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2024/01/17

タヌキの溜め糞場で多数のダニに寄生されたエンマムシの一種

 

2023年5月下旬・午前11:30頃および午後13:15頃 

平地のスギ防風林にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残した巨大な溜め糞場wbc-1を定点観察しています。 

今回私の目を引いたのは、1匹の真っ黒な甲虫(成虫)です。 
体表に赤っぽいダニ(種名不詳)が多数群がっていました。 
ダニは体外寄生や吸血性というよりも、ただヒッチハイク(運搬共生、便乗)しているだけかもしれません。 
この甲虫は何でしょう? 
どなたか教えていただけると助かります。 
てっきりタヌキ溜め糞場では常連のセンチコガネPhelotrupes laevistriatus)かと思ったのですが、ハネカクシのように鞘翅が短く腹端が露出していることに気づきました。 
その点でクロシデムシを連想しました。
体表に多数のダニが集ったクロシデムシの写真がネット上には多数公開されています。
しかし、クロシデムシにしては触角が違いますし、死肉食性のクロシデムシが獣糞に来るという話も聞いたことがありません。
同定のため謎の甲虫を採集すべきでしたが、採集道具を何も持ってこなかった私が「どうしよう? どうしよう?」と焦っている間に、溜め糞の中に潜り込んでしまいました。
こういうときに躊躇なく素手で捕獲できるのが筋金入りの虫屋なのでしょう。 
私はまだまだ修行が足りません。

【追記】
YouTubeのコメント欄にて、H720316氏から「ダニだらけの甲虫はエンマムシの仲間かな?」とのコメントを頂きました。
画像検索してみると、多数のダニのたかったエンマムシの写真がいくつかヒットします。
Yahoo知恵袋で他の人が写真鑑定してもらった回答が参考になったので、引用させてもらいます。
ダニの集団です。シデムシなどにもよく付着している肢が長めで全身が褐色のダニ(種は不明)と同じものと思われ、昆虫に寄生しているのではなく死体にわくウジを餌としており、自力では移動能力に乏しいため飛翔できる昆虫の体表にしがみついて乗り物として利用し、目的となる死骸に移動するものとされています。シデムシと異なりエンマムシは体表がツルツルした部分が多く上翅も体とぴったり組み合わさり隙間が少ないため、しがみつける場所が腹端くらいしかなかったのでしょう。
なおシデムシは死体を訪れて腐肉を食べるため、このダニを連れていくことで餌を巡って競合するウジを食べてもらうという双利共生の関係があるとされていますが、エンマムシの場合はダニと同じくウジを餌とするため、そのような関係には当たらないことになります。尤も死体には大抵エンマムシが食べきれないほどのウジが発生するので、餌を巡る競合までは起こらないと思われます。


溜め糞場wbc-1で多かったのは、クロボシヒラタシデムシOiceoptoma nigropunctatum)の成虫と幼虫でした。 
クロボシヒラタシデムシの幼虫は三葉虫のような奇怪な形をしています。 
様々なハエ類も集まっていましたが、真面目に検討していません。 

それよりも、どこか近くでずっと鳴いている鳥の美声が気になりました。 
調べてみると、森林性のクロツグミ♂(Turdus cardis)の囀りさえずりのようです。 
他にはキジ♂(Phasianus versicolor)が近くの農地(休耕地?)でケンケーン♪と縄張り宣言の母衣打ちほろうち♪をする鳴き声も聞こえました。 

※ 前半部はかなり薄暗くてぼんやりした映像だったので、動画編集時に自動色調補正を施しています。 
色合いが少しどぎつく強調されてしまったかもしれません。

帰路に現場を再訪したら、近くにもう一つ別な溜め糞wbc-2を発見しました。 
隣の溜め糞wbc-1よりも規模は小さいものの、新鮮な糞が追加されていました。 
クロボシヒラタシデムシの成虫および幼虫が群がって活動しています。 
現場では気づかなかったものの、写真にはサビハネカクシOntholestes gracilis)らしき姿も1匹写っていました。

2024/01/09

タヌキの溜め糞場に集まって婚活するクロボシヒラタシデムシ♀♂

 

2023年5月上旬・午後15:05頃・晴れ 

平地でスギ防風林を通り抜ける獣道の途中にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が長年使っている大きな溜め糞場wbcがあります。 
定点観察に来ると、新鮮な糞が追加されていました。 

未消化の獣毛が大量に混じった糞が気になります。 
タヌキが野ネズミなど哺乳類の獲物を狩って捕食したのでしょうか? 
死骸を食べたのかな?(腐肉食) 
あるいは、季節の変わり目でどんどん抜け落ちる冬毛を自分で毛繕いする際に誤飲してしまったのかもしれません。 
糞分析の専門家は、体毛だけでも顕微鏡で調べることで種類を見分けられるのだそうです。 
糞虫の中には、糞そのものというよりも糞やペレットに含まれる獣毛や羽毛を専門に食べる種類がいるらしいですけど、見慣れない糞虫は来ていませんでした。

糞に含まれる紫色の人工物の破片は、人家から盗んできた長靴を噛んだ際に誤飲したのでしょう。 
野生タヌキの行動圏を解明するために、マーキングしたプラスチック片を仕込んだ餌を与えて各地の溜め糞場で回収されるかどうか調べるマーキング実験を連想しました。 

タヌキの溜め糞にクロボシヒラタシデムシOiceoptoma nigropunctatum)の成虫が群がっていました。 
これほど多数の群れを見たのは初めてかもしれません。 
マウントした♂を背負いながら♀が歩き回っています。 
クロボシヒラタシデムシのあぶれ♂が交尾相手の♀を求めて忙しなく動き回り、互いにマウントし合っています。 
誤認求愛に気づくとあっさり離れるのですが、鳴き声(リリースコール♪)を発している訳でもありませんし、交尾拒否の合図がよく分かりません。 

赤っぽいダニ(種名不詳)がクロボシヒラタシデムシの体表を徘徊していました。 
他にはハエ類とカメムシがタヌキの溜め糞に集まっていました。 

2024/01/05

春にタヌキの溜め糞場に群がるクロクサアリ♀

 

2023年4月下旬・午後13:15頃・晴れ 

笹薮が広がる河畔林でオニグルミ大木の下にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場rpがあります。 
定点観察に来てみると、新鮮な糞がこんもりと追加されていました。 
木漏れ日が落ちる溜め糞上に、頭でっかちで黒光りするアリが多数うろついていました。 
クロクサアリLasius fuji)のワーカー♀ですかね? 
アリをつまんでみて山椒臭を発するかどうか確かめるべきだったのですが、状況が状況だけに素手で触りたくありませんでした(※追記参照)。 
どうやら林床で枯れた笹の落ち葉や茎などを通ってアリの行列ができているようです。 
溜め糞に未消化の種子が含まれているのが見えますが、それを採食しに来たという訳でもなさそうです。(種子食性のアリではない) 
クロクサアリ♀たちは食糞性で集まっているというよりも、ただの通り道なのかもしれません。 
今思えば、オニグルミ大木の根際に営巣しているのかもしれませんが、行列の行き先を突き止めていません。 
アリハンドブック』によると、
(クロクサアリの)巣は樹木の根部にあり、行列を作って樹木に生息するアブラムシに集まり、甘露を定常的な餌にしている。 (p61より引用)

気温の低い春にいわゆる糞虫はまだ活動していないようで、アリの他にはハエが1、2匹来ていただけでした。 
クロバエ科と思われる大型のハエが1匹と、あとは小型のハエがちらっと写っています。 
溜め糞場に集まる昆虫相を通年観察してきて、アリが主役というのは珍しいので、動画で記録してみました。

この溜め糞場rpには早春までトレイルカメラを設置していたのですが、アナグマの観察に集中するために泣く泣く撤去しました。


※【追記】 
溜め糞場の近くで未知の昆虫を見つけても、どうしても採集するのをためらってしまいます。 
吸虫管を自作して虫を採集していた時期もあったのですけど、不潔な獣糞の臭気+αを虫と一緒に吸い込むのは嫌過ぎます。 
最近では口で直接吸わなくても、電動で吸い込んでくれるタイプの吸虫管手動の吸引器具(シュポシュポ)も販売されているようなので、そうした文明の利器を使えば良いのでしょう。 
あとは、溜め糞に集まるハエを採集したくても、捕虫網を下手に振り回すと網が糞で汚れるのが嫌で躊躇してしまいます。 
使い捨てできる安価な網があるとか、何か良い採集テクニックがあるのでしたら、教えて欲しいです。 
捕虫網ではなくトラップ式でハエ類を捕獲するのかな?

2023/12/15

ホンドタヌキの溜め糞に集まり吸汁するハラビロヘリカメムシ

 

2023年5月上旬・午後15:15頃・晴れ 

スギ防風林にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残した最大級の溜め糞場wbcを見に行くと、新鮮な糞がこんもりと追加されていました。 
糞の一部には珍しく未消化の獣毛が混じっていました。 
タヌキが野ネズミなど小型の哺乳類を狩って捕食したのか、死骸を食べたようです。 
木漏れ日を浴びた溜め糞に多数のクロボシヒラタシデムシOiceoptoma nigropunctatum)が群がっていましたが(別の記事で映像公開予定)、それより気になる虫が居ました。 

前翅の黒点が目立たないことから、ホシハラビロヘリカメムシではなくハラビロヘリカメムシHomoeocerus dilatatus)だと思います。 
(参考:『カメムシ博士入門』p115) 
2匹のハラビロヘリカメムシが口吻の先でタヌキの糞の乾いた表面を頻りに探っているものの、深く突き刺してはいないようです。 
獣糞から吸汁するチョウ類と同じように、性成熟に必要なミネラル類を摂取しているのでしょうか?
口吻の動きをマクロレンズで接写すれば良かったですね。 
望遠マクロでも口吻が結構見えてますし、スギ林の林床は薄暗くて接写には向いてないと判断しました。 
本来はマメ科の植物を宿主としている(吸汁している)のだそうです。
(近縁種ホシハラビロヘリカメムシの情報) 
獣糞から吸汁するカメムシを見るのは久しぶりです。 

関連記事(7,10年前の撮影)▶  


溜め糞上を活発に歩き回るクロボシヒラタシデムシやハエ類が背中に乗っても、ハラビロヘリカメムシは無反応で吸汁を続けています。
2匹のハラビロヘリカメムシは同じ糞(表面が少し乾燥して硬そうな糞)を挟んで互いに向き合っているのに互いに無関心で、糞の味見に夢中です。 
一緒に居たクロボシヒラタシデムシとは異なり、配偶行動を始めません。 (同性なのかな?) 

タヌキの溜め糞のすぐ横に、緑の葉が千切れてスギ落葉の上で萎びていました。 
なんとなくオオバコの葉ではないかと思ったのですが、定かではありません。 
その上に1匹のハラビロヘリカメムシが静止していました。 
私にはカメムシの性別を外見で見分けられませんが、溜め糞場に来る♀を待ち伏せしている♂なのかな? 
横の溜め糞場に来ている先客2匹の存在に気づいていないのでしょうか? 
逆に、私が溜め糞場wbcに近寄ったせいで糞塊から少し逃げた個体なのかもしれません。 

2023/08/31

雪山でニホンノウサギの糞粒に産卵するフユユスリカ♀?

 

2023年1月中旬・午後14:10頃・くもり 

スノーシューを履いて雪深い里山を探索していると、林内の雪面にニホンノウサギLepus brachyurus angustidens)が残した糞粒を見つけました。 
初めて歩く場所ですが、前後にピンクのリボンが目印として木に結び付けられていたので、おそらくスギ植林地の斜面を抜ける林道が雪に埋もれた地点のようです。 
7個の丸い糞粒がポロポロとまとめて排泄された中には、形がやや歪な糞も混じっています。 
雪面に足跡が無いのにアカマツの木の下に糞だけがまとめて残っているということは、明け方など雪面が固く凍結していた時間に排便したのでしょう。 

現場では全く気づかなかったのですが、動画の直前に撮った写真を見直すと、1匹のフユユスリカ♀?が糞粒の表面に腹端を付けて産卵していました。 
私が動画を撮ろうと無遠慮にズカズカと近づいたら、フユユスリカ♀は糞粒から雪面に降りてしまいました。 
翅があるのに気温が低くて飛べないようです。 


雪山で獣糞に産卵するユスリカの一種♀を見つけたのは、これが2例目です。 
獣糞の種類は特に選り好みしないようです。
いよいよ面白くなってきました。
ハエ類などライバルとなる虫は越冬中なのに、寒さに強いユスリカだけが獣糞を独り占めしているようです。
今回も謎のユスリカを採集してないので、しっかり同定できていません。 
雪国の冬(積雪期)に見かけたからと言って、フユユスリカ属の一種とは限らないかもしれません。
次回は気温もしっかり測りたいものです。

雪山登山中に便意を催したら、しばらくは埋めずに放置しておいて、ユスリカが人糞トラップに誘引されるかどうか調べてみるのも面白そうです。

ユスリカに気づかず、ピントが甘くて残念

2023/08/30

ケカビの生えていない新鮮なタヌキ溜め糞に集まる晩秋のハエ類:ベッコウバエ♂、ハクサンベッコウバエ、キバネクロバエ

 

2022年11月中旬・午後13:15頃・晴れ 

里山のスギ林道で定点観察しているホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場sを見に行くと、大小の糞塊が2個残されていました。 
気温の低い晩秋には、溜め糞に集まるハエ類はめっきり少なくなっていました。 
来ている少数の昆虫も低温のせいで動きが非常に緩慢です。 

古い糞塊には白いケカビが発生しています。 
その上に追加された泥状の新鮮な糞(下痢便)にベッコウバエ♂(Dryomyza formosa)とハクサンベッコウバエNeuroctena analis)が1匹ずつ同じ向きに乗っていました。 
手前の別な小糞塊にはタヌキが食べた果実の種子が未消化のまま大量に含まれていました。 
そちらの小糞塊にキバネクロバエMesembrina resplendens)が1匹で来ていました。(@0:57〜) 

興味深いことに、ケカビの生えた古い糞塊にハエ類は集まっていませんでした。 
これが偶然の事象なのかどうか、今後も注意して見ていくつもりです。 
溜め糞を長期間のインターバル撮影したタイムラプス動画で記録すれば、分かりそうです。
ケカビが生えると獣糞の匂いや味、栄養価も変わるはずですから、ハエ類が来なくなっても不思議ではありません。 
糞の表面にモサモサのケカビが生えると、ハエが物理的に着陸しにくくなるのでしょうか?
その一方で、ケカビの生えた獣糞を好む糞虫もいます。 

関連記事(別地点で同年の秋に撮影)▶ ケカビの生えたタヌキの溜め糞を食べるセンチコガネ 

蓼食う虫も好き好きというか、ニッチの棲み分けが見事です。 
数日経つとケカビは自然に消滅し、溜め糞の生物分解は次の遷移段階へ移ります。 

2023/08/10

夏にタヌキの古い溜め糞に集まる虫たち:アカバトガリオオズハネカクシに噛み付くムネアカオオアリ♀など

 

2022年8月下旬・午後13:50頃・くもり 

里山の雑木林を抜ける林道にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残した溜め糞場aを久しぶりに見に来ました。 
林道の両脇に生えているアカマツとブナが目印です。 
新鮮な糞は残されておらず、一見すると溜め糞場aは使われていないようです。 
しかしよく見ると、糞塊が乾いて粒状の黒土と化しています。 
糞虫の活動によって、よく耕されていることが見て取れます。 
タヌキ溜め糞の遷移過程で夏によく見かける状態です。(何か専門的な呼び名があるのでしょうか?) 
遠目からは、ガリガリ、ザクザクとした霜柱をいつも連想します。 

肉食性のアカバトガリオオズハネカクシ(旧名アカバハネカクシPlatydracus brevicornis)が獲物を求めて徘徊しています。 
糞中に浅く潜るハネカクシの尻尾にムネアカオオアリCamponotus obscuripes)のワーカー♀が試しに噛み付きましたが、さすがに獲物として狩ることはありませんでした。 
2匹のハネカクシが出会うと、小競り合いになりました。

青紫色の金属光沢が糞の中からちらっと覗いているのは、おそらくセンチコガネPhelotrupes laevistriatus)だと思うのですけど、棒でほじくって確認すべきでした。 
溜め糞場でセンチコガネをタヌキが捕食してから後日、未消化のまま排泄された鞘翅だとしたら面白いですね。

関連記事 ▶ 

小型の黒い糞虫はエンマコガネの仲間でしょうか?(自信なし) 
同定のためにエンマコガネ?を採集して持ち帰りました。 
以下に標本の写真を載せる予定です。 

採寸代わりに並べた熊よけスプレー(長さ20cm)


2023/08/05

雪上のタヌキ溜め糞に群がるフユユスリカ?の謎

 

2022年12月下旬・午後14:00頃・晴れ

スノーシューを履いて山麓近く(標高〜320m地点)のスギ植林地を探索していたら、ザラメ雪の上にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場opを新たに見つけました。 
周囲の雪面にはスギの落枝や落ち葉が散乱していて、タヌキの足跡も多数残っていました。
新鮮な糞の中に植物の種子が少し混じっています。 
糞の下の雪が少し溶けて、雪を茶色に染めています。 
スギ林床には日がほとんど射さないので、太陽熱ではなく排泄直後の糞の体温のせいで雪が少し溶けたのだと思われます。 

この日は他の地点の溜め糞場も見て回ったのですが、根雪が積もった後なので、糞虫類はおろかハエ類も全く来ていませんでした。 
ところが、ここではタヌキの糞塊にユスリカの仲間が数匹集まっていたので、非常に驚きました。 

このユスリカは、獣糞の表面から吸汁しているのでしょうか? 
口元をマクロレンズで接写すべきでしたね。 
平凡社『日本動物大百科9昆虫II』を紐解いてユスリカ類について調べると、
成虫は摂食をしないものと考えられていたが、花の蜜の吸汁、飼育下で蜂蜜溶液などをなめるという事実の観察から、この考えは訂正された。実際、成虫の口器の形態は、液状の物質を摂取していることを明確に裏づけている。(p126より引用)
動画を注意深く見直すと、糞上を歩き回るユスリカが先の尖った腹端をチョンチョンと糞に付けていました。 
ユスリカ♂の触角はブラシ状に発達しているはずですから、♀が産卵しているのだと謎が解けました。 
孵化した幼虫が冬の間にタヌキの糞を食べてゆっくり育つのでしょう。

溜め糞の周囲の雪面を徘徊する個体もいますが、雪上は気温が低くて風もやや強いので、飛べないようです。 
現場で気温を測るべきでしたね…。 
厳冬期の雪上生活に適応するために翅を退化させた昆虫もいますけど、今回見つけたユスリカには翅があるので、晴れて暖かい日には普通に飛び回るのでしょう。

ネット検索で調べてみると、フユユスリカ属という名前からして魅力的なグループがいるそうです。

参考サイト:
フユユスリカは、フユユスリカ属に分類される体長4~5mmほどの小さなユスリカの仲間で、名前のとおり、冬になると川から羽化して成虫となります。

近藤繁生「深泥池のビワフユユスリカ(新称) Hydrobaenus biwaquartus について」ため池の自然 No. 37(2003) によると、
フユユスリカは、エリユスリカ亜科フユユスリカ属Hydrobaenus に含まれるユスリカで、わが国では、現在およそ30種の成虫が記録されている(佐々, 1998) が、幼虫については 4 種が知られているにすぎない(山本, 2001)。本属の幼虫は一般的に貧栄養の湖や河川の沿岸帯に生息し、休眠のため 2 令で繭を形成することが知られている。

 

ただし、今回はユスリカを採集してないので、しっかり同定した訳ではありません。
雪国の冬季(積雪期)に見かけたからと言って、フユユスリカの一種とは限らない? 
他の季節にタヌキの溜め糞場でユスリカを見かけないのは、一体なぜでしょう? 
ハエ類など優占種に追い払われてしまうのかな? 
フユユスリカが特に耐寒性を獲得した秘密も不思議です。 
捕食者(捕食性昆虫)の居ない冬季は生存に有利なのでしょう。 

ここ数年、タヌキの溜め糞場に集まる虫たちを重点的に観察してきたので、当地で見れる登場メンバー(「うんちレストラン」の常連客)はほぼ見尽くしただろうという自負がありました。 
それでもなお、観察する時期や時間帯を変えれば驚くような発見が未だ残っていて、自然観察は奥が深いとつくづく痛感しました。 

後日、この地点にトレイルカメラを設置して、本当にタヌキが排便に通ってきていることを確かめました。 









【追記】
どうやらタヌキ以外の動物の糞にも集まるようです。


2023/06/21

ベッコウバエの婚活パーティーで独身♀に求愛しても振られ続ける「あぶれ♂」(交尾拒否)

 



2022年11月上旬・午後12:05頃・くもり 

腹部の色で性別をかんたんに見分けることができるベッコウバエ♀♂(Dryomyza formosa)は、配偶行動の観察に向いています。 
腹部が黒光りしているのが♀で、黄金色の毛が密生しているのが♂です。 

少し時間を置いたら、逃げていたベッコウバエ♀♂がホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場dに多数戻って来ました。 
複数のベッコウバエ♀がタヌキの糞を舐めています。 
独身の「あぶれ♂」が翅を小刻みに開閉しながら交尾相手♀を求めてうろついています。 
性比は珍しく♀の方が多くて、♂にとっては夢のハーレム状態(交尾し放題)のはずです。
ところが、あぶれ♂が近くに居る単独♀に次々に飛び乗って求愛・マウントしても、なぜか連戦連敗です(ふられ続ける)。 
早い者勝ちの♂が♀の背に乗って配偶者ガードしている訳でもないのに、単独♀が単独♂の求愛を断るのは不思議です。 
交尾済みの♀は2度と交尾しないのでしょうか? 
それなら♂が♀を交尾後ガード(配偶者ガード)する必要はなくなります。
それとも♀は交尾相手の♂を厳しく品定め・選り好みしているのでしょうか? 
♀が同意しなければ♂がマウントしても交尾は成立しません。

あぶれ♂に度重なる求愛を受けても(セクハラ)、♀は嫌がって逃げたりしないで、落ち着いて吸汁を続けています。 
交尾拒否すればあぶれ♂が紳士的に諦めてくれるので、安心できるのでしょう。 
しかし、ベッコウバエ♀が交尾拒否する意思表示法が私には分かりません。 
♂にマウントされた♀が腹端を下に屈曲するのが交尾拒否なのかな? 
たとえば♂にマウントされた♀が胸部の飛翔筋を高速で動かして、体の振動で♂にお断りの合図を出しているのかもしれません。 
高性能のマイクを溜め糞に仕込めば、かすかな羽音も聞き取れるはずです。 

♀も脚を持ち上げて広げることで、隣の♀が近づかないよう牽制しています。
しかし「あぶれ♂」は♀から足蹴にされないよう前後から求愛アプローチしてマウントを試みます。

次はベッコウバエ♀の産卵行動を観察したいものです。




2023/06/15

ベッコウバエ♂の配偶者ガード:横恋慕するあぶれ♂を足蹴にして撃退

 



2022年11月上旬・午前11:55頃・くもり 

ホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場dで繰り広げられる ベッコウバエ♀♂(Dryomyza formosa)の配偶行動が面白くて観察しています。 

糞塊の横でイタヤカエデの黄色い落ち葉に「あぶれ♂」が乗っていて、交尾相手の♀が溜め糞に飛来するのを待ち伏せしています。 
そのあぶれ♂が翅を半開きにピクピク動かすようになり、目の前で交尾していた♀♂ペアに跳びつきました。 
あぶれ♂は目の前で動くものに対しては、とにかく何にでも飛びついてみるようです。(誤認求愛) 

実は、このイタヤカエデの落ち葉に乗っていた個体は腹背が黒っぽかったので、てっきり♀だと初めは思い込んでいました。 
ところが、横から見ると黄色がかっていて、黄色の毛があまり密生していない♀♂中間型の個体でした。 
その後の行動を見る限り、♂で間違いなさそうです。 
♂なのに♀のふりをして油断させつつ交尾のチャンスを狙うスニーカー戦略の♂だとしたら面白いのですが、どうでしょうか? 

溜め糞に居る交尾ペア♀♂aをよく見ると、実際には交尾器を結合していない状態でマウントを続けており、配偶者♀をライバル♂bから守っている(交尾後ガード)、と表現するのが正しいです。 
♂が自分の遺伝子を確実に次世代に残すためには、交尾した♀が産卵するまで他の♂と浮気しないようしっかりガードする必要があるのです。
実際に、♂aは♀にマウントしながら中脚を伸ばしてあぶれ♂bが配偶者♀に近寄らないよう牽制し、強引に飛びかかってきたら蹴って撃退しました。 

足蹴にされたあぶれ♂bはあっさり諦めて、横のイタヤカエデ落ち葉にすごすごと戻りました。 
交尾中のペアに割り込んで♀を強奪することはありません。 
体格を比べると、今回は交尾後ガードをしている♂aがあぶれ♂bに勝っていました。 
もしもあぶれ♂の方が体格が大きければ、♀を奪い取って交尾できるのでしょうか? 
(私は♀の強奪シーンを未だ一度も見たことがありません。)

つづく→

2023/06/12

タヌキの溜め糞場で交尾を始めたベッコウバエ♀♂(求愛成就)

 

2022年11月上旬・午前11:45頃・くもり 

山林の斜面をトラバースする小径にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残した溜め糞場dがあります。 
晩秋の小径には黄葉したイタヤカエデの落ち葉が敷き詰められていました。 
タヌキの新鮮な糞は下痢便(泥状)で、少し古い糞には白いケカビが生えかけています。 
糞塊にはベッコウバエ♀♂(Dryomyza formosa)が群がり、婚活パーティーが繰り広げられていました。 
私が溜め糞に近づくと警戒して一斉に飛び去ってしまいましたが、しばらくすると少しずつ戻ってきます。 

溜め糞の横にあるイタヤカエデの黄色い落ち葉の上でベッコウバエ♀♂が出会い頭にいきなり交尾を始めました。 
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。 
ベッコウバエの性別は腹部の色で簡単に見分けられます。 
♀の腹部は真っ黒で、♂の腹部には黄金色の剛毛が密生しています。 
イタヤカエデの落ち葉に乗っていた♀の正面から♂が翅を震わせながら近づき、そのまま♀に馬乗りになると、向きを変えて(頭の向きを揃えて)マウントしました。 
♀の背後からマウントした♂は、すかさず黒い交尾器を伸ばして♀に挿入したようです。 
♂の求愛が成就して交尾が始まる瞬間を初めて観察できました。 
どうもベッコウバエには儀式的な求愛行動というものは無いようです。 
強いて言えば、翅を素早く開閉して翅の黒い斑点模様を誇示するのが求愛なのかな? 
♂が求愛しても♀に交尾拒否される場合がほとんどなのですが、求愛の成否は何によって決まるのでしょう? 
♀が何らかの基準で♂を選り好みしているのか、それとも羽化した♀は♂と生涯で一度しか交尾しないのでしょうか? 

少しズームアウトすると、交尾中の♀♂ペアの少し上のイタヤカエデ落ち葉にあぶれ♂が乗って♀を待ち伏せしていました。 
交尾中の♂は、別のハエが飛来すると翅を半開きにして軽く震わせ、牽制・撃退します。(配偶者ガード) 
しばらくすると、♀と連結していた♂の交尾器が外れました。(@1:50〜) 
伸びた状態の♂交尾器がよく見えます。 
ベッコウバエの交尾時間は意外に短いようです。

2023/06/06

誰彼構わず(♂にも)交尾を挑むベッコウバエのあぶれ♂

 

2022年11月上旬・午後10:30頃・晴れ 

湿地帯を囲むコンクリート護岸に残されたホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場uを久しぶりに見に来たら、新鮮な糞が追加されていました。 
糞にたくさん含まれている黄色い粒は、未消化のトウモロコシのようです。 
この近くに飼料用のデントコーンを栽培する畑があったので、タヌキがそこで収穫後のトウモロコシ落ち穂を拾い食いしてきたのかもしれません。 
それとも、近所で生ゴミや残飯を漁ってトウモロコシにありついたのかな?

ベッコウバエDryomyza formosa)の♀♂ペアが交尾しながら口吻を伸縮させて獣糞を舐めていました。 
獣糞上を歩き回る♀♂ペアがバランスを崩して横倒しになり、ようやく♀の姿も見えました。
ベッコウバエは腹部の色で性別をかんたんに見分けることができます。 
♀の腹部は黒く、♂は黄土色で黄金色の毛が密生しています。 
よく見ると、♀にマウントした♂aは交尾器を結合しておらず、♂aは配偶者ガード(交尾後ガード)しているところでした。

やがて、あぶれ♂bが登場します。(@0:44〜) 
実は冒頭のシーンから溜め糞上に来ていました。 
糞塊をせかせかと歩き回り、交尾ペア♀♂aに正面から近づきました。 
そのまま交尾ペアの♂aにマウントしたものの、すぐに相手が♀ではないと気づいて自発的に離れました。 
交尾後ガードしている♂aがあぶれ♂bを撃退したようには見えませんでした。 

しばらくすると、更に別個体♂cが糞塊に飛来しました。 (@1:06〜)
1/5倍速のスローモーションでリプレイすると(@1:33〜)、腹背が黒くないのでcは♀ではなく♂と分かります。 
♂cが溜め糞に着地した瞬間に横に居たあぶれ♂bが反応して向き直り、正面から飛びつきました。 
背後からマウントしながら方向転換して体の向きを揃えたものの、交尾には至らず離れました。 
今回は飛びついた相手cが♀ではなく♂だと気づくのに少し時間がかかりました。 
飛びつかれた♂がヒキガエルのようにリリースコール(「離せ!」)を発音していたら面白いのですが、私の耳には聞き取れませんでした。
♂bに襲われた♂cは驚いて(嫌がって?)飛び去ってしまいました。 
失敗続きでも、あぶれ♂bはめげません。 
あぶれ♂bは苛々と翅を素早く開閉して黒い斑点模様を見せつけながら、再び交尾ペア♀♂aにアプローチしました。 
再度♂aにマウントを試みるも、誤認求愛と気づいて離れました。

ベッコウバエの♂は♀に対して儀式的な求愛行動をしないようです。(翅紋誇示が求愛なのかな?)
いきなり相手に飛びついて背後からマウントします。 
しかもベッコウバエ♂は周囲で動くハエには誰彼構わず飛びついて交尾を挑むことが分かりました。 
相手に触れてみて初めて性別が認識できるようです。 
♂同士の闘争で交尾中の♀♂ペアから♀を強奪することはありませんでした。 

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