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2023/06/18

交尾中のベッコウバエ♀♂に繰り返しアタックするハクサンベッコウバエ♂の謎(誤認求愛? 縄張り争い?)

 

2022年11月上旬・午前11:45頃・くもり 

山林の小径に残されたホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場dには、ベッコウバエ♀♂(Dryomyza formosa)だけでなくハクサンベッコウバエNeuroctena analis)も少数ながら来ていました。 




イタヤカエデの黄色い落ち葉の上で交尾を始めたベッコウバエ♀♂の背後にハクサンベッコウバエ♂が飛来しました。 
私には外見でハクサンベッコウバエの性別を見分けられませんが、その後やった行動から♂と思われます。 

翅を半開きにして交尾しているベッコウバエ♂の背後からハクサンベッコウバエ♂が忍び寄り、いきなり跳びつきました! 
ハクサンベッコウバエ♂が別種の♂に対して誤認求愛してしまったのでしょうか? 
同じベッコウバエ科ですが、別種で体格も異なります。 
ハクサンベッコウバエ♂の眼には、巨大な同種♀が近くに居るように見えて、その魅力に抗えずに求愛してしまうのかもしれません(超正常刺激)。 
しかしハクサンベッコウバエ♂は相手に触れた瞬間に間違いに気づいたらしく、すぐに離れました。 

背後から不意打ちを食らったベッコウバエ♂は、直ちに左右の前脚を大きく開いて持ち上げ、交尾相手の♀を奪われないように撃退・牽制の姿勢になりました。(配偶者ガード) 
衝撃に驚いたベッコウバエ♀は、同種♂を背負ったままイタヤカエデの落ち葉から前進して溜め糞の上に移動すると、口吻を伸ばして吸汁し始めました。 

驚いたことに、逃げたベッコウバエ♂に対してハクサンベッコウバエ♂が再び背後から飛びかかりました。 
ベッコウバエ♂は翅を斜め上に持ち上げ、前脚を高々と上げて、撃退ポーズを取ります。
(翅を震わせてリリースコール♪を発していたら面白いのですが、それは無さそうです。) 
ベッコウバエ♂の翅先に乗ったハクサンベッコウバエ♂は、自らの誤認に気づいて離れました。 
翅の黒い斑点模様がベッコウバエに特有のトレードマークです。
それを見れば明らかに別種だ(ハクサンベッコウバエではない)と気づくはずなのに、ハクサンベッコウバエ♂は懲りずに同じ相手に誤認求愛を繰り返しています。 
学習能力が全くありません。
薄暗い林床では視覚による認識がおぼつかなくなり、誤認が増えるのかな? 

もしも配偶者ガードするベッコウバエ♂が居なかった場合、体格の小さなハクサンベッコウバエ♂が、体格の大きな異種のベッコウバエ♀に誤認したまま交尾を挑むことがあり得るのでしょうか? 
だとすれば、異種間の繁殖干渉ということになります。 

秋の溜め糞場で最も興味深く、興奮した事件でした。
訳が分からないので、頭をひねって別の仮説をひねり出しました。 
ハクサンベッコウバエ♂は溜め糞の横で交尾相手の同種♀が飛来するのを待ち伏せしているはずです。 
今回見られたハクサンベッコウバエ♂の行動は、集団お見合い場となっている溜め糞からライバルを追い払う占有行動なのでしょうか? 
体格差をものともせずにベッコウバエに何度も飛びかかるハクサンベッコウバエは相当な闘士(ファイター)です。 
繰り返しアタックされたベッコウバエは確かにタジタジで少し離れて行きました。
それにしても、別種であるベッコウバエをライバルとみなす意味が分かりません。 

ハクサンベッコウバエ♂の同種♀への求愛が成就して交尾に至る過程を未だ観察できていないので、それが今後の課題です。 


英語版wikipediaには同属近縁種(Dryomyza anilis)に関する解説ページが立項してあり、交尾行動についても詳しく書かれていました。

2023/06/17

シロツメクサの花で求愛するヒメシジミ♂と交尾拒否する♀【FHD動画&ハイスピード動画】

 

2022年6月下旬・午後13:00頃・晴れ 

翅の色で性別をかんたんに見分けることができるヒメシジミPlebejus argus micrargus)は、配偶行動の観察に向いています。 
河川敷に咲いたシロツメクサの花で吸蜜する♀を撮っていると、同種の♂が飛来しました。 
♀の背後からぶつかってきた♂は、同じシロツメクサ頭花に止まると、♀に求愛アタックを始めました。 
細長い腹部を♀の方へ曲げて、隙あらば交尾するチャンスを狙っています。(@0:10〜) 
しかし、この♀は交尾する気がないようです。 
♂に対してなるべく正対するように、シロツメクサ頭花上で♂から逃げ回りながら吸蜜を続けています。 
背後を取られないように♂と顔を突き合わせていれば、♂の交尾器は届きません。 
シロチョウ科の♀では翅を開いて腹端を高々と持ち上げることで♂に交尾拒否の意思表示をしますが、シジミチョウ科のヒメシジミ♀はそのような分かりやすい交尾拒否行動をしませんでした。 

脈がないと分かった♂は少し吸蜜してから、潔く諦めて飛び去りました。 
♂のセクハラから解放された♀は、しばらく吸蜜を続けてから飛び立ち、隣に咲いたシロツメクサの花へ移動しました。 


続けて240-fpsのハイスピード動画でもヒメシジミの交尾拒否行動を撮ることができました。(@0:51〜) 
※ 実は、撮影順は逆です。 
慌てて撮り始めたので、ピントが甘いのが残念です(奥ピン)。 
ハイスピードモードでは固定焦点なので、合焦するように私が撮りながら一歩下がれば良かったですね。
しかし晴れた野外だと眩しくてカメラのバックモニターがよく見えず、ピントが確認しにくいのです。 

ヒメシジミの♀♂が同じ集合花に訪花しています。
♂は青い翅表を見せつけるように翅を半開きにしたまま、歩いて♀に近づきます。 
一方、♀は翅を閉じたままで、シロツメクサの花の下部に隠れています。 
シロツメクサの集合花は小さな蝶形花が下部から順に枯れていくので、下部に隠れた♀は吸蜜できません。 
つまりヒメシジミの♀にとって、♂のセクハラを回避するための行動は、吸蜜活動の機会損失になります。
ここでも♀は♂に背後を取られないように逃げ回っています。(交尾拒否) 
♀の同意がなければ交尾が成立しないのです。

痺れを切らした♂が花から飛び立つと、♀の周囲を激しく飛び回り始めました。(求愛飛翔) 
飛びながら♀の体に何度も軽く体当たりしています。 
♂がシロツメクサの茎に止まって羽ばたき、盛んにアピールしても、♀は交尾する気がありません。 
♀が♂と正対しながら閉じていた翅を半開きにしたのが交尾拒否の強い意思表示なのかな? 
よく見ると、♀は前脚や中脚も激しく動かして「来るな来るな」と正面に居る♂を牽制しているようです。 
ヒメシジミの脚は短いので、「しつこく迫る♂を足蹴にする」と言うほどの迫力はありません。 
遂に♂は求愛を諦めて飛び去りました。 

撮影アングルがいまいちで、交尾拒否のヒメシジミ♀が腹部を高々と持ち上げていたかどうかなど詳しい体勢がよく見えませんでした。 
♂が去ってからもヒメシジミ♀がシロツメクサの茎に居残っていると、その茎を下からクロアリ(種名不詳)が登ってきました。 
すると、蟻を嫌がった♀が慌てて飛んで逃げました。 
羽ばたいた際に翅表が初めて見れて、地味な茶色であることから♀と確認できました。 


2023/06/15

ベッコウバエ♂の配偶者ガード:横恋慕するあぶれ♂を足蹴にして撃退

 



2022年11月上旬・午前11:55頃・くもり 

ホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場dで繰り広げられる ベッコウバエ♀♂(Dryomyza formosa)の配偶行動が面白くて観察しています。 

糞塊の横でイタヤカエデの黄色い落ち葉に「あぶれ♂」が乗っていて、交尾相手の♀が溜め糞に飛来するのを待ち伏せしています。 
そのあぶれ♂が翅を半開きにピクピク動かすようになり、目の前で交尾していた♀♂ペアに跳びつきました。 
あぶれ♂は目の前で動くものに対しては、とにかく何にでも飛びついてみるようです。(誤認求愛) 

実は、このイタヤカエデの落ち葉に乗っていた個体は腹背が黒っぽかったので、てっきり♀だと初めは思い込んでいました。 
ところが、横から見ると黄色がかっていて、黄色の毛があまり密生していない♀♂中間型の個体でした。 
その後の行動を見る限り、♂で間違いなさそうです。 
♂なのに♀のふりをして油断させつつ交尾のチャンスを狙うスニーカー戦略の♂だとしたら面白いのですが、どうでしょうか? 

溜め糞に居る交尾ペア♀♂aをよく見ると、実際には交尾器を結合していない状態でマウントを続けており、配偶者♀をライバル♂bから守っている(交尾後ガード)、と表現するのが正しいです。 
♂が自分の遺伝子を確実に次世代に残すためには、交尾した♀が産卵するまで他の♂と浮気しないようしっかりガードする必要があるのです。
実際に、♂aは♀にマウントしながら中脚を伸ばしてあぶれ♂bが配偶者♀に近寄らないよう牽制し、強引に飛びかかってきたら蹴って撃退しました。 

足蹴にされたあぶれ♂bはあっさり諦めて、横のイタヤカエデ落ち葉にすごすごと戻りました。 
交尾中のペアに割り込んで♀を強奪することはありません。 
体格を比べると、今回は交尾後ガードをしている♂aがあぶれ♂bに勝っていました。 
もしもあぶれ♂の方が体格が大きければ、♀を奪い取って交尾できるのでしょうか? 
(私は♀の強奪シーンを未だ一度も見たことがありません。)

つづく→

2023/06/12

タヌキの溜め糞場で交尾を始めたベッコウバエ♀♂(求愛成就)

 

2022年11月上旬・午前11:45頃・くもり 

山林の斜面をトラバースする小径にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残した溜め糞場dがあります。 
晩秋の小径には黄葉したイタヤカエデの落ち葉が敷き詰められていました。 
タヌキの新鮮な糞は下痢便(泥状)で、少し古い糞には白いケカビが生えかけています。 
糞塊にはベッコウバエ♀♂(Dryomyza formosa)が群がり、婚活パーティーが繰り広げられていました。 
私が溜め糞に近づくと警戒して一斉に飛び去ってしまいましたが、しばらくすると少しずつ戻ってきます。 

溜め糞の横にあるイタヤカエデの黄色い落ち葉の上でベッコウバエ♀♂が出会い頭にいきなり交尾を始めました。 
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。 
ベッコウバエの性別は腹部の色で簡単に見分けられます。 
♀の腹部は真っ黒で、♂の腹部には黄金色の剛毛が密生しています。 
イタヤカエデの落ち葉に乗っていた♀の正面から♂が翅を震わせながら近づき、そのまま♀に馬乗りになると、向きを変えて(頭の向きを揃えて)マウントしました。 
♀の背後からマウントした♂は、すかさず黒い交尾器を伸ばして♀に挿入したようです。 
♂の求愛が成就して交尾が始まる瞬間を初めて観察できました。 
どうもベッコウバエには儀式的な求愛行動というものは無いようです。 
強いて言えば、翅を素早く開閉して翅の黒い斑点模様を誇示するのが求愛なのかな? 
♂が求愛しても♀に交尾拒否される場合がほとんどなのですが、求愛の成否は何によって決まるのでしょう? 
♀が何らかの基準で♂を選り好みしているのか、それとも羽化した♀は♂と生涯で一度しか交尾しないのでしょうか? 

少しズームアウトすると、交尾中の♀♂ペアの少し上のイタヤカエデ落ち葉にあぶれ♂が乗って♀を待ち伏せしていました。 
交尾中の♂は、別のハエが飛来すると翅を半開きにして軽く震わせ、牽制・撃退します。(配偶者ガード) 
しばらくすると、♀と連結していた♂の交尾器が外れました。(@1:50〜) 
伸びた状態の♂交尾器がよく見えます。 
ベッコウバエの交尾時間は意外に短いようです。

2023/06/06

誰彼構わず(♂にも)交尾を挑むベッコウバエのあぶれ♂

 

2022年11月上旬・午後10:30頃・晴れ 

湿地帯を囲むコンクリート護岸に残されたホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場uを久しぶりに見に来たら、新鮮な糞が追加されていました。 
糞にたくさん含まれている黄色い粒は、未消化のトウモロコシのようです。 
この近くに飼料用のデントコーンを栽培する畑があったので、タヌキがそこで収穫後のトウモロコシ落ち穂を拾い食いしてきたのかもしれません。 
それとも、近所で生ゴミや残飯を漁ってトウモロコシにありついたのかな?

ベッコウバエDryomyza formosa)の♀♂ペアが交尾しながら口吻を伸縮させて獣糞を舐めていました。 
獣糞上を歩き回る♀♂ペアがバランスを崩して横倒しになり、ようやく♀の姿も見えました。
ベッコウバエは腹部の色で性別をかんたんに見分けることができます。 
♀の腹部は黒く、♂は黄土色で黄金色の毛が密生しています。 
よく見ると、♀にマウントした♂aは交尾器を結合しておらず、♂aは配偶者ガード(交尾後ガード)しているところでした。

やがて、あぶれ♂bが登場します。(@0:44〜) 
実は冒頭のシーンから溜め糞上に来ていました。 
糞塊をせかせかと歩き回り、交尾ペア♀♂aに正面から近づきました。 
そのまま交尾ペアの♂aにマウントしたものの、すぐに相手が♀ではないと気づいて自発的に離れました。 
交尾後ガードしている♂aがあぶれ♂bを撃退したようには見えませんでした。 

しばらくすると、更に別個体♂cが糞塊に飛来しました。 (@1:06〜)
1/5倍速のスローモーションでリプレイすると(@1:33〜)、腹背が黒くないのでcは♀ではなく♂と分かります。 
♂cが溜め糞に着地した瞬間に横に居たあぶれ♂bが反応して向き直り、正面から飛びつきました。 
背後からマウントしながら方向転換して体の向きを揃えたものの、交尾には至らず離れました。 
今回は飛びついた相手cが♀ではなく♂だと気づくのに少し時間がかかりました。 
飛びつかれた♂がヒキガエルのようにリリースコール(「離せ!」)を発音していたら面白いのですが、私の耳には聞き取れませんでした。
♂bに襲われた♂cは驚いて(嫌がって?)飛び去ってしまいました。 
失敗続きでも、あぶれ♂bはめげません。 
あぶれ♂bは苛々と翅を素早く開閉して黒い斑点模様を見せつけながら、再び交尾ペア♀♂aにアプローチしました。 
再度♂aにマウントを試みるも、誤認求愛と気づいて離れました。

ベッコウバエの♂は♀に対して儀式的な求愛行動をしないようです。(翅紋誇示が求愛なのかな?)
いきなり相手に飛びついて背後からマウントします。 
しかもベッコウバエ♂は周囲で動くハエには誰彼構わず飛びついて交尾を挑むことが分かりました。 
相手に触れてみて初めて性別が認識できるようです。 
♂同士の闘争で交尾中の♀♂ペアから♀を強奪することはありませんでした。 

2023/06/05

オオチャバネセセリの求愛と交尾拒否【ハイスピード動画】

 



2022年7月上旬・午後16:25頃・くもり 

里山の道端でウツボグサの花で吸蜜するオオチャバネセセリ♀(Zinaida pellucida)を 240-fpsのハイスピード動画で撮っていると、♂との配偶行動が記録できました。 

シーン1: ♀がウツボグサの花から飛び立つと、背後から飛来した♂がすかさず♀を追尾します。 (探雌飛翔)
オオチャバネセセリの羽ばたきがあまりにも速いので、更に1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@0:21〜) 


シーン2:(@0:49〜) 
オオチャバネセセリ♀は隣の株のウツボグサで花蜜を吸っています。 
♂はその少し下のススキの茎に止まりました。 
♂は閉じた翅を小刻みに震わせながら(準備運動・アイドリング?)、右の触角で♀の翅に触れています。 
やがて♂が飛び上がって♀の目の前で少しホバリングしてから、近くのウツボグサの葉に止まり直しました。(アイドリング・ストップ) 
♂に求愛された♀は逃げなかったものの、吸蜜を止めてしまい、ゼンマイ状の口吻をくるくると丸めて収納しました。 

こうしてペアで並ぶとサイズは♀>♂で、翅形にも微妙な性的二型が見られます。 
後翅裏の白斑は♂よりも♀でより発達していました。 
この♂個体が単独で居る時に翅裏の斑紋を見たら、私にはオオチャバネセセリと見抜ける自信がありません。 
(もしも、この♂がオオチャバネセセリではなくて別種ならば、今回の動画は異種間の誤認求愛や繁殖干渉を記録したものになります。)

オオチャバネセセリ♀がしがみついていたウツボグサの唇形花は足元が不安定で、♀は隣接するススキの葉に歩いて移動しました。 
横で待機していた♂は、その動きに反応して飛び立ち、♀の背後で少しホバリングしてから、♀の真下のウツボグサの葉に止まり直しました。 

やがて、♀は翅を閉じたままで小刻みに震わせ、準備運動を始めました。(@2:31〜) 
しばらくすると♂が飛び立ち、♀の近く(主に後方)でホバリングを披露しました。 
このとき♂は♀に対して視覚的にアピールしているだけなのか、それとも性フェロモンを♀に嗅がせているのでしょうか? 

♀の直下のススキの葉に着地した♂は閉じた翅を小刻みに震わせています。 
翅をしっかり閉じたままで飛翔筋のアイドリング・ストップしていた♀がアイドリングを再開しました。 
♂が再び飛び立って、♀にアピールします(@3:55〜)。 
しかし♀は交尾に応じてくれず、脈なしと判断した♂は紳士的に飛び去りました。(@4:03〜) 
その後も♀は閉じた翅を小刻みに震わせています。 
♂のセクハラを上手くやり過ごした♀が訪花行動に戻るまで私は待ちきれず、撮影終了。 

残念ながら交尾には至らなかったものの、オオチャバネセセリの配偶行動は初見です。 
オオチャバネセセリ♀の交尾拒否行動はシロチョウ科のように明瞭ではなく、私にはよくわかりませんでした。 
シロチョウ科♀の交尾拒否で見られるような腹端の持ち上げ行動は見られませんでした。 
♂に求愛されて翅を広げれば受諾で、閉じたままなら交尾拒否なのかな? 


関連記事(1、2年前の撮影)▶ 

2023/05/25

タヌキの溜め糞に群がるハクサンベッコウバエ♀♂の諸活動【10倍速映像】

 

2022年10月下旬・午後14:55頃・くもり 

山林の斜面をトラバースする小径にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残した溜め糞場dの横に三脚を立てて微速度撮影してみました。 
10倍速の早回し映像をご覧ください。 
10分間長撮りしてみても、つい先程獣糞に潜り込んだヨツボシモンシデムシは二度と表に現れませんでした。 
糞塊がモコモコと上下に動かなかったということは、中に糞虫は潜んでいないようです。 

下痢便状のタヌキの糞にはハクサンベッコウバエNeuroctena analis)が群がっていました。 
獣糞上で待ち伏せしていた♂が飛来した♀に飛びつき、カップルが成立しました。 
交尾は早い者勝ちのようです。 
体格は♀<♂で♂同士の熾烈な♀獲得闘争があるはずなのに、交尾が始まると横恋慕したり強奪したりすることはありませんでした。 

左上にある枯れ葉の上でもハクサンベッコウバエ♀♂が交尾しています。 
他には獣糞を吸汁したり身繕いしたりしています。 

途中から(@0:30〜)画面の右下に居座っているハクサンベッコウバエ(♂?)に注目すると、溜め糞上を徘徊する微小なクロアリ(種名不詳)を追い回しました。 
さすがに誤認求愛ではないはずですが、占有行動なのかな?

現場はスギ植林地と雑木林の境界で、かなり薄暗い林床でした。 
動画編集時に自動色調補正したら、暗い映像が劇的に改善しました。 
副作用として、ハクサンベッコウの体色が少しどぎつく強調されてしまったかもしれません。 

次に機会があれば、ハクサンベッコウの配偶行動を微速度撮影ではなくリアルタイムで動画撮影するつもりです。

2023/05/23

山道の笹薮で群飛するオオスズメバチ♂(探雌飛翔?)

 

2022年10月下旬・午前11:20頃・晴れ 

私が里山の山道を登っていると、横の笹薮でオオスズメバチVespa mandarinia japonica)がブンブン飛び回っていました。 
林道上の砂利に着陸した個体にズームインすると、触角の長い雄蜂♂でした。 
激しく腹式呼吸をしながら日光浴しています。 
右に向きを変えてから飛び立ちました。 
離陸の瞬間を1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@0:38〜0:50) 
秋晴れで日差しが強いので、飛び去る影も美しく写っていました。 

多数のオオスズメバチが忙しなく飛び回るので、どこに注目してズームインすべきか目移りしてしまいます。 
どうやら林道脇にぎっしり生い茂った笹薮の下にオオスズメバチの地中巣がありそうな気がします。 
何者か(ツキノワグマやハチクマなど)に巣を襲われた後で、コロニー全体が興奮しているのでしょうか? 
だとしたら危険なので、一刻も早くこの場を離れるべきです。 
ちなみに、この山道は最近きれいに整備され、道の両脇から伸びていた邪魔な灌木が伐採されていました。

群飛の様子を1/5倍速のスローモーションでリプレイしてみると(@1:20〜)、営巣地に出入りする外役ワーカー♀の動きには見えませんでした。 
どうやら雄蜂♂が笹藪の方を向いて、交尾相手の新女王が出てくるのを待機しているようです。 
笹藪の横の林道に着陸しかけた♂が上空を飛ぶ別個体の動きに反応して急発進し、慌てて追尾していました。 
スズメバチの交尾は早い者勝ちですから、焦った♂同士の誤認求愛と追いかけっこによって群飛が発生しているのはないかと思います。 
ただし、飛び回っている個体が全て♂かどうか映像では見極められませんでした。 

オオスズメバチ♂の群飛(探雌飛翔)をハイスピード動画でも記録したかったのですが、1匹がこちらに向かって飛んできたので、恐れをなして慌ててその場を離脱しました。 
本当に雄蜂♂だけなら刺される心配は無用ですが、オオスズメバチ♀には痛い目にあっているので用心するに越したことはありません。
もう少し粘ったら、オオスズメバチの交尾が観察できたかもしれません。 
営巣地と思しき笹藪からもう少し離れて安全な距離から撮影したくても、林道の幅が狭いので無理でした。 

※ 蜂の重低音の羽音が聞き取れるように、動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。 


オオスズメバチの配偶行動の研究で学位を取った小野正人『スズメバチの科学』によると、
地中に営巣し地表に開口した巣門周辺で認められる本種(オオスズメバチ:しぐま註)の配偶行動は(1)巣門から外へ発散されている揮発性の集合フェロモンによる野外雄蜂♂の多数誘引と、(2)その巣から離巣しカースト特異的な性フェロモンを分泌している新女王蜂と被誘引雄蜂♂との交尾という2段階で成り立っている (p111より引用) 

今回私が観察したのは、まさに(1) の段階ではないかと思います。

私の鼻では現場でフェロモンの匂いを全く嗅ぎ取れませんでした(無臭)。

・特に 注目されるのは、集合フェロモンが働き蜂からも分泌されている点である。(同書p111より引用)

・集合フェロモンにより巣の周りに雄蜂♂を集めて堂々と交尾を行う戦略は同所性の他5種には認められない。

・実際に雄蜂♂の交尾行動を解発する機能をもつ新女王蜂に特異的な性フェロモンに関しては同属内で種間交差活性があることも明らかにされている。すなわち、雄蜂♂と新女王蜂の異種間の掛け合わせ実験において、すべての組合せで雄蜂♂は異種の新女王蜂にさえも交尾行動を起こす(同書p112より引用)


対スズメバチ専用の高価な防護服を持っていない私が笹薮にズカズカと踏み込んで調べるのは自殺行為です。 
コロニーが解散する初冬になったら(根雪が積もる前に)現場を再訪して、笹藪の奥にオオスズメバチの巣の有無を調べるつもりでした。 
ところが、携帯していたGPSがこの日に限ってなぜか不調で、位置情報を正確に記録してくれませんでした。 
できればオオスズメバチの巣を発掘調査したかったのに、残念ながら二度と行けなくなりました。(幻の営巣地) 

関連記事(13年前の撮影)▶  

2023/05/08

モクゲンジの花で吸蜜するモンシロチョウ♀に交尾拒否されてもしつこく求愛する♂【ハイスピード動画】セクハラ

 



2022年7月中旬・午前11:20頃・晴れ 

モクゲンジの花で吸蜜するモンシロチョウ♀(Pieris rapae)を240-fpsのハイスピード動画で撮っていると、背後から♂が飛来しました。 
途端に♀は閉じていた翅を開き腹部を高々と持ち上げました。 
これは教科書通りの「モンシロチョウ♀の交尾拒否」行動です。 
それでも♂が求愛を続けるので、♀は花から落ちるように飛んで逃げました。 
逃げた先でも再び♂にしつこく迫られ、♀は交尾拒否と逃避を繰り返します。 
探雌飛翔していた別個体の♂もそこへ参戦し、三つ巴の激しい乱舞になりました。 

交尾済みの♀はもう交尾する気がないのに、絶倫の♂にしつこく絡まれて迷惑しています。 
モンシロチョウの♂は♂で自分の遺伝子を残そうと必死なのです。 
産卵前の栄養補給に支障を来すほど♂のセクハラが激しいと、♀の適応度(繁殖成功度)を下げてしまいます。(性的対立) 
昆虫の種類によって、♀に断られた♂があっさり諦めて紳士的に離れるものと、♂の諦めが悪いものがいます。
モンシロチョウでは♀の交尾拒否行動が確立しているのに、♂が諦めず執拗に求愛するということは、わずかながらも交尾に至るチャンスがあるのでしょう。(嫌よ嫌よも好きのうち)
♀の訪花シーンは写真に撮ってなくて、この個体は♂

2023/05/04

イチモンジセセリの求愛と交尾拒否@クルマバナ花

 



2022年7月中旬・午前11:30頃・晴れ 

休耕田に咲いたクルマバナの花でイチモンジセセリ♀(Parnara guttata)が吸蜜していると、同種の♂が飛来して♀の背後に止まりました。 
体格は♀>♂で、♂の方が小型でした。 
腹端の形状や毛束の有無でもイチモンジセセリ♀♂の性別を見分けられそうです。 

♀の背後から♂は前脚で♀の翅を触れました。 
この行動は同種であることの最終確認なのか、それとも求愛行動の一環なのかな? 
♀は閉じた翅を小刻みに震わせて交尾拒否の意思表示をしました。 
私はイチモンジセセリ♂の求愛が成就して交尾に至る例を未だ観察できていないのですが、♀は♂を受け入れると翅を広げるのではないかと予想しています。

関連記事(2、5、9年前の撮影)▶ 


イチモンジセセリ♂が少し飛んで♀の横に移動しても、♀は無視して吸蜜を続けています。 
♀が飛んで逃げても、♂は気づいてないのか♀を追尾しませんでした。 
昆虫の世界でも♂が♀にしつこく強引に迫るとセクハラになりますが(♀にとっては大迷惑)、イチモンジセセリ♂の求愛は紳士的で♀の意思を尊重してくれるようです。 

1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@0:39〜)

2023/04/27

タヌキの溜め糞場で婚活するベッコウバエ♀♂の群れ(交尾、翅紋誇示、誤認求愛、交尾拒否)

 

2022年10月中旬・午後15:00頃・晴れ 

ニセアカシア河畔林の木の下にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残した溜め糞場rvに久しぶりに来てみると、溜め糞が復活していました! 
一時期はトレイルカメラを設置して監視していたのですが、他のプロジェクトのためカメラを撤去し、それと共に私の足も遠のいていました。 
ヒトの気配が無くなったのでタヌキが警戒を解いてくれ、ここにまた通い始めたのでしょうか。 
やはりタヌキたちもトレイルカメラの存在に気づいて嫌がっていたのでしょうか?
この点については結論が出ておらず、私の気にし過ぎかもしれません。
溜め糞の消長には環境の季節変化やタヌキ側の事情もありそうです。

木漏れ日に照らされたタヌキの糞にベッコウバエ♀♂(Dryomyza formosa)の大群が群がっていました。 
私が下手に近づくと皆一斉に逃げてしまうので、まずは少し離れたところから望遠マクロで撮影します。 
黒々としたタヌキの糞塊が2箇所に残されていて、その1つにベッコウバエが集まっています。 
冒頭シーンで数えると22匹ものベッコウバエが来ていました。 
ベッコウバエの性別は腹部の色で容易に見分けられ、♀は黒光りしていて♂は黄金色の毛が密生しています。 

糞塊の表面にまぶされている白いフレーク状の欠片は植物の種子ではなく、ベッコウバエの卵です。 
大量に産み付けられていました。 

交尾中の♀♂ペアにズームインしてみると、体格は♂>♀でした。 
横から見ると腹部の色の性差がよく分かります。 
体格の性的二型は、♀を巡って♂同士の闘争行動があることを示唆しています。 
♂が♀に背後から乗ってマウントしているものの、交尾器は結合していませんでした。(交尾中ではない) 
おそらく♂は♀が産卵するまでライバル♂と浮気されないように交尾後ガード(配偶者ガード)しているのでしょう。 
♂にマウントされた♀はひたすら獣糞を吸汁しています。 

次はあぶれ♂の行動に注目してみましょう。 
獣糞の上を歩き回りながら翅を小刻みに開閉して翅紋を誇示しているのは求愛行動なのでしょうか。 
あぶれ♂は手当たり次第に周囲のベッコウバエに飛びついています。 
♂が♂に飛びつくのは同性愛的な誤認求愛ではなく、一種のマウンティング(優劣行動)や縄張り占有行動なのかもしれません。 
獣糞を吸汁したり身繕いしたりしている単独♀にあぶれ♂が飛びついても、なぜかすぐに別れました。 
このとき単独♀は翅を動かしておらず、交尾拒否の意思表示をどう示したのか分かりませんでした。 
単独♀が腹端を下に屈曲させていたので、産卵中だったのかな? 
あぶれ♂は交尾中(交尾後ガード中)の♀♂ペアにも飛びついて♀を強奪しようとしています。 
しかし交尾中の♂が脚を横に突き出して「来るなよ」とあぶれ♂を牽制するので、諦めました。 
あぶれ♂は苛々と翅紋誇示しながら溜め糞上を徘徊しています。 

今回はベッコウバエの他に糞虫などは見つかりませんでした。
(少なくとも獣糞の表面には居らず) 
糞塊の中をほじくってしっかり探すべきでしたね。

2023/04/23

キタキチョウ♂の叶わぬ恋?:キカラスウリの黄葉に誤認求愛

 

2022年10月中旬・午後14:35頃・晴れ 

民家の外壁を覆うように雑草の蔓植物が繁茂して、天然の壁面緑化のようなマント群落を形成しています。 
軒下にはジョロウグモNephila clavata)が網を張り巡らせています。 
その壁際になぜか執着して1頭のキタキチョウEurema mandarina)が思わせぶりな飛び方をしていました。 
近くにはセイタカアワダチソウの花が咲いていて、蜜源植物には事欠かないはずなのに、わざわざ壁際に固執する理由が分かりません。 
遠目からはクモの網に何度もアタックしているように見えたので、不思議に思ってズームインしてみました。 
クモの網に捕まった♀に対して♂が求愛しているのかと初めは思ったのですが、その予想も外れました。

どうやらキタキチョウはキカラスウリの黄葉に興味を示しているのに、手前に張られたクモの網が邪魔で近づけないことが分かりました。 
同じキカラスウリでも緑の葉には興味がありません。
♂による誤認求愛だとすると、非常に興味深い行動です。 
障害があるほど恋心が燃え上がるのでしょうか。
もしクモの巣が無ければキカラスウリの黄葉に着地して足で触れてみて、同種の♀ではないと確かめて飛び去るはずです。 

キタキチョウ幼虫の食草はマメ科植物(クズは除外)なので、成虫♀が産卵目的で飛来したという訳でもなさそうです。 
マント群落にはキカラスウリの他にクズ(マメ科)の葉も生い茂っていますが、それに対してキタキチョウは全く興味を示しませんでした。 

もう一つ別の可能性として、茂みの奥に羽化間近の♀の蛹があるのかもしれません。 
羽化したら真っ先に交尾しようとキタキチョウ♂が引き寄せられたのでしょうか? 
しかし映像を何度見直しても、蛹は見当たりません。 


最後にキタキチョウはようやく諦めて飛び去りました。
その間、馬蹄形円網の主のジョロウグモ♀は全く無反応でした。 
誘蛾灯の近くに造網するクモがよく育つように、周囲の植生が黄葉し始めたおかげでジョロウグモの捕虫網にキタキチョウ♂がよく掛かるようになったら面白いですね。

キタキチョウが落ち着きなく飛び回るので、肝心の性別が見分けられませんでした。 
ハイスピード動画に切り替えれば良かったかもしれません。 
キタキチョウの性別は、大雑把に言うと翅の黄色が濃い方が♂で、薄い(白っぽい)方が♀です。
今回の飛翔個体は黄色い♂のような気がするのですが、日差しが強くて白飛び気味の映像になり、確信がもてませんでした。

紫外線カメラで撮ればキタキチョウの性別を簡単に見分けられるのだそうです。
・シロチョウ科のキタキチョウは♂の黄色い部分が紫外線を反射し、♀は吸収した。(中略)このキタキチョウの♂の翅は撮影する角度によってその紫外線反射量が変化した。これは構造色の発色のしかたと似ている。 (p24より引用)
・♂のキタキチョウはモルフォチョウと同じ構造で紫外線だけを反射している。それも少し角度が変わるだけで大きく変化する。(中略)キタキチョウは紫外線反射により、互いに雌雄を容易に見極めている。 (p25-26より引用)

紫外線カメラでキカラスウリの黄葉を写真に撮ったら、キタキチョウ♀と似て見えるかどうか、誰か調べてみませんか?

 

2023/04/12

柳の樹液酒場でスジクワガタ♀に誤認求愛するコクワガタ♂(繁殖干渉の配偶者ガード?)

 

2022年9月上旬・午後14:00頃・晴れ 

平地を流れる川沿いに生えた柳(種名不詳)から樹液が滲み出していて、その樹液酒場に集まる昆虫を定点観察しています。 
この日はコムラサキApatura metis substituta)が♀♂1頭ずつ来ていました。 
♀♂ペアが仲良く並んで柳の樹液を吸汁しているのに、求愛や交尾などの配偶行動が始まらないのは不思議です。(色気より食い気) 




柳の枝の下面にえぐれたような樹洞があり、その上にコクワガタ♂(Dorcus rectus rectus)が覆い被さるように静止していました。 
口吻を見ると樹液を舐めている訳ではなく、左半身だけ穴の中に差し込んだままじっとしています。 
コクワガタ♂は直下の樹液酒場からコムラサキ♀♂を追い払おうとしませんでした(占有行動なし)。 

撮影を中断して、コクワガタ♂を手掴みで採集しました。 
コムラサキ♂は逃げてしまったものの、♀はずぶとく樹液酒場に居残って吸汁を続けています。 
コクワガタ♂を取り除くまで気づかなかったのですが、柳樹洞の奥に大顎の短いクワガタムシの♀が潜んでいました。 
安全な場所に陣取って樹液を舐めていたのでしょう。 



コクワガタ♂は樹液酒場で配偶者ガードしていたのだと、ようやく腑に落ちました。 
つまり、♀と交尾する機会を狙いつつ、ライバル♂が近づけないように♀を守っていたのです。(交尾前ガードではなく交尾後ガード?) 

関連記事(同所で32日前の撮影)▶ 柳の樹洞に籠城するコクワガタ♀にしつこく求愛する♂

採集したクワガタ♀♂を1匹ずつ透明プラスチックの円筒容器(直径7.5cmの綿棒容器を再利用)に移し、背面と腹面をじっくり観察してみましょう。 
ツルツルした容器壁面をクワガタはよじ登れませんし、仰向けに置くと脚をばたつかせて暴れるものの、足先が滑って自力では起き上がれません。 
♀の方は驚いたことにスジクワガタ♀(Dorcus striatipennis striatipennis)でした。 
鞘翅にうっすらと縦筋があります。 




となると、問題はクワガタ♂の方です。 
大顎の内歯が1歯なのでコクワガタだと思うのですが、鞘翅にうっすらと縦筋があるような気もしてきます。 
コクワガタ♂だとすると、樹洞に籠城するスジクワガタ♀を同種の♀だと誤認求愛し、異種間で配偶者ガードしていたことになります。 




コクワガタとスジクワガタはどのぐらい近縁なのでしょうか? 
ネット検索してみると、この2種が交雑することは無いそうです。 
日本産クワガタムシの分子系統樹がどうなっているのか知りたくて文献検索してみると、次の全文PDFが無料で入手できました。
松岡教理; 細谷忠嗣. 日本産クワガタムシの分子系統学的研究.弘前大学農学生命科学部学術報告 2003.

解析結果の図2を転載させてもらいました。
ただし、これはタンパク質レベルで比較したアロザイム分析なので注意が必要です。 
この結果だけを見れば、コクワガタとスジクワガタは最も近縁ですから、異種間で誤認求愛するのも不思議ではありません。
しかしクワガタ愛好家の知見によれば、コクワガタとオオクワガタはまれに交雑するのに対して、コクワガタとスジクワガタは決して交雑しないのだそうです。
つまり、交雑可能性や生殖隔離という点ではコクワガタに対してスジクワガタよりもオオクワガタの方が近縁種ということになり、上記のアロザイム分析の結果は生物学的種の概念に明らかに反しています。(生殖隔離を説明できない。)
最新のDNA分析ではクワガタの分子系統樹が変わるのか、当然知りたくなります。 
続報として同じ筆者による博士論文がヒットしましたが、要旨(概要)しか閲覧できませんでした。
細谷忠嗣. クワガタ属 (甲虫目クワガタムシ科) とその近縁属の分子系統学的研究. 2004.
たとえ異種間で交尾できたとしても雑種の繁殖可能な子孫F1が残せないとなると、今回のスジクワガタ♀にとってコクワガタ♂のしつこい誤認求愛や配偶者ガードはただただ迷惑なセクハラでしかありません。
スジクワガタ♀の繁殖機会を奪っている訳ですから、コクワガタ♂の振る舞いは繁殖干渉です。
私の個人的な印象では、当地のスジクワガタは山地に偏ってほそぼそと分布しています。
スジクワガタが平地に分布を広げられないのは、どこにでも居る普通種のコクワガタが繁殖干渉(セクハラ)するせいかもしれません。
この仮説が正しければ、逆にスジクワガタ♂がコクワガタ♀に誤認求愛、配偶者ガードすることは無いはずですから、飼育下で検証可能です。

素人が背伸びして(先走って)勝手に考察してみましたが、そもそも私は恥ずかしながらクワガタの同定にいまいち自信がありません。
(特に今回の♂がコクワガタかスジクワガタかどうかについて)
もし同定が間違っていたら、ご指摘願います。
たとえば、ヤナギ樹洞の奥に隠れていた個体がスジクワガタ♀ではなくて小型のスジクワガタ♂やコクワガタ♀だとしたら、動画の解釈がまるで頓珍漢ということになり、目も当てられません…。

余談ですが、スジクワガタ♀を採集した後にもコムラサキ♀が樹液酒場に最後まで居座っていました。
ところがフラッシュを焚いて写真に撮ると、右半分の翅表だけに鮮やかな青紫色の光沢がありました(♂の性標)。
自然光下の動画ではてっきり地味な翅色の♀だと思っていたのですが、雌雄モザイクの変異個体なのでしょうか?
だとすれば、隣に居たコムラサキ♂個体と配偶行動が始まらなかった理由も説明できそうです。
それとも、翅を開いた角度の違いで青紫の構造色がストロボ光に反射したりしなかったりしただけかな?

コムラサキ:雌雄モザイク?@柳樹液酒場

テントウムシの研究で有名な鈴木紀之先生が繁殖干渉について「すごい進化ラジオ」で分かりやすくオンライン講義してくれているのでお薦めです。(全9回)


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