2024/04/24

ニホンアナグマの幼獣から母親♀へのアロマーキング(匂い付け)【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2023年8月上旬・午後19:26・気温31℃ 

ある晩、ニホンアナグマMeles anakuma)の旧営巣地に母子が戻ってきていました。 
幼獣はもうすっかり大きく育ち、成獣♀との体格差が無くなりつつあります。 
腹面に乳首がある個体が母親♀と分かります。 
(母親♀は左右の目の大きさに違いがあるはずなのに、この映像では同サイズに見えるのが気になります。) 

初め手前に居た幼獣aが母親♀と入れ替わるように巣穴Lに顔を突っ込みました。 
巣口Lですれ違う際に♀は幼獣の尻(肛門腺、臭腺)の匂いを嗅ぎました。 
巣穴Lの匂いを嗅いでから外に出てきた幼獣aも横で待っていた母親♀の尻の匂いを嗅ぎました。 
興味深いのは次の行動です。 
幼獣aが母親♀に身を寄せつつ尻を擦り付けました。 
幼獣から母親♀へのアロマーキング(肛門腺、臭腺による家族間の匂い付け)を見たのは初めてです。 


4頭の幼獣がもっと幼くて巣外へ出てきたばかりの時期には、母親♀が幼獣に対して頻繁にアロマーキングを行っていました。
当時は圧倒的な体格差があるので、母親は我が子(幼獣)の上に軽く座って尻を擦り付けていました。
このように、アナグマの家族は互いに匂い付けをし合って余所者と区別できるようにしているのでしょう。

その後、この母子は一緒に右へ立ち去りました。 
母親♀といつも行動を共にしている幼獣個体が来季のヘルパー♂候補なのでしょうか? 
私にはアナグマ幼獣の性別を見分けられないのが残念です。 

その間、右上奥の獣道から別個体の幼獣bが駆け寄って来て巣口Lで母子に合流しましたが、すぐに左へ元気いっぱいで走り去りました。 
左に一旦通り過ぎた幼獣bも慌てて戻ってきて母子を追いかけます。 


ネジバナの花で採餌するクマバチ♀は捻れの向きの違いに対応できるか?【FHD動画&ハイスピード動画】

 

2023年7月中旬・午前11:00頃・くもり 

山麓の池畔に点々と咲いたネジバナの群落でキムネクマバチ♀(Xylocopa appendiculata circumvolans)が訪花していました。 
この組み合わせは初見です。 
そもそも私は、ネジバナの送粉者をこれまで実際に観察したことがありませんでした。 

 関連記事(3年前の撮影)▶ クロマルハナバチ♀はネジバナの花で採餌するか?
TV番組を見ていたら(中略)、ネジバナの送粉生態学を分かりやすく紹介していました。 興味深く拝見していると、ニホンミツバチやコハナバチなど体長約1cmの小さなハチがやってくるのだそうです。
クマバチは大型のハナバチなので、今回の観察結果は明らかに反例となります。 

小さな花が並んで咲いている茎を下から上に登りながら螺旋状の花序を順に訪れ、丹念に吸蜜していました。 
登りながらときどき羽ばたいているのは、体のバランスを保つためでしょう。 
ネジバナ花序の天辺に来ると次の花序の下部まで飛んで移動し、また螺旋状に登りながら採餌を続けます。 
後脚の花粉籠は空荷でした。 
ネジバナ螺旋花序での採餌行動を回転集粉と呼ぶのは間違っているでしょうか?(用語の誤用?) 

ネジバナの花でクマバチ♀が採餌する様子を240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@1:50〜) 
花から飛び立った後のホバリング(停空飛翔)もスーパースローにすると見応えがあります。 


ネジバナはラン科なので、それぞれの花には花粉塊があるはずです。
しかし、訪花を繰り返すクマバチ♀の体毛に花粉塊は付着していませんでした。
(花から飛び去る際に、縮めた口吻の先に黄色い花粉が付着していた?)
後脚の花粉籠も空荷だったので、もう花粉が取り尽くされた後の花で吸蜜に専念していたのかもしれません。


細長いネジバナの花序にAFのピントを素早く合わせるのは結構大変なので、クマバチが次から次に別の花序を訪れるシーンを連続で動画に記録することはできませんでした。 
(毎回、蜂が来ている花序にピントを合わせてから撮影を始めます。) 

しばらく観察していると、クマバチ♀がときどき螺旋状のネジバナ花序を下に少し降りては上に登り直すというギクシャクした動きをすることに気づきました。 
ネジバナ花序の螺旋の向きは右回りと左回りが群落内でほぼ半々あるらしく、たまに全く捻じれていない花序もあるそうです。
(私は捻れのない花序を未だ見つけたことがありません。)
それまでずっと右回りの螺旋で採餌していたクマバチ♀が急に左回りの螺旋花序に来ると、戸惑って下降してしまうのでしょうか?(逆もしかり) 
それでもじきに新しい回転の向きに順応して、上に登りながら採餌するようになります。 
クマバチはネジバナの群落内で捻れの反転にいまいち臨機応変に対応できないのかもしれません。 
 …という「もっともらしい仮説」を思いついて有頂天になりかけたのですけど、よくよく考え直すと、説明になっていません。 
たとえネジバナの螺旋花序を下降したところで、蜂にとって螺旋の向きは変わりませんね。 
(左回りの螺旋を下降しても、通い慣れた右回りの螺旋にはならない。) 
素人考えでは、螺旋の向きを統一したほうが送粉者への負担が少ない(授粉効率が上がる)はずです。 
なぜネジバナの花はそのように進化しなかったのでしょうか? 
例えば、右巻きのネジバナと左巻きのネジバナが今まさに別種に種分化する途中だとしたら、面白いですね。 
特定の向きの螺旋花序に対応したスペシャリストの送粉者もそれぞれが共進化で種分化することになりそうです。 
せっかくスムーズに採餌していた送粉者を戸惑わせて負荷(ストレス)をかけたり授粉作業を遅らせたりしているのは、ネジバナの繁殖戦略上、何か秘密がありそうな気がします。 
他家受粉の効率を上げるために、ハナバチには少し採餌したら別な群落に飛び去って欲しいのかもしれません。 

いくら考えても、私にはエレガントでしっくりくる説明が思いつきません。 
それとも単に、一度素通りした花に蜜が残っていることに気づいたクマバチ♀が花序を下降して戻っただけなのでしょうか? 
ネジバナ花序の螺旋の向きが本当にランダム(右巻き:左巻き=1:1)なのか、現場で確かめるべきでしたね。
1本ずつ花序にテープなど目印を付けながら螺旋の向きを調べないと、重複や漏れがありそうです。
下に掲載した写真では、左巻きの花序は少数でした。
個人的にクマバチもネジバナも好きなので、この夏一番エキサイティングな虫撮りになりました。


【参考文献】 
ネット検索してみると、先行研究がありました。
ネジバナ花序の捻れの向きではなく捻れの強弱に注目した研究で、送粉者としてはハキリバチの採餌行動を観察したそうです。 
Iwata T, Nagasaki O, Ishii HS, Ushimaru A. Inflorescence architecture affects pollinator behaviour and mating success in Spiranthes sinensis (Orchidaceae). The New phytologist. 2012;193:196-203. (検索すると、全文PDFが無料でダウンロードできます。) 


この研究の概要が石井博『花と昆虫のしたたかで素敵な関係:受粉にまつわる生態学 』という本に書かれていました。
花序の捻じれ具合が異なるネジバナ群落の中で:しぐま註)捻じれ具合の弱い花序ほど多くの送粉者(ハナバチ)が訪れる一方で、そのような花序ほど、ハナバチ各個体による花序内での連続訪花数が増加していることがわかりました。ハナバチの仲間には、花序を下から上に向かって訪花していく傾向があります。捻じれが強い花序を訪れたハナバチは、いくつかの花をスキップして上の花に到達し、そのまま他の花序へ飛び立ってしまうようです。そして、捻じれが強い花序は、花がばらばらの方向を向いているために、送粉者から、やや目立ちにくくなっているようです。つまり、捻れが弱いほうが多くの送粉者を集めることができますが、捻れが強いほうが隣花受粉は減らせるようなのです。 (p212〜213より引用)

この論文の結果を念頭に置いてネジバナ送粉者の採餌行動を私なりにもっと観察してみたいのですけど、昆虫の数が激減している昨今では、観察効率が悪くて仕方がありません。
ネジバナの花が咲き乱れる群落でしばらく待っても、クマバチ以外の訪花昆虫を全く見かけませんでした。

ネジバナの美しい螺旋花序はとても魅力的なテーマなので、螺旋の形態形成(花の発生学)などをもう少し自分で深く勉強したくなります。 
植物の形態にはフィボナッチ数列フラクタルなど数学的に美しい構造が潜んでいます。 
それを実現するために、具体的にどのようなプログラム(再帰的アルゴリズム)で植物のゲノムに記述されているのか、植物のエボデボ(Evo Devo)やエピジェネティクスも勉強したら面白そうです。 


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【追記】
高校生による独創的な研究を見つけました。
野外でのネジバナの揺れ方の違いから「花の配置が気流に影響する」と考え、「風洞実験装置」いう装置を用いて、煙を使い気流を観察した。
私もこのぐらい柔らかな発想で調べたいものです。
右回り
左回り(私ピンクのサウスポー♪きりきり舞いよ♪きりきり舞いよ♪)
右回り
右回り
ネジバナの花:右回り

2024/04/23

痛々しく3本足で跛行するホンドタヌキ♂がスギ倒木横の溜め糞場で排便【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2023年8月上旬〜中旬 

スギ防風林で立木の根元と倒木の間に残されたホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場phを自動センサーカメラで監視しています。 
右後脚を怪我して跛行する♂個体の登場シーンをまとめてみました。 


シーン0:8/4・午後12:07・晴れ(@0:00〜) 
明るい昼間にたまたま撮れた現場の様子です。 
真夏の林床はシダ植物があちこちに繁茂しています。 
カメラの設置アングルをもっと下に向けて、肝心の溜め糞場phを画面の中央に収めるるべきでしたね。 
ちなみに、この倒木はヒトが間伐したのではなく、低い位置で幹がバキッと折れたまま放置されていました。 


シーン1:8/6・午前3:30(@0:03〜) 
深夜未明に跛行タヌキが右からやって来ました。 
足に障害があるのにスギ倒木を乗り越えてきたとは思えませんから(※)、おそらく倒木の下の隙間をくぐって来たのではないかと思います。 
※この推測は後にくつがえされました。 

痛々しく跛行しながら溜め糞場phに辿り着くと、南南西を向いて排便しました。 
そのまま手前に立ち去りました。 


シーン2:8/8・午後21:23(@0:53〜) 
2日後の晩にも同一個体が溜め糞場phにやって来て、スギ立木の下に左を向いて佇んでいました。 
用を足す前に体の向きを変えると、股間にぶら下がっている睾丸が目立ちます。 
信楽焼のタヌキの置物は金玉がデフォルメされてますけど、実物も確かに大きいようです。
たんたんタヌキの金玉は風もないのにブーラブラ♪ 
南を向いて排便すると、そのまま手前に立ち去りました。 



シーン3:8/8・午後23:22(@1:53〜) 
約2時間後の深夜に、新鮮な大便が追加されたばかりの溜め糞場phをよく見ると、多数の糞虫が蠢いていました。 
糞便臭で誘引された黒い糞虫(種名不詳)がスギ林床を歩き、溜め糞に向かっています。 
5倍速の早回し映像でご覧ください。 
ところで、スギの根本で幹を下る虫の正体は何でしょうか? 

今回なぜトレイルカメラが起動したのか不明です。 
変温動物の昆虫がいくら活発に動き回っても、トレイルカメラのセンサーは反応しないはずです。 


シーン4:8/10・午後20:36・気温(@2:05〜) 
トレイルカメラの起動が遅れがちですけど、画面の奥からやって来たのかな?  
溜め糞場phで匂いを嗅ぎ回るだけで、今回は排便しなかったようです。 
方向転換した際に、股間に大きな睾丸を認めました。 

今回は珍しく奥に立ち去ると、大きなシダの葉に隠れてすぐに姿が見えなくなりました。 
画面の上端でスギの倒木を苦労して飛び越え、右に向かったようです。 
よく見えなかったのが残念です。
3本足で跛行しながらもなんとか倒木を飛び越えられるとは驚きました。 


シーン5:8/13・午後19:18(@2:40〜)
3日後の晩は小雨がぱらぱらと降っていました。 
跛行しながら右から来たタヌキがスギの倒木を乗り越えて、溜め糞場phへ到着しました。 
3本足でも倒木を飛び越えられることが、これで確実になりました。 
排便したかどうか不明ですが、身震いしてから手前に立ち去りました。 

※ 動画の一部は編集時に自動色調補正を施しています。 


【考察】
この個体は右の後足を地面に付けないように上げて歩くので、足を引きずるのではなく3本足でヒョコヒョコと跛行します。 
罠にかかったり交通事故に遭った可能性もありますけど、夜の獣道でノイバラの棘を踏んでしまい肉球に刺さって化膿しているのではないか?と私は推測しています。 

あまりにも分かりやすい特徴なので、溜め糞場phに通って来るタヌキの中でこの個体だけ確実に識別することが可能です。 
素人目には若い個体のような気がするのですけど、夏毛で痩せて見えるだけかもしれません。 
いつ見ても尻尾が力なく垂れているのは、怪我のせいで自信を失っているのかな? (負け犬の「垂れ尾」状態) 
以前撮った排尿姿勢から、♂であることも判明しています。 


2つの撮影地点は数百m離れているのですが、この個体は跛行しながらも他の健常個体と遜色なく広い行動圏を活動できているようです。 
タヌキは獲物を狩る肉食獣ではなく雑食性ですから、足が多少不自由でもなんとか生きていけるようです。 
ニホンオオカミが絶滅して野犬も駆除された現代の日本では、逃げ足の遅いタヌキを捕食する天敵も居ません。 
足の裏に棘が刺さっただけの負傷ならいずれ回復しそうですけど、もし障害が残れば、縄張りや異性♀を巡って健常個体♂と闘争になったときには不利になりそうです。 


つづく→



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