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2018/05/31

糸を引いて懸垂下降するも水面を忌避するアカオニグモ♀(蜘蛛)【3倍速映像】

2016年10月上旬〜下旬

私のフィールドは、アカオニグモAraneus pinguis)の生息数が多い北国です。
造網行動の一部始終を観察したいのですが、未だ幾つか見逃している過程が宿題として残されています。
造網は通常、夜間に行われるため、フィールドに通って観察するのは大変です。
そこで室内飼育で造網を再現できないか、あれこれ試行錯誤しています。
飼うだけなら比較的簡単なのですが、撮影しやすい条件との両立がなかなか難しいのです。

フィールドで生け捕りにしてきたアカオニグモ♀を部屋に放し飼いにしてみると、天井隅に小さ目の垂直円網を張ってくれました。
チョウやトンボなどの生き餌を網に給餌して、一時期アカオニグモを室内で飼っていました。
しかし壁や天井が白いため、肝心のクモが張る糸や網が見えにくく、撮影には不向きです。(部屋全体を黒く塗り直す訳にもいきません…)


アカオニグモ♀(蜘蛛)@室内天井隅+食べ残しモンシロチョウ
アカオニグモ♀(蜘蛛)@室内天井隅+食べ残しアキアカネ
飼育下で成熟し、腹背が赤く色づいた。

蚊帳や網室の中にクモを放し飼いにする方法も考えましたが、未だ試していません。

動画に撮ったときに背景がゴチャゴチャしているのはなるべく避けたいのです。


クモ関連の本などでよく紹介される方法は、四角い木枠を2枚のガラス板で挟んだ箱を自作し、ガラス板の隙間に造網性クモを入れて飼うという方法です。
私は工作が得意ではありませんし、お金もかかりそうなので、腰が重いです。

今森光彦『クモ (やあ! 出会えたね 4)』という本(写真集)を読んでいたら、コガネグモの造網観察法として面白いアイデアが書いてありました。

いくら根気よく見ていても、網づくりをつづけてくれません。
考えたすえ、家にクモをつれてきて、網をはってもらうことにしました。
しかし、部屋のなかにはなすと、クモはすぐに上へかけのぼり、天井のすみに、でたらめな糸をはりめぐらすだけです。(中略)
そこで、竹を組み合わせて枠をつくり、クモがにげないように、下に水をはって立てました。
竹枠に、クモをそっとはなしてまちます。


昆虫写真家の筆者はこの方法でコガネグモの造網過程の一部始終を見事な連続写真で記録しています。
私もこの作戦を真似してみることにしました。

タオル等を干すための小型の物干しスタンドを網作りの土台(立体的な枠)として使ってくれることを期待して、ここにアカオニグモ♀成体を乗せてみます。
大きな水槽の代わりに衣装ケースのプラスチック製引き出しを再利用し、この大きな箱の中に物干しスタンド(縦42cm×横32cm×高さ50cm)を立てました。
そしてクモ脱走防止のため、容器の底に水を張りました。
さあ、こんな人工的な環境で果たしてアカオニグモ♀は造網してくれるでしょうか?






柳の灌木を利用して造網し昼間は柳の葉を糸で綴った隠れ家に潜んでいたアカオニグモ♀成体を水辺の堤防付近で採集してきました。(2017年10月下旬)

地上から隠れ家までの高さを測ると、約165cm。


アカオニグモ♀(蜘蛛)@隠れ家:柳葉
アカオニグモ♀(蜘蛛)@隠れ家:柳葉+垂直円網





2017年11月上旬

前置きがすっかり長くなりました。
いよいよ本題です。
あまりにもクモの動きが緩慢なので、3倍速に加工した早回し映像をご覧下さい。
動きがゆっくりでもオリジナルの動画を見たい人は、下に掲載した動画をご覧下さい。

スタンドの上(高さ50cm)から糸を引きながら懸垂下降していたアカオニグモ♀の背中が水面に触れると、慌てて引き糸を登り返しました。
たるんだ引き糸が室内の微風でたなびいています。
このような上下動を繰り返しているところを見ると、やはりクモは水面を忌避しているようです。

物干しスタンドのワイヤー(長さ42cm)に沿って綱渡りのように往復移動しながら糸を何重にも張り始めました。
造網を開始してくれたと思い込んでいた私は、これがいずれ枠糸または橋糸になるのだろうと考えていました。


次に、枠糸の中間地点から糸を引きながら懸垂下降しました。
これはまさに、網を張り始める際のY字型の縦糸の作り方とそっくりです。
引き糸の下端をクモは地面のどこかに固定したいはずですが、水面に触れたクモは慌てて引き糸を登り返しました。
物干しスタンドに戻ると、水平に張られた橋糸を右往左往して補強しています。

途中から私は、水を張った容器の底に陸地として木製の台(キッチンペーパーホルダー)を入れてやりました。
懸垂下降してきたクモが木の棒の天辺に着地すると、下まで伝い降りました。
すぐにまた引き糸を登り返しました。
1箇所でも容器の下部で糸を固定できたら、造網のための枠糸を張る手がかりが得られただろうと私は楽観的に思いました。
ところがクモは私の思い通りには動いてくれず、先程と同じように橋糸の補強と懸垂下降、水面忌避という動作を繰り返しています。

見ていてもどかしくなります。
おそらくクモも途方に暮れていたことでしょう。(ストレスに感じていた?)
私は物干しスタンドの全体像を俯瞰で見渡せるので、クモも造網の土台として使ってくれるはずだと期待したのです。
ところが造網性クモは体が小さい上に視覚が悪いために、歩き回って探索しないと周囲の環境を把握できないのでしょう。

今思えば、クモが橋糸の真ん中から下にY字型の縦糸を張ろうとしていた地点の直下にも陸地(島)を作ってやるべきでしたね。
実は真夜中に思いつきで始めたテキトウな飼育実験なので、私も眠くて頭が働きませんでした。

物干しスタンドの縦のメイン支柱をようやく見つけたクモは、これを伝って降り始めました。
下に置いた木台(キッチンペーパーホルダー)に辿り着いたクモは、ウロウロと徘徊。
容器の底からプラスチックの壁面を登ろうとしても、足の爪が滑って登れません。
はずみで水面に落ちてしまいました。
溺れそうになっても自力で引き糸を登り返して難を逃れました。

(映像はここまで。)

室内の照明があると造網を始めてくれないのかと思った私は、消灯してクモを放置しました。
ところが翌朝見ると、水槽にアカオニグモ♀が浮かんでいました。(溺死?)

明かりを消すと、水面が分からなくなってしまうのかな?
ぐったりしたクモを慌てて救出して、物干しスタンドの止まり木に戻してやりました。
歩脚に軽く触れると反応したので、死んではいないと分かり一安心。
やがて元気を取り戻して活動を再開してくれました。

その後もクモは探索行動を続け、私が目を離すと水難事故が繰り返されました。
まさか飼育環境に絶望したクモが入水自殺したのだとしたら、申し訳ないです。


造網性クモは網を使ってしか獲物を捕食できません。
したがって、この個体を野外で採集してきて飼育を始めて以来ずっと(数日間)餌を食べられず、私もやきもきしていました。
牛乳などを強制給餌すべきか迷いましたが、一般にクモは飢餓耐性が強いので大丈夫だろうと判断しました。


アカオニグモ♀(蜘蛛)@水没:容器内
アカオニグモ♀(蜘蛛)@水没後救出

止まり木に戻すと、元気復活。

いかにも素人臭い(お遊びのような)実験の失敗談で、お恥ずかしい限りです。
このブログは個人的なフィールド撮影日記(飼育日記)なので、なるべく失敗したことも記録することにしています。
書き残しておかないと失敗したこともすぐに忘れてしまい、同じ過ちを繰り返してしまうのです。
水を嫌うアカオニグモ♀の行動が面白かったというのも、記事にした理由の一つです。

もし私がクモをわざと水に何度も直接落として溺れさせたりしたら動物虐待だと非難されることでしょう。(炎上案件)
しかし今回アカオニグモ♀が落水して溺れそうになったのは全く予想外でした。
そもそも、本の記述(撮影ノウハウ)を参考にして(多少アレンジして)始めたことです。

しかし生き物は、なかなか本に書いてある通りには振る舞ってくれません。
最近の動物園では猛獣を檻に閉じ込めずに、水堀などを効果的に配置した開放的な展示が主流になっています。(無柵放養式展示
これはネコ科の猛獣が水に濡れることを極端に嫌う性質を利用した展示法です。
今回の実験も同様に、クモが水面を忌避する性質を利用して網の張り方を飼育下でヒトがコントロールできるだろうという期待がありました。

消灯後に何が起きたのか分かりませんが、もしかすると、偶発的な水難事故とは限らないかもしれません。
クモが自発的に入水した可能性はあるのか、少し考えてみました。
造網に適した環境ではないとクモが判断すれば、餌を捕るために他所へ移動するはずです。
風が吹けば糸を吹き流しバルーニングで空を飛び移動するでしょう。(体重の重い♀成体が飛ぶのは無理かも?)

吹き流した糸が遠くの何かに付着すれば、糸を伝って移動することが可能です。
しかし無風の室内では、糸を吹き流すことができません。
野外でも台風や大雨で生息地が増水したり地面が水浸しになることもありそうです。
そのような緊急事態(水害)になるとアカオニグモは、水中で泳げないにしてもあえて水の流れに身を任せて新天地へ移動するのかもしれない…と妄想してみました。

なんとか飼育下でこちらの望むように造網させようと悪戦苦闘してきましたが、ひょっとすると、この♀個体は網を張りたいのではなくて、卵嚢を作る場所を必死で探索しているのではないか?という気がしてきました。
そこで次は、容器の底の水を抜いてやりました。
造網性クモはプラスチック容器の垂直壁面をよじ登れないので、水が無くても簡単には脱走されないでしょう。
すると予想が当たり、このアカオニグモ♀は産卵を始めてくれました。

つづく→卵嚢作りを開始



アカオニグモ♀(蜘蛛):腹面@垂体+外雌器
アカオニグモ♀(蜘蛛):腹面@垂体+外雌器
アカオニグモ♀(蜘蛛):腹面@垂体+外雌器


【おまけの映像】
早回し速度を色々と変えてみた動画をブログ限定で公開します。



↑オリジナル映像(1倍速)



↑2倍速映像



↑4倍速映像



2018/05/22

垂直円網に付いたミゾソバの花を取り除くアカオニグモ♀a(蜘蛛)



2016年9月下旬

前の年に、一部の造網性クモが給餌した花を食べるという衝撃的な観察結果を得ました。

◆記事のまとめ
花を食べる造網性クモの謎:2015年

常識破りの食性で興味深いのですが残念ながら今のところ再現性に乏しいので、機会がある度に種類や条件を変えながら細々と実験を続けています。


湿地帯の近くでアカオニグモ♀(Araneus pinguis)の張った正常円網を見つけました。
近くに咲いていたミゾソバの花を摘んで網の甑付近に投げつけてみました。
主の♀は網の横に生えたイヌタデやセイタカアワダチソウの群落で、葉や花穂などを糸で綴った隠れ家に潜んでいました。
網から隠れ家まで信号糸が伸びていて、振動を感知できるようになっているのですが、花を網に投げつけてもクモは無反応でした。
ミゾソバの花を指でくすぐるように揺らしてやると、アカオニグモ♀がようやく隠れ家から出てきました。

クモは歩脚で花に触れて調べると、すぐに獲物ではなく異物だと判断したようです。
花には噛みつかずに、網から丹念に外し始めました。
ミゾソバの花が付着した粘着性の横糸を全て切ると、花を網から捨てました。
次に歩脚で周囲の糸を引き締めたり自分で網を揺すり、もう網に異物が付いていないかどうか、状態をチェックしました。

隠れ家に戻りかけ、枠糸を調べてから、なぜか再び甑に戻りました。
最後は隠れ家に戻ると、やれやれと言わんばかりに、食べかけの獲物に食いつきました。

という訳で、実験はまたもや失敗に終わりました。
網にかかった花を昆虫が暴れていると誤認して噛み付いたり糸でラッピングしてくれないことには、花を食べる行動が始まりません。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。


アカオニグモ♀a(蜘蛛)@ミゾソバ花給餌→垂直円網+異物除去
アカオニグモ♀a(蜘蛛)@住居:イヌタデ

2018/05/04

アカオニグモ(蜘蛛)の交接前ガードと性的共食い



2017年10月上旬

田んぼでは稲刈りが始まっていました。
農道沿いに繁茂するセイタカアワダチソウの群落を見て歩くと、花が咲く前(蕾の状態)の花穂に止まっているアカオニグモ♂(Araneus pinguis)を発見。
黒くて複雑な形状の触肢が発達しているので、交接可能な成体です。
その左側の株では葉や蕾の花序を糸で綴り合わせた隠れ家があり、中には大型のアカオニグモ♀が潜んでいました。
セイタカアワダチソウの株間に張り渡した網は強風でほとんど壊れていました。
おそらく♀亜成体が脱皮して成体になるまで♂が辛抱強く待っているのでしょう。(交接前ガード)
アカオニグモ♂の居るセイタカアワダチソウの茎は♀の作った網から糸で繋がっていませんでしたが、おそらく強風でセイタカアワダチソウ群落が激しく揺れたせいで糸が切れてしまったのだと思います。


▼関連記事(1年前の撮影)
アカオニグモ(蜘蛛)の交接前ガード

クモ生理生態事典 2016』でアカオニグモの項目を参照すると、「交尾は8月,9月には 雄は見られない」とありますが、今回の記録はそれに対するささやかな反例になります。
地方によって出現時期にズレがあるのでしょう。

このアカオニグモ♀♂ペアを採集して飼育下で配偶行動を観察しようか迷ったのですが、この日の私は病み上がりで余力がありませんでした。


※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。

アカオニグモ♂(蜘蛛)@セイタカアワダチソウ花穂+交接前ガード
アカオニグモ♂(蜘蛛)@セイタカアワダチソウ花穂+交接前ガード
アカオニグモ♀亜成体(蜘蛛)@隠れ家:セイタカアワダチソウ花穂・全景
アカオニグモ♀亜成体(蜘蛛)@隠れ家:セイタカアワダチソウ花穂
アカオニグモ♀亜成体(蜘蛛)@隠れ家:セイタカアワダチソウ花穂


10日後(10月中旬)に再訪すると、交接前ガードしていた♂の姿が見えなくなっていました。
興味深い配偶行動を見逃してしまったようです。


同じ農道沿いでセイタカアワダチソウ群落のラインセンサスをすると、別個体のアカオニグモ♀が潜む隠れ家を新たに見つけました。
糸でラッピングされた小型のクモに噛みついて吸汁しています。

写真をよく見るとその獲物は腹部が黄色くて、どうやらアカオニグモ♂のようです。
(ムツボシオニグモの可能性は? ラッピングを取り上げて確認すべきでした。しかしムツボシオニグモがわざわざ他種の網に侵入する理由は無いでしょう。)
交接の成否は不明ですが、性的共食いが行われ♂は♀の餌食になってしまったようです。
私がもう少し早く見つけていれば、興味深い配偶行動の一部始終を観察できたかもしれません…(残念無念)。


アカオニグモ♀(蜘蛛)@隠れ家:セイタカアワダチソウ+♂捕食(性的共食い)
アカオニグモ♀(蜘蛛)@隠れ家:セイタカアワダチソウ+♂捕食(性的共食い)
アカオニグモ♀(蜘蛛)@隠れ家:セイタカアワダチソウ+♂捕食(性的共食い)・全景

2018/03/19

垂直円網を張るコガネグモダマシ(蜘蛛) 【10倍速映像】



2016年9月下旬・午後17:11〜17:28 (日の入り時刻は17:33)

湿地帯に近いススキの原で夕方になるとコガネグモダマシLarinia argiopiformis)があちこちで造網を始めます。
10倍速の早回し映像でご覧ください。
慌てて三脚を立てて撮り始めた時はもう縦糸張りの後半でした。
まず放射状に縦糸を張り、網の中心部から外側に向かって螺旋状に(反時計回りに)足場糸を張り、最後に粘着性の横糸を密に張り巡らせます。
横糸張りの初めに何度か回る向きを変えたのは、枠糸にしっかり固定、補強するためでしょう。
横糸張りの後半は時計回りで安定しました。
網が完成すると中央のこしき)で下向きに占座しました。

風が吹くとススキの穂が激しくなびくために、AFではすぐにピントが合わなくなります。
仕方がないので、枠糸を固定してある左のススキの茎に焦点を固定して長撮りしました。
全体的にピンぼけなのは、そのためです。

▼関連記事
コガネグモダマシ♀の造網:足場糸と横糸張り(15倍速映像) @2011年10月中旬
コガネグモダマシ♀の造網(横糸張り:4倍速映像) @2009年10月中旬

コガネグモダマシが網を張る過程の一部始終を動画で記録したくて頑張っています。

この季節になる度に何度かトライしているネタなのですが、なかなか自分でも満足の行く生態動画が撮れません。
今回も残念ながら逆光で、クモの糸や網はほとんど見えませんでした。
クモの動きから造網プロセスを想像してもらう他ありません。
縦糸張りの過程が少しだけでも撮れたのがささやかな収穫(前進)です。
どうしてもこの時期は魅力的な被写体が他にも色々とあるために、浮気症の私はすぐに目移りしてしまいます。

じっくり腰を据えて取り組まないといけませんね。
夕方で無風になる日を待つのも大変なので、やはり飼育下で網を張らせるのが近道かもしれません。




↑【おまけの動画】
長撮りしたオリジナルの動画(早回し加工する前)をブログ限定で公開しておきます。


コガネグモダマシ(蜘蛛)@垂直円網
画像処理で無理やり垂直円網を可視化

2018/03/10

脱皮中のコバネササキリ♀を捕食するヤミイロカニグモ(蜘蛛)



2016年10月中旬

農道のガードレール下に生えたススキの茎でコバネササキリ♀(Conocephalus japonicus)が最終脱皮していました。
ススキの茎に下向きで止まっています。
口元に見えるのは抜け殻(羽化殻)でしょう。
もしかすると、脱皮後に抜け殻を食べる習性があるのかもしれません。

何か様子が変なので、よくよく見ると、カニグモの仲間に捕食されているところでした。
クモは獲物の腹端の辺りを噛み付いています。
コバネササキリ♀の産卵管は長いのに翅が未だ短いのは、羽化したばかりで翅が伸び切る前の無防備な状態のときに襲われたのでしょう。
もしコバネササキリ♀が元気なら、カニグモもこんな巨大な獲物は易々と狩れない気がします。

後半は広角で接写しながら大胆に近づいてみました。
気配を感じたクモは第1、2歩脚を左右に大きく広げて威嚇姿勢になりました。
私がススキの茎を指で軽く叩いたら、クモが巨大な獲物を咥えたまま茎を回り込んでくれました。
クモの背側がしっかり見えるようになり、ヤミイロカニグモXysticus croceus)と判明。
更にススキの茎を引き寄せたら、警戒したヤミイロカニグモが茎の裏側へ裏側へと回り込んで必死に私の目から隠れようとします。

撮影後もしつこく追い回してクモを採集しようとしたら、遂には逃げられてしまいました。
そのため、クモの性別をしっかり見分けられませんでした。



2018/02/17

ツクネグモ(蜘蛛)の卵嚢



2016年6月上旬

峠道の道端に繁茂する雑草の葉先に奇妙な物体を見つけました。
虫の卵や繭だと思うのですが、今まで見たことがありません。
褐色で球に近い紡錘形の構造体が一つ、葉先から長い糸のような柄で吊るされています。

この細くて長い柄は、アリなどに捕食されないようにするための工夫なのでしょう。

(1)ウドンゲの花?
私がまず思いついたのは、「優曇華の花」と呼ばれるクサカゲロウの仲間の卵です。
孵化した幼虫が捕食するアブラムシの近くに卵を生むはずです。
確かにこの植物の茎には、黒いアブラムシ(種名不詳)のコロニーが形成されていました。
ムネアカオオアリCamponotus obscuripes)のワーカー♀が随伴しています。
しかし、もしウドンゲの花ならば、もっと白っぽくて複数の卵が産み付けられるのでは?
クサカゲロウの仲間は幼虫からしか飼育したことがなくて、卵の実物は未見です。



(2)昆虫の繭?
『繭ハンドブック』を一通り眺めても、これと似た繭は載っていませんでした。



 (3)ヤマトカナエグモChorizopes nipponicus)の卵嚢
後日、新海栄一、緒方 清人『クモ (田んぼの生きものたち)』という本をたまたま読んでいたら、「メスグモが守らないクモの卵のう」の一例としてp39に掲載された写真がこれと似ているような気がしました。

針葉樹の葉の先に吊られたヤマトカナエグモの卵のう


私の知らないクモなので、いつもお世話になっている『クモ生理生態事典 2016』を参照すると、卵嚢に関して次のように記されていました。

・10cmほどの糸でスギの枝からつりさげられた茶褐色の卵のうがよく目につく
・ 7月に卵のうを作る〔山川・熊田73〕. 8月頃,山地の樹枝に10cm位の糸で吊り下げられた褐色の卵のう(長径5mm,短径3mm)を見掛ける〔中平AT23/24〕.
・ 三重県上野市にて1962年9月16日に採取した卵のうからヒメバチ科の一種 Phobetes sp. が2個体羽化, 他にタマゴバチの一種20個体羽化




YouTubeでは、nekonomesouさんが「ヤマトカナエグモの卵のう」と題した動画を公開なさっていました。
常緑広葉樹の葉先から2個の卵嚢が揺れていました。

インターネット検索すると、かぜくささんのホームページ「私の回り道」内で「ヤマトカナエグモの卵嚢」の生態写真が多数掲載されていました。
クモの卵嚢写真の見事なコレクションですね。

ここまで予習した上で、私のケースを検討してみましょう。

問題となるのは、6月上旬の北国(東北地方)でクモの新しい卵嚢が見られるはずがないのでは?という疑問です。
常緑樹の葉先なら前年の古い卵嚢が残っている可能性もありますが、この道端の雑草は雪が溶け春になってから生えてきたものです。
現場は山地の林縁です。
ヤマトカナエグモ♀が樹木ではなく下草の葉先に卵嚢を作ることもあるのかな?


この謎の物体を採集・飼育して正体を明らかにするべきだったと強く後悔しています。
少なくとも、しっかり採寸すべきでしたね。
定点観察するつもりで後日に現場を再訪すると、道端の雑草が根元からきれいさっぱり草刈りされていて大ショック!(唖然、無念)
謎の卵?も一緒に失われてしまいました。
気になる雑草の名前も、花が咲く前だったので、分からずじまいでした。(イネ科ではない)

何かご存知の方はぜひ教えてください。



【追記】
YouTubeのコメント欄にて、海外の方より「Theridiosoma sp.の卵嚢である可能性は?」との示唆を頂きました。
カラカラグモ類を今まで見たことがなく知識もない私は、何と返答したら良いものやら困ってしまいました。
そこで、いつもお世話になっている「クモ蟲画像掲示板」にて問い合わせたところ、きどばんさんより以下の回答を頂きました。
> ヤマトカナエグモの卵嚢?> 6月上旬の北国(東北地方)でクモの新しい卵嚢が見られるはずがないのでは?
「柄」が長いのでそのように思われている方もおられるかもしれませんが形状が異なります。私の添付画像とサイズ的に相違がなければツクネグモPhoroncidia pilula)の卵のうでしょう。東京で5~6月に普通に見られるので山形県6月上旬というのは何の問題もないと思います。昨年クモ屋の集まりで何気なく紹介したところ、何十年もクモの研究をしている先生方に「知らなかった」と言われびっくりしました。調べてみると確かにツクネグモの卵のうについて書かれた文献は見当たらず、ネット上に画像も見つかりませんでした。知っているのはごく一部のクモ屋さんだけかもしれません。
> 海外の方より「Theridiosoma sp.の卵嚢ではないか?」との示唆を頂いた
海外ではどうなのか知りませんが、日本で見られるTheridiosoma sp.の卵嚢はすべて特徴的な形状で、その「柄」は投稿画像のように長くはありません。
「ヤマトカナエグモ 卵のう」で検索したら画像がありました(笑)
ここの ↓ 下から2番目とか、vittataさんのブログにも・・・

2018/01/24

コンクリート壁に集まるオオナミザトウムシ?の群れ 【その4】



2016年10月下旬・午後15:26〜15:31


▼前回の記事
コンクリート壁に集まるオオナミザトウムシ?の群れ 【その3】

一方、オオナミザトウムシNelima genufusca)らしき3匹からなる第1群(a,b,c)のうちの一匹cが、いつのまにか群れを離れてコンクリート壁面の左下に移動していて、地面の近くで静止していました。
cは歩脚に欠損がなく8本脚の個体です。

再びコンクリート壁(西面)を登り始めたので、仲間(a,b)に再合流するかと思いきや、左の角を曲がりました。
コンクリート壁(北面)の縦溝を渡るのにしばらく逡巡しています。
縦の凹溝(幅4cm、奥行2.5cm)をあっさり乗り越えると、ひたすら横に移動します。
次の角に達すると地面に降りました。
この角の上部には6本脚の別個体g(-R1L2)がへばりつくように静止していました。
2匹は互いの存在に気づいていないようです。
ザトウムシの視力はどのぐらい良いのでしょう?(徘徊性クモと同程度?)
集団越冬するためにザトウムシが集結しつつあるのなら、カメムシのように集合フェロモンを放出しているのかと思いました。


ところが、個体cが歩いてきた軌跡はg(-R1L2)に誘引されていませんでした。
この日は風が強いから集合フェロモンが拡散してあまり役に立たないのですかね?
もう少し粘って観察を続ければ、何か面白い出会いの行動が見られたでしょうか?
三脚を持参していれば、微速度撮影でコンクリート壁面を長時間監視できたのですけど。
ザトウムシの緩やかな離合集散を漠然と眺めているだけでは、一体何が起きているのか、何を目的に集まっているのか、よく分かりませんでした。
建物をぐるっと一周して調べても、他の方角の壁面にザトウムシは集まっていませんでした。

このままコンクリート壁面にへばりついていても、本格的な冬が来ればこの高さだと根雪に埋もれてしまいます。
したがって、ザトウムシの集団越冬地はどこか別の場所にあるはずです。
実際、後日に現場を再訪したらザトウムシの群れは一匹も居なくなっていました。

ザトウムシの生態にも興味があるので、いつか飼育してみたいものです。
とりあえず、ザトウムシの性別や成体/幼体の見分け方など基本的なことを勉強しなければなりません。

シリーズ完。

今回の連載で登場した計7匹は互いに血縁関係にあるのかどうか、気になります。

g(-R1L2)

2018/01/22

コンクリート壁に集まるオオナミザトウムシ?の群れ 【その3】



2016年10月下旬・午後15:27〜15:57
▼前回の記事
コンクリート壁に集まるオオナミザトウムシ?の群れ 【その2】


コンクリート壁面に3匹で集合していた、おそらくオオナミザトウムシNelima genufusca)と思われる第2群のうち1匹(小型の♂?d)が群れを離脱して移動を始めました。
右側の第2および第4歩脚が根元から欠損した個体です。(-R2,4)

壁面をいったん右に移動してから下に向かい、地面に到達すると砂利の上で静止。
その間、コンクリート壁面では2匹efが静止したまま居残っています。


e,f


もしこの集合が配偶行動なら、ライバル♂に対して劣位の♂が諦めて♀から離れたのか?と解釈するのですが、ザトウムシのことをよく知らない私にはなんだかよく分かりません。
そもそも、♀を巡って♂同士の争いがあったようには見えませんでした。

少し目を離した隙に、いつのまにか♂?d-R2,4が壁面に戻っていました。
幸い、カラーペンなどでマーキングを施さなくても歩脚の欠損具合から個体識別が可能です。
地上から高さ80cmのところにあるコンクリートの庇に逆さまにぶら下がった体勢で縦溝を乗り越えました。
一休みしてから、更に壁面を右へ右へと移動を続けます。
立ち止まっているときも長い歩脚で辺りを探っています。

しばらくすると、いつの間にかコンクリート壁を登り切り、上の資材置き場を歩き回っていました。
雪囲い用に保管された丸太の上を徘徊し、木造家屋の板壁を登り始めました。

一匹狼の個体♂?d-R2,4がこの後どこに行ったのか、残念ながら見届けていません。
集団越冬に適した場所を探しているのだとしたら、軒下の隙間などを調べたのかもしれません。

それにしても、恐ろしく長い歩脚による滑らかな走破能力は見ていて惚れ惚れしますね。
複数の歩脚が同時に欠損しても支障なく歩行(移動運動)を続けられる冗長性が素晴らしいです。
次世代の惑星探査ロボットは、車輪やキャタピラを移動手段とするのではなく、ザトウムシ型の八足歩行ロボットにしてはどうでしょう?

つづく→その4




【追記】
今回注目した個体は、特に長い第2歩脚の右側を根元から欠損しているのに支障なく歩行運動できたことが興味深いです。
昆虫で言えば、触角の片方を失った状態です。

ザトウムシは昆虫のように触角をもっておらず、歩行器官である歩脚、特に前から2番目の一対を触覚センサとして用いることでその行動を可能にしているとされている。」
門脇廉; 野原拓也; 菊地吉郎. 221 ザトウムシのセンサとしての歩脚 (OS3-3: 生物遊泳・飛翔とバイオミメティクス (3), OS3: 生物遊泳・飛翔とバイオミメティクス). In: バイオエンジニアリング講演会講演論文集 2007.20. 一般社団法人 日本機械学会, 2008. p. 279-280.

2018/01/21

コンクリート壁に集まるオオナミザトウムシ?の群れ 【その2】



2016年10月下旬・午後15:06〜15:14


▼前回の記事
コンクリート壁に集まるオオナミザトウムシ?の群れ 【その1】

横に長いコンクリート壁(建物の土台の西面)で、先程見つけた第一群の右側には、更に別の3匹が集まっていました。(第二群:左から順にd,e,f)
これらもオオナミザトウムシNelima genufusca)と似ています。
雨を凌げる庇(地上からの高さ80cm)の下にひっそりと潜んでいます。
中央の個体eは大型なので♀なのかな?
横から見ると、胴体の下面(腹側)が白く、背側から見るよりも腹部の体節構造が明瞭に分かります。

大型のeを左右から挟んでいる小型の個体d,fは♂なのか、それとも幼体なのかな?
しかし♀♂の配偶行動は見られず、ただじっとしています。

♀が性成熟するまで♂が交尾前ガードしているようにも見えますけど、そもそもザトウムシの繁殖期が秋なのかどうか知識がありません。

互いにかなり接近した状態で静止しており、長い歩脚が絡み合っています。(個々の歩脚を数えるのも一苦労)
歩脚が何本か欠損している個体がいます。

強い横風に吹かれて、胴体が上下に揺れています。
横から見ると、長い歩脚のサスペンションで胴体が支えられていることがよく分かります。


つづく→群れから一匹が離脱


d,e,f
d,e,f
d,e,f:側面
d
e
e
e:側面
f

2018/01/20

コンクリート壁に集まるオオナミザトウムシ?の群れ 【その1】



2016年10月下旬・午後15:04〜15:12

里山の麓にある建物の土台(基礎)となるコンクリートの壁面(西面)にザトウムシの仲間が群がっていました。
おそらく地面から歩いて登ってきたのでしょう。
壁面の数カ所に別れて集結しています。
初めは交尾や求愛行動なのかと思ったのですが、垂直の壁にへばり付くように、じっと静止していました。
ザトウムシの配偶行動(※)は未見ですけど、秋に行うのですかね? (確かザトウムシの繁殖期は秋ではない…はず?)
おそらく集団越冬する場所を探している途中なのでしょう。

まず、3匹(a,b,c)の群れに注目しました。
素人目には同種に見えるのですけど、真相は分かりません(種名不詳)。
日本産ザトウムシを見分けられる実用的な図鑑がいつになっても刊行されないので、在野のナチュラリストは困ってしまいます。
形態分類が困難なのであれば、DNAバーコーディングによる簡便かつ確実な同定が早く普及して欲しいものです。
ザトウムシを殺さなくても歩脚の先端を切除すればDNAを採取する試料になるはずです。

全くの当てずっぽうですが、私の写真と見比べると素人目にはオオナミザトウムシNelima genufusca)と似ています。
胴体の大きさ(体長)は、まちまちです。(未採寸)
成体だと体長は♀>♂らしく、更に幼体が混じっているのかもしれません。(私は性別の見分け方も知りません)
ちなみに、英語版wikipediaによるとNelima genufuscaはカワザトウムシ科に属するらしい。

日本語のサイトではマザトウムシ科らしいのですが、一体どちらが正しいの?

3匹とも動きがありません。
左から順によく観察すると、

a:計4対(8本)あるはずの歩脚が6本しか無くて、根元から欠損しています。
b:歩脚を1本欠損(-L1)
c:五体満足の個体。

この歩脚の欠損状態で個体識別が可能です。
bとcは互いに長い歩脚で恐る恐る(?)触れ合った結果、この微妙な距離を保っているように思います。

やがて、左下に居た個体aがコンクリート壁をどんどん登り始め、仲間(b,c)に接近します。
長い歩脚で触れられても、先客の2匹(b,c)は逃げたり威嚇したりせず無反応でした。
胴体を跨いですれ違う際に触れたものの、交尾行動は見られませんでした。
庇の下に達したaが静止すると、今度はbが登り始めました。
aに接近すると、互いに身を寄せ合います。
おそろしく長い歩脚同士が互いによく絡み合わないものだと感心します。
しばらくすると、個体aは一番長い歩脚R2だけ動かして、右隣の個体cの様子を探っています。

話には聞いていましたが、実際にザトウムシの大集合を観察するのはこれが初めてです。
カメムシのように、個々のザトウムシが集合フェロモンを放出しているのでしょうか?
今回の3匹は、少なくとも歩脚の触覚を介して互いの存在を認識していることは間違いありません。

越冬適地を各自が自由に探索していると、自然に(結果的に)同種が集まってしまうのかもしれません。
 ザトウムシが群がる壁面を一日中、微速度撮影すれば分布や集合の変化(離合集散)を追跡できて面白い映像になりそうです。

しかし、あいにくカメラの三脚を持参しておらず断念。
コンクリート壁面の上部には庇があって(地上からの高さ80cm)、このまま壁面にへばりついていても雨は凌げるのですが、本格的な冬になればこの高さだと根雪に埋もれてしまいます。
したがって、このままこの壁面で集団越冬する訳ではないでしょう。

実際、後日に現場を再訪したらザトウムシの群れは一匹も居なくなっていました。

つづく→別の小群の行動


※ 『クモのはなしI:小さな狩人たちの進化のなぞを探る』によると、

ザトウムシはクモ形類中、一部のダニを除くと唯一、直接的な交尾を行なう動物ですが、多くの種類では交尾に際して特別な求愛行動のようなものが見られません。ザトウムシの交尾は二個体が出会い、♂にその気さえあればたいていすぐに成立します。♀は、はたから見るかぎりでは、まったく受動的です。 (p132より引用)



【追記】

クモと違ってザトウムシは歩脚が欠損しても再生能力をもたないのだそうです。

ザトウムシの欠損した脚は脱皮で再生しないため、これは頻繫に使われるほどコストがかかる防御手段であり、脚の減少により機動性・感覚能力・代謝率などが低下することが知られている[58][59][60][61][62][63]。一方、脚の欠損は知られる限り交尾の成功率に顕著な悪影響を与えていない[64]。  (wikipedia:ザトウムシより引用)


a,b,c
b,a,c
b,a,c
aがbを跨ぐ
b,a
b
c




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