2015年6月上旬
▼前回の記事
ヒレハリソウの花で盗蜜するセイヨウミツバチ♀
水田の畦道に咲いたヒレハリソウ(=コンフリー)の群落でセイヨウミツバチ(Apis mellifera)のワーカー♀が何匹も訪花していました。
複数個体を撮影。
花筒に潜り込んで正当訪花している個体も後脚の花粉籠は空荷でした。
2匹が隣り合う花で吸蜜するシーン(正当訪花)も見れました。
その一方で、盗蜜している個体もいます。
つまり、セイヨウミツバチは正当訪花しても舌が蜜腺に届くのに、あえて穿孔盗蜜することがある、と分かりました。
目移りしてしまうほど忙しなく飛び回るため、同一個体が正当訪花と盗蜜の採餌戦略を花によって(花筒の深さに応じて臨機応変に)切り替えるかどうか確認できませんでした。
経験豊富な個体が学習の結果として盗蜜を覚えるのかな?
生まれつき舌の短い個体が盗蜜しがちなのでしょうか?
それとも気紛れな日和見主義なのでしょうか?
『但馬・楽音寺のウツギヒメハナバチ:その生態と保護』p69によると
盗蜜は、クマバチ類だけの専売特許ではなく、ハキリバチ類、マルハナバチ類、セイヨウミツバチなど多くの種類で見られる。
舌が短く盗蜜行動の常習犯であるオオマルハナバチ♀(Bombus hypocrita)も同じ群落で盗蜜していました。(映像のラスト)
もしミツバチの行動が二次盗蜜(一次盗蜜者があけた穴を利用する盗蜜)ならば、一次盗蜜者はおそらくこのオオマルハナバチでしょう。
2015年6月上旬
道端に咲いたヒレハリソウ(=コンフリー)の群落でセイヨウミツバチ(Apis mellifera)のワーカー♀が訪花していました。
ところが花筒に潜り込んで正当訪花するのではなく、花筒の根本を外から噛んで穴を開けて盗蜜していました。
まさかミツバチが盗蜜するとは予想外で、衝撃映像に興奮しました。
この吸蜜法では雄しべの花粉に全く触れないので、後脚の花粉籠は空荷です。
更によく観察すると、既に穿孔した穴から盗蜜しているので二次盗蜜(一次盗蜜者があけた穴を利用する盗蜜)かもしれません。
実は直後に同じヒレハリソウの群落でクロマルハナバチ♀(Bombus ignitus)が訪花しているのを見ています。
舌の短いクロマルハナバチは穿孔盗蜜の常習犯ですので、一次盗蜜者はおそらくクロマルハナバチでしょう。
(クロマルハナバチの盗蜜行動は過去に散々撮ってきたので今回はスルー)
この映像は、同一個体のセイヨウミツバチを追いかけて撮影したものです。
この個体はどの花でも毎回盗蜜していました。
ミツバチがヒレハリソウで正当訪花する例があるのかどうか、つまり正当訪花で舌が蜜腺に届くのか?、これから注意して観察します。
これまで撮っていないのも意外ですけど。
【追記】
意外にもすぐに懸案事項が解決しました。
▼関連記事
ヒレハリソウで正当訪花および盗蜜するセイヨウミツバチ♀
※ 「養蜂業界ではミツバチが他の個体や巣箱から蜜を奪うことも盗蜜と言い習わす」(wikipediaより)のですが、今回のトピックはそれとはまた違った採餌行動です。
2014年6月中旬
山裾にに咲いたヒレハリソウ(=コンフリー)の群落でクロマルハナバチ(Bombus ignitus)のワーカー♀が訪花していました。
花筒の根本を外から穿孔盗蜜していました。
雄しべに全く触れないため、後脚の花粉籠は空荷でした。
この日この群落で採餌活動を見たのはコマルハナバチ、トラマルハナバチ、オオマルハナバチがメインで、クロマルハナバチの個体数は少なかったです。
2014年5月下旬
里山の草地に咲いたホウチャクソウの白い花筒にツノアオカメムシ(Pentatoma japonica)の幼虫が静止していました。
花弁の根元にできた隙間に口吻を差し込んで花蜜を吸っているように見えてドキッとしました。
もしそうなら盗蜜行動になります。
▼関連記事
ホウチャクソウの花で盗蜜するマドガ(蛾)
残念ながらマクロレンズを装着する前にツノアオカメムシ幼虫は花を登って葉に移動してしまいました。
カメムシの幼虫は羽がないので飛べません。
訪花中は背側のアングルから撮っただけなので口吻の状態がしっかり見えず、本当に吸蜜していたかどうか疑問です。
思わせぶりな位置に止まっていただけかもしれません。
そもそも、カメムシが花蜜を吸いますかね?
2014年8月中旬
平地の用水路沿いの民家の庭に咲いたカクトラノオ(=ハナトラノオ)にキムネクマバチ♀(Xylocopa appendiculata circumvolans)が訪花していました。
白い花筒の根元を外側から食い破って穿孔盗蜜していました。
雄しべに全く触れないので、当然ながら後脚の花粉籠は空荷です。
▼関連記事(2013年の映像)
ハナトラノオの花で盗蜜するクマバチ♀
興味深いことに、近くで訪花していたクロマルハナバチ♀(Bombus ignitus)に最後は追い払われてクマバチ♀は逃げてしまいました。
異種のハナバチ間で蜜源の占有行動らしき振る舞いを初めて見たのですが、動画には撮れず残念でした。
2014年7月中旬
山村の用水路沿いに生えたヒレハリソウ(=コンフリー)の群落でキムネクマバチ♀(Xylocopa appendiculata circumvolans)がせっせと吸蜜していました。
訪花シーンをよく見ると、漏斗状の花筒の外に止まる度に根元を食い破って穿孔盗蜜しています。
受粉に寄与しないので当然ながら後脚の花粉籠は空荷です。
蜂が飛び去った後も花をよく見ると盗蜜痕の穴が見えます。
途中でクマバチ♀がトラマルハナバチのワーカー♀とニアミスしました。
舌の長いトラマルハナバチは正当訪花しているのに、こちらも花粉籠は空荷でした。
2014年7月中旬
タバコを栽培している畑でクロマルハナバチ(Bombus ignitus)のワーカー♀が訪花していました。
漏斗状の花筒の外に止まると、根元を食い破って穿孔盗蜜しています。
雄しべに全く触れず、花の受粉に寄与しないため、後脚の花粉籠は空荷です。
さてタバコは南米原産の栽培植物ですが、日本でタバコを正当訪花する送粉者は誰なのでしょうか?
舌の長いトラマルハナバチでも奥の蜜腺に届かないような気がします。
非常に長い口吻を持つスズメガ科が夜に訪花するのかな?と予想してみました。
現地ではハチドリや、タバコの害虫として悪名高いタバコスズメガが送粉者の役割を担っていそうです(害虫ではなく持ちつ持たれつの共進化なのかも?)が、日本には生息していません。
【追記】
タバコがニコチンという有毒物質(神経毒)を根で合成して葉や花、花蜜に貯めこむのは草食動物(昆虫)による食害を防いだり盗蜜者を排除するためと考えられているそうです。
だとすれば、今回クロマルハナバチ♀が平気で盗蜜していたのは定説に反するかもしれません。
クロマルハナバチは進化でニコチン耐性を獲得しつつあるのでしょうか?
それとも、このタバコは花弁のニコチン含有量が少ない品種なのかな?
【参考サイト】
「Unpredictability of nectar nicotine promotes outcrossing by hummingbirds in Nicotiana attenuata」というとても興味深い論文を日本語で解説してあるブログ(花蜜に含まれる毒の効果)を見つけました。
【追記2】
今村寿明『化学で勝負する生物たち―アレロパシーの世界〈1〉』によると、
ニコチン(葉の1〜9%)は(タバコスズメガの)他の昆虫にはたいてい、毒作用がある。0.001〜4g/kgで中毒、死。 (p33より引用)
2014年6月中旬
山麓林縁の草地に咲いたヒレハリソウ(=コンフリー)の群落でレモン色の小さなコマルハナバチ♂(Bombus ardens ardens)が多数訪花していました。
花から花へ忙しなく飛び回る様子(複数個体)を240-fpsのハイスピード動画で撮影してみました。
訪花シーンをスローモーションでよく見ると、花筒の外から根元に穴を開け吸蜜するという穿孔盗蜜を毎回行っています。
したがって、ヒレハリソウの受粉には寄与していません。
コマルハナバチは体が小さいので花筒に潜り込めそうな気もするのですけど、舌が短くて正当訪花では奥の蜜腺まで届かないのでしょう。
盗蜜で雄しべに触れないことと、そもそも雄蜂は幼虫のために花粉を集めないので、後脚の花粉籠が空荷なのは当然です。
前回は同じヒレハリソウの群落でコマルハナバチ♀もせっせと盗蜜していました。
▼関連記事
ヒレハリソウの花で盗蜜するコマルハナバチ♀
雄蜂による盗蜜行動を見たのはこれが初めてです。
『日本産マルハナバチ図鑑』p61でコマルハナバチ♂の主な訪花植物リストにコンフリーが含まれていましたが、雄蜂による盗蜜行動の記述はありません。一方、北海道に分布する近縁亜種の
エゾコマルハナバチ♂は各種の花でエゾオオマルハナバチ♀が開けた盗蜜穴を利用して吸蜜するケースがしばしば見られる。(同図鑑p65より)
確かにこの日は同じ群落でオオマルハナバチ♀も盗蜜していました。
▼関連記事
ヒレハリソウの花で盗蜜するオオマルハナバチ♀
最後に、たまたま並んで吸蜜していたトラマルハナバチ♀と比べてみましょう。(@7:34〜8:22)
体格差も歴然としていますが、トラマルハナバチ(ナガマルハナバチ亜属)はヒレハリソウに正当訪花して長い舌を花筒の奥に差し込み吸蜜しています。
中舌の長さは、同一のカーストを比較すればナガマルハナバチ亜属で顕著に長く、ユーラシアマルハナバチ亜属、コマルハナバチ亜属、オオマルハナバチ亜属と徐々に短くなる。(『同図鑑』p166より)
コマルハナバチ♂の盗蜜シーンを通常のHD動画でも撮ってみました。
複数個体を撮影。
撮影の合間に1匹だけ採集しました。
以下に標本写真を掲載。
どうせならついでに、「雄蜂は毒針を持たず捕まえても刺してこない」ことを実演して動画に撮ればよかったですね。
2014年6月中旬
里山の麓に咲いたヒレハリソウ(=コンフリー)の群落でオオマルハナバチ(Bombus hypocrita)のワーカー♀が忙しなく訪花していました。
他のマルハナバチ類に比べて、この群落に訪花するオオマルハナバチの個体数は少ない印象を受けました。
採餌の様子をよく観察すると、正当訪花ではなく常に花筒の外から根元を噛んで穴を開け蜜腺を直接吸う穿孔盗蜜を行っていました。
この採餌法は正当訪花と異なり受粉に全く関与しない(雄しべ・雌しべに触れない)ため、後脚の花粉籠は空荷です。
(映像の前後半で別個体かもしれません。)
オオマルハナバチは舌が短く盗蜜の常習犯であることで知られます。
これまで私がコンフリーの花で実際に穿孔盗蜜を観察できたのはクロマルハナバチ♀、コマルハナバチ♀に次いで3種類目になります。
中舌の長さは、同一のカーストを比較すればナガマルハナバチ亜属で顕著に長く、ユーラシアマルハナバチ亜属、コマルハナバチ亜属、オオマルハナバチ亜属と徐々に短くなる。(『日本産マルハナバチ図鑑』p166より)
2014年6月上旬
里山の麓に咲いたヒレハリソウ(=コンフリー)の群落でクロマルハナバチ♀(Bombus ignitus)が訪花していました。
後脚の花粉籠は空荷です。
花から花へ忙しなく飛び回り採餌する同一個体を追いかけて見ていると、花筒の外側から根元に穴を開けて吸蜜する穿孔盗蜜から正当訪花へと採餌戦略をスイッチしました!
割合としては正当訪花が多いようです。
前年に観察した個体は同じくコンフリーの花で盗蜜ばかりしていたので、採餌法の違いに面食らいました。
今回の個体は盗蜜の常習犯ではなく初犯なのかな?
▼関連記事
ヒレハリソウの花で盗蜜するクロマルハナバチ♀
「舌が短く盗蜜癖がある」と称されるクロマルハナバチも一筋縄ではいかないようです。
蜂の採餌プログラムには個体差があり学習や確率過程が組み込まれているのでしょうか?
時期的に未だ単独営巣期の創設女王かもしれません。
ワーカーより女王の方が体長も舌長も大きいので、正当訪花でも蜜腺まで舌が届くのでしょう。
なお、タニウツギを訪花する際にも1匹のクロマルハナバチが採餌戦略を切り替えるのを観察しています。
▼関連記事
タニウツギで採餌戦略(正当訪花/穿孔盗蜜)を切り替えるクロマルハナバチ♀
2014年6月上旬
コマルハナバチ(Bombus ardens ardens)のワーカー♀だと思うのですがどうでしょう?
里山の麓(林縁の草むら)に咲いたヒレハリソウ(=コンフリー)の群落で忙しなく飛び回り訪花していました。
花筒の外から根元に穴を開け吸蜜するという穿孔盗蜜を行っているので、ヒレハリソウの受粉には寄与していません。
したがって、後脚の花粉籠に付けている少量の白い花粉団子は別な花から採餌してきたものでしょう。
コマルハナバチは体が小さいので花筒に潜り込めそうな気もするのですけど、舌が短くて正当訪花では蜜腺まで届かないのでしょう。
コマルハナバチの盗蜜行動は初めて見ました。
2014年5月下旬
この春フィールドで最も興奮した新発見を報告します。
低山の草地に咲いたホウチャクソウの花にマドガ(Thyris usitata)という小さな昼蛾が何頭も来ていました。
吸蜜シーンをよく見ると、白い花筒の外側に止まり、口吻を花弁の根元の隙間に差し込んで花蜜を吸っています。
これはまさしく盗蜜行動で、花の受粉には寄与しません。
これまでハチや鳥が盗蜜する例をいくつか観察してきました。
しかし長い口吻を有する 鱗翅目(チョウやガの仲間)が盗蜜する例はこれまで見聞きしたことがなく(※追記参照)、驚愕の発見でした!
ホウチャクソウの同じ群落でマドガが何頭も飛び回り、その全てが盗蜜の常習犯でした。
マドガのような小蛾類は花筒の入り口に頭を突っ込んで正当訪花しても口吻が蜜腺まで届かず、やむを得ず盗蜜するのでしょう。
正当訪花でホウチャクソウから吸蜜するにはスズメガ科ぐらい長い口吻が必要になりそうです。
花弁が一部枯れかけて(萎れかけて)いる花からもマドガは気にせず盗蜜しています。
あまりにも多数のマドガが集まっていたので、
マドガ♀がホウチャクソウに産卵するのか、と初めは疑いました。
しかし調べてみると、マドガ幼虫の食草はキンポウゲ科のボタンヅルでした。
周りで咲いている花は他にも沢山あるのに(ケナシヤブデマリなど)、ホウチャクソウに集まるということは、マドガにとってよほど魅力的な蜜源なのでしょう。
現場でしばらく粘っても、この日はマドガ以外のめぼしい昆虫は現れませんでした。(※※)
さて、ホウチャクソウに正当訪花する送粉者は誰でしょう?
以前の観察から私はその答えを知っています。
マルハナバチ類の中でも特に長い舌を持つトラマルハナバチがホウチャクソウと共進化してきて送粉を担っていると思われます。
▼関連記事
・トラマルハナバチ♀がホウチャクソウを訪花
・ナルコユリで吸蜜するトラマルハナバチ
その訪花シーンは『マルハナバチの経済学』という本の表紙になっています。
※ 当時は勉強不足だったのですが、実は鱗翅目こそ盗蜜の常習犯でした。
例えばNewton special issue『植物の世界 第2号:ナチュラルヒストリーへの招待』で盗蜜行動を解説した記事のp118によれば、
・チョウやガの仲間は、長い口吻を細いすき間にさしこんで盗蜜する。
・長い口吻をもつチョウは、雄しべや雌しべにふれることなく蜜を吸うことができる。とくに蜜を浅いところに分泌する花はチョウやガに対しては無防備であり、ほとんどの場合一方的な掠奪を受けるのみである。
※※ 今回の撮影中に小さなアリが花筒を徘徊し、中に潜り込みました。(@5:12〜)
花蜜が目当てだとしたら正当訪花したことになります。
映像の最後で(@10:24〜)ホウチャクソウの花を開いて調べています。
花筒を潰して広げ、雄しべと雌しべの位置関係など内部の構造を示しました。
【追記】
「盗蜜する蛾」をネット検索してみると、ginguchiさんのブログでフヨウの花で盗蜜するツメクサガを報告されていました。
【追記2】
盗蜜者は花に穿孔して盗蜜するnectar robberと花を傷つけず送受粉せずに盗蜜するnectar thieveに分けられるそうです。
これに従えばマドガはnectar thieveになりますね。