts of the Fukushima nuclear accident on the pale grass blue butterfly." Scientific reports 2 (2012): 570. PDF
チョウの羽や目に異常=被ばくで遺伝子に傷か-琉球大(ヤマトシジミを用いた研究)



【追記2】
福田晴夫、高橋真弓『蝶の生態と観察』によると、
 越冬中の成虫発見例をタテハチョウ科でひろうと、(中略)アカタテハを崖から掘り出した、アカタテハが家のひさしにもぐりこんでいたなど、断片的な観察例が多い。(p177-178より引用)


2012/01/25

杉の枝で群れる冬のヒガラ【野鳥】



2011年12月下旬

スノーシューを履いて山道を登っていたら、道端にそびえ立つ杉の大木から小鳥の賑やかな鳴き声が聞こえてきました。
雪がちらつく中、梢にレンズを向けるとヒガラの群れを発見。
映像には少なくとも二羽のヒガラPeriparus ater insularisが写っています。
ヘッドフォンでボリュームを上げれば鳴き声がかすかに聞こえると思います。
あちこち雪が積もった枝から枝へ飛び回り、元気に遊んでいるようにも見えますが、採食行動かもしれません。
嘴を足元の枝に擦り付けています。




2012/01/24

ウスモンフユシャク♂は準備運動なしで飛べる【冬尺蛾】



2011年12月中旬・気温1℃

山中の建物外壁に止まっていた冬尺蛾♂(前翅長14mm)。
ウスモンフユシャク♂(Inurois fumosa)かな?と予想をつけ、虫我像掲示板にて確認してもらいました。
どこかにぶつけたのか、左前翅中央の鱗粉が剥げて薄くなっています。

指で軽く触れると少し壁を登ってから急に羽ばたいて逃げました。
冬尺蛾と言えば翅を退化させた♀の適応戦略が話題になります。
私はむしろ♂が低温下でも飛べる秘密に興味を覚えます。
夏から秋にかけて見られる大型の蛾(ヤママユガ科やスズメガ科など)は胸部の飛翔筋をしばらく震わせて入念に準備運動してからでないと飛び立てないのに対して、この冬尺蛾♂は危険に際して直ちに飛び立つことが出来ました。
先程の蛾が近くの壁に止まったので、今度は試しにハイスピード撮影(220 fps)してみました。
飛び立つ瞬間をスローモーションで見ると、体に触れられたウスモンフユシャク♂は脚で壁を蹴り、空中で羽ばたきます。
一回の羽ばたきでフレームアウトしてしまいました。
やはり準備運動なしで飛べるようです。


配偶行動が始まる(♀を求めて飛び回る)夕刻まで壁に止まって休んでいたのでしょう。
実は、少し離れた白壁に無翅の♀(同属であるウスバフユシャクの一種;Inurois sp.)も見つけました。
関連記事→「ウスバフユシャクの一種♀を見つけた!(無翅の冬尺蛾)
♂♀は互いの存在には気づいていないようで静止していました。
もし求愛交尾したら♀の方も同種と判明したのですが、私が触れたせいで♂も♀も壁から居なくなってしまいました。
暗くなるまで粘って待つか、いっそのこと採集して飼育下で配偶行動を観察すればよかったと後悔…。

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