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2023/11/13

ニホンアナグマ♀の巣穴に出入りするヘルパーと夜這いに通う♂【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2023年4月中旬〜下旬

二次林にあるニホンアナグマ♀(Meles anakuma)の営巣地に設置したトレイルカメラの映像記録です。
当時は何が起きているのかよく分からなかった雑多な動画をまとめただけです。
今になって見返すとアナグマの性別がなんとか見分けられるようになり、少し解釈できるようになりました。



シーン1:4/13・午後23:54・(@0:00〜) 
真夜中に1頭のアナグマ♂が奥の巣穴Lの周囲をうろついています。 
巣口Lを覗き込んだものの、中には入らず左に立ち去りました。 
しばらくすると、左から戻ってきました。 
手前の巣穴Rに近づいたところで1分間の録画終了。 


シーン2:4/14・午前0:38・(@1:00〜) 
日付が変わった深夜にアナグマ♀が奥からセットに戻って来ました。 
この♀個体(若い♂かも?)は左右の目の大きさに違いはなく、正常に見えます。 
この個体がヘルパー(前年に生まれた子供)で、左右の目の大きさが違う♀が母親だと考えています。 
どうやらこの営巣地(セット)には、少なくとも2頭の♀が住んでいるようです。 

手前の巣穴Rにしっかり入巣したものの、後退して(巣内の土を掻き出しながら?)再び外に出てきました。 
巣口Rを改修
巣口Rの近くで座り込み、体を曲げて痒いところを甘噛みしています。(毛繕い) 


シーン3:4/14・午前0:53・(@1:53〜) 
奥の巣穴Lの周囲をひたすら徘徊しているのは、ヘルパー♀かな? 


シーン4:4/20・午前3:38・(@2:31〜) 
夜這いに来た♂がセットの奥をうろついています。 
右の二次林に入ってしばらくすると、戻ってきました。 
手前の巣穴Rを覗き込むだけで入巣せず、すごすごと右へ引き返しました。 
このときは巣内の♀が♂を撃退しませんでした。 


シーン5:4/20・午前3:40・(@3:20〜) 
♂が巣口LR付近の地面の匂いを嗅ぎ回り、ひたすらウロウロしています。 


シーン6:4/20・午前4:01・(@3:59〜) 
画面中央の林縁で♂が毛繕いしているようですが、手前の枝葉の陰でよく見えません。 
右奥の二次林の林縁をぶらついています。 


シーン7:4/20・午前4:04・(@4:27〜) 
左奥に立ち去りました。 


シーン8:4/20・午前4:05・(@4:38〜) 
画面中央奥の林縁で♂が何か(採食?)しています。 
右の林縁からセットを見守ります。 
夜明け前の記録はここまでになります。 


シーン9:4/20・午後23:08・(@5:00〜) 
深夜に現れた♂が左奥のエリアを徘徊しています。 
立ち止まって身震い。 
奥の巣穴Lに侵入を試みたものの、諦めて左に立ち去りました。 


シーン10:4/21・午前2:49・(@5:42〜) 
日付が変わった未明に奥の獣道から♂が♀のセットに現れました。 
今回は巣口LRには近づかず、未練がましくセットに周囲をうろついています。 


シーン11:4/21・午前2:51・(@6:38〜) 
いつの間にか♂が回り込んで手前の巣穴Rに近づいて来ます。 
入巣Rしないで右の二次林に立ち去りました。 
その後、右の死角から♂が求愛する鳴き声が聞こえます。(@6:54〜) 
いわゆる「じぇじぇじぇビーム」です。 
♂が独特の求愛声を発しながら、右下から戻ってきて、♀の巣穴Rに近づきます。 
残念ながら、ここで録画が打ち切られていました。 


金子弥生『里山の暮らすアナグマたち:フィールドワーカーと野生動物』には「音声によるコミュニケーション」と題した章があり、少し参考になりました。
アナグマが音声によるコミュニケーションについても豊富なバリエーションを持っていることはあまり知られていない。 (p66より引用)
 ニホンアナグマでも、私の知る限り、ヨーロッパアナグマで報告されている唸り声、威嚇音、遠吠えは存在する。さらに交尾のときに♂が巣穴の前で♀を呼ぶ「ジジジジ…ジジジジ…」というささやき声もある。(p67〜68より引用)

アナグマの配偶行動について最も参考になったのは、福田幸広『アナグマはクマではありません』です。
 日本各地でアナグマの恋を観察しましたが、恋の季節はすんでいる地域によって少し違うようです。2月下旬ぐらいから始まり、4月中旬頃から下旬までに終わるようです。
 ♂は♀よりも広い範囲を行動圏としていて、1頭の♂の行動圏の中には複数の♀が生活しています。♂は♀よりひと足早く冬眠から目覚めて、自分の行動圏内にある巣穴を見て回り、♀の冬眠場所を特定するようです。♀は冬眠から覚めて少しすると巣穴で出産します。驚くことに出産後すぐに発情して交尾が始まります。(p50より引用)


※ 動画編集時に自動色調補正を施して明るく加工しています。 
今回は右の茂みが邪魔で、白飛びしています。 
今のところはトレイルカメラの設置アングルを試行錯誤しているところです。
これから初夏にかけて巣穴の周囲の灌木に葉が生い茂ると、ますます観察しにくくなることが予想されるので、それまでになんとかしないといけません。


2023/11/10

しつこく夜這いに来て求愛するニホンアナグマ♂を巣穴から追い払う♀【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2023年4月中旬〜下旬 

二次林にあるニホンアナグマ♀(Meles anakuma)の巣穴を自動センサーカメラで見張っていると、♂が夜な夜な夜這いに来るようになりました。 
春の配偶行動が始まったようです。 
しかし♀は未だ発情していないのか、♂の求愛をなかなか受け入れようとしません。 
地面に掘った巣穴が手前(R)と奥(L)に2つあります。 


シーン1:4/20・午後21:09・(@0:00〜) 
晩に奥から登場したアナグマ♂が左へ移動し、巣口Lの方へ行きました。 
その気配を察したのか、手前の巣口Rから♀が顔を出しました。 
♂が♀の巣穴に近づきながら求愛の鳴き声(ジェジェジェビーム♪)を発したかどうか、重要なポイントなのですが、観察歴の浅い私にはよく分かりません。 
トレイルカメラの位置がやや遠いので、録音されにくいのでしょうか? 

この営巣地(セット)の主である♀は目付きに分かりやすい特徴があり、左右の目の大きさが異なります。(右目<左目) 
斜視やオッド・アイのような生まれつきの形質なのでしょうか。 
明るい昼間だと分からないのですが、赤外線の暗視映像だとよく分かります。 

♀は出巣Rして振り返り、♂の方を見ています。 
睨み合いの末に、突然♀が脱兎の如く駆け出して、♂を追い払いました。 
喧嘩(威嚇)の鳴き声を言葉に現すのは難しいのですが、カカカカ!またはガガガガ!というような鳴き声を素早く発したようです。 
声帯を使って発声しているかどうかも分からない、なんとも得体のしれない音声です。 

しばらくすると奥から♀がトコトコ戻ってきて身震いすると、手前の巣穴Rに戻りました。 


シーン2:4/20・午後21:11・(@1:00〜) 
約30秒後、右の二次林を通って♂が再び♀のセットに戻ってきたようです。 
手前の巣口Rに居座り周囲を警戒していた♀は、♂を見つけると一瞬怯んで巣内に後退しかけたものの、再び脱兎の如く飛び出して撃退しました。 
♀は♂を深追いせずにすぐに戻ってきて入巣Rします。 

タヌキやキツネが巣穴を訪れたとき巣内のアナグマ♀は無反応だったのに、同種の♂が夜這いに来たときだけ、すごい剣幕で(強気で)追い払っています。 


シーン3:4/21・午前2:38・(@1:36〜) 
日付が変わった深夜未明にも同じパターンの行動が繰り返されました。 
手前の巣穴Rからアナグマ♀が顔を出して周囲を警戒しています。 
♂が右奥の茂み(灌木林)からやって来ると、ビルルル♪と何かを震わせているような、言葉にし難い変な物音が聞こえます。 
これはアナグマ♂が発する求愛の鳴き声なのかな?  (じぇじぇじぇビーム?)

この鳴き声?を聞くと♀は慎重に出巣Rして右下へ駆け出し、戻って来ませんでした。 
巣穴にすぐ戻って来なかったということは、画面の外で♂と交尾した可能性を否定できません。
夜這いに通っている♂が同一個体なのか、別個体が代わる代わる来ているのか、私には個体識別ができていません。 

※ アナグマの鳴き声が聞き取れるように、動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。 


この動画を初めて見たときは「アナグマ同士で巣穴を巡る縄張り争いがあるのか?」と思ってしまいました。 
アナグマ関連の本を何冊か読んで勉強してみると、「♂が♀の巣穴に夜這い・求愛しようとしている」のだと、ようやく状況が飲み込めました。 

アナグマに関しては、観察と並行して本で予習しておくことを強くお勧めします。 
読んでみて分かったのですが、アナグマの配偶行動や社会システムは他の哺乳類と違って独特です。
素人は先入観に囚われて頓珍漢な解釈に陥りがちです。 
自力でゼロから解明しようとすると、アナグマをきっちり個体識別した上で何年も何十年もかかってしまうでしょう。 
特に福田幸広『アナグマはクマではありません』という写真集の解説が特に参考になりました。
 プロポーズの方法が非常に変わっています。それは♂が♀の巣穴へ行き、「ビルビルビルー」という、低い連続した特殊な声を発します。私はこの声を「ジェジェジェビーム」と名付けました。(中略)この声は♀を誘い出す特殊な声で、この声を聞いた発情中の♀は必ず巣穴から顔を出すのです。♀の反応が悪い時には♂は巣の中にまで侵入することがありますが、巣の奥の赤ちゃんを守るためなのか、♀は♂が巣に入るのを徹底的に排除します。(子殺しがあり得るのか?:しぐま註)しかし、何度追い払われてもめげることなく、♂はジェジェジェビームを発し続けるのです。    (p50より引用)


今のところはトレイルカメラの設置アングルを試行錯誤しているところで、今回は右の茂みが邪魔です。

後日、別アングルでもっとはっきり分かる動画を撮ることができました。(映像公開予定)


つづく→ニホンアナグマ♀の巣穴に出入りするヘルパーと夜這いに通う♂【トレイルカメラ:暗視映像】



【追記】
アナグマ ♂の求愛声が低音で響くのは、地中巣内の♀に聞かせるために進化したのだろう。
高音だと指向性が高い代わりに回折しないですぐに減衰してしまいます。 
個人的な思いつきを書き留めておきます。

2023/10/31

春の里山で深夜に2羽のニホンノウサギが出会うと…【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2023年4月中旬 

雪解けが進む里山でカモシカの溜め糞場srに設置した自動センサーカメラで撮れたニホンノウサギLepus brachyurus angustidens)の興味深い行動の記録です。 


シーン1:4/7・午後16:57・くもり・気温14℃ 
明るい昼間に偶々撮れた現場の様子です。 
山腹の斜面を下から見上げるアングルになっていて、カメラの背後はスギの植林地です。 
つまり、ここはスギ植林地の上端部です。 
斜面の上部には未だ残雪が広がっています。


シーン2:4/11・午前0:11・気温6℃ 
深夜にノウサギがスギ大木の背後から右に現れ、立ち止まりました。 
そこへ右から左へ別個体が走って来ました。 
複数個体のニホンノウサギが同時に撮れたのは初めてです。 
何が起こるでしょうか? 

縄張り争いの喧嘩が始まるかと思いきや、互いに回りながら離れました。 
その後は2羽ともにスギの背後を通って左へ行きました。 
敵対行動が見られないので、きっと♀♂つがいなのでしょう。 
それでは終わらず、1羽が暗闇の斜面を右往左往しています。 
もう1羽はその後を追うかと思いきや、右下に駆け抜けました。 (近道で追っているのかな?) 
右に行くと、冬に雪崩で埋もれた渓谷があります。 
求愛?の追いかけっこを1/3倍速のスローモーションでリプレイ。 (@0:46〜)

登場した個体の毛皮が冬毛のままなのか、夏毛に生え変わったのか、赤外線の暗視映像では遠くて区別できませんでした。 
天敵(捕食者)対策として、冬毛のままなら保護色になるように(目立たないように)残雪部で活動すべきですし、夏毛に換毛したら地面が露出した野山や林床で活動すべきと考えられます。 
しかし、この映像のノウサギ2羽は地面の状態を特に気にせず縦横無尽に走り回っているようです。 

※ 一部は動画編集時に自動色調補正を施しています。 

2023/10/15

越冬明けの早春に求愛するキタテハ♂と交尾拒否する♀【FHD動画&ハイスピード動画】

 

2023年3月下旬・午前11:40頃・晴れ 

川沿いの枯れ草に覆われた土手に越冬明けのキタテハPolygonia c-aureum)秋型が止まり、翅を開閉しながら日光浴していました。 
やがて自発的に飛び去りました。 
飛び立つ瞬間を1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@0:09〜) 
フィールドで見かけるキタテハの性別を私は自信を持って見分けられません。 
この個体はなんとなく、縄張りを張る♂が、飛来したライバル♂を追い払いに行ったように見えました。 
あるいは♂が♀を待ち伏せしていて、飛来した♀を追いかけて飛び立ったのかもしれません。 

『フィールドガイド日本のチョウ』という図鑑でキタテハ♀♂の識別法を調べると、
キタテハ:秋形では♀の(翅:しぐま註)裏の外縁は一様に濃褐色で、♂では淡黄色を帯びる。(p223より引用)
しかし翅裏に正対して見ないと、太陽光の角度によって色の濃淡は変わって見えます。 
翅裏を斜めからしか撮れていない動画で性別を見分けるのは難しいのです。

辺りを探すと、堤防路の道端で枯れた落ち葉の上に2頭のキタテハ♀♂が並んで止まっていました。 
♀は翅をしっかり閉じたまま、じっとしています。 
一方、♂は斜め後ろから頭部を♀の翅裏に密着させ、翅を半開きにしました。 
これがキタテハ♂の求愛行動なのでしょうか? 
♂の触角は♀の翅裏に触れています。 
もしかすると♀の性フェロモンの匂いを嗅いだり体に直に触れたりして、同種の♀であることを確認しているのかな? 

キタテハの求愛行動をじっくり記録するために、私は240-fpsのハイスピード動画に切り替えました。(@0:48〜1:46) 
♂は前脚で頻りに♀の翅裏に触れています。 
翅を広げた♂は日光浴しているようです。 
交尾に備えて体温を上げているのでしょうか。 
春風が吹くと、キタテハ♂の翅が煽られます。 
キタテハ♀が翅を閉じたままなのが交尾拒否の意思表示なのでしょう。 
シロチョウ科の交尾拒否行動とは全く異なります。 
しばらくするとキタテハ♂は紳士的に諦めて飛び去りました。(@1:25〜) 
翅をしっかり閉じた♀は全く無反応で、反射的に♂につられて飛び立つこともありませんでした。 
煩わしい♂から解放されてしばらくすると、ようやく♀も身動きするようになり、自発的に飛び立ちました。(@1:37〜) 
低空で羽ばたき、前方に飛び去りました。 

キタテハ♀の交尾拒否行動を観察できたのはこれが2回目です。
関連記事(9年前の撮影:6月下旬)▶ キタテハの交尾拒否 
どうやら♀が翅を固く閉じたままなので、♂は腹端の交尾器を連結できないでいるようです。 (交尾に成功すれば互いに逆向きに連結するはずです。) 
これがキタテハ♀の交尾拒否行動なのでしょう。 
やがて諦めた♂は飛び去りました。 

堤防路の少し離れた地点でも同様のシーンが繰り広げられていました。(@1:48〜) 
地上に2頭のキタテハ♀♂が並んで止まっています。 
さっきと同一の♀♂ペアなのか別個体なのか不明です。 
枯れ葉の上で翅を閉じていると、翅裏は枯葉のように地味なため、見事な保護色で見つけにくくなっています。 

今回も♀♂ペアは共に翅をしっかり閉じています。 
高画質のFHD動画で交尾拒否行動を記録しました。
♀の閉じた翅裏に対して♂が正対してアプローチするのがキタテハ♂の求愛の流儀なのでしょう。 
体の向きは互いに直交しています。 
♂は頭部や触角を♀の翅裏にぐいぐい押し付けながら、♀の背後に回り込んでマウントしようと試みます。 
しかし♀が翅を閉じたままなので、腹端がしっかり隠されていて交尾器を結合できません。 
この間に♂が翅を少し開閉しました。 
これが求愛の儀式的な行動なのかどうか、定かではありません。 
♀の背後で♂が翅を広げて美しい翅表を見せつけたところで、♀には見えない気がします。 
♀の閉じた翅を♂が手足を使ってこじ開けることは出来ず、♂は交尾を諦めて飛び去りました。 
♀に交尾拒否された♂が飛び去る様子を1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@2:06〜) 

キタテハの翅裏は地味なので、地上で翅を閉じたままだと周囲の枯葉や落葉に完全に紛れています(隠蔽擬態、保護色)。 
翅の外縁の不規則なギザギザ(鋸歯)も隠蔽効果を高めています。 
地上で翅を閉じたまま静止している同種♀を♂はどうやって探し出すのでしょうか? 
今回のケースでは♂の求愛を拒否したので、地上の♀が性フェロモンを放出して♂を誘引しているとは思えません。 
(♂を誘引した上で、求愛しに来た♂を♀が品定めしている可能性は残ります。)
可視光しか見えないヒトとは違って昆虫の視覚は紫外線のスペクトルでも見えているので、もしかすると紫外線の下では♀の姿がよく目立つのかもしれません。 
紫外線カメラでキタテハを撮影し、確かめてみたいものです。 


採集したキタテハ♀の標本(死骸)を野外に放置したら、♂が求愛に来て交尾を試みるのかどうか、実験してみるのも面白そうです。 
♂の標本に対してはどんな反応をするでしょうか? 
同性に誤認求愛するでしょうか?
もしも近縁種シータテハ♀の標本を使うと、キタテハ♂はしっかり異種だと見分けられるでしょうか?
異種に誤認求愛するかな?
(ヒトが翅裏を見ただけでシータテハとキタテハを見分けるのは、蝶に詳しいマニアでなければ難易度が高いです。)

地上で休んでいるキタテハ♀を♂が目敏く見つけて横に舞い降りたとは限りません。
♂の縄張り内に飛来した♀を追尾して乱舞になり、一緒に着陸したのではないかと思います。 
この過程はあまりにも動きが激し過ぎて、しっかり観察・撮影できていません。(見失いがち)

交尾済みの♀にとって、♂のしつこい求愛(セクハラ)は煩わしいだけです。 
キタテハでは交尾拒否の決定権が♀にあり、♂が♀の意志に反してむりやり交尾することは物理的に不可能です。 
交尾拒否された♂はあっさりと紳士的に諦め、次の♀を探しに行きます。 
キタテハで求愛が成就して交尾に至る例を私は未だ一度も観察できていません。 
♀が翅を開いて♂を受け入れれば互いに逆向きで連結するはずですが、そもそも交尾中のキタテハ♀♂も未見です。
かなり古い本ですけど、保育社『原色日本昆虫生態図鑑IIIチョウ編』(1972)を紐解いてキタテハの配偶行動について調べると、
秋型の交尾は一般に越冬後に行なわれるが、9月に交尾した記録もある。(p228より引用)

独りになった♀はようやく翅を開くようになりました。(@3:01〜) 
後翅外縁部の損傷が激しい個体で、越冬の厳しさを物語っています。 
最初に観察した♀とは別個体であることが判明しました。 
日光浴で体温を上げると、自発的に飛び立ちました。(@3:28〜) 
そのまま低空で飛び続け、オオイヌノフグリの花が咲き乱れる土手を下りて行きました。 


2023/10/07

パートナーにパンを求愛給餌するハシブトガラス(野鳥)

 

2023年3月下旬・午前11:25頃・晴れ 

早春の河川敷でハシブトガラス♂(Corvus macrorhynchos)が人工的に造られた池の横で何かしています。 
水浴びまたは飲水するのかと思い私がカメラを向けると、死角に隠れようとします。 
カラスの性別を外見で区別できませんが、後々の行動からこの個体を♂と呼ぶことにします。
 カラスの雌雄について触れておこう。ハシブトガラスでもハシボソガラスでも、体の各部を計ると平均値では♂の方が大きい。だから大きいのが♂、と言いたいところだが、小柄な♂と大柄な♀ではサイズが逆転する場合がある。第一、並んでいないと大きさは比較しにくいし、羽毛の状態でも印象は変わる。(中略)  個人的な見解だが、(中略)ハシブトガラスの場合、逆に♂の首が短く見える。実際にはむしろ長いのかもしれないが、それ以上に太く、猪首に見える気がするのだ。(羽毛を逆立てているだけかもしれないが、捕獲して手に持っても太く感じるという)♂はくちばしも隆起が大きく先端が鈍いような気もするが、この辺は個体差が非常に大きいので何とも言いにくい。  いずれにせよ、かなり微妙な区別である。カラス屋でも「必ずわかる」と豪語する人には会ったことがない。控えめな人なら「全然わからない」と答えるくらいだ。 (松原始『カラスの教科書』 p110-111より引用)

動画を撮りながら私も少し右にずれて撮影アングルを確保すると、 カラスは池畔の岩の下から大きなパンの塊を取り出して嘴に咥えました。 
どうやらご馳走を一時的に隠していたようです(貯食行動)。 
パンを口いっぱいに頬張ると、枯れ草に覆われた土手を歩いて登りました。 
両足を揃えてピョンピョンとホッピングしてから左へ飛び立ちました。 
低空で川を飛び越えると、対岸の大きな岩の上に着地しました。 
川岸の残雪はもうほとんど消えています。 
ハシブトガラス♂は周囲を見回し、パンを頬張ったままカーカー♪鳴きました。 
おそらくつがいのパートナー♀を呼び寄せているのでしょう。 
川の流れる音で鳴き声が掻き消されそうなので、ここだけ動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げました。 

 ♂は「からら…ころろ…」とうがいのような小さな声で♀に求愛を始める。この声は求愛給餌に関連していて、どうやら「はい、あーんして」という意味のようだ。これを聞いた♀は反射的に体を伏せ、翼を半開きにして震わせながら「アワワワ」と鳴き、餌乞い姿勢をとる。恐らくハシブトガラスが抱卵中の♀の中に餌を渡す時の音声も同じものだ。
単純に餌の受け渡しに留まらず、2羽で寄り添っている時にも「からら…」と鳴くことがあるので、つがい間の関係性を維持する意味があるのだろう。(『カラスの教科書』p76-77より引用)


カメラを左に(川上に)パンすると、橋脚から横にテラスのように張り出した梁部でパートナーの♀が待っていました。 
♀が背を向けてガーガー♪嗄れ声で鳴いたのは、♂を呼ぶ声なのでしょうか?(※1) 

案の定、♂がパンを持って右から飛来しました。 
♀の左横に着地すると、♂はパンを吐き出してコンクリートの上に置きました。 
それを見た♀が嬉しそうに小走りで駆け寄り、パン一欠片をお裾分けしてもらいました。 
仲良く並んでパンを食べる2羽の体格を比べると、右の個体がやや大きいようです(♀>♂)。 
食べ残したパンを喉袋に詰め、嘴にも咥えて飛び立つと、どこかに持ち去りました。 

早春はカラスの繁殖期なので、この行動は求愛給餌と呼べるでしょうか?
求愛給餌 コートシップ・フィーディングともいう。求愛行動のひとつで、♂が♀にえさを与えること。このとき♀は、ヒナと同じようにつばさを小刻みにふるわせる。(『マルチメディア鳥類図鑑』より引用)
求愛給餌(きゅうあいきゅうじ、英:courtship feeding) 繁殖相手としたい異性に自らの獲物を差し出そうとすることで成立する、一種の求愛行動。一般に、雄が雌に対して行うもので、雌はこれを受け取るか拒むかで求愛の受け入れの是非を体現する。(wikipediaより引用)
私が過去に観察した求愛給餌の事例を復習してみましょう。 


関連記事(3、6年前の撮影)▶  


今回♂がパンを持ってきたとき、♀は幼鳥がするような餌乞い行動(催促)をやりませんでした。 
また、パンを分け与える際も口移しではありませんでした。 
食後に交尾するかと期待したのですが、ハシブトガラス♀♂は橋脚の梁部から相次いで飛び去ってしまいました。 
したがって、素人が勝手に求愛給餌と解釈するのは躊躇われます。 
仲間に餌を分け与えた(シェア)とゆるく解釈すべきかもしれません。

実は全く別の解釈も考えられます。 
ハシブトガラス♀は♂に分けてもらった以上の量のパンを食べた点が気になります。 
カメラを少しズームアウトすると(@1:30〜)、橋の歩道を渡る老婦人♀が右から左に歩いて通り過ぎるところでした。 
実際に目撃した訳ではありませんが、この老婦人(または別の誰か)が橋脚梁部のテラスに居るカラスに対して常習的にパンを給餌した可能性がありそうです。 
♂が飛来する前に♀が梁部で鳴いた(※1)のは、老婦人に対して餌乞いしたのかもしれません。 
老婦人が完全に通り過ぎると、ハシブトガラス♀♂は警戒を解いて残りのパンを食べました。 
思い返せば動画冒頭の行動も、ハシブトガラス♂が貯食しておいたパンを取り出したのではなく、ヒトが橋の欄干から投げ与えたパンが強風で飛ばされ、カラスがそれを拾いに行った可能性もありそうです。 

カラスの行動観察はとても面白いのですけど、性別判定がきわめて困難(素人には無理?)なため、行動の解釈に困るのが難点です。

2023/09/24

雪解け水の池に産卵するヤマアカガエル♀♂の群れを微速度撮影したい!【チャレンジ#2】

 



2023年3月中旬〜下旬 

里山の斜面にある池に雪解け水が貯まり、ヤマアカガエル♀♂(Rana ornativentris)が毎年早春に集まって繁殖活動しています。 

3/13  
前回の反省を生かして、同じ池でも少し別の地点の卵塊bをやや引きの絵で微速度撮影することにしました。 
わざわざ持参したスコップで池畔の深い残雪を地面まで掘ってから、三脚を立ててみました。 
試写してみるとアングルがいまいちなので、諦めて雪を埋め戻し、場所を変えます。 
水を入れた600mLペットボトルを三脚に吊り下げて、風で倒れないように重りとします。
夜に照射する赤外線LEDが水面で反射することを考え、水面に対して斜めから狙うようにしました。 

5分間隔のインターバル撮影を行います。 
本当は5分間隔よりも短く設定したいのですが、残念ながらカメラの仕様で撮影頻度をこれ以上は上げられません。 
池の周りに複数台のトレイルカメラを設置して微速度撮影したいところですけど、他のプロジェクトも同時並行でやっているので、1台しか使えません。

3/22 
カメラを回収しようと池に近づくと、ヤマアカガエルの鳴き声が響き渡っていました。 
しかし少し離れたところから望遠で探しても、鳴いているカエルの姿を見つけられません。
私が岸まで行くと、警戒したカエルは鳴き止んで水中に潜ってしまいます。 
今季は岸辺だけでなく、水中にも大量の卵塊が残されていました。 
池畔に黒い三脚カメラを設置したせいでヤマアカガエル♀が警戒し、浮上しなくなったのかな? 
水中で♂にしがみつかれた♀は溺死するリスクがあります。 

最初に産み付けられた卵塊aから黒いオタマジャクシ(ヤマアカガエルの幼生)が孵化していました。 
ゼラチン質の中で、まだほとんど動きません。 
日当たりの良い岸辺に産み付けられたヤマアカガエルの卵塊には緑藻が繁茂していました。 
素人の勝手な想像ですけど、卵塊が緑藻に隠れて捕食を免れるかもしれませんし、光合成により卵塊に酸素が供給されて好都合かもしれません。 

トレイルカメラのレンズおよび液晶モニターが内側から結露していて焦りました。 
防水パッキンの蓋を開けてみると、電池ボックス内にも水滴がありました。 
実は3/13にトレイルカメラを現場に持参する際にザックに入れて運んだのですが、濡れた長靴や着替えも同じザックに入れていました。 
別々の防水袋で互いに隔離していたつもりが、ザック内の湿度が上がってトレイルカメラの内部が結露してしまったようです。 
前回はカメラを池に水没してしまいましたし、踏んだり蹴ったりです。 
今回の失敗も完全に自分の落ち度なので、自分の迂闊さを呪うしかありません。 
カメラを持ち帰って蓋を全開にしたまま室内で放置したら結露が完全に蒸発してくれ、復活しました。 

気落ちしつつも、撮れた連続写真を確認すると、設置後しばらくは結露したレンズのせいでぼやけた写真しか撮れていませんでした。 
晴れた日にカメラが日差しを浴びれば自然に蒸発してくれるかな? 
ようやくレンズの曇りがなんとか晴れたのが4日後の3/17からでした。 

しかし寒の戻りで3/18の朝から雪が降り始め、池畔の枯れ草に白い雪が積もりました。 
翌日3/19は朝から晴れて、岸辺の雪がみるみる溶けていきます。 
その日の晩から蛙が繁殖行動を再開したようで、水中に少数ながらも姿を表すようになりました。 
夜になると水面に浮かぶ蛙の目が白く光って見えます。 

インターバル撮影なんて初めに設置すればカメラにお任せなのに、実際にやってみると色々と失敗続きです。
集団産卵によって岸辺の卵塊がみるみる大きくなるかと期待したのに、満足の行くタイムラプス映像を撮れませんでした。 
今季はもうヤマアカガエルの配偶行動が下火になったので、また来年まで持ち越しです。 
次にいつ再チャレンジできるか分かりませんから、失敗や改善点を忘れないように記録しておきます。
この繁殖池が開発で埋め立てられるのではないかという懸念があるのです。


2023/09/13

雪解け水の池に産卵するヤマアカガエル♀♂の群れを微速度撮影したい!【チャレンジ#1】

 

2023年3月上旬〜中旬 

早春になると、未だ雪深い里山の池でヤマアカガエル♀♂(Rana ornativentris)の群れが配偶行動および産卵のために集まります。 
毎年通って観察しているのですが、ヤマアカガエルは警戒心が強くて肝心の産卵行動が観察できません。 
そこで今季は、無人カメラを設置して撮影する作戦に切り替えました。 
両生類は変温動物ですから、いくら動き回ってもトレイルカメラのセンサーは反応してくれません。 
そこで次善の策として、インターバル撮影でヤマアカガエルの離合集散を記録することにしました。 

3/8に現場入りすると、雪や氷に閉ざされていた池aの水面が現れ、早くも岸にヤマアカガエルの卵塊が産み付けられていました。 
前回2/27に来たときは卵塊が無かったので、9日間の間(2月下旬〜3月上旬)に今季初の産卵が行われたことになります。 
2023年度 アカガエル産卵前線を参照すると、山形県の記録は登録されていませんでしたが、隣県の新潟県および宮城県とほぼ同じ時期でした。 
てっきり毎年同じ場所に産卵するかと思いきや、2021年とは少し違う地点(下の池bへ水が流れ出る地点)に卵塊が産み付けられていたのが興味深く思いました。 

既に産み付けられた第1陣の卵塊に再び♀♂が集まって追加で産卵するだろうと予想し、三脚に固定したトレイルカメラを池畔に据えました。 
真っ黒な三脚の存在を警戒してヤマアカガエルは岸辺に近寄らなくなるかな?という心配もありますが、やってみないことには分かりません。 

雨が降る日の夜に産卵が活発になると予想して、天気予報を元にして3/8にカメラを設置しました。 
5分間隔のインターバル撮影が順調にいったものの、704枚目の写真を最後に、カメラが水没してしまいました。 
3/11の深夜に突風が吹いて三脚が倒れたようです。 
フクロウなど夜行性の野鳥が三脚の上に止まったのか、あるいは池に来た夜行性の野生動物が三脚に興味を示して触れて倒れたのだとしたら面白いのですが、真相は不明です。 
転倒防止のために、水入りのペットボトルを重しとして三脚に吊るしておくべきでした。 

3/11の早朝に現場入りした私が慌ててトレイルカメラを水中から引き上げました。
トレイルカメラは防水性能が驚くほど優れていて、カメラ本体もmicroSDカードも無事でした。 
カメラの防水パッキンがとても優秀で、6時間も水没していたのに全くダメージが無くて感心しました。 
水没しても律儀に水中写真を5分間隔で撮り続けていました。

3600倍速の早回し映像を確認してみると、なかなか思ったようにはいかず、反省することばかりです。
良かった点として、旧機種でも写真の場合は、気温および月齢のデータを写真に焼き込んでくれます。 
昼間は晴れると枯れ草の影が日時計のように刻々と動きます。 
夜になって暗視モードになると、赤外線LEDの光量が強過ぎて白飛びしていました。
真上から水面を見下ろすアングルでカメラを設置したので、赤外線の反射光をレンズが直視してしまいました。 
少し斜めに見下ろすアングルに設置するべきでした。 
それから、この機種は被写体から1.5m以上離す必要があるらしい。 

5分間隔のタイムラプスではカエルの離合集散がよく分からないので、もっと間隔を縮めた方が良さそうです。 
意外にもヤマアカガエルは夜にあまり集まって来ないようです。 
やはり♀はカメラ(三脚)の存在を警戒した結果、少し別の場所で産卵したのでしょうか? 
産卵地点が予測不能だとすれば、池全体を俯瞰で見張るように、カメラを池から少し離した方が良いかもしれません。 

3/11に現場入りして調べると、池aの別な地点(例年通り)に新たな卵塊が追加で産み付けられていました。 
これで岸辺の卵塊は2ヶ所になりました。 
下の池bにもヤマアカガエルの卵塊が1個産み付けられていました。 

もう一度インターバル撮影にチャレンジしてみましょう。 
色々と試行錯誤してみるしかありません。 


2023/08/24

ヤブガラシに訪花中のコクロアナバチ?が小競り合い

 

2022年7月上旬・午後13:10頃・晴れ 

民家の裏庭に蔓延るヤブガラシのマント群落で黒い狩蜂が訪花していました。 
1匹目の個体aが吸蜜している間に、別個体bが左から飛来しました。 
先客aにちょっかいをかけたものの、激しく攻撃したり蜜源植物から追い払う行動は見られませんでした。 
bも近くの花序に着陸。
aが先に飛び立つと、追いかけるようにbも飛び去りました。 
思わせぶりな小競り合いを1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@0:13〜) 
クロアナバチの仲間ですかね?(コクロアナバチかな?) 
以前は狩蜂の観察がマイブームだったのですが、細かい識別点などをすっかり忘れてしまいました。 

顔が白い蜂は雄蜂♂というのが多くの種類で当てはまる経験則です。
しかしクロアナバチの仲間では♀も♂も顔が白く、その方法では性別を見分けられません。 (しかも映像を見直すと、顔がそれほど真っ白ではありません。) 
この映像に登場する蜂の性別を外見で見分けられる方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください。 
行動からなんとなく2匹とも雄蜂♂ではないか?と思うのですが、どうでしょう? 
探雌飛翔してきた♂bが訪花中の♂aに誤認求愛しかけた、という解釈です。 
もし2匹とも♀なら、蜜源植物をめぐる縄張り争いになります。 
喧嘩するぐらいなら、ちょっと離れたところにいくらでも花が咲いているのに…と素人目には思ってしまいます。 
もし2匹が♀♂なら、♂はすかさず♀に交尾を挑んだはずですが、見失ってしまいました。 

身近なフィールドで狩蜂の数がめっきり減ったせいで、じっくり観察できなくなってしまいました。 

2023/07/12

ミドリヒョウモン♀♂の交尾と連結飛翔【FHD動画&ハイスピード動画】

 

2022年9月上旬・午後14:40頃・晴れ 

里山で冬になると雪崩が多発する急斜面があります。 
毎年の撹乱が激しくて樹木が育つにはあまりにも過酷な環境なので、夏には雑草に覆われます。 
その山腹でミドリヒョウモン♀♂(Argynnis paphia)が木苺(種名不詳)の葉に乗って交尾していました。 
ヒョウモンチョウ類の中で私がフィールドで一番良く見かけるのがミドリヒョウモンです。 
性別を見分けるのが簡単なので、配偶行動の観察に適しています。 
♀の翅表は緑っぽく、♂の翅表はオレンジ色っぽくて、黒くて濃い性斑(性標)があります。 

互いに逆向きになって腹端の交尾器を連結したまま、翅を緩やかに開閉していました。 
結合部がひくひくと動いているのが興味深いです。 
♂が精包を♀の体内に送り込もうとしているのでしょう。 

どうも交尾の舞台が居心地悪そうです。 
交尾しながら落ち着きなく歩き回り、水平に止まれる葉に移動しました。 
向きを変えてくれたおかげで翅裏の紋様がしっかり見えるようになり、ミドリヒョウモンと同定できました。 
連結部の微妙な動きも側面からしっかり観察できるようになりました。 

しばらくすると、なぜか再び♀♂ペアが落ち着きなく動き回り始めました。 
♀は交尾を早く切り上げたいのか、♂を足蹴にしました。 

交尾中のチョウが飛ぶ際に♀♂どちらが主導権を握って羽ばたくか、種によって傾向が異なることが知られています。 
互いに逆向きに連結しているため、♀♂が同時に羽ばたくと相殺されて上手く飛べないのです。(交尾器がちぎれてしまう?) 
240-fpsのハイスピード動画に切り替え(@3:05〜)、帽子を投げつけて交尾中のミドリヒョウモン♀♂を飛び立たせてみました。 
緊急発進をスーパースローで見ると、今回は♂が主導権を握り、♀を引きずって飛び去りました。 
♀は翅を閉じて空気抵抗を減らし、♂に身を委ねて安全な場所まで運ばれます。 
このタイプの連結飛翔を「←♂+♀」と表記します。 
ミドリヒョウモンでは逆に「←♀+♂」のタイプの連結飛翔も過去に観察しています。
関連記事(1、2、8年前の撮影)▶  
交尾中に連結飛翔で逃げるミドリヒョウモン♀♂(←♀+♂) 
交尾中のミドリヒョウモン♀♂(←♂+♀) 
交尾中に連結飛翔するミドリヒョウモン♀♂
ミドリヒョウモンの場合、連結飛翔で主導権を握るのは♀♂ランダムなのか、それとも先に危機を感じた個体が反射的に飛び立ち、パートナーは受動的に運ばれる仕組みになっているのでしょうか? 

逃げたミドリヒョウモン♀♂は少し飛んで斜面を下り、日当たりの良いクズの若葉に止まり直しました。 
ほぼ水平の広い葉なので、ようやく♀♂共に落ち着いて交尾を続けます。 

下山を急いでいた私は、交尾が終わってカップルを解消するまで見届けられませんでした。 
それにしても、安全を優先するのならどうして葉裏に隠れて交尾しないのか、不思議でなりません。 
どうして鳥などの捕食者に見つかりやすい葉表で堂々と交尾するのかな? 
♀が♂との交尾を早く切り上げたがる理由の一つが、天敵に捕食されるリスクです。
♀(右)♂(左)@キイチゴ葉
♀(上)♂(下)
♀(下)♂(上)@クズ葉


2023/07/08

幅3mの水路を軽々と跳び越える野生ニホンザル♀♂

 

2022年11月下旬・午後15:40頃・くもり 

山麓を流れる用水路沿いで野生ニホンザル♀♂(Macaca fuscata fuscata)の小さな群れと遭遇しました。 
成獣は顔と♀の尻、♂の睾丸が紅潮していることから、発情期が始まったようです。 

計5頭の小群が水路に沿って遊動を始めたのですが、私を迂回しながらすれ違うために幅3mの用水路を軽々と飛び越えました。 
立ち幅跳びの見事な身体能力を1/5倍速のスローモーションでリプレイ。 
後脚は対岸に届かなくても、護岸の縁に掛けた前足で体重を支えて着地しています。 
晩秋に農業用水路の水は流れておらず、底に落ち葉が少し溜まっているだけでした。 

1頭のニホンザル♂が黒い首輪を装着していました。 
テレメトリー調査のためにGPSを付けられた個体です。 
GPSの首輪は充分に軽く、装着していてもニホンザルの負担にならないようです。 

歩き去る♀成獣の尻に付着していた白い粘液は、おそらく交尾後の精液なのでしょう。
ニホンザルの精液痕を見たのは初めてです。
しかし体外射精したのだとしたら、交尾経験の乏しい若い♂が焦って早漏したのかもしれません。
交尾の様子を実際に観察するには一足遅かったようで、残念でした。



2023/06/29

キノコのキーホルダーに止まるコムラサキ♂の謎

 

2022年9月上旬・午後14:05頃・晴れ 

河川敷の遊歩道で誰かが落としたキーホルダーを別の誰かが拾って、親切にも道端の柳の枝に引っ掛けておいたようです。 
キーホルダーにはフェルト製のキノコのアクセサリーが付けられていました。 

河畔林の柳(樹種不詳)から樹液が滲み出していて、様々な昆虫が集まる樹液酒場となっています。 
樹液酒場から飛んで逃げたコムラサキ♂(Apatura metis substituta)が隣の柳で止まったのが、キノコのキーホルダーでした。 
実際はもう少し長く止まっていたのですが、ぼんやり見ていた私が「これは面白い行動では?」と気づいて動画に撮り始めるまでタイムラグがありました。 
雨水を含んで濡れていたスポンジ状のアイテムに止まると、口吻を伸ばして舐めていました。 
甘い樹液を舐めた後で、口直しに吸水およびミネラル摂取していたのでしょう。 
翅を開閉しながら吸汁していたコムラサキ♂にようやく合焦した途端に、すぐ飛び去ってしまいました。 
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。 
残念ながら、映像ではコムラサキ♂の口吻はくるくるとゼンマイ状に縮めてしまった後でした。 

キーホルダーに付いていたキノコのアクセサリーは、写実的ではなくデフォルメしたキノコで、青、白、橙、ピンクなどカラフルな模様が描かれています。 
もしかすると吸汁目的ではなく、青いキノコのアイテムを同種♀と誤認して飛来した可能性もありそうです。(誤認求愛) 
しかしそれなら「コムラサキ♂ホイホイ」として次から次へと誘引されるはずです。 
そんな事態にはなっていませんでしたから、私の考え過ぎかもしれません。 
横にある柳の樹液酒場でクワガタムシが誤認求愛していたので、コムラサキの行動の解釈もそれに引っ張られました。

2023/06/21

ベッコウバエの婚活パーティーで独身♀に求愛しても振られ続ける「あぶれ♂」(交尾拒否)

 



2022年11月上旬・午後12:05頃・くもり 

腹部の色で性別をかんたんに見分けることができるベッコウバエ♀♂(Dryomyza formosa)は、配偶行動の観察に向いています。 
腹部が黒光りしているのが♀で、黄金色の毛が密生しているのが♂です。 

少し時間を置いたら、逃げていたベッコウバエ♀♂がホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場dに多数戻って来ました。 
複数のベッコウバエ♀がタヌキの糞を舐めています。 
独身の「あぶれ♂」が翅を小刻みに開閉しながら交尾相手♀を求めてうろついています。 
性比は珍しく♀の方が多くて、♂にとっては夢のハーレム状態(交尾し放題)のはずです。
ところが、あぶれ♂が近くに居る単独♀に次々に飛び乗って求愛・マウントしても、なぜか連戦連敗です(ふられ続ける)。 
早い者勝ちの♂が♀の背に乗って配偶者ガードしている訳でもないのに、単独♀が単独♂の求愛を断るのは不思議です。 
交尾済みの♀は2度と交尾しないのでしょうか? 
それなら♂が♀を交尾後ガード(配偶者ガード)する必要はなくなります。
それとも♀は交尾相手の♂を厳しく品定め・選り好みしているのでしょうか? 
♀が同意しなければ♂がマウントしても交尾は成立しません。

あぶれ♂に度重なる求愛を受けても(セクハラ)、♀は嫌がって逃げたりしないで、落ち着いて吸汁を続けています。 
交尾拒否すればあぶれ♂が紳士的に諦めてくれるので、安心できるのでしょう。 
しかし、ベッコウバエ♀が交尾拒否する意思表示法が私には分かりません。 
♂にマウントされた♀が腹端を下に屈曲するのが交尾拒否なのかな? 
たとえば♂にマウントされた♀が胸部の飛翔筋を高速で動かして、体の振動で♂にお断りの合図を出しているのかもしれません。 
高性能のマイクを溜め糞に仕込めば、かすかな羽音も聞き取れるはずです。 

♀も脚を持ち上げて広げることで、隣の♀が近づかないよう牽制しています。
しかし「あぶれ♂」は♀から足蹴にされないよう前後から求愛アプローチしてマウントを試みます。

次はベッコウバエ♀の産卵行動を観察したいものです。




2023/06/19

晩秋にトビを擬攻撃してから♂と擬交尾するハシボソガラス♀(野鳥)

 

2022年11月中旬・午後15:55頃・くもり 

田園地帯の電線にトビMilvus migrans)とハシボソガラス♀(Corvus corone)が並んで止まっていました。 
カラスが強風に乗ってふわりと飛び上がり、トビの横に止まり直しました。 
トビに対して明らかに嫌がらせ・牽制しています。 
繁殖期ではないのに、カラスは猛禽に軽くモビング(擬攻撃)して縄張りから追い出そうとしているようです。 
しかし、このトビは強気で、カラスにモビングされても動じません。 

トビへのモビングを諦めたハシボソガラス♀は、左下の電線に滑空して飛び移りました。 
電柱に何か黒い箱状の器具が取り付けてあり、そこからケーブル(針金、電線)2本が上下の電線に伸びて繋がっています。 
そのケーブルの末端(黒いビニールテープ?)にカラスは興味を示し、嘴で被覆をほどこうとし始めました。 
逃げないトビへの苛立ち(欲求不満)を鎮めるための転移行動かもしれません。
電線の被覆を剥がそうとしているのなら重大な問題です。 
感電事故になるのではないかと心配しながら見守っていると、カラスは諦めて電柱の足場ボルトにヒョイと飛び乗りました。 
どうやら、このハシボソガラス♀個体はとにかく飽きっぽいようです。 
(私がしつこくカメラを向けているせいで集中できないのかな?) 

足場ボルトから白い液状便をポトリと排泄してから(@1:17〜)、カラスは左下に飛び降りました。 
波状に滑空すると、刈田に着陸しました。 
刈田で採食していたパートナーのハシボソガラス♂と合流すると、♀は♂の横で身を伏せました。 
♂は頭を上下にしゃくりあげるように動かしながら鳴いて、飛来した♀に挨拶しました。 
(やや遠い上に風切り音のせいで、カラスの鳴き声は聞き取れませんでした。) 
つづけてハシボソガラス♂が♀の背に乗りました! 
♂にマウントされた♀は身を伏せたまま嬉しそうに尾羽根を左右に振り、♂を見上げました。 
カラス同士がニホンザルのように上下関係を決めるためにマウントする(優劣行動)という話は聞いたことがありません。
晩秋に交尾するペアを初めて見た私はビックリ仰天しました。 
そもそもカラスの交尾期は初春です。

関連記事(1年前の撮影)▶ 巣材を運ぶ途中で交尾するハシブトガラス♀♂のつがい(野鳥)

映像を見直すと総排泄孔を互いに擦り付けなかったので、本当の交尾行動ではないようです。 
♀♂つがいの絆を深めるために儀式的な疑似交尾をしたのでしょう。 
相互羽繕いなどの前戯はありませんでした。 
私はカラスの性別を外見から見分けられませんが、擬交尾した時点で行動から性別が判明しました。 
今回は♀が疑似交尾を求めて、パートナー♂の真横に舞い降りたことになります。 

短い擬交尾の後で♂が♀の背中から下りると、ペアは少し離れました。 
♂が再びマウントしようと♀の背に左足を掛けたら、♀は嫌がって逃げました。 

その間も冒頭のトビは電線に止まったままで、周囲の刈田を見回していました。 
胸の羽毛が白くなく、尾羽根に三角の切れ込みがあることから、ノスリではなくトビと見分けられます。 (開いた翼の下面を見るまでもない) 

手前の里山は紅葉しているものの、標高の高い遠くの山並みはうっすらと冠雪していました(初雪)。 

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