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2016/02/22

巣口付近で激しく争うキイロスズメバチ



2015年10月中旬

キイロスズメバチ巣の定点観察#9


この日は、妙な事件が起こりました。

シーン1:撮影開始時刻13:00

キイロスズメバチVespa simillima xanthoptera)が出入りする巣口に狙いを定めて撮影していると、帰巣したワーカーに門衛が突然飛びかかりました。(@0:27)
大顎で噛み合う喧嘩になり、一匹が落下。
残った方は興奮したように羽ばたきながら外被上を徘徊してから入巣。
門衛が勝ったのかどうか、定かではありません。
喧嘩の原因は何だったのでしょうか?
他のコロニー出身の蜂が迷い込んだのでしょうか?
つづいて門衛?が巣内から♀を追い出しました。
巣口で誰何する門衛がピリピリと殺気立っているとしたら、その原因として特にこの時期はオオスズメバチによる襲撃が考えられます。
実はそれを半ば期待して様子を見に来たのですが、この日オオスズメバチの襲撃はありませんでした。
この時期はワーカーの数に対して外役に出ない生殖虫(新女王と雄蜂)の割合が増えてコロニーの食糧事情が悪化し、苛烈な口減らしが行われているのでしょうか?

先日は、幼虫の餓死あるいは子殺しが疑われる事件も観察しています。
▼関連記事 
巣の外に捨てられたキイロスズメバチ幼虫の謎【子殺し?】
狩りや採餌に出撃したのに空荷で帰巣するワーカー♀を許さず門衛が追い返しているのかな?(ノルマが厳しい)
喧嘩騒ぎの一方で、巣口の左下では別個体のワーカー♀が外被をせっせと増築しています。


シーン2(@1:01〜):撮影開始時刻13:44

巣口で2匹の蜂が激しく喧嘩しています。
一方的に噛んでいるようで、やられている蜂はほとんど反撃しません。
映像では性別をしっかり見分けられないのがもどかしい限りです。
(同定用にストロボ写真を撮るべきでしたが、動画撮影を優先しました。)
もし交尾行動なら♂がマウントを試みるはずですが、そのような展開にはなりませんでした。
巣に侵入を試みた雄蜂(または他コロニー出身の♀)が撃退されたのかな?
アシナガバチでよく見られるような優位行動がスズメバチにもあるのでしょうか?
権勢の衰えた創設女王に対してワーカー♀がクーデターを蜂起したのでしょうか?
無抵抗で動かない相手の体を2匹の門衛?が噛み続けています。
喧嘩に毒針は使わず、大顎で噛み付くだけでした。
鎧のように固いクチクラは噛み切れないらしく、致命傷を与えられないでいます。
やがて2匹とも外被からもつれ合うように落下しました。(@3:24)
死闘を繰り広げている間に、その横では平然と造巣作業が続いています。

※ 動画編集時に自動色調補正を施してあります。


つづく→#10:巣に侵入したクサギカメムシを追い払うキイロスズメバチ♀



2016/02/21

キイロスズメバチ♀による外被の増築と巣口の拡張【6倍速映像】



2015年10月中旬

キイロスズメバチ巣の定点観察#8


10日ぶりに様子を見に行くと、
キイロスズメバチ
Vespa simillima xanthoptera)のワーカー♀は依然として外被を増築していました。
本種のコロニーを見つけてもすぐに駆除されてしまい、晩秋に観察するのは初めてなのですが、こんな遅い時期まで巣を増築するとは驚きました。
コロニーの活動を微速度撮影してみました。
6倍速の早回し動画をご覧ください。
軒下は薄暗いのですが、ときどき日が照ると下のトタン屋根の照り返しで巣も明るく映ることがあります。
巣口では常に門衛が内側から見張りをしています。
ワーカー♀が活発に出入りして、外被上のあちこちで巣材を付け足しています。
巣口を大顎で削り取って拡張する工事も行われていました。

巣穴はいつも同じ大きさではなく、活動が活発な日中は大きく、夜間は小さくなる。(『都市のスズメバチ』p16より)



※ 動画編集時に自動色調補正を施してあります。

つづく→#9:巣口付近で激しく争うキイロスズメバチ


巣の真下から撮影
巣口の左斜め上の♀は巣材を抱えている。
側面からの撮影
帰巣する蜂の飛翔シーン(右上)

2016/02/08

寄生蜂コクロオナガトガリヒメバチ♀と寄主ヒメクモバチの攻防:その2



2015年10月上旬

境界標に営巣したヒメクモバチの定点観察#11


シーン1:午前10:50

寄主のヒメクモバチ(旧名ヒメベッコウ;おそらくAuplopus carbonarius)♀bが在巣のときに、境界標の左の縁から寄生蜂が泥巣に近づいてきました。
寄主と正面から向かい合い、ヒメクモバチが追い払いました。
しかし激しい闘争行動と呼べるようなものではなく、軽く突進する素振りを見せるだけでした。
ヒメクモバチは穏健な性格なのでしょうか。
もしかすると、コクロオナガトガリヒメバチ♀の姿形が寄主に擬態していてヒメクモバチ♀の目には紛らわしく見えるのかもしれません。

それとも、コクロオナガトガリヒメバチは白い触角を激しく動かすことで寄主を幻惑しているのかな?
寄生蜂は境界標の角を曲がった死角に隠れるだけで、執念深くチャンスを窺っています。
しばらく境界標の天辺を徘徊してから、寄生蜂は飛び去りました。




シーン2:午前10:52

寄主のヒメクモバチ♀bが吸水に出掛けた隙に寄生蜂がまた飛来しました。
泥巣の近くを徘徊している間に母蜂が泥巣に戻って来たので、絶好の産卵機会を逃しました。
ヒメクモバチ♀に睨まれた寄生蜂は境界標の天辺に登ってから、あっさり飛び去りました。
泥巣をガードしている間に、寄生蜂は未練がましく周囲を飛び回っています。
寄生蜂に挑発を繰り返されても深追いせず、泥巣から動かないのは賢明な防衛戦略と言えるでしょう。
しつこい天敵がようやく居なくなると、ヒメクモバチ♀は巣材集めのため地面に歩いて降りました。
泥玉を持って登り、造巣作業を続けています。
次は飛び去り、おそらくまた水を飲みに出掛けたようです。



シーン3:10倍速映像

シーン1、2と同時並行に微速度撮影した映像(@2:59〜)にも寄生蜂との攻防が写っていました。
引きの絵では小さな蜂は見えにくいのですけど、コクロオナガトガリヒメバチ♀は触角に白い部分があるのでなんとか見分けられます。



この日の総括:

この日は寄生蜂の産卵が見られず、前回ほど泥巣に執着して近づかなくなったのは何故でしょう?
寄主の巣作りの進捗状況を見に来ているだけかもしれません。
寄主ヒメクモバチの育房内で胚発生が進み、寄生蜂の産卵に適さなくなったのでしょうか?
母蜂の造巣ペースを見定め、次の貯食物が新しい育房に搬入されるまで待っているのかもしれません。
寄生蜂が人懐こくカメラの三脚に乗って来ることもありました。(映像は撮り損ね)

一方ヒメクモバチ♀も寄生蜂の存在に気づいているのにも関わらず、平気で巣を留守にしたり造巣活動を続けているのは不思議です。
もしこの日初めて観察していたとすれば、我が子を危険に晒す投げやりの態度にも見えたでしょう。
前回の観察(5日前)ではしつこい寄生蜂のせいで母蜂は泥巣に釘付けになり、ひたすらガードしていました。
造巣どころではなく、泥巣のガードを優先していました。

▼関連記事
寄生蜂コクロオナガトガリヒメバチ♀の産卵および寄主ヒメクモバチとの攻防

シリーズ完。


2016/02/06

山形県に泥を塗るヒメクモバチ♀【10倍速映像】



2015年10月上旬・午前10:22〜12:02

境界標に営巣したヒメクモバチの定点観察#10


ヒメクモバチ(旧名ヒメベッコウ;おそらくAuplopus carbonarius)♀bの採土および造巣活動を10倍速の微速度撮影で記録してみました。
前回は境界標の根元から採土している様子が写っていませんでした。

▼関連記事
泥巣を閉鎖するヒメクモバチ♀b【10倍速映像】
今回はもう少し引きの絵で撮影します。
母蜂は境界標に刻印された山形県の「形」の字の第7画目の書き始め部分(右上)の窪みに巣材の泥をせっせと詰めています。
境界標の直下での採土と側面での造巣の往復運動をひたすら繰り返しています。
採土ポイントは毎回決まっているようです。
境界標に侵入してきたアリをヒメクモバチ♀が追い払うシーンが写っていました(@0:45〜0:50)。

この日は水を飲みに出かける頻度が高い印象です。
採土前にほぼ毎回水を飲みに出かけることもあるようです。
すぐ喉が渇くほど気温が高くはありません。
水不足なのでしょうか?
前回と同じ水場(暗渠のドクダミ葉)に行ってみると、水を飲みに来たヒメクモバチ♀bを目撃しました。
人懐こく私のズボンの裾に乗ってきました。(動画撮り損ね)

水場から帰巣する前に寄り道して別な場所から採土するのではなく、いつもの場所(境界標の直下)から巣材集めする点も前回と違いました。

▼関連記事
巣材集めの合間に吸水するヒメクモバチ♀

ご覧の通り山形県に泥を塗る不届き者の蜂ですけど、洒落の分かる知事さん辺りが鶴の一声で「県の蜂」に指定してくれたら嬉しいなー!…なんてね。
ヒメクモバチは『ファーブル昆虫記』にも登場する由緒正しい蜂です。
ヒトを刺しに来ることはありませんし、大人しくて可愛らしい蜂ですので、成虫や泥巣を見つけても目の敵にしないで暖かく見守ってくださるようお願いします。


※ このジオラマモードで微速度撮影するのは便利なのですけど、チルトシフト効果で画面の上下部分をわざとぼかされてしまいます。
余計なエフェクト無しでも微速度撮影できるようメーカーさんには仕様の変更を強く要望します。
チルトシフト効果を入れずに録画したほうがバッテリーも長持ちするはずです。

つづく→#11:寄生蜂コクロオナガトガリヒメバチ♀と寄主ヒメクモバチの攻防:その2



2016/02/05

ヒメクモバチ♀bの採土と巣作り



2015年10月上旬・午前10:14〜10:20

境界標に営巣したヒメクモバチの定点観察#9


前夜は泥巣b上に姿が見当たらなかったので、母蜂♀bの身に何かあったのかと心配でした。
翌日の午前中に様子を見に行くと、無事な姿を見れて一安心。
夜間はどこか別の場所で寝ていたのでしょう。

4日前とは打って変わり、この日ヒメクモバチ(旧名ヒメベッコウ;おそらくAuplopus carbonarius)♀bは活発に造巣活動に励んでいました。
朝露が残っている午前中に集中して造巣活動するのでしょうか?
境界標に刻印された山形県の「形」の字の第7画目の書き始め部分(右上)の窪みに巣材の泥をせっせと詰めています。

蜂が働いている横で境界標の右側面にザトウムシの一種が居ました。
モエギザトウムシですかね?(当てずっぽうで自信なし)
蜂は気づいていないのか無害だと知って無視しているのか、ザトウムシを追い払わず吸水に出掛けました。

次に帰って来た蜂が泥巣を「形」作る行動レパートリーを1ラウンド全て動画に記録できました。
境界標の根元から採土し、吐き戻した水と混ぜて泥玉を作ると、腹端の背側を鏝のように使って巣材を伸ばして泥巣に追加します。

つづく→#10:山形県に泥を塗るヒメクモバチ♀【10倍速映像】



2016/02/03

条網を移動するオナガグモ(蜘蛛)



2015年10月上旬・午前9:23〜9:28


▼前回の記事
条網を綱渡りする夜のオナガグモ【蜘蛛:暗視映像】


真夜中に見かけたオナガグモAriamnes cylindrogaster)と翌朝に再会しました。
前夜とほぼ同じ位置に居て、枝間に張り渡した水平の条網で綱渡りしていました。
身繕いしているのか糸屑を食べているのか不明です。
やがて条網上で方向転換しました。
それまで持っていた白い糸屑を条網の三叉路合流点に付けたように見えました。
最後は松葉のように体を伸ばして静止しました。

何をしていたのかよく分かりませんが、糸疣に注目すると条網を張る造網行動(または条網の張り替え)なのかもしれない、という気がしてきました。

クモ生理生態事典 2016」でオナガグモの移動法に関して次のような記述がありました。

糸上を前進する時には第1・2脚で糸をたぐり,第3脚で糸を丸める.この時,右1脚で確保された糸は左2脚へ送られ左3脚で丸められる. 方向転換の時は前方と後方の糸を糸いぼの箇所でつなぎ,転換して,前部で糸を切断してから,新しい糸を糸いぼから出しながら前進する. 上方へ進む時には糸いぼから前へ糸がつながっている点が水平の糸上を進む時と異なる点である〔新海明AT49/50〕.
これを読んで、オナガグモが綱渡り中に糸屑のようなものを持っている理由が判明しました。
不要な糸を丸めるのは良いとして、なぜ食べてタンパク質を再利用しないのでしょう?
欲を言えば、もう少し拡大してスローモーションで接写したかったです。

いつかオナガグモが条網でクモ狩りを行うシーンを観察してみたいものです。
鳴らした音叉で条網に触れるとオナガグモがどんな反応するか、興味があります。(駆け寄ってくるのかな?)

獲物のクモが条網を歩いて来る振動と音叉の振動とは周波数が違う気がします。
今回の個体は手の届かない高所に居たため、指を咥えて眺めているしかありませんでした。



2016/01/31

キイロスズメバチ♀の巣作り



2015年10月上旬

キイロスズメバチ巣の定点観察#5


巣口の真下からキイロスズメバチVespa simillima xanthoptera)コロニーの活動を狙ってみました。
外被が画面上では縦に長い楕円球に見えます。
巣口ではワーカー♀が活発に出入りして、外被上ではあちこちで増築作業をしています。

この時期にも尚、キイロスズメバチが巣を拡張しているとは知りませんでした。

キイロスズメバチのワーカー♀が巣内から幼虫を引きずり出して外に捨てる瞬間は残念ながら撮れませんでした。

唐突に部外者のキアシナガバチが外被に着陸し、慌ててすぐに飛び去った事件が興味深く思いました。(@1:30)
実は、近所にあるキアシナガバチのコロニーが繁殖期を迎えたらしく、この軒下を群飛していました。(映像なし)
家屋の板壁や材木に止まって休む個体もいますが、巣材集めではありません。
新女王と交尾するために雄蜂が飛び回ったり、新女王が越冬場所を探しているのでしょう。

つづく→#6:体内寄生されて弱ったキイロスズメバチ♂



2016/01/29

巣の外被を増築するキイロスズメバチ♀【微速度撮影】



2015年10月上旬・午後12:25〜14:26

キイロスズメバチ巣の定点観察#3


翌日の昼過ぎ、軒下でキイロスズメバチVespa simillima xanthoptera)が巣の外被を増築している様子を微速度撮影してみました。
夜の静けさとは打って変わって昼間のコロニーは活発です。
50倍速の早回し映像をご覧ください。
多数のワーカー♀が各自の判断で外被上のあちこちで巣材を鱗状にせっせと付け足しています。
巣口では門衛が中から見張っています。

ところで、軒下で巣が固定されている垂木をウロウロと歩き回っている黒っぽい昆虫が気になります。
スズメバチの巣に寄生するハネカクシやゴキブリだとしたら面白いのですけど、越冬場所を探しているカメムシかな?

※ 動画編集時に自動色調補正を施してあります。

おまけの動画1:60倍速映像


おまけの動画2:10倍速映像(オリジナル)


同じ素材で早回し速度を変えたバージョンをブログ限定で公開します。

つづく→#4:巣の外に捨てられたキイロスズメバチ幼虫の謎



2016/01/23

網に付けたアメリカセンダングサの花を除去するオニグモ♀



2015年10月上旬

花を食べる造網性クモの謎#5:オニグモで試すと?


道端に張られた正常円網(垂直円網)に見慣れないオニグモの仲間を見つけました。
こちらに腹面を向け、網の中央部に下向きで占座しています。

さて、最近アメリカセンダングサの花を食べるイシサワオニグモ♀を発見したばかりなので、他の種類のクモではどうだろう?と比べてみたくなりました。
丁度近くに生えていたアメリカセンダングサ(どこにでも見かける帰化植物です)の頭花を摘んで、この網に投げつけてみました。
花を給餌する前に円網の写真を撮ればよかったですね。
円網の甑は丸く穴が開いていました。

給餌してすぐ大失敗に気づきました。
クモの体長に対して花の柄が長過ぎましたね。
見たこともない巨大な獲物に警戒しているのか、クモは慎重に触れて正体を確かめようとしています。
虫とは違い花は動かないので、クモは一度甑に戻りました。(下向き占座@0:44)
すぐにまた下りて行くと、今度は花の柄の先端に向かい、歩脚の先で恐恐と調べています。
ようやくクモが側面を向けてくれました。(@1:30)
茎の先端に対してなぜか捕帯でラッピングしようとしたので驚きました。(@1:45)
こんな巨大な獲物の全体を梱包ラッピングできるかな?
それまでクモは一度も花に噛み付いていません。
やがてクモは茎や葉の周囲の糸を噛み切り始めました。(@2:33)
捕帯でラッピングしかけた白い糸屑は手繰り寄せると殆ど消えてしまったので、自分で食べてしまったようです。

花周囲の糸を切りながらも網全体の張力のバランスが崩れて崩壊しないように、最低限の縦糸などを張り直していますね。
クモがうっかり花を手離してしまい、その拍子にようやく背中を向けてくれました。(@4:32)
腹背中央部の前方に白い斑紋が目立ちます。
まるで誰かが白い油性ペンマーキングしたのかと思ったくらいです。
腹部下面には1対の白点の斑紋があります。
苦心惨憺して、ようやく花全体を網から外し捨てました。(@5:26)
と思いきや、地面に落ちる前に花が網の下部に再び付着してしまいました。
クモはそれをちゃんと分かっていて、対処に向かいます。
今度こそ完全に異物を取り除きました。(@6:52)
その結果、円網が大きく破損してしまいました。
使い物にならなくなった部分の網を取り壊しています。
撮影後半はクモにピントを合わせにくく、苛々した私は甑に戻る前に撮影を打ち切ってしまいました。
画面の奥には防火水槽が見えます。

クモがアメリカセンダングサの花を食べてくれなかったのは残念です。
茎が長過ぎてクモが一度も花の部分に触れなかったので、食物として認識しなかったのは当然でしょう。
我ながら酷い嫌がらせをしてしまいましたが、巨大な異物を網から丹念に取り除いて排除する様子は健気でした。



捕帯で梱包ラッピングしかける。

とにかく腹背上部の白紋が気になったので、どうしても種名が知りたくなりました。
きちんと写真を撮るために、動画撮影直後に採集しました。
小さなプラスチック容器で体に触れると網から糸を引き緊急落下。(映像なし)
地面で擬死していたクモを捕獲しました。
『クモの巣図鑑』をパラパラと見比べて、ヘリジロオニグモ♀なのかと思いました。
念の為にいつもお世話になっている「クモ蟲画像掲示板」にて問い合わせてみると、くも子さんより色彩変異型のオニグモAraneus ventricosus)で未発達の♀だろうとご教示いただきました。
ヘリジロオニグモは切れ網を作り生息地は海岸部らしく、今回の撮影地は内陸(山地に近いほぼ農村部の郊外)であることからも納得です。
『日本産コガネグモ科ジョロウグモ科アシナガグモ科のクモ類同定の手引き』(谷川明男著)という素晴らしいPDF資料を紹介してもらいました。
私には未だ少しレベルが高いようで、精進します。

つづく→#6:網に付いたアメリカセンダングサの花を食べずに捨てるイシサワオニグモ♀【蜘蛛:暗視映像】



【追記】
くも子さんより以下のコメントを頂きました。
○果糖効果がポジティブの例にコガネグモも入っている。(果糖効果の実験をやるなら、幼体26.5%より成体66.7%を選択した方がよさそう…私見)しぐまさんの実験、次にオニグモでやるなら、幼体でなく成体でやると別の結果がでるかも?


外雌器

2016/01/13

軒下で大きく育つキイロスズメバチの巣:増築中



2015年10月上旬・午後15:42〜15:52

キイロスズメバチ巣の定点観察#1


山麓に佇む木造家屋の南西に面した軒下にキイロスズメバチVespa simillima xanthoptera)の巣を見つけました。
この時期に営巣中のコロニーは初見です。
ワーカー♀は外被を増築中でした。
10月になっても未だ活発に巣を拡張していることに驚きました。

下から見上げると巣の外被は楕円球でした。
薄暗い軒下で屋根の棟木と垂木の接続部に吊り下げられています。
スズメバチの古巣を除去した痕跡が隣の垂木に見えるので、毎年のように代々ここで営巣しているのかもしれません。
外被中央に一つだけある巣口に蜂が何匹も出入りしています。
常に門衛が中から巣口を守っていますが、たまに門衛が居なくなると巣内に白い繭が見えました。
後半は、外被右下で造巣中のワーカーを狙って撮影します。
巣材を使い切ると、入れ替わるように別個体が近くで造巣を始めます。

キイロスズメバチは攻撃性が高いとされているので不安でしたが、巣の真下でカメラのストロボを焚いても怒って攻撃してくることはありませんでした。
動画撮影時には気づかなかったのですけど、写真を見直すと雄蜂がときどき外被を徘徊してるようです。(♂は触角が長く腹部の体節も♀より1節多い)
このコロニー出身の♂なのか、それとも交尾相手の新女王を求めて他のコロニーから訪問してきた♂なのでしょうか?

営巣地の目の前はスギの大木が2本立ち、横に沢が流れている自然豊かな環境です。
キイロスズメバチ♀はこの杉の木から巣材の樹皮を採取してくるのではないかと予想したものの、実際には確かめられませんでした。

※ 軒下で撮った薄暗い映像を動画編集時に自動色調補正を施しています。

つづく→#2:巣の外被で寝るキイロスズメバチ♀【暗視映像】


全景
全景
別アングル
♀♂
♀♂

2016/01/10

夜に垂直円網の下部を取り壊すアカオニグモ♀b【蜘蛛:暗視映像】



2015年9月下旬・午後19:28〜23:20

アカオニグモ♀の定点観察#19


同じ日の夜に再訪すると、アカオニグモ♀b(Araneus pinguis)は円網の中心部(甑)に占座していたので驚きました。
こちらに背面を向け甑で下向きに占座しています。
いつ見ても隠れ家に潜んでいて滅多に円網に出てこない♀aとは対照的です。

獲物を待ち伏せる位置の違いは何か理由があるのか、気になります。

  • 単なる気質(大胆⇔臆病)の個体差?
  • 発生ステージ(幼体→亜成体→成体)の違い? 体長は♀a>♀b。
  • 空腹状態の違い? 天敵に襲われるリスクを承知の上で、網に虫がかかったら直ちに駆けつけられるよう臨戦態勢で待ち伏せているのか?
もし私が網に生き餌を給餌したら、アカオニグモ♀bはその場(甑)で捕食するのか、それとも隠れ家に持ち帰るのか、興味があります。
試しに実験してみたかったのですけど、現場では虫が調達できませんでした。
予め捕獲した獲物を持参する必要がありそうです。

♀bは腹背が未だ黄色っぽいのでは亜成体なのですかね?(体長は未採寸、外雌器の状態も未確認)
『まちぼうけの生態学:アカオニグモと草むらの虫たち』p5によると、
♀は成熟するにしたがい、おなかの色が黄白色から赤色へかわる。♂のおなかの色は黄白色のまま。
また、同書p16によれば、
あたりが暗くなってから、アカオニグモは隠れ場所からでてきた。食べるところのなくなったカメムシを地上に落とすと、網の中心で頭を下にして、動かなくなった。




その後、私も網の手前に座ってひたすら待ち続け監視していたのですが、油断していたらいつの間にかアカオニグモ♀bが網を取り壊し始めました。
円網の下側の一部だけ(アナログの時計盤に見立てると5時〜7時)扇状に畳んで、切れ網のようになりました。
網全体を一気呵成に取り壊すのではなく、クモはなぜか残った網の中心で上向きに休んでいます。
こうした破網のやり方(下側を先に取り壊す)は別個体♀aでも見ているので、アカオニグモ(またはもっと広くコガネグモ科)に特有の習性なのかもしれません。

▼関連記事
アカオニグモ♀a(蜘蛛):垂直円網の失敗作?【暗視映像】

つづく→#20:音叉でアカオニグモ♀bを騙してみよう【暗視映像】



2016/01/08

巣材集めの合間に吸水するヒメクモバチ♀



2015年9月下旬・午後13:56〜14:11

境界標に営巣したヒメクモバチの定点観察#4


ヒメクモバチ♀b(旧名ヒメベッコウ;Auplopus carbonarius)の採土場が分かったところで、次は水飲み場を突き止めようと思いました。

母蜂は2〜3回連続して境界標の根本から採土すると、必ずどこかに水を飲みに遠出することが分かりました。
泥巣から飛んで行く蜂を追いかけると、参道を約10m下った地点の草むらに着陸しました。
ここは里山から沢の水を排水する暗渠が参道を横切って埋設されています。
排水溝は枯れていて水は流れていないものの、苔などが生えていて湿っています。
蜂はドクダミの葉に付いた朝露を舐めていました。

飲水後に帰巣する蜂を追いかけても、いつも見失ってしまいます。
蜂よりも私の方が先に営巣地に着いてしまうのです。
水場から帰巣した蜂は必ず泥玉を咥えていることから、別の採土場に寄り道してきているに違いありません。
2回続けてほぼ同じ場所から吸水するシーンを観察できました。
水場の近くの参道沿いに境界標が2本並んでいて、それぞれに別のヒメクモバチ♀a,bが営巣しています。

ほぼ休みなく泥巣の閉鎖を続けてきた♀bが、やがて作業を止めてしまいました。
外出しても空荷で帰巣し、泥巣上で点検や身繕いを繰り返すだけになりました。
疲れて休んでいるのでしょうか?
働く時間帯が決まっているのかもしれません。
巣材の土は無尽蔵にありますけど、晴れて気温が上がると水場の朝露が蒸発してしまい、巣作りが出来無くなるのかもしれません。
(少し飛んでいけば川も流れていますし、水なら他の場所へ探しに行けば良さそうなものですが…。)
もし私が営巣地の近くに水場を作ってやったら蜂は利用してくれるでしょうか?
水を入れた皿を置いたり、近くの木の葉に霧吹きしたりしても、一度身についたルーチンワークの行動パターンは変わりそうもない気がします。
それでも、ヒメクモバチ♀の行動にどれぐらい融通性があるのか実験してみなければ分かりません。

育房の閉鎖が完了したのであれば、続けて隣に新しい育房を増設するはずです。
しかし蜂に動きが無いため、諦めてこの日の観察を打ち切りました。

つづく→#5:境界標の泥巣上で身繕いするヒメクモバチ♀a




【追記】
『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』第13章 清水晃「クモを狩るハチたち」を読んで驚いたのですが、中米コスタリカ産のヒメクモバチ属の一種Auplopus semialatusは原始的社会性の暮らしを送っているそうです。
そのような社会性の進化を考える上で、
巣づくりに先立って水を吸い、それを素のうに入れて巣場所まで運ぶ行動がきわめて重要になる。この行動こそが、自分が羽化した泥壺状の巣(母巣)の再利用を可能にすることは疑いの余地がない。つまり、母巣は水を用いてリフォームすることのできる親世代の貴重な遺産となるのである。羽化した♀たちは、この遺産を引き継ごうとして、羽化後も母巣にとどまろうとするだろう。〈散らばらなかった社会〉の出現である。クモバチ科では、水を利用した泥球づくりはヒメクモバチ属およびその近縁の属(ヒメクモバチ亜族)にのみ見られる。 (p286〜287より引用)

私も日本産のヒメクモバチで巣材の再利用を観察したことがあります。
当時は巣材を盗む労働寄生なのかと思っていました。

▼関連記事(7年前の撮影)

2016/01/07

営巣地の直下で採土するヒメクモバチ♀b



2015年9月下旬・午後13:20〜13:35

境界標に営巣したヒメクモバチの定点観察#3


ヒメクモバチ♀b(旧名ヒメベッコウ;Auplopus carbonarius)が繰り返す造巣行動をしばらく眺めていると、採土は近場で済ませていることをようやく突き止めました。
境界標の根本の地面を掘って泥玉を採取していたのです。
高さ40cmの境界標を上下に往復するだけなので、造巣作業が捗ります。

本種の営巣地と採土場を共に突き止めたのは2回目です。
2009年は泥巣から約3m離れた崖から巣材を集めていました。

▼関連記事
ヒメクモバチの採土と泥玉作り1

今回、母蜂の造巣行動を邪魔しないように少し離れた位置から撮影していたので、蜂が境界標の根本に降りた所で手前に茂った灌木の葉に隠れていつも見失っていたのです。
灯台下暗しとは正にこのことですね。

微速度撮影と同時並行してハンディカムで撮りました。

映像の冒頭で、ヒメクモバチ♀は境界標のすぐ左で常緑の灌木の葉に乗って小休止していました。
吸水および採土を済ませた直後のようで、小さな泥玉を咥えています。
歩いて境界標の側面を登ると泥巣を塗り潰す作業を行います。
造巣後は歩いて地面に降りました。
境界標の真下の
落ち葉の下に潜り込むと、地面を大顎で掘り返し採土しているようです。

採土と造巣を数回繰り返す毎に、境界標から飛んで外出することがあります。
これは水を飲みに出かけているのです。(映像公開予定)
飲んだ水を吐き戻しながら、土塊をよく噛み解して滑らかな泥玉を作り、巣材とするのです。
吸水の直後はいつも帰巣する途中、どこか別の場所で採土して来ます。(どこか突き止められませんでした)

つづく→#4:巣材集めの合間に吸水するヒメクモバチ♀


2016/01/06

泥巣を閉鎖するヒメクモバチ♀b【10倍速映像】



2015年9月下旬・午後13:11〜14:18

境界標に営巣したヒメクモバチの定点観察#2


ヒメクモバチ♀(旧名ヒメベッコウ;Auplopus carbonarius)の造巣行動をいつか微速度撮影してみたいと思っていました。
絶好の機会にウキウキしながら、境界標の前に三脚を据えて約1時間の長撮りをしてみました。
営巣基質の境界標は地中に打ち込まれているため、いくら風が吹いても「動かざること山の如し」で、微速度撮影の対象として適しています。
育房群の全体を厚い泥で覆い隠そうとしている最終段階を10倍速の早回し映像でご覧ください。
巣材の泥玉を新たに付け足した部位は湿っているので黒点として見えます。
しばらくすると泥が乾いて周囲と同じ色になります。
母蜂は気紛れというか毎回違う場所にせっせと巣材を付け足していることがよく分かります。
ランダムに付け足すことで、乾くまでの待ち時間を節約できますね。
「山」の字の右側の縦溝を主に埋めているのですが、その下の文字「形」の凹みにもときどき巣材を付け足しています。
境界標を歩いて降りるのは巣材集めのためで、飛んで泥巣を離れるのは水を飲むためです。
水を吐き戻しながら土と混ぜて泥玉を作るために、ほぼ採土5回に対して1回の割合で吸水が必要になるようです。
映像の後半になると蜂は造巣を止め、巣上での休息が増えました。

これだけの泥巣を建造するのにヒメクモバチ♀は一体何往復して巣材を運んだのだろうと想像すると気が遠くなります。
ご覧の通り山形県に泥を塗る不届き者の蜂ですけど、洒落の分かる知事さん辺りが鶴の一声で「県の蜂」に指定してくれたら嬉しいなー!…という初夢を見た。

ヒメクモバチは『ファーブル昆虫記』にも登場する由緒正しい蜂です。


ヒトを刺しに来ることはありませんし、大人しくて可愛らしい蜂ですので、成虫や泥巣を見つけても目の敵にしないで暖かく見守ってください。

この母蜂が巣材を集めてくる採土場は意外な所にありました。

つづく→#3:営巣地の直下で採土するヒメクモバチ♀b



2016/01/05

境界標に作った泥巣を閉鎖するヒメクモバチ♀b



2015年9月下旬・午後13:00〜13:10

境界標に営巣したヒメクモバチの定点観察#1


里山の参道沿いに県の境界標が地面に何本も打ち込まれています。
コンクリートで出来た境界標の東側面に刻印された「山形県」という文字の窪みに泥巣を作っている黒いハチを見つけました。
同定のため蜂を採集すべきか迷いましたが、造巣行動をよく観察すると腹部を屈曲して腹端をコテのように使って巣材の泥玉を塗り伸ばしています。
この特徴的な行動からヒメクモバチ(旧名ヒメベッコウ;Auplopus carbonarius)だろうと判りました。
この辺りでは普通種ですけど、これまでに蜂を個体識別して定点観察したり飼育したりと手を替え品を替え何年もしつこく調べ続け、私と付き合いの長いクモバチです。

今回見つけた営巣地は標高360m地点で、周囲の環境はスギと雑木林の混合林。
コンクリート製の境界標を採寸すると、12.5×12.5×40cm。
側面に刻印された「山」の字の第1、3画の縦線(溝)の長さと幅は各々5cm、1.5cm。

おそらく営巣末期で、クモを貯食した育房群の全体に泥を厚塗りして埋めようとしているようです。(泥巣閉鎖)
泥玉を咥えた蜂が境界標の下から登って来ました。
口に咥えた泥玉に水を吐き戻しつつ噛み解しながら泥巣上を歩き回り、触角で泥巣表面を探りながら巣材を付け足す場所を慎重に選定しています。
腹端を叩きつけて巣材を塗りつけると、触角を一拭いして軽く身繕い。

付け足したばかりの新鮮な泥は黒っぽく点のように見えますが、乾くと灰土色になります。
ヒメクモバチ♀は休むまもなく境界標を歩いて下に降り、最後は地面に飛び降りたところで見失いました。

巣材は一体どこで集めてくるのでしょう?


つづく→#2:泥巣を閉鎖するヒメクモバチ♀b【10倍速映像】


泥巣@境界標b・全景
隣の同形の境界標cの裏面

実は同じ参道沿いに数メートル離れたところにもう一本の境界標があり、そこにも別個体のヒメクモバチ♀aが同様に営巣していました。(映像なし)
先に見つけた♀aは泥巣を守るように静止してばかりで殆ど離れないので面白くありません。
活発に造巣している個体♀bに注目して撮影することにしました。
2匹のヒメクモバチ♀はおそらく同じ泥巣から羽化した姉妹ではないかと想像しました。
巣材の盗掘や労働寄生など互いに交流があれば面白そうです。


2016/01/03

アカオニグモ♀a(蜘蛛):垂直円網の失敗作?【暗視映像】



2015年9月中旬・深夜4:23〜4:41

アカオニグモ♀の定点観察#16


クモに限らず生き物の行動は得てして教科書通りにはいかず、特に野外ではアクシデントがあったり解釈に困るイレギュラーな行動をすることがよくあります。
枝葉末節かもしれませんが、混沌とした観察結果や謎をなんでも記録に残しておくのが大切だと思います。
定点観察の順番通りではありませんけど、日時を遡って報告します。


アカオニグモ
♀a(Araneus pinguis)が夜中に造網する一部始終を映像に記録できましたが、一発で撮影に成功したのではありません。
クモが毎晩網の張り替えを始める時刻を把握するのに苦労している頃まで話は遡ります。

深夜4:20頃に様子を見に行くと時既に遅く、クモは横糸を半分ぐらい張り終えたところでした。
赤外線の暗視カメラで撮影を始めた私の気配に警戒したのか、クモは作業を中断して(?)円網の中心部(甑)に戻ってしまいました。
こちらに背面を向けているので口元が分かりにくいのですけど、網の中央を食い破って甑の処理をしているようにも見えました。
その後、甑で下向きに占座しています。
他の種類の造網性クモならごく普通の待機姿勢ですけど、この個体♀aは普段非常に臆病で、必要に迫られなければ昼も夜も常に隠れ家に潜んで居ます。
網の甑にじっとして居るのを見たのは後にも先にもこの時だけでした。
この点でも、いつもと違う(らしくない)異常行動と言えるかもしれません。
やがて甑と隠れ家を数回往復し(1往復半?)、信号糸を張りました。
最後はタニウツギ葉裏の隠れ家に落ち着きました。




一連の行動を見る限り、少なくともクモ自身は円網が完成したと判断したようです。
しかし円網全体をよく観察すると、中央部の横糸がスカスカで、未完状態に見えます。
甑(hub)と捕獲域(capture region)の間にある反転用通路(free zone)がいつもより無駄に広い気がします。

こしきと捕獲域の間には横糸がなく、クモが鎮座する面を反転するための隙間(反転用通路)が空いている。(『クモを利用する策士、クモヒメバチ』p80より)


しかも、それまでに張られた横糸がきれいな等間隔ではなく、隣り合う横糸が所々で融合して捩れています。(‡追記参照)
特に網の右上部分が酷いです。
この程度の乱れは別によくあるミス(許容範囲)ですかね?

円網の出来不出来を見た目による主観ではなく定量的に評価する手法があれば知りたいです。
網の写真を送ればコンピュータが画像解析で計算してくれるWEBアプリなどがあれば理想的です。
どうやら今夜の垂直円網は失敗作のようです。
クモはいつも芸術作品のような洗練された円網を張るという先入観があり、失敗する日がある(猿も木から落ちる)とは知らず意外でした。

もしクモが何か身の危険を感じて横糸張りを中断しただけなら、甑にのんびり居残っていないで隠れ家へ一目散に逃げ込んだり、牽引糸を引きながら網から地面に緊急落下したり
するはずです。
しばらくして警戒を解けば造網を再開してくれるはずです。
しかし、夜が明けるまで待ってもクモは隠れ家に篭ったままでした。

この♀個体はおそらく成体なので、網の作り方が今更未熟であるとは考えにくいです。
何かの本で読んだ私の知識が確かなら、クモの造網は本能にプログラムされた行動であり、経験や学習によって上達するようなものではないはずです。

ひょっとして、亜成体と成体の網の違いですかね?(外雌器をしっかり見ていないのがネックです。)
クモ生理生態事典 2011』サイトでアカオニグモの項を参照すると、
幼体期は黄色で,成体になって数日してから赤色に変化する 腹部の色彩は幼体期から成体になった数日間までは黄色をしているが,その後赤色に変化する. 
今観察している個体♀aの腹背は未だ黄色っぽい状態です。

もしかするとこの日の♀クモは昼間にあまり獲物が捕れず飢餓状態で、体内で糸を作る原料(タンパク質)が欠乏したので網を完成できなかったのでしょうか?
それとも逆に、この日のクモはあまり空腹ではなくて、捕虫装置(罠)である円網をきれいに最後まで張るモチベーションが下がっていたのでしょうか?

このとき実は小雨がほんの少しぱらついていました。(雨はすぐに止みました。)
もし網が雨で濡れることによって横糸の粘着性が失われるとすれば、雨天時に造網を強行しても無駄になります。
クモは雨が降るのを予感して造網を中止したのかな?
午前4:38に測定した気象条件は、気温18.1℃、湿度75%、天気は曇りでした。
ちなみに日の出時刻は5:24、月齢6.8(観察中に月は出ていない)。
中断した造網を昼間になってから再開したかどうか、確認していません。

アカオニグモが網をはりかえるのは夜の間だといわれていたが、雨があがり日がさすと、昼間でもいっせいに網をはりかえる姿をぼくはたびたび見た。クモはけっこうゆうずうをきかせて行動している。(『まちぼうけの生態学:アカオニグモと草むらの虫たち』p35より)

大胆な仮説として、アカオニグモ♀が寄生蜂などに体内寄生されていて行動操作されているのか?(網操作)と妄想を逞しくしました。
しかし後日に同一個体が正常な垂直円網を張るのを見ていますから、これは却下しました。

別の可能性として、神経中毒症状(薬物摂取でトリップした状態)で造網したクモの有名な実験を連想しました。
たまたま昼間にアカオニグモ♀が何か毒虫を捕食したり蜂に毒針で刺されたり※した結果、毒が回って造網の足取りが乱れてしまい網の形が乱れ未完に終わったのかもしれません。


※ 2日前に、コガタスズメバチ♀がこのアカオニグモ♀の円網から獲物を強奪していました。
もし私が数時間前に現場入りしていれば、クモが千鳥足で横糸を張る異常行動を動画に撮れたでしょうか?

【参考】:コガタコガネグモに飼育下でカフェイン含有飲料を経口投与して造網への影響を調べた興味深い実験記事「クモを酔わせてどうするつもり」がDPZで公開されています。

このときはアカオニグモが造網する正常例(典型例)をしっかり観察する前に異常例に遭遇したので非常に戸惑い、解釈に尚更悩みました。


未完成の円網を大雑把に採寸すると、甑の高さは地上70cm、円網の直径は30cm。
隠れ家となっているタニウツギの葉先は地上からの高さ85cm。
枠糸の右端の固定点はヨモギの花穂の上端にあり、高さ70cm。
枠糸(水平よりも右下がり)の長さは55cm。
網に触れないよう注意しながらの測定なので、多少の誤差があると思います。

用水路に向かって斜面になっているので、地上からの高さも適当です。



驚いたことにしばらくすると、隠れ家から出てきたアカオニグモ♀が網を取り壊し始めました。

見ている私は益々混乱しました。
網を壊すのはあっという間で残念ながら動画撮影は間に合わず、辛うじて写真で記録しました。
やはり失敗作が気に入らず、作り直すのでしょうか?
しかし網全体を一気に破網するのではなく、下部を扇状に壊しただけで隠れ家に戻りました。
(反省点として、ビデオカメラと写真用カメラそれぞれに内蔵された時計を正確に時刻合わせしていなかったため、写真のタイムスタンプが当てにならず、事件の前後関係が思い出せなくなってしまいました。)



垂直円網を張るコガネグモ科で破網行動をこれまでちゃんと観察したのはオニグモ♀だけです。
このときも一気に破網するのではなく、少し時間を開けて垂直円網の下側→上側の順で取り壊していました。

▼関連記事
円網を下半分だけ取り壊すオニグモ♀【蜘蛛:暗視映像】
円網の上側を取り壊すオニグモ♀【蜘蛛:暗視映像】
観察した例数が未だ少な過ぎるので偶然かもしれませんが、コガネグモ科のクモが破網する作法(下部→上部)に共通性があるのかもしれません。
このアカオニグモ♀が昼間にもう一度網を作り直したかどうか、次の日の夜に持ち越したのかどうか、確認していません。


つづく→#17:アカオニグモ♀(蜘蛛)未完の網で音叉実験【暗視映像】



【追記】
『クモの科学最前線:進化から環境まで』p37を読んでいて、全く違う可能性があることを知りました。
野外で円網を見ていると、横糸が風に煽られて上下に振動している場合があることに気がつく。風が強いと振動が大きくなり、隣接する横糸どうしが絡まってしまい、二本が一本のようになってしまうことがある。こうなると、網は本来の性能を発揮できなくなる。そして、先述したように捕獲域下側の外縁部では隣接する横糸の間隔が狭く、そのままであれば横糸の絡みが生じやすくなる。しかし、縦糸を小さな角度で配置すれば、それだけ横糸が振動する際の振れ幅を小さく抑えることができ、互いに絡みにくくなるだろう。
ただし、撮影した夜が特に風が強かった記憶はありません。


2015/12/31

隠れ家に糸を張り巡らせるアカオニグモ♀a【蜘蛛:暗視映像】



2015年10月上旬・午後19:24〜19:33

アカオニグモ♀の定点観察#15


枠糸の強化という一仕事を終えて隠れ家(タニウツギ灌木の葉裏)に篭ったアカオニグモ♀(Araneus pinguis)は周囲に不規則網を張り巡らし始めました。
ただし不規則網と思うのは私の観察眼が未熟なだけかもしれません。
長時間の微速度撮影してみれば、寝床になにか規則性や構造が見えてくるのかもしれません。(袋状住居?)
しかしビデオカメラや赤外線投光機のバッテリーが勿体無くて、「また後日撮ればいいや」と思い、長撮りしていません。
隠れ家の下の葉から右下に伸びる糸も光って見えます。
丸々と太った♀ですが、ライトを点灯すると腹背は未だ赤く色づいていません(黄色っぽい)。
次はクモが水平の枠糸(橋糸)から初めの縦糸をY字に張る過程だけでも見届けたかったのですが、隠れ家内で明け方まで寝る(休む)ようです。
とても明け方まで待てず、ビデオのバッテリーも切れたので観察を打ち切り帰りました。

残念ながらこの個体を観察できたのは、この日が最後でした。
辺り一帯が草刈りされてしまったのです。
網の取り壊しや卵嚢作りなど残るテーマの撮影は来季以降の宿題になります。

次回からは少し日にちを遡ります。
話の都合で飛ばしてしまったネタがあるのです。

つづく→#16:アカオニグモ♀a(蜘蛛):垂直円網の失敗作?【暗視映像】



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