2015年11月上旬
ユカタヤマシログモの飼育記録#6
ユカタヤマシログモ (Scytodes thoracica )に強力な粘着糸を繰り返し吐きつけられたオオヒメグモ (Parasteatoda tepidariorum )は幾らもがいても暴れても逃れられません。
一方、ユカタヤマシログモは獲物の目の前で悠然と歩脚の先を舐めて掃除しています。
(容器に蓋をしたサランラップの反射が邪魔ですね…。)
やがてユカタヤマシログモが前進して獲物に右の第一脚でそっと触れ、位置を確認しています。(@1:00)
そのままお互いにしばらく静止。
獲物に噛み付いて食事を始めるかと思いきや、なぜかユカタヤマシログモは獲物から立ち去りました。(@2:15)
絶体絶命のオオヒメグモは擬死(死んだふり)していたようで、ユカタヤマシログモが離れた途端に必死で暴れだしました。
オオヒメグモも自分が紡いだ糸なら舐めて掃除できる(糸を溶かして食べる)はずなのに、いくら必死に身繕いしてもユカタヤマシログモの粘着糸から逃れられません。
ユカタヤマシログモの粘着糸は成分が特殊なのかな?
この点に興味を持ち、「Scytodes thoracica fibrin」をキーワードに検索してみると、面白そうな文献を見つけました。(後で読む)
Zobel-Thropp, Pamela A., et al. "Spit and venom from Scytodes spiders: a diverse and distinct cocktail." Journal of proteome research 13.2 (2013): 817-835.(PDFファイル )
時間をかければ脱出できるのでしょうか?
戻って来たユカタヤマシログモが容器の壁にへばりついた獲物(オオヒメグモ)に歩脚の先で触れて調べたのに、しばらくすると再び離れてしまいました。
擬死(死んだふり)していた獲物が暴れだすと向き直って触れ、チェックしています。
危険はないと判断したのか離れてしまった。
その後はオオヒメグモが必死に暴れても粘着糸を振りほどけないでいます。
ユカタヤマシログモが毒腺から作り口から吐く粘着糸には毒液も含まれているので、獲物は暴れて疲れる前に毒が回ってしまうはずです。
せっかく獲物を粘着糸で無力化したのに、今回はなぜか待てど暮らせど噛み付きに来ないのが不思議です。
糸腺が枯渇したので、とどめを刺したくても吐糸できないのかな?
獲物が疲れて(毒が回って)死ぬのを待っているのかもしれません。
今回は生き餌を投入する前に二酸化炭素で軽く麻酔しました。もしかするとその影響で、獲物としての魅力が無くなったのでしょうか?( 匂いが気に入らない?)
給餌したのは7日ぶりなのに、ユカタヤマシログモは空腹ではなかったのでしょうか?
捕食する意図はなくて正当防衛のつもりだったのかもしれません。
(狭い容器に無理に同居させて逃げ場もないので自衛のため止むなく吐糸で制圧した?)
冬が近づくとクモは、越冬準備のために絶食することが知られています。
もし胃の中に消化物が残っていると気温が下がった野外では氷結する核になってしまい危険なのです。
ただし、主に屋内で生息するユカタヤマシログモも越冬前に絶食する必要があるのか疑問です。
室内は厳冬期でも野外よりは暖かいはずです。
※ 動画編集時に自動色調補正を施してあります。
つづく→#7
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VIDEO
2015年8月中旬
キアシナガバチ巣の定点観察@軒下#4
自然の営みに介入すべきかどうか悩むのですが、キアシナガバチ (Polistes rothneyi )の巣の横に張られていたクモの網を撤去しました。
完全には取り切れず、まだ少し残ったクモの巣の残骸が風になびいて目障りですね。
在巣の蜂は育房を点検して回ったり、身繕いしたりしています。(午後15:17)
同じ日の深夜(23:12)に再訪し、赤外線の暗視カメラで撮影しました。
多数のワーカーが巣盤に並んで寝静まっていました。
つづく→#5:
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2015年11月上旬
ユカタヤマシログモの飼育記録#5
ユカタヤマシログモ (Scytodes thoracica )が糸を吐いて獲物を仕留める瞬間をどうしても動画で記録したくて、7日ぶりに給餌してみます。(三度目の正直)
浴室の隅で採取したオオヒメグモ (Parasteatoda tepidariorum )幼体を二酸化炭素(CO2)で軽く麻酔してから生き餌として直径35mmのプラスチック容器に同居させました。
ともに地下室などの室内でよく見かけるクモですから、獲物として不自然ではありません。
クモが逃げ出さないようにサランラップで蓋をしました。
(映像はここから。)
初めは通常のHD動画で、つづいて240-fpsのハイスピード動画で撮影してみます。
麻酔から覚めたオオヒメグモが容器の縁に沿って歩き出しました。
ユカタヤマシログモは獲物と対峙すると、歩脚で距離を測ってから攻撃を仕掛けました。
口から糸を吐いた瞬間に獲物が衝撃で吹き飛ばされ、もんどり打って転げました。
吐糸には強い粘着性があり、獲物は容器の壁にへばりついて動きを封じられてしまいました。
粘着糸から振り解こうともがいている獲物に近づいてユカタヤマシログモは繰り返し何度も糸を吹き付けます。
狙いを定めて吐糸する度にユカタヤマシログモの頭胸部に大きな反動があることがよく分かります。(作用・反作用の法則)
ズキューン!という銃撃の効果音を付けたくなりますね。
後半、更に1/5倍速のスローモーションでリプレイするとよく分かるのですが、サランラップの蓋に粘着糸が偶然付着した際にジグザクの軌跡を描きました。
ジグザグの吐糸は奥から手前に向けて天井のサランラップに付着しました。
吐糸の反動で射出口が上を向くのかもしれません。
これこそまさに、ハイスピード動画で確認したかった点です。
糸疣に相当する吐糸器官が高速で噴出する糸の勢いを制御できず(あえて制御しない?)、激しく左右に振動するせいでジグザグの軌跡を描くのでしょう。
庭に水を撒くホースに強い水圧をかけるとホースの端(ノズル)をしっかり保持しなければホースが暴れだすのと似ているかもしれません。
欲を言えば、もっとハイスピードのカメラを手に入れたら撮影に再挑戦したいものです。(240-fpsでは未だ満足できません。)
不規則網の外に出したオオヒメグモが徘徊性クモのユカタヤマシログモに対峙した場合、オオヒメグモに勝算はありません。
自然の状態でオオヒメグモの不規則網にユカタヤマシログモが侵入して積極的に狩りに挑むことがあるのかどうか、興味があります。(ホーム&アウェーの戦い)
※ 動画編集時に自動色調補正を施してあります。
ハイスピード動画を撮るには非常に強い照明が必要となります。
その一方で、照明の反射が邪魔にならないよう角度を調節するのが面倒でした。
糸が見えやすいように容器の下に黒布を敷きました。
【参考文献】
池田博明「ユカタヤマシログモの吐糸説」(PDFファイル )
クモ画像集:ユカタヤマシログモ できどばんさんのコメントによると、
ユカタヤマシログモの粘液発射口は牙先端近く、他のクモが消化液を出す孔と同じです。
図鑑には「上顎基部先端にある粘液射出口」という表現が見られるが、「上顎」に粘液の出る場所はない。 つづく→#6:ユカタヤマシログモ(蜘蛛)の吐いた粘着糸で逃れられないオオヒメグモ
【追記】
『クモのはなしII:糸と織りなす不思議な世界への旅』p85によると、(「第11章 ユカタヤマシログモの投網」)
(ヤマシログモ属の)クモの頭部にはほかのクモとは違った奇妙な特殊化があります。毒腺が前後に分かれていて、前部で毒を、後部で糊状物質を生産しているのです。そして、獲物を見つけると、筋肉をすばやく収縮させて、毒と糊をいっしょに吐き出します。
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