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2023/06/28

センノキカミキリの逃避行動:擬死落下と飛び立ち

 



2022年8月上旬・午後12:35頃・晴れ 

ハリギリ(別名センノキ)の巨木が里山の斜面に倒れていて、ウコギ科を食樹とするセンノキカミキリAcalolepta luxuriosa luxuriosa)がよく集まっています。 
今回見つけた2匹は触角がとても長いので♂だと思うのですが、どうでしょうか。 

1匹目の個体は倒木の側面に静止していました。 
触角が赤みを帯びています。

触角も足と似た色をしていますが,写す角度によって赤みを帯びるようです。 写すときの角度によって触角の色が変化するセンノカミキリ。 (北茨城周辺の生き物ブログより引用)

接写しようと私がそっと近づいたら、警戒して倒木の下面に回り込み、ポトリと擬死落下しました。 
慌てて地面を探しても、下草に隠れて見つかりませんでした。 

2匹目の個体は、倒木の側面をせかせかと歩き回っていました。 
ようやく静止したのでじっくり観察すると、見事な保護色になっていることが分かります。 
脚の腿節が赤みを帯びています。
私が指で触れてみようとした途端に、警戒したセンノキカミキリは慌てて倒木を上に登り始めました。 
倒木を登り切る前に鞘翅をパカッと広げて飛び去りました。 (羽音は聞き取れず。) 

擬死落下および飛び立ちの瞬間を1/5倍速のスローモーションでリプレイ。 
センノキカミキリは警戒心が強く、2例とも別の方法で緊急避難に見事成功したことになります。 
採集するのなら、撮影との両立は難しそうです。

2023/06/23

山道を歩いて横切るコブヤハズカミキリ

 

2022年7月下旬・午後14:40頃・くもり 

里山の尾根道(雑木林の樹林帯)でコブヤハズカミキリMesechthistatus binodosus binodosus)が山道を横断していました。 
断片化した落ち葉や落枝に覆われた山道を休み休み歩いています。 
最後は道端の草むら(枯れ草)に潜り込みました。 

コブヤハズカミキリはゴツゴツしていて見栄えがよく、私の好きなカミキリムシのひとつです。 
本種は後翅が退化して飛べないため、行動のバリエーションが乏しい点が物足りません。 
動画ブログのネタとして取り上げるには何か新しい展開が欲しいところです。 
例えば、木登りは得意なのでしょうか? 
以前、一度だけ幼木の葉の上で見つけたことがあります。 
飛来して葉に着陸したのではないとすると、地面から登って辿り着いたことになります。

関連記事(13年前の撮影)▶ ホオノキの葉に乗ったコブヤハズカミキリ

成虫の後食メニューも気になります。 
ネット検索で調べてみると、なんと枯葉を後食するらしい。 
枯葉なら何でも食べてくれるのであれば、飼育すれば観察できそうです。 
♀♂ペアで飼育すれば、交尾行動も見れるかもしれません。

2023/05/29

ケカビの生えたタヌキの溜め糞を食べるセンチコガネ

 

2022年10月下旬・午後12:45頃・晴れ 

里山の西斜面を直登する細い山道が廃れ、藪が生い茂る獣道となっています。 
ここにホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残したと思われる溜め糞場kがあり、私はときどき通って定点観察しています。 

黒土と化した古い溜め糞場には、糞虫の羽化孔と思われる穴がたくさん開いていました。 
その少し下に、比較的新しい溜め糞がありました。 
地面には枯れた落ち葉が散乱し、その上に排便したタヌキの糞の表面に毛羽立った白カビがびっしり生えていました。 
点々と散らばった獣糞の全てが白カビの菌糸(?)で覆われています。 

そこにセンチコガネPhelotrupes laevistriatus)が1匹だけ来ていました。 
センチコガネは白カビの生えた獣糞の下に頭を突っ込んで、小刻みにグイグイ押しています。 
「糞ころがし」のように巣穴に向かって獣糞を運んでいるのではなく、その場で食糞しているようです。 
そもそもセンチコガネは糞玉を巣穴へ運ぶ際には後ろ向きに転がすはずです。

関連記事(1ヶ月前の撮影)▶ タヌキの溜め糞を崩し、後ろ向きに転がして巣穴に運ぶセンチコガネ

もしかすると、センチコガネは獣糞そのものよりも、それに生える菌糸やカビの方を好んで食べているのかもしれません。
我々ヒトの衛生感覚では不潔極まりない物ばかり食べても病気にならない悪食のセンチコガネは、よほど強力な抗菌作用をもっているのでしょう。

関連記事(1.5ヶ月前の撮影)▶ 白い菌糸塊?を食べるセンチコガネ

同定のため、動画撮影後に糞虫を採集しました。 
不潔なので、持参したビニール袋を手袋のように使って採取。 
標本の写真を以下に掲載予定。 
センチコガネの性別は? 

この地点にはトレイルカメラを設置しにくいこともあり、本当にタヌキが通う溜め糞なのかかどうか証拠映像を未だ撮れていません。 

秋になると、他の地点の溜め糞場にも白カビが生えるようになります。 
この時期以外では白カビの発生した獣糞を野外で見かけた記憶がありません。 
秋の長雨によるものか、それとも気温が下がって糞虫や蛆虫(ハエの幼虫)の活動が低下することで白カビが優勢になるのかと、素人ながら勝手に推測していました。 
興味深いことに、溜め糞に生えたモサモサの白カビは数日後に消失します。 
さすがにセンチコガネが白カビを全て食べ尽くすとは思えません。
インターバル撮影で獣糞上に生えるカビやキノコ(糞生菌)の遷移(栄枯盛衰)を観察するのも面白そうです。 

相良直彦『きのこと動物―森の生命連鎖と排泄物・死体のゆくえ』という名著を読むと、知らないことばかりで興奮しました。
特に筆者の専門である「排泄物ときのこ」と題した第4章がとても勉強になりました。
ど素人の私は漠然と「白カビ」と呼んでいましたが、専門的にはケカビというらしい。
・(採取した馬糞を培養して1週間後には:しぐま註)たいていケカビ類(Mucor、接合菌)もいっしょに生えていて、糞塊が綿でくるまれたように見えることが多い。(p74より引用)
・ 接合菌のケカビ類はセルロースを分解する能力がなく、糖類のような可溶性炭水化物を必要とする。その胞子は発芽しやすく、菌糸の生長は早い。このような性質によって、糞に糖類やヘミセルロースなど消費されやすい可溶性物質が存在する初期のあいだは、ケカビ類の増殖期となる。(p78より)
・糞には、蛋白質が半ばこわれたペプトン様の物質が含まれていて、それがケカビ相を産んでいるのではないかと(筆者は:しぐま註)想像する。(p82より)
・(京都で見つけたホンドタヌキの糞場で:しぐま註)比較的新鮮なふんにはケカビの1種とスイライカビの1種が生えていた。(p95より)
・タヌキの溜め糞場に生えるキノコ(アンモニア菌類など)についても詳しく書かれています。(p94〜98)

にわか仕込みの知識を踏まえて、私は次のように想像してみました。
秋になってタヌキが熟した柿の実を食べるようになると、糞には未消化の柿の種が含まれるようになります。
タヌキが甘い熟柿を食べると糞に含まれる糖分の濃度が上がり、ケカビの生育に適した条件が整うのではないでしょうか?
獣糞の糖分が消費され尽くされるとケカビは消失し、次の遷移状態に進みます。
タヌキの溜め糞で見つけた白カビを顕微鏡で観察したり培養したりしてケカビとしっかり同定できていないので、あくまでも素人の推測です。
野生動物がせっかく摂取した果肉から糖分を完全に消化吸収できないまま無駄に排泄するのかどうかも疑問で、実際に調べてみないと分かりません。
タヌキの尿に糖が含まれるとしたら、糖尿病に罹患していることになります。
まさか獣糞が甘いかどうか舐めてみる訳にもいきませんし、フィールドで得た試料から糖分をかんたんに検出する試薬のキットが欲しいところです。
高校化学で習った昔懐かしのベネジクト溶液で調べるしかないのかな?




↑【おまけの動画】
"The Life Cycle of the Pin Mould" by the British Council Film Archives
『ケカビの生活史』
モノクロの古い教育映画ですが、ケカビの一生を顕微鏡で丹念に微速度撮影した労作です。


2023/05/17

夜の山林でカラマツの木を登るコアオマイマイカブリ【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2022年10月下旬・午前4:10頃 

山林のカラマツの根本に置いたドングリを野ネズミ(ノネズミ)が貯食のために持ち去る様子を無人カメラで撮影していると、未明に意外な珍客が現れました。 
暗視動画の冒頭で、野ネズミが餌場からミズナラの堅果を咥えて右に持ち去りました。 
トレイルカメラのセンサーが熱源を動体検知してから1分間録画するように設定しているのですが、 野ネズミが居なくなってからマイマイカブリ登場までの空白期間は、5倍速の早回しに加工しました。 

やがて画面右下から大型の甲虫が登場しました。 (@0:13〜)
雑木林の斜面を歩いて斜めに登り、カラマツの木へ向かっています。 
この独特のシルエットは間違いなくマイマイカブリです。 
山形県南部に生息するマイマイカブリは、コアオマイマイカブリDamaster blaptoides babaianus)という亜種なのだそうです。 

1分半後にカメラが再び起動すると、野ネズミは次のドングリを口に咥えて斜面の下に運んで行くところでした。
さっきのコアオマイマイカブリはどこに行ったのかと思いきや、なんとカラマツの幹をよじ登っていました!(赤丸にご注目 @0:37〜)

コアオマイマイカブリは獲物となるカタツムリを探してカラマツの木に登ったのでしょうか?
「木に縁りて魚を求む」とは「わざわざ木に登って魚を捕ろうとするような愚かなことは避けよ」と戒める故事ですが、陸貝(カタツムリ)は樹上にも居そうですね。
それとも、暗闇で野ネズミと鉢合わせして、慌てて樹上に避難したのかな?
コアオマイマイカブリと野ネズミがニアミスした瞬間が動画に撮れてなくて残念でした。
野ネズミはマイマイカブリを見つけたら、その場で捕食するでしょうか? 
マイマイカブリは自衛用の化学兵器を内蔵しているらしいので、野ネズミが噛み付こうとしても撃退したはずです。   
(マイマイカブリは)危険を感じると尾部からメタクリル酸とエタクリル酸を主成分とし、強い酸臭のある液体を噴射する。(wikipediaより引用)

今回、野ネズミは給餌場(宝の山!)からドングリを1個ずつ運び出して貯食するのに夢中でした。
栄養価の高いドングリを運搬中にマイマイカブリと出会っても、構わず見逃した可能性が高そうです。
マイマイカブリを野ネズミが捕食するかどうか、飼育下で与えてみる実験は(やろうと思えば)できそうです。


変温動物のコアオマイマイカブリがいくら動き回っても本来トレイルカメラは起動しません。 
恒温動物の野ネズミがたまたま貯食活動に励んでくれていたおかげで、今回の動画が記録されました。

関連記事(2ヶ月前の撮影)▶ コアオマイマイカブリの幼虫を見つけた!

実は、現場付近の林床で本種の幼虫を見つけています。 
本気になって探せば、意外にマイマイカブリの生息密度が高いのかもしれません。 
ということは、獲物となるカタツムリが多い豊かな自然環境なのでしょう。 

2023/05/15

タヌキの溜め糞場で活動するヨツボシモンシデムシ

 

2022年10月下旬・午後14:45頃・くもり 

里山の斜面をトラバースする細い山道をときどき通りかかる度に、溜め糞場dを定点観察しています。 
この山道は、スギ植林地と雑木林のちょうど境界になっています。
ここは小規模な溜め糞で持続しない(すぐに消失する)のですが、この日は珍しく新鮮な下痢便が残されていました。 
下痢便の状態だと、どの野生動物の糞か見分けるのが困難です。 
よく下痢をするイメージがあるアナグマの糞でしょうか? 
この地点に後日トレイルカメラを設置して監視したところ、ホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が排便に通っていることが確かめられました。

多数のベッコウバエ類やフンバエ類が溜め糞に群がっている他に、ヨツボシモンシデムシNicrophorus quadripunctatus)の鮮やかなオレンジ色が目を引きました。 
上翅(=鞘翅)後方の紋が翅端に達するので、マエモンシデムシではなくヨツボシモンシデムシと見分けられます。(参考:『くらべてわかる甲虫1062種』p33) 
てっきり屍肉食専門だとばかり思い込んでいたので、獣糞にも来るとは知りませんでした。 


別の溜め糞場で1年前に撮った写真にヨツボシモンシデムシがたまたま写っていました。 
死肉食性のヨツボシモンシデムシが獣糞に来ることが当時は半信半疑だったのですけど、今回ようやく決定的な証拠映像を撮ることができました。 

溜め糞の半分は水気の多い泥状の液状便(下痢便)でした。 
ヨツボシモンシデムシは水気の少ない側の糞塊に1匹だけ居ました。 
タヌキの黒い糞塊に頭を突っ込んでいるのですが、獣糞を食べているのか吸汁しているのか、肝心の口元がよく見えません。 
途中で糞塊から後退したら顔が見え、触角の先端も橙色でした。 
最後は糞塊の縁を歩いて回り込み、湿った部分の下にグイグイ潜り込み、身を隠しました。 

※ 鬱蒼とした山林のおそろしく暗い林床で撮った映像が編集時の自動色調補正で改善しました。 
その副作用として、ベッコウバエやヨツボシモンシデムシのオレンジ色がどぎつく強調されています。
15cm定規を溜め糞に並べて置く

2023/05/11

ミミズの死骸に群がるオオヒラタシデムシとキンバエ、ニクバエ

 

2022年6月中旬・午後15:55頃・晴れ 

平地の舗装された農道に細いミミズのロードキル死骸が転がっていて、屍肉を好むスカベンジャーたちが群がっていました。 
周囲の環境(農道の左右)は、雑木の防風林と広い畑が広がっています。 
林縁または畑から這い出したミミズが通りかかった車に路上で轢かれたのでしょう。

先ずはストロボ写真で記録してから動画に切り替えたら、ミミズの屍肉を齧っていたオオヒラタシデムシNecrophila japonica)が慌てて逃げ始めました。 
濡れた舗装路で立ち止まると、大顎を開閉したり、前脚を舐めて身繕いしたりしました。 
マイマイガ♀♂(Lymantria dispar japonica)の幼虫が脱皮した頭楯の抜け殻が路上に転がっていたものの、通りかかったオオヒラタシデムシは全く興味を示しませんでした。(@0:03〜) 

キンバエの仲間が最大で16匹、ニクバエの仲間が2匹、ミミズの死骸に群がって吸汁していました。 
キンバエの体格が大小まちまちなのは個体差や性差なのか、それとも複数種が混じっているのかな? 

初めは何の死骸かよく分からず、拾った小枝でハエを追い払い、尺取り虫にしては長過ぎる?と思いつつひっくり返したりしてみました。 
驚いたことに、オオヒラタシデムシと違ってハエは図太く、私が死骸を撹乱してもあまり逃げませんでした。 
実はすぐ近くにミミズの死骸がもう1匹あり、同様にキンバエが群がっていました。(写真を撮り忘れ) 
急いでいた私は、ミミズの死骸にシデムシが戻ってくるまで待てませんでした。


関連記事(1年後の撮影)▶ ミミズの死骸に群がるキンバエ

2023/05/06

秋のタヌキ溜め糞に集まる虫たちの活動【10倍速映像】ベッコウバエ、ハクサンベッコウバエ、オオセンチコガネ、センチコガネなど

 

2022年10月中旬・午後12:00頃・くもり・気温17℃ 

里山のスギ林道に残された溜め糞場sを定点観察しています。 
トレイルカメラを設置して通ってくる野生動物を記録しているのですが、撮れた映像を現場でチェックしたり電池を交換したりする間に、ホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残した溜め糞の横に三脚を立てて微速度撮影してみました。 
10倍速の早回し映像をご覧ください。 
この日、スギの落ち葉の上に残された獣糞の量は少なく、ほぼ泥状になっていました(少量の下痢便)。 
糞内容物には植物の種子が含まれています。 

秋になると獣糞に集まるハエ類はベッコウバエ♀♂(Dryomyza formosa)がメインになりました。 
私が近づくと一斉に飛んで逃げるものの、しばらくすると溜め糞に舞い戻って来ます。 
ベッコウバエより小型のハクサンベッコウバエNeuroctena analis)も集まっていました。
ベッコウバエ類の興味深い配偶行動については、後日改めてじっくり撮影したので、別の記事にします。
キバネクロバエらしき黒っぽいハエもたまに飛来しますが、もっとズームインしないと見分けられません。 
 

 獣糞の周囲のスギの落葉や落枝が上下に細かく動いているのは、直下で糞虫が活動している証です。 
案の定、赤紫の金属光沢に輝くオオセンチコガネPhelotrupes (Chromogeotrupes) auratus auratus)と鈍い金属光沢のセンチコガネ♀♂(Phelotrupes laevistriatus)がときどき獣糞の表面に出てきます。 
 他には微小なアリ(種名不詳)の群れが獣糞の上を徘徊していました。

2023/04/12

柳の樹液酒場でスジクワガタ♀に誤認求愛するコクワガタ♂(繁殖干渉の配偶者ガード?)

 

2022年9月上旬・午後14:00頃・晴れ 

平地を流れる川沿いに生えた柳(種名不詳)から樹液が滲み出していて、その樹液酒場に集まる昆虫を定点観察しています。 
この日はコムラサキApatura metis substituta)が♀♂1頭ずつ来ていました。 
♀♂ペアが仲良く並んで柳の樹液を吸汁しているのに、求愛や交尾などの配偶行動が始まらないのは不思議です。(色気より食い気) 




柳の枝の下面にえぐれたような樹洞があり、その上にコクワガタ♂(Dorcus rectus rectus)が覆い被さるように静止していました。 
口吻を見ると樹液を舐めている訳ではなく、左半身だけ穴の中に差し込んだままじっとしています。 
コクワガタ♂は直下の樹液酒場からコムラサキ♀♂を追い払おうとしませんでした(占有行動なし)。 

撮影を中断して、コクワガタ♂を手掴みで採集しました。 
コムラサキ♂は逃げてしまったものの、♀はずぶとく樹液酒場に居残って吸汁を続けています。 
コクワガタ♂を取り除くまで気づかなかったのですが、柳樹洞の奥に大顎の短いクワガタムシの♀が潜んでいました。 
安全な場所に陣取って樹液を舐めていたのでしょう。 



コクワガタ♂は樹液酒場で配偶者ガードしていたのだと、ようやく腑に落ちました。 
つまり、♀と交尾する機会を狙いつつ、ライバル♂が近づけないように♀を守っていたのです。(交尾前ガードではなく交尾後ガード?) 

関連記事(同所で32日前の撮影)▶ 柳の樹洞に籠城するコクワガタ♀にしつこく求愛する♂

採集したクワガタ♀♂を1匹ずつ透明プラスチックの円筒容器(直径7.5cmの綿棒容器を再利用)に移し、背面と腹面をじっくり観察してみましょう。 
ツルツルした容器壁面をクワガタはよじ登れませんし、仰向けに置くと脚をばたつかせて暴れるものの、足先が滑って自力では起き上がれません。 
♀の方は驚いたことにスジクワガタ♀(Dorcus striatipennis striatipennis)でした。 
鞘翅にうっすらと縦筋があります。 




となると、問題はクワガタ♂の方です。 
大顎の内歯が1歯なのでコクワガタだと思うのですが、鞘翅にうっすらと縦筋があるような気もしてきます。 
コクワガタ♂だとすると、樹洞に籠城するスジクワガタ♀を同種の♀だと誤認求愛し、異種間で配偶者ガードしていたことになります。 




コクワガタとスジクワガタはどのぐらい近縁なのでしょうか? 
ネット検索してみると、この2種が交雑することは無いそうです。 
日本産クワガタムシの分子系統樹がどうなっているのか知りたくて文献検索してみると、次の全文PDFが無料で入手できました。
松岡教理; 細谷忠嗣. 日本産クワガタムシの分子系統学的研究.弘前大学農学生命科学部学術報告 2003.

解析結果の図2を転載させてもらいました。
ただし、これはタンパク質レベルで比較したアロザイム分析なので注意が必要です。 
この結果だけを見れば、コクワガタとスジクワガタは最も近縁ですから、異種間で誤認求愛するのも不思議ではありません。
しかしクワガタ愛好家の知見によれば、コクワガタとオオクワガタはまれに交雑するのに対して、コクワガタとスジクワガタは決して交雑しないのだそうです。
つまり、交雑可能性や生殖隔離という点ではコクワガタに対してスジクワガタよりもオオクワガタの方が近縁種ということになり、上記のアロザイム分析の結果は生物学的種の概念に明らかに反しています。(生殖隔離を説明できない。)
最新のDNA分析ではクワガタの分子系統樹が変わるのか、当然知りたくなります。 
続報として同じ筆者による博士論文がヒットしましたが、要旨(概要)しか閲覧できませんでした。
細谷忠嗣. クワガタ属 (甲虫目クワガタムシ科) とその近縁属の分子系統学的研究. 2004.
たとえ異種間で交尾できたとしても雑種の繁殖可能な子孫F1が残せないとなると、今回のスジクワガタ♀にとってコクワガタ♂のしつこい誤認求愛や配偶者ガードはただただ迷惑なセクハラでしかありません。
スジクワガタ♀の繁殖機会を奪っている訳ですから、コクワガタ♂の振る舞いは繁殖干渉です。
私の個人的な印象では、当地のスジクワガタは山地に偏ってほそぼそと分布しています。
スジクワガタが平地に分布を広げられないのは、どこにでも居る普通種のコクワガタが繁殖干渉(セクハラ)するせいかもしれません。
この仮説が正しければ、逆にスジクワガタ♂がコクワガタ♀に誤認求愛、配偶者ガードすることは無いはずですから、飼育下で検証可能です。

素人が背伸びして(先走って)勝手に考察してみましたが、そもそも私は恥ずかしながらクワガタの同定にいまいち自信がありません。
(特に今回の♂がコクワガタかスジクワガタかどうかについて)
もし同定が間違っていたら、ご指摘願います。
たとえば、ヤナギ樹洞の奥に隠れていた個体がスジクワガタ♀ではなくて小型のスジクワガタ♂やコクワガタ♀だとしたら、動画の解釈がまるで頓珍漢ということになり、目も当てられません…。

余談ですが、スジクワガタ♀を採集した後にもコムラサキ♀が樹液酒場に最後まで居座っていました。
ところがフラッシュを焚いて写真に撮ると、右半分の翅表だけに鮮やかな青紫色の光沢がありました(♂の性標)。
自然光下の動画ではてっきり地味な翅色の♀だと思っていたのですが、雌雄モザイクの変異個体なのでしょうか?
だとすれば、隣に居たコムラサキ♂個体と配偶行動が始まらなかった理由も説明できそうです。
それとも、翅を開いた角度の違いで青紫の構造色がストロボ光に反射したりしなかったりしただけかな?

コムラサキ:雌雄モザイク?@柳樹液酒場

テントウムシの研究で有名な鈴木紀之先生が繁殖干渉について「すごい進化ラジオ」で分かりやすくオンライン講義してくれているのでお薦めです。(全9回)


2023/04/07

ヘビの死骸に群がるヨツボシモンシデムシとヤマトマルクビハネカクシ

 

2022年10月上旬・午後14:15頃・くもり 

蛇行しながら山を登る舗装路にヘビの死骸が転がっていました。 
横断中に走ってきた車に轢かれたようで、ペシャンコに潰されて干物のように乾いていました。 
周囲はスギの植林地です。 
頭部が食い千切られているのは猛禽の仕業でしょうか? 

1匹のヨツボシモンシデムシNicrophorus quadripunctatus)がヘビの死骸の傷口に頭を突っ込んで死肉を貪っていました。 
その体表を薄ピンク色の微小なダニが徘徊しています。 
他には微小なアカアリ(種名不詳)もヘビの死骸に来ています。 
私が死骸に近づいたら、集まっていたハエ類はほとんど飛んで逃げてしまったのですが、ニクバエとキンバエの仲間が1匹ずつ戻って来ました。 

死んだヘビの背面を見たかったので死骸を裏返してみると、ゴキブリのような艶のある茶色をした謎の虫が死骸の下から慌てて逃げ出しました。 
よく見るとゴキブリではなく甲虫で、翅の短いハネカクシの仲間でした。 
後で調べてみると、どうやらヤマトマルクビハネカクシTachinus japonicus)という種類のようです。 
飛んで逃げることはなく、路上をしばらく走り回ると、死臭を頼りにロードキルに再び戻って来ました。 
干物のように乾いたヘビの死骸を早速齧り始めました。 

白い腹面を向けて(仰向け)いた死骸を裏返して背面を見ても特徴に乏しく、何という種類のヘビか私には見分けられませんでした。 (どなたか教えてください。) 
鱗が白っぽい薄皮に覆われているのは、死後に路上で急速に乾燥したせいなのか、あるいは脱皮の直前に死んだのかな? 
そのため生前の模様が分かりません。 
薄っすらと縦縞が見えるので、シマヘビですかね?(自信なし) 
全体的に干からびていて、「鮭とば」を連想しました。 

撮影後にヨツボシモンシデムシとヤマトマルクビハネカクシを採集しました。 
以下に標本の写真を掲載する予定です。 
ヨツボシモンシデムシは普通種ですけど、鞘翅の裏面が何色なのかずっと気になっていたので調べてみるつもりです。
▼関連記事(4年前の撮影)  
ヒミズの腐乱死体に飛んで集まるヨツボシモンシデムシ
ヨツボシモンシデムシをヘビの死骸と一緒にお持ち帰りして飼育してみたいところですが、この日はタッパーウェアなどの密閉容器を持ってきてませんでした。

2023/04/02

スギ林道の溜め糞場に来る生き物たち:9/13〜19の全記録【10倍速映像】

 

2022年9月中旬

里山の杉林道にニホンアナグマMeles anakuma)とホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が共有している溜め糞場sがあり、トレイルカメラで長期間監視しています。 
この山林には昼行性の動物もいれば夜行性の動物もいて、秋の溜め糞場は千客万来です。 
9/13〜9/19の丸7日間の全記録を時系列順にまとめ、10倍速の早回し映像にしてみました。 

これまで私は登場する動物種ごとに切り分けて紹介していたのですが、時系列順にするとまた印象が変わる(違ったドラマが見えてくる)かもしれません。 
センサーカメラが起動してから1分間録画するタイマー設定にしているので、動物が居なくなってからも構わず1分間は律儀に撮り続けます。 
従来の報告ではカットしていた退屈な後半(動物の不在映像)も含めています。 

早回し映像に加工すると、溜め糞に集まる糞虫の活動や離合集散がよく分かるようになります。 
引きの絵で撮ると糞虫の動きは緩慢なので、等倍速映像ではどうしても糞虫の存在を見落としがちです。
カメラの誤作動で録画された謎のボツ映像も、よく見直すと糞虫が写っていたりします。 
新鮮な糞塊を糞虫たちがせっせと地中に埋めて食べてくれるおかげで、森の中はきれいに保たれているのです。 
逆に糞虫の活動が落ちると、地上に残る溜め糞の規模は大きくなります。 
ちなみに、街なかで飼い犬や野鳥の糞が大問題になるのは(糞害問題)、現代人が勝手な都合で地面をアスファルトやコンクリートで埋め立てたり殺虫剤を撒いたりした結果、掃除屋の糞虫が活躍できないよう締め出したからに他なりません。 

他にも得体のしれない虫たちが林床を日夜動き回っていることが分かります。 
そうした糞虫などを捕食しようと、次は野鳥たちが溜め糞場に通って来ます。 

夜になると野ネズミが活動します。
種子散布の本に書いてあった通りに、溜め糞に含まれる未消化の種子や糞虫を野ネズミが食べるのではないか?と期待したのですが、そのような決定的な証拠映像はなぜか未だ撮れていません。
正直に言うと、本の記述(先人たちの研究結果)に疑いを持ち始めています。
私の見ているフィールドは他と何が違うのでしょう?

タヌキとアナグマは少し離れた地点に排便していた(平和に棲み分け)のですが、ある日アナグマが急にタヌキの溜め糞場のすぐ横に対抗するように排便しました。 
糞便による2種間の勢力争いも興味深いドラマです。

教科書に書いてあるような、溜め糞場を巡る生態系や食物連鎖、生物多様性を身近なフィールドで実際に目の当たりにすると感動します。 

この撮影手法はやって来る動物次第なので、撮影間隔がどうしても不定期になってしまいます。 
糞虫の日周活動を本格的にタイムラプス動画で記録するのなら、静止画でインターバル撮影(例えば5分間隔)する設定にしても面白いかもしれません。 
ただし、そうすると今度は恒温動物(哺乳類と鳥類)が滅多に写らなくなってしまうでしょう。 
動画用とインターバル写真撮影用と2台のトレイルカメラを併設できれば理想的です。 

2023/03/31

溜め糞上でキバネクロバエ?狩りに失敗し、互いに縄張り争いをするサビハネカクシ

 



2022年9月下旬・午後13:50頃・晴れ 

里山の急斜面を直登する細い山道が廃れて、藪に覆われた獣道になっています。 
その廃道に新旧の下痢便が点々と2箇所にまとめて残されていました。(溜め糞場w) 
今回はホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残した溜め糞と思われる、もう一つの糞塊に注目します。 
やや古い(乾いた)糞塊上で2匹のサビハネカクシOntholestes gracilis)が尻尾をくねらせながら、互いに追いかけあっていました。 
大小の体格差があるのは、幼虫期の栄養状態を反映した個体差なのか、それとも性差なのか、どちらでしょう? 
出会い頭につっかかるように突進(攻撃・牽制?)しています。 
最後は体格の大きな個体が小さな個体を追い払いました。 
同種ですら獲物と認識しているというよりも、どうやら狩場を巡る占有行動のようです。 
以前の観察では、小さい個体が大きい個体を追い払ったので、単純に体長で勝敗が決まるとは言えません。
関連記事(1年前の撮影)▶ タヌキの溜め糞上でハエを襲うサビハネカクシ同士が出会うと…?

その間、おそらくキバネクロバエMesembrina resplendens)と思われる1匹のハエが溜め糞で吸汁していました。 
サビハネカクシが襲いかかっても、敏捷性に優れるキバネクロバエ?は易々と攻撃を交わし、素早く飛んで逃げました。 
獣糞に来るハエをすべて追い払ってしまうと産卵してくれませんから、獲物として捕食しやすいウジ虫が増えるように、ある程度は見逃してやる必要がありそうです。
肉食性のサビハネカクシが狩りに成功するシーンを私は未だ観察できていません。

ところで、撮影中に周囲で聞き慣れないカエルの鳴き声♪がするのですが、何ガエルですかね?
虫が逃げてしまった後のタヌキ?溜め糞場w

2023/03/28

草の根元に潜り込もうとするシロテンハナムグリの謎

 

2022年9月下旬・午後12:25頃・晴れ 

里山の尾根道を縦走していたら、何か大きな昆虫がブーン♪と重低音の羽音を立てながら低く飛んで来ました。 
着陸した虫の正体はシロテンハナムグリ(Protaetia orientalis submarumorea)でした。 
(映像はここから) 

イネ科の草が疎らに生えた尾根道をウロウロと歩き回り、なぜか草の根際に頭をグイグイ突っ込んで潜り込もうとしています。 
自力で深い穴を掘る力は無いようで、結局は草の根元を反対側に通り抜けてしまいました。 
一体シロテンハナムグリは何がしたいのでしょうか? 
根掘り葉掘り聞いてみたいところです。 

草の根を食べるのかと一瞬思ったのですが、シロテンハナムグリ成虫の口器は樹液や花蜜、花粉などを舐め取るだけで、草の根を噛み切って食べることはできないでしょう。
幼虫ならあり得るかもしれません。
しかしネット検索しても、シロテンハナムグリ幼虫は芝生の害虫とはされていないようです。 
私にはシロテンハナムグリ成虫の性別を外見から見分けられない(見分け方を知らない)のですけど、産卵目的の♀なのでしょうか? 
それとも地中から羽化してくる♀を待ち伏せして交尾したい♂なのかな? 
単に穴を掘って隠れたいだけなのかもしれません。


関連記事(10年前の撮影)▶ マメコガネ:謎の穴掘り行動

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